乱数勇者異世界転生

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十五 ころがる世界

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 サイ子は提案を受け入れ、十日で問答データベースを仕上げた。
 各神殿の『預言の池』でのみ見られる。検索はふつうの言葉で行え、結果は文字と音声で出力される。女官ふたり以上いれば使用でき、神託の時のようにその場の全員はいなくてもいい。
 使い勝手はよかった。サイ子を呼びださなくていい神託ともいえる。これまで過去問にないとされた質問も問答データベースにはあることが多く、儀式の回数は減った。
 懸念された犯罪も、地域の人口が少なく、おたがい顔見知りの状況では発生しにくい。いちおう自警団が結成されたが、ほとんど開店休業の状態だった。
 ただ、急な相談、たとえば病気やけがには困った。過去のおなじような症例を検索し、ある程度治療方針を立ててもらってから神託を伺うのだが、そう言うときの心理としてとにかく早く答えをほしいと思うもので、それが不満となった。
 人々は、「神殿は、いままで通り答えてはくれるが、あれやこれやと言って遅くなった」という感想を抱いた。

 だれもが、神の性質が変わったと気づいた。
 ならば、われわれも変わらなければならない。

 ミドリ村やオオカゼ町では、村長、町長、年長者を中心にした集会の回数が増えていった。娯楽を兼ねた寄り合いだったが、そのうちにちょっとした相談事やもめ事を取りまとめるだけではなく、解決まで行うようになり、その記録を取るようになった。
 ほかの地域でも遅かれ早かれそのようになっていった。これらの独自の記録は神殿とは独立し、問答データベースには組み込まれなかった。
 巡回に行った女官たちは変わらず歓迎されている。相談事以外にも、さまざまな祈りを行い、また、知識と経験からの助言を与えている。
 だが、人々は変わった。サイ様に頼ればいいさと言う無邪気さは無くなった。どんな仕事でも慎重に進め、自分たちのやり方で記録を取るようになった。

 暑さの残る中、収穫が始まった。今年も神託通り豊作で、山から見下ろすと黄金色の水を満々とたたえた池のようだった。
「今年もよい年になりました」
 神殿から出てきたイチバンが風を受けて長い髪をなびかせている。ダイスケはこの頃女官や手伝いたちと文字を教えあっている。今日はみんなの仕事の都合でイチバンとだけだった。
「豊作だね。ぼくの元の世界でも、この時期はあんなふうになるよ」
「ダイスケ、まだ、ここは異世界ですか」
「うん、毎朝ステータスの表示を見るたびに、自分は観察対象だと思い知らされる。おまえはよその世界から投下された道具だぞって」
「この世界の点検、いつ終わるのでしょう」
「終わったら、ぼくはどうなるのかな」
「まさか、サイ様はそのような……」
「いや、自分で言ってたように、人の姿を取っていることと、人の倫理を持っていることはべつだよ」
 イチバンは目を伏せた。もうそれをきくためだけに神託を取るわけにはいかない。人々に自分の頭で考えるよう教えた以上、範を示さなければならない。
 まず、『なぜ?』と問おう。

「なぜ、ダイスケのステータスを変えるのでしょうか。サイコロ二つで」
「条件をいじるためと言っていたな」
「それなら、サイコロででたらめに設定するのは変です。実験なら値を決めてしまえばいい」
「サイコロを使う理由か。イチバンさん、君の『なぜ?』は考える価値があると思う。時間があるならこれからいっしょに頭を絞ってみたいけど、どうかな」
「ええ、では食堂でお茶をいただきながら考えましょう」
 イチバンの声はどことなくはずんでいた。

「いまの場合、サイコロってそもそもなんでしょう?」
 イチバンが茶の用意をしてくれた。湯呑などを置き、そのままとなりに座る。
「いまの場合は乱数発生器だろうな」
「では、サイ様はなぜ乱数が必要なのでしょうか」
「実験で乱数が必要なのはどういう場合……か……な」
(だめだ。どんな実験かわからないのに、どういう場合か考えても無駄だな)

「イチバンさん、あの……」
「ダイスケ、もう、『さん』はつけないでほしいのですが。わたしたちみんなのお願いです」
 イチバンがめずらしく話をさえぎった。きのうみんなで話をして、イチバンからダイスケに頼むことになったと説明した。
「わかった。じゃ、イチバン」
「はい」
「乱数って、神様にとっても乱数かな」
「もちろんです」
「じゃあ、神様でもいじれない値を実験に組み込みたかったのか」
「それ、言葉を変えただけですよ」
「ほんとだ。今日は知性八だからかな。さえないね」
「いいえ、サイ様の意図がまったくわからないから、どんなに知性が高くてもつかみどころがありません」
「そうか。そうだね」
 ダイスケは茶をすすってため息をついた。イチバンはテーブルの上のダイスケの手に自分の手を重ねた。
「まえにこうして触れてくれたことがありましたね。わたくしが『様』をつけなくなった時に」
 いつか見たような白い手だなと、ダイスケは思った。その手から、イチバンの顔へ視線をすべらせる。

「臼と杵、着いたよー」
 イチバンがさっと手を引っ込める。サンバンが食堂に入ってきた。ふたりを見ながら言う。
「とりあえず、台所に入れといたから」
「ありがとう、サンバン」
「あの話、してくれた?」
 ちらりとダイスケのほうを見て言った。
「きいたよ。サンバン」
「お茶はいかが。いまダイスケと飲んでたの」
「うん、もらう」
 サンバンは向かいに腰を下ろした。
「なんの話してたの?」
「乱数の話。ぼくのステータスが乱数で決められるのはなぜかって」
「それなら、サイ様に……、きけないか」
 イチバンとサンバンは目を合わせてほほ笑んだ。
(イチバンとサンバン、か)
「神様は数字が好きなのかな」
「そうかもね。わたしたちも数字の名前だし。ダイスケは乱数で能力が変わるし」
(乱数か。でもサイコロ二つで決めたら数値は偏るのにな)
「なんでサイコロなのかな」
「また話が戻りましたね」
「うん、サイコロ二つを乱数発生器にしてるのが引っかかって。ぼくの記憶から引っ張ったって言ってたけど。サイコロ二つじゃ値が七に偏るよなって思った」
「そうですね。乱数と言ってもどの数字も完全におなじ確率で出すんじゃなくて、七付近に偏らせたかったのでしょうか」
 ダイスケは湯呑を手に取り、イチバンは考え込んでいる。それをサンバンが見比べながら、茶を一口飲んでつぶやく。

「賭け事はだめって言っときながら、神様はサイコロ振るんだよなー」

 ダイスケは飲みかけた茶が変なところに入ってむせた。イチバンが背をなでる。
「どうしたの?」
 サンバンがびっくりしている。
「いまなんて言った。サンバン」
「賭け事はだめっていうのに、サイ様はサイコロ振るよなーって」
 ダイスケはサンバンの言葉から連想を広げ、物理の時間に教師がした話を思い出そうとしていた。それは授業内容をはなれた余談だったが、印象深かったのを覚えていた。
(たしか、アインシュタインとか、量子力学とか、確率とか、なんだっけ?)
 ダイスケはクリップボードを取り出し、整理するために頭に浮かんだ単語を書きとめ始めた。急いでいたので元の世界の字だった。
 イチバンとサンバンはいっしょにクリップボードをのぞきこみながら、ダイスケの突然の行動をいぶかしんでいる。
「どうしたの。ダイスケ」
「いまのサンバンの言葉で思いついた。神様とこの世界について」
「説明してください」
「時間かかるけど、いい?」
 イチバンはうなずいた。
「ちょっと待ってて」
 サンバンは急ぎ足で食堂を出て行った。その間にイチバンが茶を淹れ直してくれた。
「みんなも呼びましょうか」
「お願い」
 すこしして入れ違いにすっきりした顔のサンバンが戻ってきた。
「あれ、イチバンは?」
「みんなを呼びに行くって」
「そんなすごい話なの?」
「いま思いついたところだから、そこもふくめて判断してほしい」
 ダイスケは、そういいながら布巻き鉛筆を走らせている。思い出せる単語をかき、その間を線で結んだり小さい字を書き添えたりして考えを整理する。
 そのうちに神殿の清掃や鶏の世話をしていた女官たちが戻ってきた。イチバンは手伝いに命じて人数分の茶を用意させる。
 集まってきたみんなはクリップボードをのぞきこんで、なにが始まるんだろうとささやいていた。サンバンがこれまでの話をしている。
 茶が運ばれ、全員着席した。
 ダイスケは説明を始めた。自分できちんと理解していないことなので、ほとんど教師が言った通りの口写しになった。

