凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第一章 緑の瞳の少女

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 大ざっぱな輪郭は人間だが、大人より頭ひとつ分以上高く、鍛えた兵士よりがっしりしている。赤黒い毛皮に覆われ、手足の爪は曲がって長く、研がれたばかりの刃のように鋭い。そして犬のような顔に牙。魔王によってこの世に召喚された邪悪のひとつ。いまでは大戦の残り滓。それが犬鬼だった。

 ディガンとマールが前に出る。ペリジーは後ろにまわりこもうとしている。そういう闘い方か、とクロウは手に霊火をこめていく。二人が動きを止め、ペリジーが足の腱を切るなどして料理するつもりだ。
 犬鬼は炎が揺れんばかりに吠えている。馬が怯え、荷馬車をつけたまま動き出そうとしたが、車輪には留め具を噛ませてあるのできしむだけだった。
 二人は短剣をひらめかせ、爪を受けたりかわしたりしていた。見事なものだが感心ばかりしていられない。ペリジーの援護だ。クロウは手を前に出した。

 一発目はディガンの相手の眉間を狙い、おなじくマールの相手にも撃った。格闘を行っている相手に当たるものではないが、二匹の注意がクロウに向いた。魔法使いは先に仕留めた方がいいと思うくらいの知恵はもっている。それに食べてもいい。鬼は肉を食らうことで霊力を吸収する。人間、特に魔法使いはうまいらしい。現に馬には見向きもしていない。

 その瞬間、鬼たちが叫んで後ろを向いたが、その時にはペリジーは距離をとっていた。

「よくやった!」
 マールが膝をついた犬鬼の目に短剣を突き立てた。刃をひねって脳みそまでえぐる。鬼の張りつめた身体から力が抜ける。一匹かたづいた。

 ディガンの相手は敵ながら思い切りが良かった。切られた足がどうなろうともかまわず腰と太ももの力だけでふりまわす。
「隊長!」
 ペリジーが悲鳴のように叫び、蹴り飛ばされたディガンは馬の足元に転がる。混乱した馬が逃げ出そうと力を振り絞って後ろ足で立った。まずい。

 荷馬車が横転し、引きずられた馬も横倒しになった。そして三発目が犬鬼の頭部を焼いた……いや、はずれた。顔の右半分が焼けただれているが、目は残っていた。マールとペリジーが切りつけているが、戦闘で狂乱しており、なかなか致命傷にならない。

 四発目は外れ、夜空に吸い込まれていった。ディガンは転がったままだった。苦しそうにしているのでかえって安心した。うめいているなら心配ない。

 二人は犬鬼に押されていた。腱を切ったはずなのに、膝立ちで、太ももの力だけでずるずると動いている。後のことなど考えていないらしく素早い。膝から下は血まみれで骨がのぞいているのにまだ腕を振りまわしていた。

「大砲! 早く!」
「狙えない。そこをどくか動きを止めろ!」
「できるかよ!」
 爪を刃で受け止めている。力を抜いて逃げられる状況ではなかった。

 クロウは致命傷をあきらめた。後ろにまわり、背中を撃つつもりだった。それなら的が大きい。乱戦でも当たる。
 その様子を見たマールが舌打ちした。戦いは長びきそうだ。これで別の奴らが引き寄せられてきたら……、考えたくもない。

 五発目は犬鬼の背を焼いた。肉が崩れ、背骨が見えている。これでまっすぐ身体を支えておけなくなり、腕を振り回す力が衰えてきた。

 二人も一撃をあきらめ、近づいては離れ、近づいては離れして腱を切っていく。これでかたはついたも同然だ。クロウはディガンの様子を見に行った。受け身はとれたようだ。衝撃はうけたが大出血や骨折はないし、意識はある。目にも来ていなかった。馬も大丈夫。転んだだけで脚はなんともなっていなかった。起こして一安心する。

 いや、そんな。クロウはディガンから顔を上げた。犬鬼の気。一匹。マールたちと馬車を挟んで反対側。すぐ近く。もう引き寄せられてきたか。一晩に三匹は多すぎる。まさか、魔宝具の霊のせいか。

 ゆらめく炎を目に宿して新手の犬鬼が現れた時、クロウはとっさに短剣を抜き、もう一方の手を火球を撃ちだす時のようにかまえていた。すっかり霊火の抜けた冷たい手だった。
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