不可思議∞伽藍堂

みっち~6画

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24 ビスマスの卵③

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 大河の心を、昨日の不気味な笑い声が包み込む。頭がぐらりと重くなり、腕に力が入らない。
「マズい。本格的にマズい。早くルーレットに報告しなきゃ」
 食べかけのリゾットを食卓に出しっぱなしにして、大河は出かける支度をした。玄関を出る直前に一度きびすを返し、今日は昔の友人の家に泊まる、と叔母のメモの下に殴り書きした。
 できる限りの速さでアーケード街を目指すと、判子屋の前に寿々花が立っていた。
 判子屋の前、と言ってもそう見えるのは大河だけで、寿々花も周りの人間も、そこに判子屋があるとは分かっていない。
 通りすがりの観光客の一団に紛れ、大河はその脇を通り抜ける。
 心配そうな顔で周囲をうかがっている寿々花に罪悪感を持ちつつも、大河はひとり判子屋の古い看板の下をくぐった。
「ルゥ? いるのか?」
 声をかけても、返事はない。時計を見上げると、もう一時半を過ぎている。
 雑然とした店内は、昨日のままだ。大量の判子は床に散らばり、土足の跡が畳に付いたままだ。
 ざっと周囲を確認し、きっとルゥは、昨夜はここに戻らなかったのだろうと推測した。
 落ちていた判子をいくつか拾い、ポケットに忍ばせる。
「またあの女が戻ってきたら、これを投げ付けてやる」
 路地は、恐ろしいほどに静まり返っていた。もうもうと立ち込めていた蒸気もなく、玉砂利がむき出しになっている。
「さまよい人の気配はない、か」
 伽藍堂からいつも豪勢に噴き出していた蒸気も、今は申し訳程度に空中を漂い、あらわになった外壁が大河を出迎えた。
 不穏な空気を感じ取り、思わず足がすくむ。
 それでも、『主さん』が大河を拒絶しているのならば、そもそもここにたどり着くのは不可能なはずだ。
「ルゥとルーレットに昨日のことを説明して、『主さん』に会わせてもらおう」
 今後のことを相談するのはそれからだ、と大河は勢いよくステンドグラスの窓を見上げた。
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