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本編
0.プロローグ
しおりを挟む「たった1年の短い間でしたが、本っ当にありがとうございました!!」
それは、とあるアイドルグループのライブ映像。
たくさんの光を浴びて、たくさんの声援を受けて、彼は笑っていた。
悔し涙を目に溜め、それでもなおその笑顔は崩れることがない。
『フォレストのリュウ脱退』
そんな言葉と共に大々的に報じられた1人のアイドルは、この日を境にテレビから姿を消した。
まだ小学生だった私は、その笑顔とまっすぐな歌声に恋をしたんだ。
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音が大好きだった。
音楽教室で生まれ育ったからか、人見知りで内気な性格だったからか、理由は分からない。
生まれた時からあまりに身近にあった音楽は、いつだって私を支えてくれる。
言葉を発するより音を紡ぐ時間の方が多いほどで、最早私の一部となったもの。
だから私はきっとこの上なく果報者なのだと、そう思う。
「ちー、今度出す新曲のことなんだけどさ……」
「千歳くん。うん、なに?」
「ちょっと一部歌詞に気になるところがあって。ちーの意見聞かせて」
優しい兄に支えられ音楽の世界で生きていられること。
唯一といって良い私の特技を、否定することなく受け入れてくれる環境で音を紡げていること。
「……ちー?聞いてる?」
「あ、ごめんね千歳くん。歌詞、どこが気になる?」
「うん、ここなんだけどさ……」
今の私はまるで夢の中にいるような毎日だ。
有り得ないほどの幸運の中で自分のやりたいことをやりたいだけやらせてもらっている。
少し前までは到底考えられないような充実した日々を過ごせている。
この生活に不満なんてなくて、ただただ感謝の毎日。
これ以上に願うことなんてない。それはあまりに贅沢だとも思う。
けれど、ひとつ。
そう、たったひとつだけでも願いが叶うなら、お礼が言いたい。
この世界に強烈に惹き付けてくれたあのアイドルに一言だけ。
彼のあの歌は、私の原点だから。
強く響く彼の歌声、あの音に私は救われた。
ありがとうと、そう伝えることができたなら。
そんな密かな思いを胸にしまいながら、私は今日も音を紡ぐんだ。
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