26 / 79
第二部 悪魔とダンス
十二
しおりを挟む
二十日たたないうちに七人全員見かけた。いちいち声はかけなかった。同型だが色や模様が異なっていた。しがみついている場所も違う。トリグモ同士が通信しあっているかまでは不明だった。聞いても答えなかった。
みんな無関心というのはその通りだった。職場でもどこでもじろじろ見られたり聞かれたりしなかった。さっと目を走らせ、そうか、という感じでそらす。
リアクションを複製したのだと説明されても何をしているのかさっぱりだった。寝ていようが風呂だろうがトイレだろうがくっついてるかそばにいる。
便利な端末のように使ってやろうかと思ったがそっち方面にはまったく役に立たなかった。何を聞いても無反応だった。
「よろしいですか」
でも、自分の都合で話しかけてくる。
「さきほど、トマトを購入しただけなのにアドレナリンが検出されました。何に対してストレスを感じたのですか」
「知るか。おまえと違っていちいちどういうホルモン出したかなんか分かんねえよ」
「何かに警戒されたのですか」
「だから知らないって。そこらから見られてる気がしたんだよ」
「なるほど。周囲への本能的警戒。なるほど」
「てめぇは完璧な複製じゃないんだな」
「そのとおりです。あなたと同じように周囲を知覚していない以上、リアクションは異なります。想定されていました」
「こんなの、いつまで?」
「マザーが満足するまでです」
トリグモを背負って一か月たつかたたないかの頃、坊っちゃんと呼ばれている男と、あの三人組を見かけたが、やはり反応は薄かった。もう関心はないのか、そうよそおっているだけなのか。
かれら『カクブンレツ』とエナジーアイランド自警団はよくやっている。台所仕事はもうはやらなくなった。今では荷がそのままの形と数量で届く率は八割を超えており、それと共に島の雰囲気が落ち着いてきた。
『真実のともしび』は制限団体に指定された。抗議は無視され、再審査請求は却下された。これで公の場での活動は事実上不可能になる。
あゆみはそういう報道を見ながらきゅうりをかじった。
「よろしいですか。マザーとしてお話したいのですが」
そろそろ寝ようと横になった時だった。
「何? 短くな」
「感覚器官に相乗りさせてください」
「断る。おやすみ」
「こっちのも使えますよ」
「いらない」
「でも、トリグモの観察ではあなたはいつも警戒しています。無意識でも。ならわたしとおなじ島中のセンサーが使えるというのは良い取引ではないでしょうか」
あゆみは起き直った。
「島中?」
「ただし居住区にあるものだけです。原子炉や研究・工場棟のは非公開です」
「全部か」
「全部です。トリグモが中継します。もちろんあなたは人間ですからすべてを同時、並行での処理はできないでしょう。それでも悪くはないはずです」
「なんでそこまで提供する?」
「人間の無意識的な知覚と反応を知りたい。それもシミュレートして複製したいのです」
頭をかいた。「なんのつもり?」
「わたしは、母になりたい」
みんな無関心というのはその通りだった。職場でもどこでもじろじろ見られたり聞かれたりしなかった。さっと目を走らせ、そうか、という感じでそらす。
リアクションを複製したのだと説明されても何をしているのかさっぱりだった。寝ていようが風呂だろうがトイレだろうがくっついてるかそばにいる。
便利な端末のように使ってやろうかと思ったがそっち方面にはまったく役に立たなかった。何を聞いても無反応だった。
「よろしいですか」
でも、自分の都合で話しかけてくる。
「さきほど、トマトを購入しただけなのにアドレナリンが検出されました。何に対してストレスを感じたのですか」
「知るか。おまえと違っていちいちどういうホルモン出したかなんか分かんねえよ」
「何かに警戒されたのですか」
「だから知らないって。そこらから見られてる気がしたんだよ」
「なるほど。周囲への本能的警戒。なるほど」
「てめぇは完璧な複製じゃないんだな」
「そのとおりです。あなたと同じように周囲を知覚していない以上、リアクションは異なります。想定されていました」
「こんなの、いつまで?」
「マザーが満足するまでです」
トリグモを背負って一か月たつかたたないかの頃、坊っちゃんと呼ばれている男と、あの三人組を見かけたが、やはり反応は薄かった。もう関心はないのか、そうよそおっているだけなのか。
かれら『カクブンレツ』とエナジーアイランド自警団はよくやっている。台所仕事はもうはやらなくなった。今では荷がそのままの形と数量で届く率は八割を超えており、それと共に島の雰囲気が落ち着いてきた。
『真実のともしび』は制限団体に指定された。抗議は無視され、再審査請求は却下された。これで公の場での活動は事実上不可能になる。
あゆみはそういう報道を見ながらきゅうりをかじった。
「よろしいですか。マザーとしてお話したいのですが」
そろそろ寝ようと横になった時だった。
「何? 短くな」
「感覚器官に相乗りさせてください」
「断る。おやすみ」
「こっちのも使えますよ」
「いらない」
「でも、トリグモの観察ではあなたはいつも警戒しています。無意識でも。ならわたしとおなじ島中のセンサーが使えるというのは良い取引ではないでしょうか」
あゆみは起き直った。
「島中?」
「ただし居住区にあるものだけです。原子炉や研究・工場棟のは非公開です」
「全部か」
「全部です。トリグモが中継します。もちろんあなたは人間ですからすべてを同時、並行での処理はできないでしょう。それでも悪くはないはずです」
「なんでそこまで提供する?」
「人間の無意識的な知覚と反応を知りたい。それもシミュレートして複製したいのです」
頭をかいた。「なんのつもり?」
「わたしは、母になりたい」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる