凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第八章 貴き血の義務

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 まだだれも袖を通していない服を買うなどクロウにとって初めての経験だった。しかも目の前に服はない。体のあちこちを測られ、出来上がりまで至急でも数日を必要とする服だった。けれど、着てみると手間をかける理由が分かった。どこにも不都合な部分がない。引っぱられたり、余って不快になったりしない。ただし、市壁の外を移動するには適しておらず、肉体労働にも向いてない。街中をゆっくり歩いたり、机に座って本を読む服だった。
 そして、帝国首都、王室の家名を縮めてオウグルーム市とも呼ばれる都市にはそういう服の人間が見渡す限り歩き回っていた。
 紹介状はここに来た日に使者を立てて大図書館に提出してある。返事はそろそろのはずだった。ケストリュリュム家の名はここでも通じ、宿の手配を含めとどこおりなく済んでいた。すでにマダム・マリーに手紙も出した。
 クロウは散歩しながら大図書館の向こう側の貴族たちの領域にそびえる王城の塔を見上げた。偉大で、美しく、ちょっとばかり装飾過剰。ときどき鐘の音が聞こえるが、庶民には無関係でなににしたがい、なにを伝えたくて鳴らしているのか不明だった。
 塔の付け根には貴族議会の建物があるはずだった。つまり、あそこが大戦の元締めだ。手を上げる。狙い撃ちにしたら面白いだろうなと思いつつ、この手に魔力を込めた瞬間に警備兵に粉々に粉砕される自分を想像した。

「クロウ様、ちょうど良かった」
 大図書館から職員がでてきた。手を上げたのを勘違いしたらしい。そばに来ると紹介状が受け入れられたと伝え、認証指輪を渡してくれた。そのまま受付で館内の案内をされた。

 職員たちはクロウのような人物には慣れていた。どこかの貴族の放蕩息子だろう。なにか不手際で家名を取り上げられた。そのままではいけないので監視を兼ねて歴史資料の調査というどうでもいい仕事を与える。ありがちだったが、ケストリュリュム家が絡むので無下にも出来なかった。表面上の儀礼は保たなければならない。それにしては閉架の資料庫の利用許可まで申請されているのは不思議だが、まあそれは形式を整えたということなのだろう。

 大図書館は荘厳で、言われなくても静粛は守られた。建物としてはオウグルーム市でもっとも古く、中の本も同じく歴史があるが、思ったより埃っぽくない。初日、クロウはあちこちを歩き回って必要な資料の場所を確かめた。
 翌日から本格的な調査に入った。これには職員たちも驚かされた。どうせ放蕩息子の居眠りを見るのだろうと思っていたら次から次へと資料請求が来た。規制条約に関するものが主だったが、月が巡るにつれ徐々に年代をさかのぼり、大戦前の各国の事務方による交渉の記録も対象になった。
 いつしか職員たちは条約の調査をする謎の放蕩息子についてあれこれ推測するようになっていた。

「お話がございます」
 日が沈んだが、空には明るさが残っていた。閉館した大図書館を後にすると、どこか高貴な家の召使らしき女性が話しかけてきた。見ると紋はエランデューア家だった。
「どういったご用でしょうか」
「ここでは差し支えます。あそこの馬車に。よろしいでしょうか」
「どなたがいらっしゃるのですか」
 それには答えず、先に立って歩きだした。ついてこないなど考えてもいないような足取りだった。クロウはすこし考えて後を追った。

「お久しぶりです。どうぞ」
 馬車で待っていたのはニキタ・エランデューアだった。小さな口でほほ笑む。黒髪はもはや使用人ではなく地位と年齢にふさわしく複雑に編まれ、服は貴婦人の白と金だった。ぽかんとしているクロウに乗りこむよう促す。向かいに座らされた。濃いこげ茶の瞳が服を品定めする。
「まあ、ご立派ですこと。それなら我が家の晩餐会にお招きしてもよろしいでしょう」
「これはまた、どういう?」
「こんなところで申し訳ありませんが、人に聞かれぬようにするにはこれが一番なのです。街をぐるぐる走りながらになります。よろしいですか」
 馬車が動きはじめた。ゆっくりと。外には召使兼警備の女たちがしがみついているが髪や服はほとんどなびいていない。
「人聞きをはばかる話ですか。わたしはそういうのとは縁が切れたと思っていました」
「なにをおっしゃいますやら。自分から飛びこまれたくせに」
 ニキタはまた笑った。
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