 ダイスケの元の世界には「物理学」と言う自然の現象や性質を解き明かそうと言う学問がある。
 その一分野に「量子力学」と言うのがある。ものすごく小さいものの運動や相互作用を解き明かそうとしている。
 その学者たちが、実験の結果から奇妙なことを言いだした。
 ごくごく小さいものの位置や運動は決まっていない。それらは確率的に求められ、観測によって決まるのだ、と。
 それはこれまでの物理学の世界観から大幅にはずれた学説だったが、小さいものの性質をよくあらわし、それまでよりうまく自然現象を説明できた。
 しかし、従来の常識的な世界観からはなれすぎて受け入れない学者も多かった。たとえば、アインシュタインと言う学者は、ものの位置が確率的に分布しているかのような結果になったのは、まだ未知の、隠れた変数があるだけだと反論した。
 その際に、自然現象は確率で決まるものではないと、「神はサイコロを振らない」という比喩表現を用いて批判した。

「この『神』っていうのは例えで、自然法則とかを示してるんだけど、サンバンの言葉が偶然ぴったりきたもんだから思い出したんだ」
 みんな静かにしていた。ダイスケの話をそれぞれに消化している。
「ものすごく小さいって、このくらい?」
 口を開いたサンバンが指で砂粒をつまむような形を作った。
「いや、目に見えないくらい。すべてのものを作り上げてる粒。組み合わさってなんでも作れる小さな積み木みたいなもの」
「変数っていうのは?」
 ニバンがきいた。
「決まってない値のこと。たとえば部屋のなかでのロクバンの位置とか。ころころ変わるだろ」
 真ん中のほうに席を移ろうとしていたロクバンを見ながら答えた。椅子ががたんと揺れ、照れ隠しに茶を飲んでいる。
 ダイスケの話し方をきいたヨンバンはイチバンのほうを向き、「話してくれたのね」と目顔で合図を送った。
 説明をじっと聞いていたイチバンが、ヨンバンにうなずき返してから不思議そうに言う。
「目に見えないくらい小さいにしても、確率でものの位置や運動が決まると言うのは、実感に合いませんね」
「そうそう。確率って、どのくらい確からしいかってことでしょ。物がそこにある確からしさってなに?」
 ニバンがイチバンに同意した。
「うん、でも、ぼくの元の世界はそれを前提にして道具や機械を作ってる。なんだかわからないけど、使ってみるとうまくいくんだ」
「ダイスケはどう思うのですか」
 ヨンバンは、ロクバンの服についていた鶏の羽毛を取りながら言った。
「どう思うっていうか、その授業できいたっきりなにも考えてなかった。いま考えても理屈はさっぱりわからない」
 そこで言葉を切ってクリップボードを見直した。まだなにか言い足りない。
「ミテルはダイスケの元の世界を創造したっきりまったく干渉しないのだから、いないのとおなじだったんですね。それでそういう学問が発達したのでしょう」
 ゴバンはひとりで納得している。
「そうだろうね。こっちの人々は神託がある。未来はそれほど不透明じゃない」
 クリップボードに布巻き鉛筆を打ち付けた点々が増えていく。
「神託が出た時、あえてそれとちがう行動をした人はいるの?」
 みんな首を振った。
「そんなの意味ないよ。絶対当たるのに」
 ロクバンが言った。
「ううん、そういうんじゃなくて、実験として。あえて逆らったらどうなるかって試した人はいないの?」
「おりません、すくなくともわたくしの知る限りでは。ゴバン、なにかそういう文献ある?」
「いいえ、神託による指示はそのまま実行されてきました。神託にはずれた行動をした記録は見たことがありません。しようという試みの記録もです」
「わたしたちは、自然に対して実験しようという必要性がそれほどありませんでしたから」
 ヨンバンがつけくわえた。
「ここの世界の人からすれば当然だよね。神様が日常にいて、絶対当たる神託をくれる。あえて実験するまでもないか」
 さっきのゴバンの言葉を合わせて考えてみる。
「ぼくの元の世界ではミテルは世界を作ったっきりで姿を現さなかった。ゴバンの言うとおりだね。量子力学は神の不在のもとで発展した」
「だけど、世界を作った神はいるんだから、その、ええっと、『りょうしりきがく』っていうのがまちがってるんでしょ」

