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出会い?

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普通の人、普通のこと。いったいその普通とは誰が決めたのだろう。

みんなが言う普通とは、みんながみんな必ずしも同じではなく、どこかずれているもので誰かが勝手に決められるものではない。なら、逆説的に普通という言葉はないはずなのだ。なのに少し違う価値観や趣味などは大衆からは軽蔑され、卑下されてしまう。

こんな悪しき風習こそ普通と呼ぶべきではないのだ。だからこれからは、普通という言葉は絶対使わないぞ!うん!っと、相葉真也は心の中で誓った。

 急にこんな話になってしまったのには理由がある。それは俺が少し変わった趣味をしているからだ。そして、いまこの場で趣味の話をしているからだ。

「やっぱり僕はスポーツと読書かな。」

と、まるで模範解答のような言葉を口にしたのは、バスケ部のエースで、成績学年2位、さらに顔と性格が良いことで定評のある吉田祐樹だ。

コイツ良くそんな言葉がパッとでてくるなぁと思っていたら、

「私はカラオケかなぁ。みんなでいくと楽しいし。」

と吉田の次に言ったのは裾野彩芽だ。男子人気学年トップであろうルックスとスタイル(おもに腰やお腹周り、あとボインがボインッ!という感じで…はい!変態ですみません!でも仕方ないよね、目が行っちゃうんだもん!)そして人当たりも良いというまさに理想中の理想が体現されたような子だ。

そして俺の幼なじみでもある。しかも家が隣なもんだから、ボインが気になっていても流石に異性としては見ていない。

と、そうこうしている内に休み時間が終わり、席につく。さぁて世界史の教科書はぁっと机の中をまさぐっていると、なにやら奥にゴミっぽいものが入っていた。だが出してみるとそれは一つの手紙だった。

えっ!?なにラブレター!?っと思って開いてみるとなかにはただ一言だけこう書いてあった。



「相葉真也 あなたの秘密を知っている。今日の放課後近くのファニマで話しましょう。」



 どういうことだ!?俺の秘密!?そんなのアレしかないじゃないか!?
 内心とてつもなく動揺しながら、表では平然を装っていた。とりあえず行くしかないか。

 この一つの手紙によって、俺の生活が奇妙な方向に行くことになる。

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 授業が終わり、普段なら祐樹たちと話してから帰るところなのだが、今日は違う。

「ねぇねぇ、真也ってば!」

「ん?なんだよ彩芽」

「今日いっしょに帰ろうよ!」

「悪い、今日は少し用事があって」

「ん~そうなんだ、じゃあまた明日ね!」

少し寂しそうにしながらそう言って歩いていった。くそう!俺も帰りたいよ~と思いながらファニマへと向かっていく。
 俺のある秘密というのは、幼なじみの彩芽ですら知らないことだ。きっと今日はそのことを言われるのだろう。できれば言われたくないが。



 学校の校門をでて10秒弱でつくコンビニ、ファニミーマート(ファニマ)へと来た俺は深呼吸をし店内へと入った。

見た感じヤンキーっぽい奴がいなくて少し安心した。だって絶対そいつだったらゆすりにくるだろ!!ヤンキー苦手なんだよ!イカツイし!っと偏見だらけのコメントを言っている場合ではない。

とりあえずそれらしき人物を探そうと思い、キョロキョロしていると、いきなり後ろから名前を呼ばれた。



「相葉真也くんだね?」

「ひゃぁ!?」



いきなり声をかけられてビックリしない奴はいないと思います!

 声をかけてきた人物をみると、そこには彩芽並みの有名人がいた。

肩にかかるぐらいの綺麗な黒髪に整った顔立ち、透けるような白い肌が好印象や清潔感を生み出している。彼女の名前は松宮密理といい、成績学年トップでありながら抜群のモデル体型、そしてその整った顔や丁寧で親切な対応で彩芽に引けをとらないぐらいモテている人物だ。なんでこの人が俺に声をかけてきたんだ?と思い聞いてみる。

「どうして俺の名前を?」

「名前を知っていて用事があったから」

「じゃなくて、なんで呼んだんですか?」

「さっきいったよ、用事があるからって」

えっ?ちょっと待てよ、この人今俺に用事があるって言わなかった?なにかしたかなぁーと思って考えていると、彼女から聞きづてならぬ言葉が飛び出して俺の耳に追突してきた。

