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十九、素直でない
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食事は満足できるものだったが、アイルーミヤは自分の行儀はあまり良くないなと感じていた。アウルム僧正将軍ばかり話している。
「特使、今日は色々ありましたが、お疲れですか」
「いいえ、女王陛下のご依頼について考えていました」
茶と菓子で舌と胃袋を仕上げながら、アイルーミヤは微笑んだ。
「見通しはいかがですか」
「最善を尽くします」
「期待しています」
僧正将軍はまだ何か言いたそうだったが、アイルーミヤは無礼を詫びて席を立った。本来なら雑談を続け、僧正将軍との繋がりを作っておくのが得策だが、外交は任務ではないし、さっきは否定したものの、思ったより疲れていた。
案内された部屋で、三将軍宛の報告書を口述し、検閲を依頼した。
翌朝、身支度を整えた頃、僧正将軍本人が通信紙を持ってきた。
「おはようございます。よく眠れましたか。こちらが検閲済みの通信紙です」
朝の挨拶と礼を言い、アウルム僧正将軍の印を確認するとその場で紙を弾いて送信した。
「朝の支度が出来ています」
「閣下自らご案内下さるのですか」
「喜んで」
昨日より近いが、気付かない振りをした。
朝食後、やはりまだ何か言いたそうな僧正将軍に儀礼的な挨拶をし、アイルーミヤはハヤブサ号にまたがった。来た時と同じ騎馬兵に囲まれている。
帰りは行きのちょうど逆の旅だった。境でルフス将軍配下の兵と入れ替わり、城に戻った。
「任務成功と無事帰還、嬉しく思う」
「ルフス将軍、門までのお出迎え、感謝致します。しかし、また任務を帯びてまいりました」
「ああ、大変だが、とりあえず休め」
『にゃあ』
「ほら、クツシタも遊んでほしいって」
「いい子でいたか」
『にー』
「いい子だったさ。あの書類かじりどもに大損害を与え、全軍退却に追い込んだ」
「よくやったな」
『みー』
会議は夕食後に開かれた。アイルーミヤはルフス将軍の隣に座った。皆が彼女を誉め、ねぎらった。
「ありがとうございます。しかし、この場をお借りして、謝罪をしなければなりません。光の女王からの依頼ですが、私の独断で受けました事、申し訳ありませんでした」
「報告書は読んだ。状況からして止むを得ない。むしろ、あの場で即答しなければ事態の悪化を招いていた可能性がある」
手を三角に組んだフラウム将軍が言うと、他の将軍たちも頷いた。
「それに、特使という肩書を与えたのだから、任務に関連して独断を行っても立場上の問題は無い」
ローセウス将軍が付け加えた。
「法や儀礼の話はもういい。それより光の女王の依頼についてだ」
ルフス将軍が軽く机を叩き、アイルーミヤを見て言った。
「どうだ、すぐにでも遂行できるか」
「はい。あ、陛下との話は対面で行いたいのですが」
「お顔を見たいか」
水晶玉の中でローセウス将軍が身を乗り出して言った。
「この件の説得、表情を見ながらでないと困難です」
それを聞いて頷いたフラウム将軍は、組んだ手をほどいて大きめの声で呼びかけた。
「陛下。お聞きになっておられますか。アイルーミヤ特使が面談を要望しています。要件はご存知の通りです。お答えをお願いします」
『皆、ご苦労であった』
低い、ゆったりとした声が心に響き、皆の体が強張った。闇の王は特使と将軍たちに礼を言った。
『そなたたちの働きにより、光の女王の意思がよく分かった。感謝する。しかし、アイルーミヤ。お前は余の下僕であるにも関わらず、女王の依頼を相談なしに受けたという点には全く問題が無いものではない。確かに余は、よしなに、とは言ったが、その言葉を拡大解釈し過ぎではないか』
そこで王の言葉が一旦切れたが、誰も話さなかった。どうも本気で怒っている調子では無く、なにかあるらしいと感じたからだった。
『アイルーミヤ。今回の件について、お前と直接話をする必要がある。至急中央へ来るように。一人でだ』
それだけだった。体が自由に動かせるようになると、今度も全員の肩が震えていた。
「素直でない方だ」
フラウム将軍が頭を振っていた。
「特使、今日は色々ありましたが、お疲れですか」
「いいえ、女王陛下のご依頼について考えていました」
茶と菓子で舌と胃袋を仕上げながら、アイルーミヤは微笑んだ。
「見通しはいかがですか」
「最善を尽くします」
「期待しています」
僧正将軍はまだ何か言いたそうだったが、アイルーミヤは無礼を詫びて席を立った。本来なら雑談を続け、僧正将軍との繋がりを作っておくのが得策だが、外交は任務ではないし、さっきは否定したものの、思ったより疲れていた。
案内された部屋で、三将軍宛の報告書を口述し、検閲を依頼した。
翌朝、身支度を整えた頃、僧正将軍本人が通信紙を持ってきた。
「おはようございます。よく眠れましたか。こちらが検閲済みの通信紙です」
朝の挨拶と礼を言い、アウルム僧正将軍の印を確認するとその場で紙を弾いて送信した。
「朝の支度が出来ています」
「閣下自らご案内下さるのですか」
「喜んで」
昨日より近いが、気付かない振りをした。
朝食後、やはりまだ何か言いたそうな僧正将軍に儀礼的な挨拶をし、アイルーミヤはハヤブサ号にまたがった。来た時と同じ騎馬兵に囲まれている。
帰りは行きのちょうど逆の旅だった。境でルフス将軍配下の兵と入れ替わり、城に戻った。
「任務成功と無事帰還、嬉しく思う」
「ルフス将軍、門までのお出迎え、感謝致します。しかし、また任務を帯びてまいりました」
「ああ、大変だが、とりあえず休め」
『にゃあ』
「ほら、クツシタも遊んでほしいって」
「いい子でいたか」
『にー』
「いい子だったさ。あの書類かじりどもに大損害を与え、全軍退却に追い込んだ」
「よくやったな」
『みー』
会議は夕食後に開かれた。アイルーミヤはルフス将軍の隣に座った。皆が彼女を誉め、ねぎらった。
「ありがとうございます。しかし、この場をお借りして、謝罪をしなければなりません。光の女王からの依頼ですが、私の独断で受けました事、申し訳ありませんでした」
「報告書は読んだ。状況からして止むを得ない。むしろ、あの場で即答しなければ事態の悪化を招いていた可能性がある」
手を三角に組んだフラウム将軍が言うと、他の将軍たちも頷いた。
「それに、特使という肩書を与えたのだから、任務に関連して独断を行っても立場上の問題は無い」
ローセウス将軍が付け加えた。
「法や儀礼の話はもういい。それより光の女王の依頼についてだ」
ルフス将軍が軽く机を叩き、アイルーミヤを見て言った。
「どうだ、すぐにでも遂行できるか」
「はい。あ、陛下との話は対面で行いたいのですが」
「お顔を見たいか」
水晶玉の中でローセウス将軍が身を乗り出して言った。
「この件の説得、表情を見ながらでないと困難です」
それを聞いて頷いたフラウム将軍は、組んだ手をほどいて大きめの声で呼びかけた。
「陛下。お聞きになっておられますか。アイルーミヤ特使が面談を要望しています。要件はご存知の通りです。お答えをお願いします」
『皆、ご苦労であった』
低い、ゆったりとした声が心に響き、皆の体が強張った。闇の王は特使と将軍たちに礼を言った。
『そなたたちの働きにより、光の女王の意思がよく分かった。感謝する。しかし、アイルーミヤ。お前は余の下僕であるにも関わらず、女王の依頼を相談なしに受けたという点には全く問題が無いものではない。確かに余は、よしなに、とは言ったが、その言葉を拡大解釈し過ぎではないか』
そこで王の言葉が一旦切れたが、誰も話さなかった。どうも本気で怒っている調子では無く、なにかあるらしいと感じたからだった。
『アイルーミヤ。今回の件について、お前と直接話をする必要がある。至急中央へ来るように。一人でだ』
それだけだった。体が自由に動かせるようになると、今度も全員の肩が震えていた。
「素直でない方だ」
フラウム将軍が頭を振っていた。
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