 ダイスケは胸を突かれた。

「あ、うん。ロクバンの言う通りだ。あの姉妹神がそれぞれの宇宙を創造したのだとすると、アインシュタインが正しいのかもしれない。こっちの世界は元の世界のコピーだし。基礎はおなじだろうね」
 ダイスケの頭は考えの断片が舞っている状態で、ひとつの塊にまとまらない。イチバンが口をはさんだ。
「やはり、この世のものの位置や運動は全部決まっているのでしょうか」
「うん。だから神託は絶対当たるんじゃないかな。サイ子は隠れた変数もふくめて、ものの位置と運動が全部正確にわかってる。そしてそこから未来のものの位置と運動を正しく導き出せるんだ」
「未来は決まってるのか。当たるっていうより、はずしようがないし、こっちは逆らいようがない」
 天井を見上げて遠い目をしたサンバンが言った。
「その未来を導き出せるのは神か悪魔くらいだけどね」
「ダイスケ、悪魔と言うのはやめてください」
「ごめん。でも、サイ子自身がおなじものだって言ってた。その意味がわかった気がする」
 ゴバンが眉をひそめて言う。
「神が創造した世界は始まりから終わりまでなにもかも決まっているのですか」
「そうね。終わりがあるかどうかわからないけど、すべてのものの位置と運動がわかっているのだから、予想外の出来事は起こりえないわね」
 冷静にイチバンが答えた。敬虔な信仰の徒にしてみれば、神がすべてを見そなわしているのは意外でもなんでもない。ゴバンはまだそうした決定論的世界を当然とするほど信仰篤くないのだろうか。
 しかし、テーブルについている六人の女官のなかで、この事実を喜ばしく受け入れられるのはイチバンだけだろうとダイスケは思った。ほかの者はそこまで信心深くないか、まだこの事実がこなれていないだけだ。
 それに、ダイスケ自身、まだ引っかかることがある。だれかが言葉にしてくれないだろうか。

「では、なぜサイコロを振るのかな」
 頬杖をついてニバンが言った。ダイスケはそちらを見て言った。
「導きだせない未来がほしかったんじゃないかな。未知の未来だね」
「なんのため? せっかく正確な未来が全部わかってるのに」
「目的や意図はわからない。神の考えだから」
 ニバンは頬杖をはずし、テーブルの上で手をきれいに組んだ。祈りのようだ。
「なんのためかは不明にしても、ダイスケがなにかは推測できる。あなたは未知の未来を作るための乱数の種なんだ」
「やめて」
 直感でその意味するところにすぐ気づいたヨンバンが机をたたいて言ったが、すこし遅れてみんなも理解した。
「さすがに、これはサイ様にお伺いを立てなきゃいけないんじゃないか。さっきから推測ばかりだ」
 サンバンが腕を組んで言った。
「そうね。わたしもサンバンに賛成です。万が一、わたしたちにまちがいがあったら取り返しがつきません」
 ゴバンは話しながら下を向いてしまった。
「でも、あたしたち、なにも結論出してないよ。神託の前に、あたしたちなりの結論は出しとかないといけないんでしょ」
 ロクバンはニバンのように、手を祈りの形にしていた。
「ロクバンの言うとおりです。きびしいですが、わたくしたちなりの結論は出さなければなりません」
「できるの。イチバン」
「話し合いましょう」

 食堂での話し合いは日が沈み、夕食後も続いた。手伝いたちはただならぬ雰囲気に緊張し、できるだけ目立たないように隅に控えていた。ダイスケと女官たちの話の内容はさっぱりわからない。ただかれらの表情をうかがってはおたがい心配そうに首を振るばかりだった。

