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第三章 血族と信仰

世界観察旅行

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 二人で路地の方に駆け出す。見ればそこには一人、暗闇が強くてあまりよく見えないが、一人の学生がいた。



「まさか……両津!?」



 しかし、両津だと思ったその人物は両津ではなかった。明らかに女である。

少し安堵したが、この状態は間違いなく狂信者だ。うかうかしていられない。

女子生徒は虚空に口をパクパクしており、眼は焦点が合っていない。



「行こう!榊!」

「ええ、行きましょう!」



 その場で神化世界に入る。













       ◎◎◎





        Ω






 私は私が嫌いだ。でもそんな私を否定しきれない私がもっと嫌いだ。

そんなことを考えている時、前にも言われた言葉を思い出す。



「ごめん……あなたにはついていけないの」



 初めての経験だった。だからこんなにも心に残っているのだろう。

目を閉じて現実から逃げようとした。



……。



「……ん、ここ、何処?」



 目が覚めると、私の前にさっきとはまるで違う景色が広がっていた。

薄暗い人気のない路地に居たはずなのに、様々な色が混ざり合った世界へと豹変していた。

赤や黄色、翡翠色に鈍色、白に黒と本当に色々だ。それらがまるで調和するように空間というキャンバスに描かれていた。



「どこだろう……ここ」



 暫く歩いていると、男女の二人組を見つけた。何やら話をしているようだが、こちらを見るや否や、走って近づいてきた。



「今から言うこと、よく聞いて」



 黒地のパーカーを着た女性が、そう言って私にこの世界のことを説明してくれた。












       ◎◎◎












「——つまりあなたは、この神化世界しんかせかいから抜け出さなければならない、狂信者ファーナーティクスなの」

「狂信者……」



 説明されたとしても、どうしてこの世界に来てしまっているのか分からなかった。いや、正確には分かろうとしていないだけなのかも知れない。

とにかく、私はこの世界にいる観測者ゲイザーが求めるものを探さなければならないらしい。

まずは観測者を見つけるために三人で先に進むことにした。

 進むごとに色合いや色の割合が違うこの空間。黒地のパーカーの女の子が言うには、どうやらこれは私の心を映した空間世界だと言う。

こんなにカラフルなはずがない。きっと何かの間違いなのだろうと自分に言い聞かせる。



「居た!」



 もう一人の男の子がそう声を上げて、前を指差した。するとそこにはある女の子が居た。

見た瞬間、胸が締め付けられ、そのまま圧縮されてしまうのではないかという程の感情を持った。



「あら……ようこそ、皇 奈津美すめらぎ なつみの世界へ」



 彼女はゆっくりとこちらを見て、そう言った。
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