「グデックマ」

「は?」

「あなたはグデックマを愛して止まないのでは?」

この時ようやく理解した。あの手紙を送ってきたのは彼女だということを。

「なにが望みだ」

「別に脅したりはしないよただ、部活動に入ってもらう」

「はあ、んで何部に入れば?」

「よくぞ聞いてくれた!いや、簡単に答えても楽しくないなぁ…そうだ!何部か当ててみてよ!」

「はぁ」

何故かめちゃくちゃ楽しそうだなオイ。脅されてるような俺からしたら堕天使にしか見えねぇ。まぁとりあえず当てるか。

「文芸部」

「うーん半分当たり。でも半分違うんだよなぁ」

「えー…」

「じゃあヒントね、いまここでこうしていること」

今俺は何されている?よく考えろ俺。そういえばなんで俺はここにいるんだ?そう考えていると、手紙の内容を思い出した。秘密。彼女はそう記していた。

「まさかとは思うけど、人の秘密をあばく部活?」

「君は大分勘が良さそうだね。うん!正解!」

「でもなんで入って欲しいのか、理由をいいてもいいですか?」

 実際、そんな部活動があったとは思いもしなかったし、大して断る理由も無かったため、とりあえず何故俺なのかを聞いてみた。

「実は部ではまだないの。私1人しかいないからね。でもあと2人集めれば部として正式にできることになってね。で、1人でやるのもつまんないと思って、暇そうでいい秘密がありそうな人いないかなぁ~と思ってあるいてたら、君がバックから何かおとしたと思ったらこれがあったんだよ」

 そう言って彼女はポケットからグデックマの十周年のキーホルダーを取り出した。

実際無くしたこと自体には気付いていたが、まさか拾われているとは。いくら探しても見つからないわけだ。でもあってよかった~!!落としたことに気づいた時はもう倒れてたよね!そして学校3日休みました。まぁこんな変態じみた回想は必要ないので、入部を承諾することにした。

「んで、キーホルダーは返してください。入部はするので」

「えっ!?本当に入ってくれるの?ありがとう!ってああ!もうこんな時間!暴きにいかなければ!てことで私はもう行くね!明日6限が終わったら中庭に来てね。詳しい話をするから!」

「は、はぁ」

 ものすごい勢いで話す彼女に少し押されて変な返事をしてしまったが、どうすればいいんだこれ。

「帰るかぁ」

 今日はもう疲れたのでそのまま帰ることにした。



「ただいまー」

「あ、おかえり真也」

 家に帰ると母と自分の姉である"日向"がいた。もう風呂に入ったらしく、ご飯も済ませたようだ。
「ほら、早く真一さんに挨拶してきなさい。それでご飯も早く食べちゃって」

「はいはい」

 我が家には父がいない。俺が9歳の時に飛び出しをした少女を助けようと自分も飛び出し、少女は無事だったが、父はその時運悪く打ちどころが悪く、帰らぬ人となった。

最後の父は本当にカッコよく、いまでも俺の中ではヒーローだ。ここまでしっかり説明できるのは、その時一緒に俺もいたからだ。亡くなった時は受け入れることが出来なかったものの、時が経つにつれて、その痛みも悲しみも受け入れることができるようになっていた。

「そういえば、彩芽ちゃん今日少し落ち込んでたように見えたけど、なんかあった?」

「んーー、いや別に。特に喧嘩とかしてないぞ」

「アンタもしかしてなんかしてないでしょうね」

「してる訳ねーだろ」

「ならいいけど。なんかしたら殺す」

「はいはい」

 日向は今ホテル関係の仕事をしていて、今日はたまたま休みだったようだ。

ちなみにまだ未成年なので酒は飲めない。とこんなくだらん姉紹介をしている場合ではない。

「俺明日からもしかしたら帰り遅くなるかも」

「「なんで?」」

 2人同時に反応したな。てかママさんまだいたんですね。てっきりトイレ行ったかと思ったよ。

 学校で起こった出来事をありのまま話した。ちなみに家族は俺の秘密を知っていて、絶対口外しないことを約束させているので、家族以外で秘密を知っているのは松宮だけだ。

ホント、なんでキーホルダー落としちゃったかなぁ。相葉真也、一生の不覚なり!と時代劇をやっていると、日向がこう言った。

「まあいいんじゃない。真也は家に居場所ないし。頑張ってきなよ!」

「そうだね。真也はこの家族のヒエラルキーの最底辺だもんね」

 こいつらホントに俺の家族なの?家に居場所がないにしても酷すぎるし何?家のヒエラルキーの最底辺て?俺の家ってばまだ中世や近世で時が止まっているのか?人権宣言だしてもいいですかね?まあ俺も認めてはいるからいっか!

