星屑のメロウディーヴァ

ベアりんぐ

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episode"1"

episode1.1

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 ここは、荒廃した世界。

 元々は科学文明が発達し、人々はその恩恵に寄りかかって暮らしていた。

しかし、ある日に大国が戦争を仕掛けたことがきっかけとなり、核戦争へと発展。陸地の八割が高濃度放射能に汚染され、現在へと至った。

戦争の過激化により国家は消滅。生き残った人類は、それぞれのテリトリーで細々と暮らしていた。



「ワンワン!」

「どうした、ホープ?お腹空いたか?」



 そんな荒廃し、寒々しい風がヒュウと吹く陸の上に、ある旅をする少年と犬が居た。

ボロボロに擦り切れたローブを羽織り、あちこちに傷のある靴を履き、ぺちゃんこになった帽子を被り、茶色混じりの髪をボサボサにしながら旅をしていた。

そしてその側を歩く犬は、そんなに長くない四肢を忙しなく動かして歩いている。

 彼らが歩いていく先々には、瓦礫や建物の名残があり、その周りには木々や草花がおおい茂っている。

既にここら辺は人々が手放している土地であり、誰にも管理されていないことから道跡すら残っていない。

 道無き道を草花を少し踏み倒しながら歩いていく。

彼らには目的地こそ無いものの、目標はあった。それは、大陸一周制覇である。

 小さい頃、と言っても現在14歳の少年であることに変わりは無いが、今よりもずっと小さい時、彼は山間部近くの小さい集落で生まれ育った。

しかし、生まれてすぐに母親と父親を亡くしている。それからは集落にいる大人たちが育てた。

 その時彼は、一人で生きていける強い人間になりたいと思っていた。

だから今、愛犬とともに旅をしている。



「ワンッワンッ!」

「どうした?なにか——って、人!?……大丈夫、ですか?」



 犬が何かを見つけ、吠えた先を彼が見るとそこには、一人の女性が居た。瓦礫だらけの天井が抜け、植物に覆われているような建物の残骸に、眠るように腰掛けていた。

 集落では見たこともないような若く美しい姿に、少年は一瞬困惑したが、それよりもこんな所に一人でいることに何か怪しさを感じたため、訝しむように近づきながら、もう一度声を掛ける。



「あの……大丈夫、ですか?」

「……?」



 声を掛けると、そこに居た女性はゆっくりと瞼を上げて、少年の方をじっと見た。

 碧色の長い髪を風になびかせ、銀色の眼は何か異世界を彷彿とさせる。そんな若い女性に、もう一度少年は困惑したが、すぐに女性に向き直って、会話を試みる。



「あ、あの……何処から来たんですか?ここで何を?」

「……ごめんなさい、あまり覚えていないのです。ただ……"博士"と呼ばれる人と一緒にいた記憶しかなくて」

「そう、ですか……あ、僕"タウリー・レオネスタ"って言います!こっちは"ホープ"!今旅をしていて、ここを通りがかったらあなたが居て……どこか悪いんですか?」

「ワンワン!」



 タウリーは困惑しながらも、女性を心配する言葉を掛けた。



「……すみません、思い出せないんです。私が何をしていたのか、どこで、生まれたのかも……」



 そう言う彼女に、タウリーは同情するように悲しそうな表情を浮かべたが、彼女自身はほとんど"悲しい"という感情を抱いていないようだ。

 タウリーは何をどうすればよいかわからず戸惑っていたが、一つ聞き忘れていることがあることに気づく。



「あなた、名前は何て言うの?」

「……ルミナ。ルミナ・メルトウェル」

「ルミナ、か……これからルミナはどうするの?」



 そうタウリーが言うと、なんでもないようにルミナは淡々と自分の状況を説明する。



「……私は、今まで何をしていたのかが分かりません。何も、覚えていないのです。」

「そっか……これから、どうするかも決まってない感じ?」

「そう、ですね……どうするか困っている、と言った方が良いでしょうか」



 まるで困っておらず、やはりただ自分の状況を言葉にして話しているだけのルミナに、タウリーはどう言葉を掛ければ良いか分からなかった。

タウリーにしてみれば、そもそも若い女性という稀有な存在に会うことがなく、どう話せば良いか分からなかったが、さらに相手に感情的なものをほとんど感じないのだから、言葉に詰まるのも無理はないのだろう。

