星屑のメロウディーヴァ

ベアりんぐ

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episode"3"

episode3.9

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 サダルが去ってからすぐその後。ルミナとハルはサザンクロスの館へとすぐに向かう。

着くとそこには、前にレグリウスを襲ったロボットの動きを止めた銃を持った三人と、レグリウスの長が貰ったと言っていた箱の武器を持った数人がアンドロイドを無力化していた。













         ◎◎◎













 アンドロイド襲撃から一週間——。ポラリスの集落は復旧作業に追われていた。

壊された建物の修復。再度襲撃の可能性を鑑みての防衛。そして何より——



「クロスさん、こっちの患者を視てくれ!!早く!!」

「ああっ……神様ぁ……神様ぁぁ!!」

「おいこっちの患者の看病どうなってる!!係のやつは居ないのか!」

「どこも患者だらけだ無茶言うな!!今はこっちで手一杯だ!」



 襲撃事件に巻き込まれた、非戦闘員の住民達の被害である。

死傷者を出し、その死体の身元確認、処理。そして負傷者の看病、治療である。

 患者の程度は様々で、かすり傷や骨折で済んだものは軽症であった。中には腕や脚を失ったものもいた。ルミナが助けを求められ、ハルが助けた瓦礫の少年も左脚を失うこととなった。



 そして、住民が寝静まった夜——。



「クソおぉ!!……私の見通しが甘いせいで……!!」



 サザンクロス、住民の中の戦闘員そして、ルミナ達は、サザンクロスの館で緊急会議をしていた。

全員が椅子に座り、暗がりの中懐中電灯の灯りを頼りに互いの顔を見合わせた。

空気は、落ちに落ちている。



「……すまない。この集落の長である私がこれでは、駄目だな……。話を進めよう。まずはこの集落の被害を抑えてくれた、例の予言の旅人一行だ。今回は本当に、なんといって良いやら……」

「顔を上げてください!……これからです。僕達には、まだ先があります」



 タウリーがそう言うと、そこに続けてクラウドが発言する。



「こうなっちまったもんは仕方ねぇ……敵さん……サダルのやつが一枚上手だっただけさ。こっからどうするよ?長さん」



 クラウドがサザンクロスに尋ねると、十数人の戦闘員を見渡し、こちらをしっかり見つめて発言する。



「これは前々から決めていたことだが、あの最悪の未来を避けるために、ルミナ達旅人がここに来たら、他の集落も巻き込んで"反アンドロイド組織:アルコル"というものを結成するとしていた。よって今この時から!結成を宣言する。異論あるものはいるか!?」



 当然この場で異論を出す者などおらず、全員が静かに頷いた。その目には復讐を宿す者、信念の炎を揺らす者もいた。



「皆、感謝する。……これより我々アルコルは、反アンドロイド組織として今回の襲撃を起こしたアンドロイドを敵対する!」



 こうして、アンドロイド達への反撃の狼煙が今、ポラリスの地にゆらゆらとしかし、確かに上がった。













         ◎◎◎













 緊急会議が終わり、ルミナ達とサザンクロス六人と一匹で改めて話していた。



「我々には武器がある。その武器、他の集落そしてルミナ達にも提供しよう。技術提供も惜しまない。遠慮なく聞いてくれ。……私は少し眠る。あなた達も、十分休んでください」

「分かりました。お休みなさい」



 ルミナとサザンクロスが手を取り、固く握手を交わした。その瞳に、姿勢に、歪みはない。

その後言っていた通り、サザンクロスは寝室へと消えていった。それからまた改めて、五人と一匹で話す。



「まさかこんなことになるとはねぇ……武器とかはアタシに任せな。明日にも技術提供して貰おうかね」

「……ルミナとハルは、本当に大丈夫なの?」



 アンドロイドやMETSISと戦闘をした二人を、タウリーが心配する。それに対して二人はすぐに答えた。



「私もハルも大丈夫です。特に外傷も見られませんし、何より私達が弱音を吐いていられる場合じゃ、なくなりましたから……」

「そうね……私はあまり戦闘向きじゃないけど、全力を尽くすわ」

「……でも、相手にアンドロイドがいくついるのか、そこが問題だな」



 ここでクレスも発言する。



「いくらルミナが強くても、ハルが戦えても、こっちに武器があっても、数で押されちゃ敵わない。ハルは何か知らないのか?」

「私にはほとんど通信が来なかったから……今、サダルの他にMETSISが三人いる、ということぐらいしか……」



 ここで会話が止まる。不安残る中、クラウドが全員の頭を叩いた。



「ほら寝るよ!明日もあるんだから!……こっから、長くなる。きちんと寝ないと力なんか出やしないよ」

「……ふふっ、なんかクラウドはクラウドなんだね」

「……どういう意味だい?」

「褒めてるのさ、クラウドさん。確かに今は夜だ。考えたって仕方ない。寝る方が大事、だな」

「ふふっ、そうですね」

「クラウド、ありがとうございます」

「……フン。分かったら、さっさと寝る準備しな」



 その後、全員が少しだけ穏やかな気持ちで、しかしその覚悟を揺るがすことなく眠りについた。













         ◎◎◎













 眠りについたが、夜明け前に目が覚めてしまったルミナは、外の空気を吸いに館の外へと出ていた。

既に夏の気温である世界は、この夜明け前がちょうど良く涼しい。それを感じ取った人間が、もう一人いた。サザンクロスである。

片手を軽く上げ、ルミナに挨拶する。それにルミナも答える。自然と隣に立ち、二人で空気を吸いながら朝日が昇る直前の空を見ていた。

 心地よい沈黙を、サザンクロスが破る。



「ルミナ。君はアンドロイドではあるが……君を作った博士がいたんだろう?」

「……はい。でも、あまり覚えていないのです。どうも記憶があまりなくて」

「……スタリング・メルトウェル、だろう?」



 突然の名前に驚き、サザンクロスを見る。



「どうして、その名前を——」

「私の家に代々伝わる一冊の話は、しただろう?実はな……そこに、君の博士の情報も少しだけ、残っているんだ」

「!!」

「本当に少しだけ、だったけどね。それで、これはあまり関係ないんだが……」



 サザンクロスがルミナに向き直って、その続きの言葉を紡ぐ。





「僕は君の作り人、スタリング・メルトウェルの、直系の子孫なんだ」

「……え?」



 特に動揺、ということもなかったが、しかし驚きの事実であるらしい。

朝日が昇り始める。そして先ほどの事実を凌駕するほどの驚きが、次の言葉にあった。



「そしてこれの方が重要なんだ、よく聞いてくれ……君のモデルとなった、スタリング・メルトウェルの娘、"イルミナ・メルトウェル"は、今も生きている」
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