どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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そこからスタート

3*

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人生初の入院生活というものは一ヶ月間だった。


山田さんの開く小さな診療所(仮)で主に山田さんと片桐さんと話して過ごした。シロはもうでろーんと慣れて寝転がっていた。

山田さんはそもそも、ヤブ医者で、片桐さん曰く「ヤブ医者っつーのは名医とも読めるんですよ」と笑って言っていたが笑えなかったのは記憶に新しい。

本来は依頼を受けて、診察しに行くというのが形らしい。

片桐さんは、元々は東さんのボディーガードだったらしい。だから彼の容姿-スキンヘッドにガタイのいい体型に納得がいった。
人は見た目によらない。確かにそうだ、片桐さんは実に親切で、動物が好きらしく、よくシロと遊んでくれる。

一ヶ月間、入院した中で人柄がつかめたのは山田さんと片桐さんだけで、北谷さんや東さんの人柄はよくわからない。

よくわからないまま退院の日が来た。

傷ももうほぼ完治していた。


「ヤブ医者、世話になったな」

「誰がヤブ医者だゴラァ。間違えて毒薬打つぞ」

東さんにメンチを切る山田さんを横に小さく笑う。

「冰澄さん、当分激しい運動は控えてください。それと山田から薬を受け取っています。一応確認ですが…錠剤は飲めますか?」

「大丈夫です。」

「では大丈夫です。」

北谷さんは小さく微笑んだ。


俺は、東さんの少し後ろに続く。なんとなく横に並ぶのは失礼かなって…なんだか天と地の差だなぁと思っていると、車に乗るよう促された。

助手席に片桐さん、運転席に北谷さん、そして後ろに、俺と東さん。

「傷は、まだ痛むか?」

不意にかけられた問いに俺は小さく首を振った。

「もう、ほとんど大丈夫です」

「そうか…。お前の私物らしきものは、移しておいた」

「ありがとうございます」

いったいどこに?とは聞かなかった。

私物という話題が出て、不意に気づく。学校によらなければいけない。

「…あの、東さん」

「政宗でいい。名字はいろいろ…めんどうだ。」

「は、い。」

「それで…どうした?」

政宗さんと視線が交わって自然と逸らした。膝の上で作っていた拳を見つめる。

「学校に…寄ってもいいですか?」

「…構わんが。なんでだ?」

拳に力を入れて握りしめた。

こうなってしまった以上仕方がないのだ。確かに二年間特待生制度を維持し頑張ってきた。少しの誇りもあったのだろう。だがもう今はそんなこと気にしてる暇はない。

「退学の…手続きを…」

そもそも無断で一週間以上休んだ時点で、特待生は維持できない。珍しいルールだが、無断欠席した場合、即特待生制度は解除される。

「ああ、それなら必要ない。」

…ということはすでにもう手続きはしてもらってるってことだろうか。

俺は礼を述べようと口を引いたが、政宗さんの方が早かった。

「お前が、怪我した次の日には連絡を入れてある。俺としては、特待生制度を解除して、こっちから金を払ってもいいんだが…北谷が止めてきた。」

「組長、僭越ながら、特待生を維持してきた冰澄さんの努力を無駄にしてはならないと思うのですが。」

「ああ、ということだ。どうする、特待生を維持することでストレスが溜まるってなら、俺が払う。好きな方を選べ。」

二人の会話に俺の頭は追いつかなかった。


「学校…いってもいいんですか?」

「行きたくねぇのか?」

俺は思いっきり首を横に振った。

「あ、ありがとうございます」

「……えらく純粋なもんだ…」

「え…んっ」

政宗さんの大きな手が俺の後頭部に回った。二回目だ。

今回は長いような気がする。

「ん…んっ…!」

生暖かい舌が入ってくる。驚いてぎゅっと目をつむった。

「ふ…ぁ…」

「…予想の斜め上を行ったな…」

「…ぇ?」

頭がぼうっとして、思考が停止している。目の前の政宗さんを見ていると、政宗さんは軽く笑った。

「待てん」

「組長、カーテン閉めます」

「ああ」

シャッと片桐さんが前の席と俺たちのいる後ろの席をカーテンで隔てた。やっぱりそういう仕事には、こういう特殊なものがついているんだなと思う。

「傷はもう治ったのか?」

「はい、いちおう、」

「…ならいい」

政宗さんが俺をシートに押し倒した。
普通の車より豪華で清潔感あふれる、車内は広い。

車内の天を見上げながら、ああ、やばいと思った。

キスされた時点でなんとなく趣旨はわかった、男同士でとは思ったものの嘘をつきそうな人ではない。つまりそういうこともするというわけだが、まさか車内で。

と言ってる間に既に政宗さんは俺のシャツのボタンを器用に全て外していた。

「…あ、あの」

「あ?」

「そ、そういうことするのは…わかるんですけど…前に北谷さんや片桐さんが…」

「ああ…欲情したら勝手に抜くだろ」

「組長」

叱咤するように一言前から聞こえたのを聞こえないふりをする政宗さんは、俺の鎖骨に噛み付いた。

「ひっ、い゛」

「白いなお前。反応も初々しい」

「あ、あの俺、ほんとうにこういうの初めてで…」

「…童貞ってことか?」

恥ずかしさのかけらもなく政宗さんが聞いてくるので俺は熱くなる顔を腕で隠した。

「そう、ですけど…」

「……おい、お前もしかして精通もまだか?」

「す、すみませ、ん」

「…そうか。好都合だ」

「え?…わっわわ!」

足を掴まれて、ズボンを脱がされる。
さすがに羞恥心というものがあって俺は、足を引っ込めようとしたが、それよりも何倍の力で引っ張られた。

「…ふぅ…ぅ」

俺の乳首を摘んで意地悪そうに笑う政宗さんは確かに美男な方ではある。

だが俺はこの状況を抜け出すことだけ考えていた。

「…あぅ…ぁ」

「なかなか唆るな」

「…あっ!」

下半身が空気にさらされる。



どうしてこんなことになってるんだろう。


「あっ…ひ…あぁっあ!」

「力入れるな。」

「あっぁあっ!」

「…聞いてねぇーなこれは。」

政宗さんの足の上に座っている状態で、下から突かれる。その度目が回って何がにかわからなくなった。

「やぁっ…あっぁあっ!」

「あ゛ーくそっ、耳元で喘ぐな。勃つ。」

「んぁっあ、なっ…!」

一向に終わりそうにない行為に気が遠くなる。もう何も出ない。政宗さんの方はそんなことないらしいけど。


…正直、疲れた。


「あっ、あっ、…ぅ…んぁ、もっ、むりっ!」

「体力ねーのな、お前。」

わかってるならやめてほしい。

ガツガツとまだ続ける政宗さんの服を握る。


「あっぅ、ぁああ゛っ!!」

「冰澄…、冰澄こっち向け」

「んぁ……んん、ふぇ」

濃厚なキスに俺の思考回路はショートした。
またゆるゆると動き出した政宗さんの髪を引っ張る。

「つかれた…」

「体力つけろ」

「…ぁ…あっ、ひっあぁあっ!」

体内が熱くなった。
絶倫だこの人。

政宗さんの肩越しに車のバックを見ながら、息をこぼした。
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