43 / 43
epilogue.
epilogue.
しおりを挟む
時は進み、西暦2024年——。あの時代を知っている者は、一人だけとなった。
「渡ー!いい加減起きなさーい」
「うぅ~ん……」
葉桜が見慣れた頃。窓から差し込む陽光と、母親の透き通る声で起きた少年はゆったりとベッドから立ち上がり、ん~!!、と大きな伸びをして階下へと歩く。
用意された朝食を食べ、適当な服を身に纏い、あっという間に登校の時間である。玄関の扉を開き、家と母親に向かって声をかける。
「行ってきまーす」
星聲家は閑静な住宅地の一軒として、実に堂々と建っている。白地の外壁を陽光が照らし、いつもより輝いて見える。
いつも犬の散歩をしているお爺さんに挨拶をして、踏み切りに向かう。いつもと変わらない登校になんだか充足感を感じ、スキップをしながら進んでいく。
ふと立ち止まる。見ればいつもの石像。陽光に照らされて七彩の結晶片をキラキラと輝かせている。よく晴れているからか、石像はより一層白く、まるで透明に光る。何故かいつも、この石像の前では一瞬立ち止まってしまう。
ぼんやり眺めていると、登校時間が迫っていることに気づき、慌てて走り出す。
◎◎◎
「え~こうして縄文時代では、人々が生活を営み——」
「……ふわぁ~」
昼休み後の、五時間目は社会で歴史の授業だった。最も、こんな一番眠くなる時間に歴史をやるのはナンセンスであると思うが。
退屈な授業を耐えるため、教科書をペラペラと見ていると、どうしてかあの石像が写るコラムがあった。どうも気になって、写真下に書かれている文言を読む。
『通称——《星屑の女神像》——。何年に造られたのか。造った人物。そして現代科学でも解明出来ない正体不明の物質が含まれていること。これらのことから遥か遠い昔、現代文明を凌駕する文明があったのではないかと考えられているが、根拠がないため、研究が進められている。』
あの像、そんなものなんだー。と頭の中で言う。
気づけば授業終わりのチャイムが流れ、あっという間に帰りの会が終了。帰路に着く。
◎◎◎
夕刻が近づく中、下校中に石像前を通りかかろうとすると、一人の女性が石像の側に座り込み、なにやら呟いている。
「あなたがこうならなくても、良かったのに……」
「……あの~、大丈夫ですか?なんかぐったりしていたように見えたので」
女性はゆっくりと振り向く。碧色のセミロングに凛々しく整った顔。そこに宝石のように嵌め込まれた白眼は、憂いと慈愛に満ちた視線をこちらに向ける。しかしすぐに柔らかく優しい表情となり、憂いの靄は晴れて消えてしまっていた。
「……この像。いつもつい止まって見ちゃうんですよね。なにかこう、見られているような感じがして……」
「……」
「あっ、急になんかごめんなさい……それじゃあ僕、もう行きますね!」
そう言って歩き出そうとすると、不意に後ろから衣服の一部を、きゅっと掴まれ振り返ると、先ほどの表情とはうって変わって、こちらを怪訝そうに覗く女性がこう言った。
「あなた、もしかして……」
「……どうか、しました?」
「……いえ、なんでもないわ。急に服掴んじゃって、ごめんなさい。そのお詫びと言ってはなんだけど、この像を触るとね、とても温かい気持ちになれるの。ほら、触ってみて」
「は、はぁ……」
そう言いながら女性が背を向けている石像に近づき、手を伸ばす。触れられる部分が、身長的に太腿辺りであったことから少し罪悪感を感じながらも、そこに触れる。
手のひらが白くて輝く太腿に触れた時、どう言えば良いのか、まるで陽だまりの中、母親と手を繋いで昼寝をしているかのような、確かな温かさが脳裏によぎった。
目を閉じ、その温もりに浸る。だんだん温もりが消えていくような感覚に一抹の寂しさを感じながら、石像から手をゆっくりと引く。
「なんだか……本当に不思議な像、ですね」
「これはあなたと私だけの秘密。いい?」
そう言う女性はどこか嬉しそうに、顔を綻ばせている。
「分かりました!それじゃ、僕帰ります!」
「ええ。気をつけて」
少年、渡はそう言ってスキップをしながら帰路に着く。女性はそれをしばらく見守った後、像に手を当て小さく語りかける。
「あなたが愛した人間たちは、いまでもこうして日常を繰り返している。それに、あなたが遺した意思を継ぐ遺伝子も——」
女性はそれだけを言い、像の側から立ち上がって、人気の少ない路地裏へと消えていった……。
陽射しが和らぎ、木の葉が揺れる平和な世界。そんな世界で、人類は生き続ける。その終着点になにがあろうとも、ルミナとともに。 《了》
「渡ー!いい加減起きなさーい」
