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しおりを挟む目を覚ますと、ベッドの中で駿さんに抱きしめられていた。駿さんの温もりを感じながら少し顔を上げると、目を閉じているハンサムな顔が目の前にあってドキッとする。初めて見る寝顔…。わぁ…寝顔も素敵…なんて見惚れていたが、今の状況にふと気が付き…。
そうだ…私、駿さんと…! かぁぁぁっとなる。あれ? いつの間にかTシャツ着てる…自分で着た覚えないのに…ってことは…? うぁぁ~っ…。脳内でパニックを起こしていたら、駿さんがゆっくりと目を開けた。
「…ああ…起きてたのか…」
キュッと抱きしめられ、額に唇を当てられる。そして私の顔を覗き込むと、
「体は大丈夫か…? 少し出血してたが、痛くないか…?」
「大丈夫です…えっ? 出血?」
驚いてガバッっと起き上がり、シーツを見下ろした。
「ほんの少しだ。シーツに付くほどじゃないから心配するな。俺の後始末と、お前の体を拭いた時に気が付いた」
えぇっ! 駿さんが私の体を…。うゎぁ…! かっと頬が熱くなり、消え入りたくなった…。
「お前、ぐったりして動かなかったから…。悪かったな…無理をさせてしまって。それに、あまり優しくできなかったかもしれない…」
駿さんが申し訳なさそうな表情をした。
初めてなのでよく分からないが、駿さんは最初から最後まで私を気遣いながら時間をかけて丁寧に優しく抱いてくれたと思う。指だけではなく唇や舌でも私を蕩けさせるほど愛してくれたし、確かに最初に入った瞬間は痛かったが、その後は…。
恥ずかしかったが、駿さんを安心させるためにそう言うと「そうか、痛みが続いていないようならよかった」と再びベッドの中に抱き寄せられると髪を優しく撫でられた。
着替えようと起き上がった時、ベッドの向かいのデスクにあのガラスペンが飾ってあるのに目が留まった。あ…ちゃんと飾ってくれている…。駿さんが背後から私を包み込むように抱きしめた。
「…早速、飾らせてもらっている。本当に見事で使うのがもったいないくらいだ。そういえば、お前の部屋にもピンクのが本棚に飾ってあったな…あれもとても綺麗でお前らしいなって思ったんだ」
「駿さんのをラッピングしてもらっている間にあのピンクのにも目が釘付けになってしまって…。それに、1つだけでもいいから何かお揃いのものを持っていたいなって思ったんです…」
「…そうだったのか。お前も同じものを持っていたのかと、俺は嬉しかった。結婚して一緒に住んだら2本並べて飾ろうな…」
「…っ、はい!」
その言葉に胸が一杯になりながら駿さんの方を向いて笑顔で返事をした。駿さんの顔が近づいてきたのでそっと目を閉じた…。
シャワーを借りて洗面台で身支度を整えていると、地中海を思わせるようなエメラルドグリーンの瓶が置いてあるのに気が付いた。わぁ~綺麗だな、と思わず手に取ると、あの柑橘系の香りがした。あっ…これ…! 瓶を掴むと、駿さんに駆け寄った。
「あの…! これっていつも着けている香水ですよね?」
「えっ? ああ、そうだけど、これがどうかしたか?」
「これ、すごく爽やかでいい香りで…私、とても好きなんです。6年生の時、ベンチで本を読む私に初めて声を掛けてくれた時、駿さんがベンチから立ち上がった瞬間、ふわっと香ったんです…。先生らしい、爽やかないい香りだな…って印象に残っていました。次は、この前捻挫した私を車で送ってくれた時…。よろけた私を支えてくれた時にまたこの香りがして、すぐに思い出したんです、これはあの時のと同じだって…。機会があったら聞こうと思っていたんです、この香水のことを」
瓶を私から受け取ると駿さんが教えてくれた。これは、オレンジ、ベルガモット、レモン、ミント、アップルなどが配合されたイタリアの香水で、大学時代からずっと愛用しているのだという。
「地元のデパートでたまたま目に入ってな。まず瓶に魅かれて、それから香りを嗅いでみるとフレッシュないい香りに癒されて…。それまで香水なんて全く興味なかったんだが、これは欲しいなって思ってちょっと高かったが買ってしまった。それ以来ずっと使っている。キツい香りじゃないので、少しなら学校に着けていっても問題ないし」
そう言うと、私に瓶を手渡した。
「そんなにこれが気に入ったんなら、使いかけで悪いが、やるよ。今度ちゃんと新しいのを買ってやるから、とりあえずこれを持っていけ」
「えっ、そんな、受け取れません。私が貰ってしまったら駿さんが使えないじゃないですか」
「また買えばいいんだし、美沙絵が着けてくれるなら嬉しい。それに、もう1つお揃いのものが増えるじゃないか」
あっ…そうか…駿さんとお揃いの香水…着けていればいつも一緒にいるような気持ちになれるかも…。
「…ありがとうございます! では…遠慮なくいただきます。駿さんが使っているものをそのままもらえるなんて、むしろ新しいのよりも嬉しい…」
感極まって瓶を胸にギュッと抱くと、駿さんがにっこりと笑った。
ここに来る前にコンビニで買っていたサンドウィッチやお弁当を食べた後、駿さんが車でマンションまで送ってくれた。明日からしばらく会えないのか…寂しいがこればかりは仕方がない。あ、今度時間がある時に、総菜や常備菜を作って駿さんに届けよう。帰宅していなくても玄関のドアに袋を掛けておけばいいし…。
「今日は本当にありがとうございました。遅くまでお邪魔してしまいましてすみませんでした…」
「こちらこそありがとうな。疲れただろうから早く休め」
頭を優しく撫でられた。
「駿さんも早く休んでくださいね」
「分かってるよ。ああ、それから、これからは別に用事がなくても遠慮せずにいつでも連絡しろ。俺ももちろんする。できる限り会える時間を作るし、美沙絵に寂しい思いをさせないように努力するから」
その気持ちがとても嬉しかった。ああ…本当に私を大事に思ってくれている…。
「…はい。でも本当に忙しい時は無理しないでくださいね。私は分かっていますから…」
「俺がそうしたいんだ。お前だけは失いたくないから…」
「もう…何度も言いますが、私は駿さんから離れませんし、離してくれってお願いされたって絶対に離しませんから!」
勢いよく言うと、駿さんが笑った。
「それは嬉しいな! よろしく頼むよ」
「はい!」
「…じゃあ、またな。お休み。愛してる…」
「…私も愛しています。お休みなさい」
私の背中に駿さんの腕が回ると優しく引き寄せられ、唇が重なった…。
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