「おん。じゃご飯食べるかな」

「「とっとと食え。邪魔」」



……こいつらホントに家族?





 昨日の夜は機嫌が良かったのか、散々なことを言われた。口外すると社会的人間的にまずいので伏せておく。…まぁ今日もこうやって学校に来れただけマシとしよう。

ホントにヤバイときは体調崩すレベル。ホントもっと労って欲しいっ!フンっ!とまあくだらんことはよしにして、今日もこうして高校に来ていつもいるメンバーとだべっている。

だべだべ!ちなみに俺のクラスの中でのカースト的な位置づけはトップ。理由はよくわからん。いつの間にかなっていた。

いつもいるメンバーは俺を含めて6人。俺の親友とも言える仲である吉田祐樹、そして俺の幼なじみでもある学年屈指の人気を持つ裾野彩芽、彩芽の友達でもあり吉田の幼なじみでもある三島美優、美優はバスケ部の期待の新戦力として有名だが、彩芽に負けず劣らずの美貌の持ち主としても有名である。しかし男子からのあだ名は「残念美人」。その理由としてはとてつもなく騒がしいのだ。あと勉強ができない。まあこのぐらいだ。ちなみに本人曰く長い黒髪をポニーテールにしているところがチャームポイントらしい。いや、自分でいっちゃうのか……まぁコイツの紹介は以上として、美優と同じバスケ部で互いにライバル視しているが、とてつもなく仲の良い富士宮小雪。顔は可愛らしい顔をしているが、彩芽や美優と比べるとそこまでではない。だが、ショートヘアーがとても良く彼女にあっていてか、とても良く色気みたいなこう、つい見入ってしまいそうになる雰囲気を作り出している。時折髪の隙間から見えるその綺麗な目は、なにか世界の秘密をその瞳に隠さんとするような、夜空の星々が瞬くような、そんな幻想的で、魅力的な感じだ。もちろんスタイルも良いので、当然だけどモテる。そして最後の一人が金谷悟だ。コイツは部活動をやっていないが、そのかわりにモデルをやっている。少し長めの黒髪がしっかりとセットされていて、その端正な顔立ちに良く似合っている。基本的しっかりしているが、少し天然な所があるので、またそこが彼の武器でもある。コイツもモテる。あれれっ?おかしいなぁ?俺だけモテてなくない?……まぁ理由はなんとなくわかる。

俺こと相葉真也は、身長はそこそこ、勉強は特に苦しんでいなくて、国語だけできると言った感じ。顔は、周りからカッコいいなどと言われているが、実際そんなことはなく、中の下と言っても良い顔をしている。

これじゃモテなくても不思議じゃないなぁ。







 クラスでいつものメンバーとだべっては授業を受けるを繰り返していると、いつの間にかもう放課後になっていた。俺はこれから、中庭に向かう。幸いなことに今日は掃除がなかった。5階建ての校舎の4階にある自分の教室から出る。長い螺旋状の階段を降りて下駄箱に向かう。靴を履き、昇降口を出る。そのすぐ目の前に中庭があるのだが、あまり行ったことがなかった。中庭に着くと、すでに先客がいた。約束をした人物だ。

「あ、来た!遅かったですね。では、早速本題に入りますよ~」

 まだ来て数秒で本題に入るって、テンポが早いな。

「それで、本題はなんですか?」

「入部してくれるのは嬉しいけど、相葉くんを含めてあと2人ほしいっていったよね?」

 そういえばそんなこと言ってたなぁ。そこで、俺は一つの答えを導き出した。

「言ってたな。つまりあと一人入部してくれそうな人を探して欲しいってことか?」

「おお~正解!てことで丸投げの権利を授けましょう!あとはよろしくね!」

……丸投げの権利?と疑問に思っていると、松宮は何処かへと行ってしまった。
 その3秒後に、部員探しを丸投げされたことに気がついてしまった。人に任せるときはしっかり任せると言いましょう。



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 翌日の朝から部員探しを始めてみた。いや、実際の所は始めていない。そもそも俺の周りにいる奴はほとんど部活に入ってしまっている。部活に入っていないにしろ、放課後に何かしら予定のある奴らばかりだ。

 どうすれば良いか分からなくなり、そのまま放課後を迎えてしまっていた。今日の所は帰ろうかなーと思っていたら、後ろからパタパタと軽やかだが、うるさい足音が聞こえてきた。この足音は…

