75 / 90
第八章 貴き血の義務
五
しおりを挟む
別れはあっさりしたものだった。もう風景を覚えてしまったオウルーク山の峠。いつものように干し肉をふるまうクロウ。ディガンは密かに酒を持ってきていた。仕事中だがいいだろう。
今夜の宿は路上だがどうせだれも来ない。それに鬼は退治したし、祠もある。ここでは街中のように安心していられた。
「いよいよか」
「別に今生の別れってんじゃない。隊長、しんみりしなさんなって」
「そう言うおやじこそ山に入ってからずっと黙ってたね」
「まあな。で、クロウ。大魔法使い、まだいるのか」
木々の奥の方を親指で指した。
「いる。通信で確かめた。呪術文様の最後の調査と後始末してる。再利用されないようにな」
みんな肉をあぶっている。マールのやり方がうつっていた。ディガンが聞く。
「会えるのか」
「ああ、それどころか紹介状書いてくれる」
「すごいじゃないか」
ペリジーが感心したように言った。
「つまり、おまえの懸念、大魔法使いも認めたんだな……」
ディガンはもう赤くなった鼻をこすった。
「……だがな、その謎、解いたところでなんの得になるんだ。おまえにとって」
三人はクロウの顔を見る。だれも口を開かない。細かい傷だらけの手が動いて小枝をくべた。
「もう戦争はごめんだ。死ぬのは嫌だし、死んでこいって命令するのもまっぴらだ。それでも理がある戦いなら無理にでも自分を納得させるが、呪文の親玉なんかに引っかきまわされたくない。二度とな。だからどこかのだれかがまたあんなのを作ろうってんなら事前に阻止してやる。それがこれからの俺の闘いだ」
ディガンが火の一部を灰で覆って小さくした。
「もう寝よう」
翌朝、肩を抱き合う。昨夜の話を蒸し返す者はいなかった。
クロウは荷馬車の準備を手伝った。
「世話になった」
「体に気をつけてな。それと、首を突っ込み過ぎるなよ」
「説教か。変わらないな。隊長こそ飲み過ぎるなよ。それと、本できたら知らせてくれ」
「謎解きもいいが、落ち着くことも考えろ。大砲さんよ」
「そのまま返すぜ。おやじ。あんたこそいい人探せよ。家と畑持ってんだから、次は家族だ」
「ほんとに魔王の正体しらべる気? やばくなったらすぐ逃げなよ」
「ありがとう、小僧。逃げろってのは役に立つ忠告だ。それと、修行終わって商売始めたら教えろよ。ひいきにするから」
荷馬車がきしみを上げて動き出す。クロウは見えなくなるまで道の真ん中に立っていた。最後に万事順調の手信号を送り、それから山の中に入っていった。
今夜の宿は路上だがどうせだれも来ない。それに鬼は退治したし、祠もある。ここでは街中のように安心していられた。
「いよいよか」
「別に今生の別れってんじゃない。隊長、しんみりしなさんなって」
「そう言うおやじこそ山に入ってからずっと黙ってたね」
「まあな。で、クロウ。大魔法使い、まだいるのか」
木々の奥の方を親指で指した。
「いる。通信で確かめた。呪術文様の最後の調査と後始末してる。再利用されないようにな」
みんな肉をあぶっている。マールのやり方がうつっていた。ディガンが聞く。
「会えるのか」
「ああ、それどころか紹介状書いてくれる」
「すごいじゃないか」
ペリジーが感心したように言った。
「つまり、おまえの懸念、大魔法使いも認めたんだな……」
ディガンはもう赤くなった鼻をこすった。
「……だがな、その謎、解いたところでなんの得になるんだ。おまえにとって」
三人はクロウの顔を見る。だれも口を開かない。細かい傷だらけの手が動いて小枝をくべた。
「もう戦争はごめんだ。死ぬのは嫌だし、死んでこいって命令するのもまっぴらだ。それでも理がある戦いなら無理にでも自分を納得させるが、呪文の親玉なんかに引っかきまわされたくない。二度とな。だからどこかのだれかがまたあんなのを作ろうってんなら事前に阻止してやる。それがこれからの俺の闘いだ」
ディガンが火の一部を灰で覆って小さくした。
「もう寝よう」
翌朝、肩を抱き合う。昨夜の話を蒸し返す者はいなかった。
クロウは荷馬車の準備を手伝った。
「世話になった」
「体に気をつけてな。それと、首を突っ込み過ぎるなよ」
「説教か。変わらないな。隊長こそ飲み過ぎるなよ。それと、本できたら知らせてくれ」
「謎解きもいいが、落ち着くことも考えろ。大砲さんよ」
「そのまま返すぜ。おやじ。あんたこそいい人探せよ。家と畑持ってんだから、次は家族だ」
「ほんとに魔王の正体しらべる気? やばくなったらすぐ逃げなよ」
「ありがとう、小僧。逃げろってのは役に立つ忠告だ。それと、修行終わって商売始めたら教えろよ。ひいきにするから」
荷馬車がきしみを上げて動き出す。クロウは見えなくなるまで道の真ん中に立っていた。最後に万事順調の手信号を送り、それから山の中に入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる