どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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8分の1の生き甲斐

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お元気ですか?生まれたらしいですね。
クリスマスイブ生まれだとお祝いが一緒にされるんだろうな。

かわいそうだ。

寒い日が続いてる、そっちはどうですか?

暖かいですか?なんなら帰ってきてもいいんだよ

俺は、喜んで世話するよ。

早く会いたいです、会ったらまず言わないとダメだな、はじめまして


冰澄って。






「……俺はこんな叔父さん知らない。知らなかった…知らなかった!」

手紙を握りしめて放り投げた。

字は上手い方じゃない。でも綴られる文字は言葉で、優しい。

俺は知らなかった、こんな言葉を描く人だなんて。


俺は知らなかった。


「冰澄、お前の叔父は何かに壊された。恐ろしい何かにだ。そこが解けない。お前の叔父はお前を愛してた。それを誰かが壊した…。ああ、ちげぇよ…こんなことじゃない……」

眉間にしわを寄せて考え込む政宗さんはゆっくりと俺の目を見据えた。

「……冰澄、死のうとするな。お前のせいじゃない。お前は何も悪くない。」

はっきりと低い声が俺の鼓膜を震わせた。振動する音はやがて言葉になった。
それは俺が求めていた言葉の一つだった。

政宗さんはたくさんの言葉をくれる。

一つ目は、美しく真っ直ぐな背筋だと言ってくれた。

自分の境遇を笑って見ていることしかできなかった背筋なのに。

二つ目は、愛していると言ってくれた。
痣は消えた体だけど、中身は痣だらけな俺を。

三つ目は、…

「俺、わかんないんです」

いや違う。本当はわかることはできる。

思い出すことができるなら。

「俺…知ってるはずなのに。」

「冰澄?」

「あの人は誰…!?」

頭痛がする。

あの人は誰だ。あの"近所"の"お兄さん"は誰だったっけ。

俺の手を引いて歩いていた人は誰だっけ。
どこで会ったんだろう。
名前はなんだったっけ?

「誰、だっけ…?」

「冰澄…」

政宗さんの腕に縋り付いた。俺にはもうわからない。叔父さんはいつも俺にこう言った。

"お前はあいつそっくりだな"

強く握りしめた手は政宗さんにとってはすごく弱い力なんだろうなとか、政宗さんは本当はすごく優しいから、俺みたいなやつ助けてくれたんだろうなとか、もしも違うやつが息をすることが苦しいこの状況にいたら、きっとそいつを救うんだ、とか

そんなことしか考えられなくて。

本当に俺は……






「冰澄」





その力強い声で名前を呼ばれたことがある気がした。ずっと、ずっと昔に。
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