「うぅ~ん……」
葉桜が見慣れた頃。窓から差し込む陽光と、母親の透き通る声で起きた少年はゆったりとベッドから立ち上がり、ん~!!、と大きな伸びをして階下へと歩く。
用意された朝食を食べ、適当な服を身に纏い、あっという間に登校の時間である。玄関の扉を開き、家と母親に向かって声をかける。
「行ってきまーす」
星聲家は閑静な住宅地の一軒として、実に堂々と建っている。白地の外壁を陽光が照らし、いつもより輝いて見える。
いつも犬の散歩をしているお爺さんに挨拶をして、踏み切りに向かう。いつもと変わらない登校になんだか充足感を感じ、スキップをしながら進んでいく。
ふと立ち止まる。見ればいつもの石像。陽光に照らされて七彩の結晶片をキラキラと輝かせている。よく晴れているからか、石像はより一層白く、まるで透明に光る。何故かいつも、この石像の前では一瞬立ち止まってしまう。
ぼんやり眺めていると、登校時間が迫っていることに気づき、慌てて走り出す。
◎◎◎
「え~こうして縄文時代では、人々が生活を営み——」
「……ふわぁ~」
昼休み後の、五時間目は社会で歴史の授業だった。最も、こんな一番眠くなる時間に歴史をやるのはナンセンスであると思うが。
退屈な授業を耐えるため、教科書をペラペラと見ていると、どうしてかあの石像が写るコラムがあった。どうも気になって、写真下に書かれている文言を読む。
『通称——《星屑の女神像》——。何年に造られたのか。造った人物。そして現代科学でも解明出来ない正体不明の物質が含まれていること。これらのことから遥か遠い昔、現代文明を凌駕する文明があったのではないかと考えられているが、根拠がないため、研究が進められている。』
あの像、そんなものなんだー。と頭の中で言う。
気づけば授業終わりのチャイムが流れ、あっという間に帰りの会が終了。帰路に着く。
◎◎◎
夕刻が近づく中、下校中に石像前を通りかかろうとすると、一人の女性が石像の側に座り込み、なにやら呟いている。
「あなたがこうならなくても、良かったのに……」
「……あの~、大丈夫ですか?なんかぐったりしていたように見えたので」
女性はゆっくりと振り向く。碧色のセミロングに凛々しく整った顔。そこに宝石のように嵌め込まれた白眼は、憂いと慈愛に満ちた視線をこちらに向ける。しかしすぐに柔らかく優しい表情となり、憂いの靄は晴れて消えてしまっていた。
「……この像。いつもつい止まって見ちゃうんですよね。なにかこう、見られているような感じがして……」
「……」
「あっ、急になんかごめんなさい……それじゃあ僕、もう行きますね!」
そう言って歩き出そうとすると、不意に後ろから衣服の一部を、きゅっと掴まれ振り返ると、先ほどの表情とはうって変わって、こちらを怪訝そうに覗く女性がこう言った。
「あなた、もしかして……」
「……どうか、しました?」
「……いえ、なんでもないわ。急に服掴んじゃって、ごめんなさい。そのお詫びと言ってはなんだけど、この像を触るとね、とても温かい気持ちになれるの。ほら、触ってみて」
「は、はぁ……」
そう言いながら女性が背を向けている石像に近づき、手を伸ばす。触れられる部分が、身長的に太腿辺りであったことから少し罪悪感を感じながらも、そこに触れる。
手のひらが白くて輝く太腿に触れた時、どう言えば良いのか、まるで陽だまりの中、母親と手を繋いで昼寝をしているかのような、確かな温かさが脳裏によぎった。
目を閉じ、その温もりに浸る。だんだん温もりが消えていくような感覚に一抹の寂しさを感じながら、石像から手をゆっくりと引く。
「なんだか……本当に不思議な像、ですね」
「これはあなたと私だけの秘密。いい?」
そう言う女性はどこか嬉しそうに、顔を綻ばせている。
「分かりました!それじゃ、僕帰ります!」
「ええ。気をつけて」
少年、渡はそう言ってスキップをしながら帰路に着く。女性はそれをしばらく見守った後、像に手を当て小さく語りかける。
「あなたが愛した人間たちは、いまでもこうして日常を繰り返している。それに、あなたが遺した意思を継ぐ遺伝子も——」
女性はそれだけを言い、像の側から立ち上がって、人気の少ない路地裏へと消えていった……。
陽射しが和らぎ、木の葉が揺れる平和な世界。そんな世界で、人類は生き続ける。その終着点になにがあろうとも、ルミナとともに。 《了》
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
まずは感想ありがとうございます!!…‥歌?いや、歌の概念も人それぞれ、ということにしておきましょう……