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第三章
part.15 好奇心と責任感
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――ウ、ウイルス!!?
咄嗟にシュウウはそう思った。助けて、なんてホラーな言葉が急にパソコンに現れたら、そう思うのが普通だ。
だが、その窓は以前からインストールしてあったアプリで、シンプルなメッセージのやり取りを行うものだ。チームの四人の中でちょっとしたURLなどを送るのに使っていた。まだヨハネともケンカをしていなかった頃、仕事中にこっそり会話のやり取りを行ったこともある。
そのアプリの小窓が急に立ち上がり、『たすけて』というメッセージを送って来た。
シュウウが驚いてただその小窓を眺めていると、もう一つ小窓が来た。自分が消すまで消えずに、何個も窓が立ちあがる仕組みである。
『名前が見えないの。どなたですか。ヨシダです』
「ヨ……ヨシダさん!?」
アプリは、相手に自分が名前を付けないと、IPアドレスしか表示されない仕組みである。ヨシダは今誰と会話しているのか解らないのだろう。
シュウウは、椅子を机に引き寄せ、自分もメッセージを打ち始めた。
『シュウウです。ヨシダさん今どこですか』
どことは言え、このアプリはLANがつながっていないとやり取りできないはずである。社内LANがつながっているのは、この階と後は……とシュウウは即座に思った。
『つかまって、いまこっそりぬけだして』
『ここはし』
そこでメッセージが途切れた。後は音沙汰もなく、再びアプリが立ち上がる気配もなかった。
辺りはしんとしている。
(け、警察に)
シュウウはそう思った。ヨシダは捕まっているとあった。
警察の捜査には進展がないと聞いている。警察を今すぐ呼んだ方がよいだろう。
しかし、起きたことにあまりに現実味がなくて、シュウウはしばし呆然としていた。
(し……しって何だろう。この建物のLANの中。この階にいなければ後は……)
シュウウは、後は上の3階しかないことを確信した。
(し……『社長室』じゃないのか?)
シュウウの中で、ぐらぐらと好奇心と責任感のような思いが渦巻いた。勿論恐怖もある。これが間違いか、もしかしたら悪質ないたずらで、見当違いだったら。警察を呼ぶ前に、自分の目で少しは確認した方が良いのではないか? とシュウウは思ってしまった。
(アプリのログは残っているし、きっとそれは証拠になる……)
アプリでやり取りしたメッセージのログは、このPCの奥の方に残っているのだ。自分が今離れても大丈夫だろう。
(よし……)
危なそうだったら、逃げればよい。何気なく社長室に行ってみて、様子を見て、素知らぬ顔をして帰って来ればよいのだ。シュウウは静かに、3階に上がってみることにした。
(誰もいない……)
階段も3階も人気がなかった。社長室のドアはほんの少しだけ開いていた。廊下は明るかったが、社長室の中は電気が点いていず、真っ暗な隙間が見えた。
ヨシダは中にいるのだろうか?
本当に社長室のPCからシュウウにメッセージを送ったのだろうか?
(ヨシダ……さん?)
シュウウが唾を飲み込み、さらにゆっくりと社長室のドアを開け、部屋の中を覗き込もうとした時、頭に鈍い衝撃が走った。
咄嗟にシュウウはそう思った。助けて、なんてホラーな言葉が急にパソコンに現れたら、そう思うのが普通だ。
だが、その窓は以前からインストールしてあったアプリで、シンプルなメッセージのやり取りを行うものだ。チームの四人の中でちょっとしたURLなどを送るのに使っていた。まだヨハネともケンカをしていなかった頃、仕事中にこっそり会話のやり取りを行ったこともある。
そのアプリの小窓が急に立ち上がり、『たすけて』というメッセージを送って来た。
シュウウが驚いてただその小窓を眺めていると、もう一つ小窓が来た。自分が消すまで消えずに、何個も窓が立ちあがる仕組みである。
『名前が見えないの。どなたですか。ヨシダです』
「ヨ……ヨシダさん!?」
アプリは、相手に自分が名前を付けないと、IPアドレスしか表示されない仕組みである。ヨシダは今誰と会話しているのか解らないのだろう。
シュウウは、椅子を机に引き寄せ、自分もメッセージを打ち始めた。
『シュウウです。ヨシダさん今どこですか』
どことは言え、このアプリはLANがつながっていないとやり取りできないはずである。社内LANがつながっているのは、この階と後は……とシュウウは即座に思った。
『つかまって、いまこっそりぬけだして』
『ここはし』
そこでメッセージが途切れた。後は音沙汰もなく、再びアプリが立ち上がる気配もなかった。
辺りはしんとしている。
(け、警察に)
シュウウはそう思った。ヨシダは捕まっているとあった。
警察の捜査には進展がないと聞いている。警察を今すぐ呼んだ方がよいだろう。
しかし、起きたことにあまりに現実味がなくて、シュウウはしばし呆然としていた。
(し……しって何だろう。この建物のLANの中。この階にいなければ後は……)
シュウウは、後は上の3階しかないことを確信した。
(し……『社長室』じゃないのか?)
シュウウの中で、ぐらぐらと好奇心と責任感のような思いが渦巻いた。勿論恐怖もある。これが間違いか、もしかしたら悪質ないたずらで、見当違いだったら。警察を呼ぶ前に、自分の目で少しは確認した方が良いのではないか? とシュウウは思ってしまった。
(アプリのログは残っているし、きっとそれは証拠になる……)
アプリでやり取りしたメッセージのログは、このPCの奥の方に残っているのだ。自分が今離れても大丈夫だろう。
(よし……)
危なそうだったら、逃げればよい。何気なく社長室に行ってみて、様子を見て、素知らぬ顔をして帰って来ればよいのだ。シュウウは静かに、3階に上がってみることにした。
(誰もいない……)
階段も3階も人気がなかった。社長室のドアはほんの少しだけ開いていた。廊下は明るかったが、社長室の中は電気が点いていず、真っ暗な隙間が見えた。
ヨシダは中にいるのだろうか?
本当に社長室のPCからシュウウにメッセージを送ったのだろうか?
(ヨシダ……さん?)
シュウウが唾を飲み込み、さらにゆっくりと社長室のドアを開け、部屋の中を覗き込もうとした時、頭に鈍い衝撃が走った。
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