アイルーミヤの冒険

alphapolis_20210224

文字の大きさ
9 / 40

九、鷹と蛇と猫

しおりを挟む
 緊急会議の席で、ローセウス将軍は自分の水晶玉に文書をかざし、ルフス将軍とフラウム将軍は顔を近づけて読んだ。
 アイルーミヤ調査官はローセウス将軍の隣に座っていたが、二将軍とも何も言わなかった。

「読みにくいでしょうが、内容の重大さを考え、写しは取りません。これを知る者は陛下と我々のみに留めたい」
 ローセウス将軍がそう言うと、二人は読みながら頷いた。

 読み終わった時の反応はアイルーミヤと同じだった。

「これは僧侶がよく使う遠回しな言い様だろう。締め上げたらどうだ?」
「隠喩と言うんですよ、ルフス将軍。あなたは変わりませんね。拷問は僧には通じませんよ。説得してこちらに転向させなければ自殺するだけです」
 ローセウス将軍はあきれたような口調で言った。ルフス将軍は面白くなさそうな顔をしている。

「しかし、この怪文書が何の目的で書かれたにせよ、情報を知ってそうな高位の僧が転向しますか」
 フラウム将軍が皮肉っぽく口を挟む。アイルーミヤは最近の戦闘を思い出した。

 ここにいる四人とも、「陛下に問おう」とは言わない。あまりにも大胆すぎる。無礼とさえ言える。
 それに、水晶玉を使ったからには、もう陛下の知る所になっているはずだ。何か言う必要があるのなら陛下からお言葉があるだろうと思っていた。

「仮に書いてあるままが真実だとすると、陛下はどんなふうに申し込んだんでしょう?」
 アイルーミヤはローセウス将軍の肩がかすかに揺れたのを横目で見た。フラウム将軍は賭けに出た。闇の王に直接聞けないなら、お言葉を釣り出そうとしている。

「それはお前、そうした事は人間とさほど変わらないだろう」
 ルフス将軍が乗った。まるで戦場で斬り合いをしているかのように、ぎりぎりの線を楽しんでいる。

「話がそれてきたな。あまり結論を急がないほうが良かろう。とにかく、僧を転向させて事情聴取し、他の寺院や遺跡を調査して、この事実を補強、あるいは否定するような別の証拠がないか調べようではないか」
 ローセウス将軍はアイルーミヤの方を見ながら二将軍をなだめた。抑えるような手振りを小さく加えている。
「調査はおまかせを。ここが終わりましたらお二人の所へも参ります」
 アイルーミヤはローセウス将軍に乗ったが、胸がどきどきしていた。本当ならフラウム将軍に合わせてみたかったが、何かが彼女を引き留めた。五百年の年月だろうか。

 二将軍は不満げに同意した。今回はローセウス将軍の顔を立ててくれた形だった。彼女は会議を終了すると、大きく伸びをした。

「彼奴ら、変わったのは表面だけか。危ない橋を渡ろうとしおって」
「しかし、楽しそうでした」
 ローセウス将軍は驚いたようにアイルーミヤを見、大声で笑った。
「お前もそうか。アイルーミヤ。まあ、踏みとどまったとは言え、私もそうだ。結局、我らは心に鷹と蛇を飼っているのだろうな」

『にゃあ』

 いつの間にか、クツシタが窓枠の縁に乗ってこちらを見ていた。ローセウス将軍は舌を鳴らして呼んだ。

「それと、猫か」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...