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第6章
第6章41幕 居合<iai>
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コンコンコンと聞こえるノックの音で私は目を覚まします。
「はい……」
少し苛立ちの案じる声で応えを返す私は、いま決闘大会の最中であることを思い出します。
扉を開けるとそこには私を何度も案内してくれていたNPCが立っていました。
「三回戦の準備をお願いします」
そうでした。私は二回戦第二試合の勝者。三回戦の第一試合になるでしょう。
「ご案内いたします」
そう言って私を先導し歩き始めるので、それに続いていきます。
「三回戦からは、口上が述べられますので、サービスの方をお願いします」
「え? あ、はい。分かりました」
「すぐに試合開始となります。ご準備はよろしいですか?」
「あっ。待ってください」
私はそう言っていつもの【暗殺者】の装備に転換します。
「大丈夫です」
「ではこちらに」
そう言って入口の横に立ち、私を既定の場所に立たせます。
「まずお相手の方の口上が述べられた後入場して参ります。その後チェリー様の口上が述べられますので、ご入場ください。その後握手をして開始線までお下がりください」
「わかりました」
私がそう言うと、NPCが登場口から赤い旗をパタパタと振ります。
『皆さんお待ちかねの決闘大会第三回戦第一試合が間もなく開始されます。』
先ほどまで司会をしていた人の声ではない声が響きます。
「まずは白口からの入場だー! なんと一回戦二回戦共にスキルを使わずの勝利ー! いったい誰が初出場と言って信じるでしょうか! 美しい剣から放たれるスキルを我々は見ることができるのかー! 私は見てみたい! それではマクフィル選手の入場です!」
先ほどの司会NPCがそう言って紹介をすると、歓声が地面を揺らすように響き、私の対戦相手が入場しました。
「続いては赤口からの入場! なんと! なんと! 前回覇者アリス・キャロルを破った新人! なんとこちらも初出場です! ≪舞剣≫から繰り出されるスキルはまさに可憐! 一度は斬られてみたい! それではチェリー選手の入場です!」
なんだよ。その紹介。
私は心の中で悪態をつきながらも入場し、観客たちに手を振ります。
すでに握手の為に手を構えている細身の男性の元へ歩き、握手をします。
「よろしくお願いします」
「よろ」
結構無口な人なんですかね。
そう考えながら開始線まで下がった私は武器を構えます。
「おおっと! これはどういうことだ! チェリー選手! 剣でも刀でもなく二刀の短剣だ!」
片方短刀ですけどね。
「準備はよろしいですか?」
私がコクリと頷き、対戦相手のマクフィルも頷きます。
「それでは……三回戦第一試合……開始っ!」
その声が聞こえた瞬間、私はスキルを発動せず、走り出します。
距離を詰められるのは分かっていた、と言わんばかりにマクフィルは剣を構えています。
どのようなスキルを持っているかは分かりませんが、細身の剣からして高速剣技、もしくは、切断力に特化したものでしょう。
少し情報を分析しながら距離を詰めますが、その瞬間後頭部がチリッとし、違和感に気付きます。
私はその瞬間STRとAGIに物を言わせた急停止からのバックステップで後方に二歩ほど下がります。
そして先ほどまで私の顔があった部分を剣先が通り抜け、私のプリティーな前髪を少し切り落としました。
≪居合≫ですね。
基本的に剣ではなく、刀で発動する方が多いスキルですが、剣でも発動は可能なので、決闘の初手で持ってくる人は多いです。
「よく、わかったね」
「ええ。私も使いますから。この間合い……≪居合≫だけではなく、≪射程延長≫もしくは≪刀身延長≫も併用してますね?」
「見事です。でもそれだけじゃない」
そう言ったマクフィルが地面に靴の踵をコツコツと当てます。
土属性魔法が来る!
そう思った私は出し惜しみをせずにスキルを発動します。
「≪ハイジャンプ≫」
闘技場の客席よりも高く飛び上がるほどのジャンプをし、上空から俯瞰して様子を見ます。
「≪グラビティコントロール≫」
≪ハイジャンプ≫で高さを稼ぎ、≪グラビティコントロール≫でゆっくりと降下することで呼吸を整えます。
足元は土属性魔法で生成された杭がたくさん出ており、このまま降りるのは不利ですね。
仕方ありません。土属性魔法とは相性が悪いですが、雷魔法を使用するしかありませんね。
「≪喚起〔ペインボルト〕≫」
私は【短雷刀 ペインボルト】から精霊を呼び出し、精霊魔法の発動準備をします。
「≪ライトニング・ピアス≫」
私が発動した精霊魔法が、土属性魔法の壁に遮られます。
私は精霊魔法の発動直後、精霊を上空に残したまま急降下し、地面に足を着けて走り出します。
魔法を発動しながら、≪居合≫を使うのにはコツがいるので、その隙を吐こうとした作戦です。
私はマクフィルの後ろに回り込み、【短雷刀 ペインボルト】で背中を斬り付けます。
「くっ……?」
そうしてマクフィルが振り向こうとした瞬間に私はさらに背後へと回り、【ナイトファング】でさらに斬り付けます。
「≪居合≫」
「遅い!」
≪居合≫を発動し、反撃しようとしたマクフィルの腕を再び【ナイトファング】で斬り、【短雷刀 ペインボルト】で首に一閃加え、沈黙させます。
「勝者チェリー! 驚くほどの試合展開! まさかの両者とも魔法が扱えるとはー!」
私先ほどの試合で精霊魔法使ってますけどね。
一応勝利したのでお辞儀をし、赤口、自分が入ってきた出口から出ます。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「では次の試合が終わるまでこちらで待機をお願いします」
そう言って別の場所に押し込まれたので、私は次の試合の終了を待つことになりました。
to be continued...