「しんやぁ~」

「おぉどした?」

「いや~前に和也がいたからつい走っちゃったよ~」

 なんて可愛い顔してチョー良いこと言ってんのこの子は。ついついキュン死しそうになったぜぇー……俺って、なんて非リアなんだろうな。

 声をかけてきたのは彩芽だ。ちょうどいま帰りのご様子だ。

「いっしょに帰ろー!」

「おう、帰るか~」

 彩芽と会ったときは、だいたい一緒に帰っている。だが、俺にとってこのイベントはあまり良いものではない。別段彩芽がキライとかニガテではない。ただ、一緒に帰ることで根も葉もないウワサが立ってしまうことが嫌なのである。1年時にそれが起きてしまい、彩芽にはとても迷惑をかけてしまった。本人は特段気にした様子もなかったが、俺自身はすごく気にしていた。

 とにかく帰ることになってしまったら断りづらいし、いっしょに帰ることにしている。………そういえば彩芽は部活に入ってなかったよな。……放課後もほとんど大事な用事もなかったような。…彩芽に文芸部兼秘密部に入ってもらえばいいんじゃないか?

「ねえ聞いてるっ?」

「………あぁ」

「それでね?帰りのバスで隣の人が大きないびきをしててね?」

「…………悪い、やっぱ学校戻るぞ」

「えぇ!?なんで?」

「お前もいっしょに戻るぞ」

「えぇ!?しかも私もっ!?……まぁいいけどさ」

「あぁサンキュー、助かります」

「こんどドーナツおごってね」

「おぉ、いいぞ」

 とりあえずコレでなんとか部員探しは達成だな。彩芽なら松宮とも仲も悪くないだろうし、多分大丈夫だろう。




       3




 学校に戻ってきた俺と彩芽は、中庭へと向かっていた。松宮には学校につく前に連絡していたので、松宮はもう中庭に着いているだろう。

 俺と彩芽が中庭に着くと、昇降口の隣にある自販機で買ってきたであろう飲み物を大事そうに両手で握りしめてベンチに座る松宮密理がいた。だが、松宮の目には俺と彩芽が映っておらず、まるでどこか別の次元の世界を見つめているような様子だ。

 ……すごく様になっていて綺麗にみえ、少し見惚れてしまっていた。すると、横からグーパンチが俺の横腹にヒットした。

「ぐへっ!?」

「……声かけないの?」

「…あ、おう、いまいく」

 彩芽のパンチにはすごくビックリした。なんかすげぇ怖い顔してたし。まぁ、切り替えて声をかけにいくうぅ~!

「松宮、来たぞ」

「………!おお~お疲れ様!そっちはたしか彩芽ちゃんだよね?」

「はい!松宮さんでしたよね?よろしく~!……ねぇ真也、なんで私呼ばれたの?」

「………あっ」

 そういえば、まだ目的を言っていなかった。

 改めて俺は文芸部兼秘密部に入ったこと、そして彩芽にも入って欲しいということを話した。なぜ俺が入ったのかは俺の「秘密」があるので言っていない。

「入ってくれるかな?彩芽ちゃん」

「………。」

 彩芽は何か考えているようだ。いつもの彩芽なら俺の頼みは拒んだりしないのだが、どうしたんだ?

 そう思ったのもつかの間、彩芽はなにか覚悟を決めたような強い眼差しで話し始めた。

「入るのはいいよ」

「ほんとっ!?」

「でも、私の条件に乗ってくれるならね」

「…?」

 提案とは一体なんだろうか?

 彩芽と松宮は何故か俺と離れた場所でコソコソと話しているようだ。少し気になる。

 しばらくすると、2人は俺の所に戻ってきた。

「なんの話をしてたんだ?」

「……真也にはナイショ!でもこの部には入るよ。改めましてよろしくです!」

「お、おう、そうか、よかったな松宮」

「うん、これからヨロシクね、彩芽ちゃん」

「はい!」

 こうして、この意味のワカラナイ部活に彩芽が加わった。





 帰り道で彩芽にさっきの話を聞いても答えてはくれなかった。彼女達はいったいなんの話をしていたのか。俺には全く検討がつかなかった。だが、俺が生きてきた中で一番悪い予感がしている。それがなんなのかはわからないが、とにかく、そんな予感がするのだ。

「真也っ!」

 彩芽が俺の名前を呼び、今まで見たことがないほど、大人びた嗜虐的な笑みで、こう言った。

「これから覚悟しててね!」

「…………?おう、なにを?」

「教えない!」

 何を覚悟すればよいのやら。
 
 ここから、俺の中での「普通」とは違う、日常の始まりだとはまだ、知るよしもなかった。
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