僕はHOLMES

くるみ最中

文字の大きさ
上 下
24 / 28
第五章

part.23 カレーライスの君

しおりを挟む
「失礼する。シュウウ君、先日はどうも」
「あ、はい……」

 話し掛けられてドキマギする。男は、先日シュウウを助けてくれた刑事で、警察署でも取り調べに同席していた男である。その端正な目もとでジッと見つめられると、確かに迫力がある。サメジマも、全てを喋ったのだろうか。
 刑事は、長い脚でツカツカと数歩でシュウウたちの元まで歩き、ヨハネの横にギュムと座った。ヨハネは奥に詰めようとしたが、1センチもないように男はギュウギュウと詰めて来た。
 それほどヨハネの傍にいたいのか。サメジマとヨハネに毒されたから、そう思ってしまうのかもしれないが。
 刑事はソファの対面から、シュウウに言葉を掛けて来た。

「身体は大丈夫? その後、何ともない?」
「はい、大丈夫です……」
「それなら良かった」

 ふっと微笑むように、仕事の範疇はんちゅうからやや逸脱した心配の言葉を掛けてもらうと、シュウウの幾分固く閉じた心も綻ぶような気がする。つい、シュウウも彼に微笑み返した。
 その二人の様子を見て、ヨハネが「あ~~……」と呻き声を上げた。

「お前、来んなって言ったじゃん!」
「そういう訳にはいかない。シュウウ君は事件の当事者だし、その後は何も異常がないか、事件後のケアとして聞いておきたい。――それに、シュウウ君本人も、事件の詳細が知りたいだろうし」

 刑事は、「ねえ」とシュウウに同意を求めた。シュウウは頷いた。三人組というのはこそばゆいが、相手が刑事であるというなら、これ以上詳細を聞ける相手もいないと思う。
 話をどこから聞くべきかとシュウウが思っていると、男はヨハネに「おい、メニュー取ってくれ」と言った。ヨハネはメニューを渡しながら……。

「お前、飯食ってねーのかよ」
「昼を食う時間がなかった。ちょうどよいから、この時間に食べようかと思っていた。悪いが……食事を取らせてもらってもいいかな」とシュウウに訊ねて来た。
「あ、ハイ、勿論どうぞ!」
「失礼する」
 そう言って、男前はすぐに店員を呼ぶと、ランチを注文した。

「カレーライス1つ。ランチセットで。」
「……」

 店員はかしこまりました~と言って去って行ったが、シュウウは勝手に思った。
 ……モデルばりの風貌の男が、ファミレスでカレーを食っているのは、何だか違和感がある。勿論シュウウの勝手な感想ではあるが。
 これが、カレー専門店とかカフェカレーなら、まだいい。だが、ファミレスでカレー、それもごく普通のカレーとなると。
 そう、ひと言で言えば、オッサン臭いのである。ヨハネもどうやら同様に思っているらしい。

「……お前さあ、もっと他に食うもんないの……前から思ってるんだけど」
「? どうしてだ」

 男は、全く腑に落ちていない。フン、と鼻を鳴らした後に言う。

「俺はカレーが好きだ。それにカレーは早く出来て、早く食える。呼び出しがかかってもすぐに食べ終わる。片手でも食える。」
「あ~、ハイハイ、何だかなもう……」

 ヨハネは、顔面を両手で覆ってテーブルに肘を突いた。
 ……彼氏がオッサン臭いのは、恥ずかしいのだろうか?

(……こうして見ると、やっぱりお似合いに見えないこともないと思うんだけどな。)

 二人とも、イケメンである。やや優男に、キリッとした相手。対照的なタイプである。悔しいが、お似合いである。勿論サメジマなんかよりもずっと。
 ……ん? 悔しい? 一体何が悔しいのだろう。
 シュウウが二人を交互に見ていると、男が言った。

「そう言えば、自己紹介がまだでしたね」
「あ、はい……警察署で、名前だけは伺った気がしますが」
 正直、その時のシュウウは平常心とは程遠く、ほぼ記憶にない。
高森タカモリジンと言います。いつも、ヨハネがお世話になっています。」
「あ~~もう、いいから本当にそーゆーの」

 ヨハネはどうやら照れているらしい。シュウウはいつもと違う態度のヨハネに幾分寂しさを感じながらも、ジンという男の挨拶にペコリとお辞儀を返した。
しおりを挟む

処理中です...