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第四章 錆色に染まる道

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 トリーンは字がうまくなった。筆記体は流れるようだ。先生もほめてくれる。

みなさんお元気ですか。こちらは変わりありません。べんきょうして、町江津農力(むずかしいつづりです。あってますか?)についてしらべられる毎日です。

 べんきょうはだんだん面白くなってきました。このあいだ、さんすうのしけんで満点だったのでごほうびとして夕食にお菓子がつきました。あまくてふんわりしていてとてもおいしかったです。みんなで食べたらもっとおいしかったと思います。
 でも、しらべられるのはあまりいいきもちではありません。じろじろ見られて、あれこれ聞かれて、まじめな顔ばかりで、みなさんみたいにわらいません。

 さて、いつも聞かれるトリストゥルム、という名前についてですが、すこしわかりました。ずっとむかしの神様につかえていた人か鳥のまもののことみたいです。でも、わたしにつけた意味はわかりません。もうちょっとしらべてみようと思います。

 ペリジーさん、会毛意(つづりあってますか?)のべんきょう進んでいるとのこと。がんばってください。おみせをもてるといいですね。

 マールさん、いつもやさしい言葉をありがとう。文字で読んでいるのにこえが聞こえてくるようです。なぞ、わからなくてごめんなさい。人に聞いてもあまりしらべてくれないし、としょかんの本はむずかしいのです。

 ディガンさん、まえのお手紙でわるものを退治したことを書いてくれましたが、わたしにはこわく感じられました。もっとあんぜんな、まちのなかのお仕事はないのでしょうか。みなさんもそうしてくれればいいと思います。

 クロウさん、言ってくれたこと、すこしづつわかるようになってきました。これもべんきょうのおかげです。もっとべんきょうしてじぶんでかんがえて動けるようになったらここを出たいです。そして、わたしの力を帝国のために役立てたいと思います。

 それではみなさん、おなかをこわしたり、かぜをひいたりしないように、夜はちゃんと暖かくしてください。

 道行きのご安全を
 トリーン(・トリストゥルム)

 もう一度読み返し、日付を入れて封をした。宛先はもう書きなれて指が覚えている。大学の事務所に出しておけばほかの手紙とおなじように配達される。返事が来るのは月がもう一巡りする頃だろうか。

 トリーンは空を見上げた。青い空に白い雲が刷毛で乱暴になすったように筋を引いている。両腕を上げて羽ばたいてみた。飛べたらいいのにな。
 そうやっている自分が急に恥ずかしくなった。だれも見てないけど、こどもっぽすぎる。上げた手を頭にやる。編んでもらった髪を、歪んでもいないのに直すようになでた。
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