「ダイスケが乱数の種だとして、その存在がこの世界を神にも未来予測不可能の、いわば『量子力学』とやらが考えたような世界に変えてしまうのは確実なのかな」
 いままでの話を確認するようにニバンが問う。
「確実とまではいえないでしょう。でも、ダイスケがまったく世界に影響を与えないとするほうが不自然です」
 答えたゴバンにニバンがうなずいた。
「それじゃあ、ダイスケがいると、これからの神託はあてにならなくなってくるね」
「ええ、ニバン。すぐではありませんが、ダイスケという乱数が存在する影響がじわじわ出てくるでしょうね」
「どのくらいで未来が不確定なものになるでしょう」
 ヨンバンが問うが、だれも答えられなかった。判断できるだけの材料がない。
「ダイスケをどうするの。このままでいいの?」
 みんな心の奥ではわかっていたが、口にはできないことをニバンが言った。
「よく考えて話そうよ、ニバン」
「考えてるよ。サンバン。でも、みんなそう思ってるんでしょ」
「ダイスケは、自分ではそうするつもりがなくても、わたしたちの世界を破壊するでしょう」
 それに答えるように、ゴバンが泣きそうな声で言った。みんな押し黙るなか、言葉をつづける。
「サイ様のお遣わしが、サイ様自身の創造した世界の根幹を崩してしまう。それがサイ様の計画なのか、ミテルの仕返しであって、サイ様は予想もつかなかったのかわかりません。でも、いずれにせよ、ダイスケは危険です」
「『危険』は言いすぎよ。仮に発端はサイ様の計画でないにせよ、すぐわかったはずです。未来の予想が不明瞭になるのですから。サイ様は知っててダイスケを放置してるんだから、そんなに大げさに考えなくてもいいんじゃない」
 ヨンバンがゴバンに噛みつくように言った。
「ヨンバン、自分の望みと客観的な分析をまぜたらだめだよ。ダイスケは危険だ。あたしもそう思う」
 話が始まってから、サンバンはずっと腕を組んだままで発言していた。
「もし危険だとして、サイコロ振ってるのはサイ様でしょ。なんで?」
 ロクバンが根本的な問いをくりかえすが、やはりだれも答えられない。これに答えるには情報が足りない。また、神の意図の推測は畏れ多い。そして、確率論的な世界に変わっていき、神託そのものがあてにならなくなる世界は女官たちの想像を超えていた。
 ニバンが冷えた茶をすすって言う。
「イチバンとダイスケはずっと黙ってるね。どう思ってるの」
「いま手元にある情報や考えはみんなと共有した。おなじように思ってるよ。この世界が変わってしまうことを危険とするなら、ぼくは危険だ」
 イチバンは無表情だった。
「これは推測だけど、ぼくの影響で変わる世界では信仰は無意味になる。サイ子に祈ってもなにも返ってこない。実体のない、恵みのない神への信仰はただの習慣になるよ。ぼくの元の世界みたいに」
「そんな世界で、人々はなにを頼りに生きるのですか。ダイスケの元の世界ではどうやっているのですか」
「目に見えるもの、手でさわれるものだけを頼りにしているよ、ヨンバン。人々同士のつながりを強固にして、おたがい思いやりをもっている。目をそらしたくなるような出来事もあるけれど、自分たちで解決する。最善でなくともがんばってる」
「わたくしたちにもできますか」
「できると思う。いや、この世界の人々にもそうできる力はある。でも、そんな苦しい道をたどらなくてもいい。いまなら……」
「それ以上はおっしゃらないでください」
 机をたたき、震える声でイチバンがさえぎったが、ダイスケは続きを最後まで言い切った。
「……いまならぼくによる影響を最小限にできるかもしれない」
「もう話さないで。黙っていてください」
「この話をみんなでよく考えてほしい。世界をどうしたいのか。感情抜きで、人々の幸せだけを考えてほしい」
「じゃあ、サイ様に頼もうよ。サイコロ振るのやめてくださいって」
 ロクバンの発言にみんな思わず微笑んだ。たしかにそれもひとつの解決法だ。
「でも、頼んでやめてくれるくらいなら、初めからしないよ。サイ様は愚かじゃない」
 いつものようにロクバンの頭に手を置き、やさしくなでまわしながらサンバンが言った。
 みんな黙りこみ、だれもなにも言わなくなった。ニバンがうつむいているイチバンをのぞきこんでから口を開いた。
「みんなの意見や考えは明らかになったね。あとは各自で考え、結論を出そうと思う。明日の朝、それぞれの結論をもって神託を伺いに行こう。それでいいかな」
 みんな同意した。
 その瞬間、イチバンが顔をあげた。
「もうひとつ。みんなに約束してほしいことがあります。サイ様がどのような神託を下されたとしても、それに従うと。これはダイスケもです。よろしいですか」
 ダイスケ以外の全員が同意した。イチバンはダイスケを見つめた。
「わかった。ぼくも同意する。覚悟はできてる」
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