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第二章 女神と信者

悲惨の果て

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 父は当然逮捕された。状況的に死刑、もしくは無期懲役だろう。

私たち家族にも大きな影響が出た。家を特定した報道陣、野次馬、そしてEmiRyのファンもこぞって駆けつけた。

父と母、そして私の三人家族だったため、残った二人の母子にその非難や不満がぶつけられた。

 この世のものとは思えない罵詈雑言の数々。まさに生き地獄。

 何度も頭を下げ、何度も涙を流した母は疲れ果て、どんどんやつれていった。

しかし、報道陣や野次馬の非難は止むことが無かった。

そしてある雨の日の次の朝、私が強い日差しで目を覚まし、リビングへ行くとそこには、大きなてるてる坊主が出来ていた。

 その日は、良く晴れていた。家の前にあった雲も、その日は嘘のように無くなっていた。


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 涙が出た。あの日から激変した私達の暮らし。あの地獄のような日々、その末路。最悪だ。

 「…大丈夫、じゃないな」

 「うぅ…う、うわあああぁぁぁ!!あああああっ!!」

 自分でも信じられないぐらい大きな声で泣いた。あの日も、こんなに泣いていただろうか。

 泣き止むまで、男の子は待ってくれていた。

 少し落ち着き、ようやく立てるようになり、あのEmiRyに似た人の元へ行くこととなった。

 ペンダントを、返さなきゃならないから。


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 もう一人の人とも合流した。この人はEmiRyによく似ている。もっとよく見たいと思った。でも今は、少し目を合わせたくなかった。

 「ペンダントは揃ったみたいね」

 「ああ、彼女が二つ。俺達で二つずつだ。観測者の元へ行こう」

 「……。」

 何も考えたく無かった。急に色々なことを思い出してしまって、何をすれば良いのか分からなくなってしまった。

 しばらく歩いていると、彼女の元へと着いた。彼女はEmiRyによく似た容姿でこちらを微笑んでいた。

 「ペンダントを見つけて来てくれた?」

 「……はい、全部で四つ、です。」

 「そうかい!じゃあ、君の手でその四つのペンダントをこの額縁に入れてくれないか?」

 「………いや、です」

 「…ん?」

 「ッ!」ダッッ!

 「お、おい!」

 「待って!」

 知らないうちに走り出していた。あの世界に帰りたくないって思ったから。

 とにかく遠くへ走った。見つからないように、あの世界に帰れないように。


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 あれから、どれだけ走っただろう。誰の足音も聞こえなくなった。途中でアイツにも追いかけられたけど、いつの間にか何処かに消えていた。

自分でも信じられないぐらい速く走った。帰りたくないという力のお陰なのだろうか?

 「はぁ……はぁ…」

 どうしたら良かったの?何処から間違ったの?私のせい?いや、違う……

 結局私は何も出来ていない。気がついたら自分の周りが変わってたんだ。

 もう、そんな世界、いらない。

 何処かもわからず歩いていると、アイツが現れた。

 「……はは」

 「クウクウクウクウクウクウクウクウクウクウクウクウクウゥ!!」

 こちらに向かって走ってくる姿に、私は両手を広げて待った。

 「もう、いいよ」

 私は、諦めた。


       
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