 タウリーは結局悩みに悩んでいた。



「ワンッ!ワンッ!」

「……"かわいい"、というものでしょうか?なんだか、口角が勝手に上がるような……胸の辺りがふわふわするような……不思議な感じ、ですね」



 そう言うとルミナは、ホープの頭を優しく撫で、自然と口角が上がって笑顔になってしまっているという状況になった。

それを見たタウリーは、ある疑問を抱き、ルミナに聞いてみることにした。



「ルミナは、自分の感情が分からないの?」

「……残念ながらそのようです。何故こうなってしまったのかも分かりません。もしかしたら、生まれた時からそうなのかも知れません」

「そう、なんだ……なんかロボットみたいだね」

「ロボット……」

「うん、実際に見たことはないけど……でも集落にいたお婆ちゃんが話してくれたことがあるんだ。ロボットはただ人の手足になる為に作られるから、心が無いんだって」

「そうなのですか……では私も、近い存在なのかも知れませんね」



 そう言って、ルミナは立ち上がる。

 少し肌寒そうな、まるで患者のような衣服だけを身につけて、その服を掴んでたくしあげ、ヘソ辺りをタウリーに見せた。

タウリーは少しドキッとしたが、そのヘソがある場所を見た時、息をするのも忘れるぐらい唖然としてしまった。

 ルミナのヘソ辺りには、ヘソのようなものこそあるものの、人肌よりも薄く中にある機械のようなものが透けて見えており、明らかにただの人間ではないことが分かる。

 タウリーは恐る恐る聞いた。



「ルミナ、これって……」

「ええ。タウリーが恐らく考えていることでほぼ間違いないです。ただ、私はただのロボットでは無いのです」



 タウリーは言葉を失った。実際にロボット?のようなものを見るのは初めてであり、今までに無い経験が今日だけで多く起こりすぎたのだ。

 ルミナは話し続ける。



「私の場合、"人に限りなく近いロボット"、と言った方が良いでしょうか。あまり詳しくは覚えていませんが……」

「何ていえば良いか分からないけど……なんかすごいね、ルミナ」

「そして原因が何か分からないのですが、私は人工脳にある欠陥があるようなのです。どうやら感情がほとんどないようです」



 まるで不完全な翻訳のような言葉を紡いでそう言う彼女は、やはり感情がないような表情である。

 既にキャパオーバーなタウリーは、困惑を通り越して考えることを放棄していた。ホープに至ってはルミナの足元で寝息を立て始めている。

 ルミナは話し終えると、服を直してまた座り直した。

 沈黙が走る。ルミナ自身は何も話すことがないような顔をしている。タウリーは、何を話して良いか分からない顔をしている。

 草花は揺れ、瓦礫の間から吹く風は少し冷たい。

 鳥の鳴き声や、木々の揺れる音だけが聴こえてくる中、タウリーは何かを決意したかのような顔をルミナに向け、ある提案をした。



「ルミナ。僕やホープと一緒に、旅をしない?ルミナはここにいてもやる事ないでしょ?なら、僕の旅に着いてきてよ」

「……良いのですか?確かに私は何をすれば良いか、何処へ行けば良いか分かりませんが……」

「もちろん!それに……集落のおじさんも言ってたよ。"旅は二、三人ぐらいが丁度いい"って。それに……ルミナには感情があって欲しいんだ。ロボットで感情があったら面白いでしょ?きっと旅していけば、ついてくると思うんだ」

「……」



 ルミナは何かを考えているようだ。銀色の眼は側で寝息を立てているホープを捉えていた。ホープはそんな視線をものともせず寝続けている。

 しばらく沈黙が続く。タウリーはルミナからの返事をドキドキしながら待っていた。

 ルミナは急に立ち上がり、タウリーを見下ろす。



「分かりました。私も旅についていきます。ですが、私はこの世界について何も知らないも同然なのです。旅の役に立てるかどうか分かりません……それでも良ければ、行きます」

「……!全然いいよ!やった!じゃあこれから仲間だね、ルミナ!」



 余程旅仲間が出来て嬉しいのか、ハイタッチをしようとするタウリーに、ルミナは手を差し出すだけで、大きくはしゃぐことはなかった。

ただ、タウリーには心なしか、ルミナが嬉しそうに見えたようで、それがタウリーにはとても嬉しかった。

ルミナ自身も、タウリーのはしゃぎっぷりには、少しだけ、"楽しさ"を感じたようだ。

 ホープは終始、少しだけ温かくなった風を受け、ただ気持ちよく寝ているだけだった。
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