「はい……」
少し苛立ちの案じる声で応えを返す私は、いま決闘大会の最中であることを思い出します。
扉を開けるとそこには私を何度も案内してくれていたNPCが立っていました。
「三回戦の準備をお願いします」
そうでした。私は二回戦第二試合の勝者。三回戦の第一試合になるでしょう。
「ご案内いたします」
そう言って私を先導し歩き始めるので、それに続いていきます。
「三回戦からは、口上が述べられますので、サービスの方をお願いします」
「え? あ、はい。分かりました」
「すぐに試合開始となります。ご準備はよろしいですか?」
「あっ。待ってください」
私はそう言っていつもの【暗殺者】の装備に転換します。
「大丈夫です」
「ではこちらに」
そう言って入口の横に立ち、私を既定の場所に立たせます。
「まずお相手の方の口上が述べられた後入場して参ります。その後チェリー様の口上が述べられますので、ご入場ください。その後握手をして開始線までお下がりください」
「わかりました」
私がそう言うと、NPCが登場口から赤い旗をパタパタと振ります。
『皆さんお待ちかねの決闘大会第三回戦第一試合が間もなく開始されます。』
先ほどまで司会をしていた人の声ではない声が響きます。
「まずは白口からの入場だー! なんと一回戦二回戦共にスキルを使わずの勝利ー! いったい誰が初出場と言って信じるでしょうか! 美しい剣から放たれるスキルを我々は見ることができるのかー! 私は見てみたい! それではマクフィル選手の入場です!」
先ほどの司会NPCがそう言って紹介をすると、歓声が地面を揺らすように響き、私の対戦相手が入場しました。
「続いては赤口からの入場! なんと! なんと! 前回覇者アリス・キャロルを破った新人! なんとこちらも初出場です! ≪舞剣≫から繰り出されるスキルはまさに可憐! 一度は斬られてみたい! それではチェリー選手の入場です!」
なんだよ。その紹介。
私は心の中で悪態をつきながらも入場し、観客たちに手を振ります。
すでに握手の為に手を構えている細身の男性の元へ歩き、握手をします。
「よろしくお願いします」
「よろ」
結構無口な人なんですかね。
そう考えながら開始線まで下がった私は武器を構えます。
「おおっと! これはどういうことだ! チェリー選手! 剣でも刀でもなく二刀の短剣だ!」
片方短刀ですけどね。
「準備はよろしいですか?」
私がコクリと頷き、対戦相手のマクフィルも頷きます。
「それでは……三回戦第一試合……開始っ!」
その声が聞こえた瞬間、私はスキルを発動せず、走り出します。
距離を詰められるのは分かっていた、と言わんばかりにマクフィルは剣を構えています。
どのようなスキルを持っているかは分かりませんが、細身の剣からして高速剣技、もしくは、切断力に特化したものでしょう。
少し情報を分析しながら距離を詰めますが、その瞬間後頭部がチリッとし、違和感に気付きます。
私はその瞬間STRとAGIに物を言わせた急停止からのバックステップで後方に二歩ほど下がります。
そして先ほどまで私の顔があった部分を剣先が通り抜け、私のプリティーな前髪を少し切り落としました。
≪居合≫ですね。
基本的に剣ではなく、刀で発動する方が多いスキルですが、剣でも発動は可能なので、決闘の初手で持ってくる人は多いです。
「よく、わかったね」
「ええ。私も使いますから。この間合い……≪居合≫だけではなく、≪射程延長≫もしくは≪刀身延長≫も併用してますね?」
「見事です。でもそれだけじゃない」
そう言ったマクフィルが地面に靴の踵をコツコツと当てます。
土属性魔法が来る!
そう思った私は出し惜しみをせずにスキルを発動します。
「≪ハイジャンプ≫」
闘技場の客席よりも高く飛び上がるほどのジャンプをし、上空から俯瞰して様子を見ます。
「≪グラビティコントロール≫」
≪ハイジャンプ≫で高さを稼ぎ、≪グラビティコントロール≫でゆっくりと降下することで呼吸を整えます。
足元は土属性魔法で生成された杭がたくさん出ており、このまま降りるのは不利ですね。
仕方ありません。土属性魔法とは相性が悪いですが、雷魔法を使用するしかありませんね。
「≪喚起〔ペインボルト〕≫」
私は【短雷刀 ペインボルト】から精霊を呼び出し、精霊魔法の発動準備をします。
「≪ライトニング・ピアス≫」
私が発動した精霊魔法が、土属性魔法の壁に遮られます。
私は精霊魔法の発動直後、精霊を上空に残したまま急降下し、地面に足を着けて走り出します。
魔法を発動しながら、≪居合≫を使うのにはコツがいるので、その隙を吐こうとした作戦です。
私はマクフィルの後ろに回り込み、【短雷刀 ペインボルト】で背中を斬り付けます。
「くっ……?」
そうしてマクフィルが振り向こうとした瞬間に私はさらに背後へと回り、【ナイトファング】でさらに斬り付けます。
「≪居合≫」
「遅い!」
≪居合≫を発動し、反撃しようとしたマクフィルの腕を再び【ナイトファング】で斬り、【短雷刀 ペインボルト】で首に一閃加え、沈黙させます。
「勝者チェリー! 驚くほどの試合展開! まさかの両者とも魔法が扱えるとはー!」
私先ほどの試合で精霊魔法使ってますけどね。
一応勝利したのでお辞儀をし、赤口、自分が入ってきた出口から出ます。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「では次の試合が終わるまでこちらで待機をお願いします」
そう言って別の場所に押し込まれたので、私は次の試合の終了を待つことになりました。
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