71 / 90
第八章 貴き血の義務
一
しおりを挟む
「じゃあトリーは元に戻ったんだ」
嬉しそうなのはペリジーだった。四人がまたマダム・マリーの事務所にそろった時、月は一巡りと少し経っていた。マダム・マリーとニキタ・エランデューアも話を聞きに来た。
「それに忙しくもなった」
マールが茶を飲みながら言った。トリーンは交通安全部特務隊員とエランデューア家の技術開発班の協力者を兼ねている。これにはクロウの紹介もあったが、すでに決まっていたことでもあった。王室も通信の暗号化に注目しているのだった。
ディガンがクロウを見て首を掻いている。経緯を全部話してないと分かっているようだった。どうやって帰還させたかと、そのあと二人でした話はしていない。する必要もないと思っていた。大魔法使いが古の偉大な呪文を用いて旧に復した、それでいいじゃないか。
「じゃあ、世間話はそのくらい。仕事に移ってもらっていいかい?」
マダム・マリーが手を叩く。みんな居ずまいを正した。ニキタが印をつけた地図と書類を卓に広げ、マダム・マリーは装身具を揺らしながら街と街道を指さしていく。血色のいいふっくらした指には重さを感じさせる指輪がいくつもはめられていた。
「荷札とちがってまわり道してるけど、祠の点検が入ってる」
クロウが、とん、と卓を叩いた。注目を集めてから口を開く。
「俺は抜ける。世話になったな」
指が地図の真ん中、帝国首都オウグルーム市をつついた。だれも返事をしないのでさらに続ける。
「連絡先は落ち着いたら知らせる。どこかの宿になると思う。投資はそのままでいい。引き出したくなったら手紙出すよ。ここ気付でいいだろ?」
「行っちまうのか」
マールが傷痕をゆがめながら言った。
「ああ、潮時だ」
「なんの潮時なんだ?」
「前にも言ったろ? 中央を見てみたいって。それと調べ物をしたい。帝国大図書館でな」
ペリジーはクロウとマールの顔を見比べている。ディガンは湯呑みのなかをじっと見ていた。マダム・マリーがため息をつく。
「惜しいね。あんたの穴埋めるのは大変だ」
「世辞はいいよ。俺程度の大砲はすぐ見つかる」
「力はあっても頭はなかなか。あんた並みのはな」
「ありがと。ほめてもらえるとは思ってなかった」
「ほめたんじゃないよ。まったく、頭の働く奴は皆こうだ。考えすぎちまうのさ」
たるんだ顎に手をやると、装身具がじゃらっと音を立てた。
嬉しそうなのはペリジーだった。四人がまたマダム・マリーの事務所にそろった時、月は一巡りと少し経っていた。マダム・マリーとニキタ・エランデューアも話を聞きに来た。
「それに忙しくもなった」
マールが茶を飲みながら言った。トリーンは交通安全部特務隊員とエランデューア家の技術開発班の協力者を兼ねている。これにはクロウの紹介もあったが、すでに決まっていたことでもあった。王室も通信の暗号化に注目しているのだった。
ディガンがクロウを見て首を掻いている。経緯を全部話してないと分かっているようだった。どうやって帰還させたかと、そのあと二人でした話はしていない。する必要もないと思っていた。大魔法使いが古の偉大な呪文を用いて旧に復した、それでいいじゃないか。
「じゃあ、世間話はそのくらい。仕事に移ってもらっていいかい?」
マダム・マリーが手を叩く。みんな居ずまいを正した。ニキタが印をつけた地図と書類を卓に広げ、マダム・マリーは装身具を揺らしながら街と街道を指さしていく。血色のいいふっくらした指には重さを感じさせる指輪がいくつもはめられていた。
「荷札とちがってまわり道してるけど、祠の点検が入ってる」
クロウが、とん、と卓を叩いた。注目を集めてから口を開く。
「俺は抜ける。世話になったな」
指が地図の真ん中、帝国首都オウグルーム市をつついた。だれも返事をしないのでさらに続ける。
「連絡先は落ち着いたら知らせる。どこかの宿になると思う。投資はそのままでいい。引き出したくなったら手紙出すよ。ここ気付でいいだろ?」
「行っちまうのか」
マールが傷痕をゆがめながら言った。
「ああ、潮時だ」
「なんの潮時なんだ?」
「前にも言ったろ? 中央を見てみたいって。それと調べ物をしたい。帝国大図書館でな」
ペリジーはクロウとマールの顔を見比べている。ディガンは湯呑みのなかをじっと見ていた。マダム・マリーがため息をつく。
「惜しいね。あんたの穴埋めるのは大変だ」
「世辞はいいよ。俺程度の大砲はすぐ見つかる」
「力はあっても頭はなかなか。あんた並みのはな」
「ありがと。ほめてもらえるとは思ってなかった」
「ほめたんじゃないよ。まったく、頭の働く奴は皆こうだ。考えすぎちまうのさ」
たるんだ顎に手をやると、装身具がじゃらっと音を立てた。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる