【牙折り】エンシスのやり直し龍伐譚 ~追放の愚将は砂の荒野でお菓子好きな魔女に弟子入りしてドラゴンを解体する!?~

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終章

32/ 英雄、あるいは銀色の王子様

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 視界が真っ白な光に包まれた瞬間、足場も消えて、エンシスは宙に放り出された。

 一瞬もつんのめったりせず、すぐさまエンシスは空中で周囲を見渡す。



(何処に居る? 何処に……!? 絶対に居るはずなんだ……!)


 視界を覆い尽くす光塵を掻き分ける。

 エンシスには確信があった。

 とてもよく知った魔力の気配を感じていたから。


 その気配は、彼にとって何よりも強く、そして温かいものだった。



 暗闇から陽光の下へ突然放り出された瞳孔が慌てて光量を調整するように、光塵が晴れて視界が開けていく。


 そんな、ありきたりな空に――彼らは居た。


「どうなっているんだ? 解体されたのか?」
「恐らくは……でも誰が……」
「う……頭、痛ぇ」


 突然、足場が消えて空中に放り出され、動揺を隠せない様子の人影が5つ。

 その姿を捉えた瞬間、エンシスは声にならない声を上げて、透明な足場を踏み抜いて走った。


 踏み外しそうになりながら、それでも速く。速く。



 その5人をエンシスは知っている。


 特に、その中で、いかにも隊長然とした落ち着きと強さを滲ませる男のことをよく知っている。


 エンシスが、どうしてももう一度会いたかった男。


「フ……! フラマッ……」

「え!? エンシス? なん……」


 2人の目が合う。

 そしてエンシスはフラマを抱き締めた。

 強く、壊れそうなほどに。



「フラマ……!!!」

「…………は、はぁ? 何? どうしたんだ!? き、気持ち悪いぞ」


 苦しいほどに抱き締められ、身動きの取れないフラマが困惑の声を漏らす。

 しかしエンシスは力を緩めない。

「うぁああああ……良かった、良がっだぁあああ……! 無事で……本当に……!」

「おい、おい……え? エン……シス? エンシスだよな、お前」

 フラマが目線で、周りの仲間に助けを求める。

 しかし誰しも首を傾げ、目を丸くするだけだ。


 唐突に空中に放り出されても、ほとんど動揺を見せなかった男たちが状況を理解出来ていない。

 まったく飲み込めていない。


 それもそのはず。

 フラマたちの中でエンシスにまつわる記憶は、アンデッドドラゴンとブルーヌの上空で戦った数日前の時点から更新されていないのだ。


 あの時、必死の形相で、しかしどこか追い詰められたような目で戦っていたエンシス。


 そんな男が……そうであったはずの男が、人目もはばからずに涙を流し、嗚咽してフラマを抱き締めている。

「…………な、なんだよ。どうしたんだ? 怖いことでもあったのかよ、エンシス」

 何がどうなって、こんな事になっているのかは分からない。


 しかしそれでもフラマは、エンシスの銀髪をぐしゃぐしゃと撫で回しながら笑った。

 その手つきは、昔と少しも変わっていなかった。




「フラマ君」

 フワリとスブリーデが近付く。
 ヌルりと全員の落下が止まる。

「ええっと……?」
「初めまして。私はハイドランギア=スブリーデ。『龍食』と言った方が伝わりやすいかな」
「――え? ええ!!? スブリーデ……様ですか!!? ……なんで、こんなところに……っていうか『剣聖』様も居るぅあああ!? ――うぉあ! 本部長もオプト様も!!?」

 感知の早いフラマが、自身の置かれている状況を即座に把握する。


 しかし理解は出来ない。

「……私も居るぞ」

 ルレウムがボヤいて水を差す。


 それに対しても律儀に頭を下げつつ、フラマは更に周りを見回す。


「な、何が起きているんですか……これ」
「分からないよね。フラマ君。実はキミたちはアンデッドドラゴンの中で、数日間彷徨っていたんだ。その間、外では色々あってね」
「す、数日……!? じゃあ、俺たちは解体に失敗したんですか?」
「いや、そういうわけでもなくて。それも、色々の内に含まれていてね。本当に色々あったんだよ」



 あのちょっと世間知らずなエンシスが、ここまで変わってしまうくらいには、色々とね――とスブリーデは笑う。


 フラマは視線を落とす。

「ぜ、全然、わけが分かんないですが……ただ、コイツが、何かめちゃくちゃ頑張ったんだろうなってのは、分かります」
「……あああ、ああ…………フラマ、俺は……俺は、お前に謝りたいことがあって……」

 口角を釣り上げてフラマは、またエンシスの頭をもみくしゃにする。

「……ほぉ? そ~なのか? 心当たりが……多すぎて、どれのことやらさっぱりだぞ?」
「全部だ。全部……お前だけじゃない、他の皆にも謝りたい。俺のせいで、危険な目に……」


 エンシスはゆっくりとフラマを抱き締める力を緩めていく。


 そして真っ赤な目で、フラマたちの後ろにいる解体士たちを見る。


 そして頭を下げた。
 深く、深く。


「皆、済まらなかった……! 俺が間違っていた。龍伐士が、『六龍斬』が、国を守る全てだなんて、奢りだった……解体士の皆が居なければ、俺はただドラゴンを斬れるだけの木偶の坊だった。皆が居だから、俺は『英雄』でいさせてもらえたんだ。皆の力があってこそ、街は守られていたんだ。それなのに……俺は……本当に、本当に、申し訳なかった……!!」

 その様子は、地上にいる多くの王国民や他の龍伐士たちにも見えていた。

「エンシス様……」
「泣いてる、ね」
「あんな……エンシス様、初めて見た……」


「そっか、そっか……なぁ、エンシス。お前、この数日? 何があったんだよ。俺は驚きが止まんないよ」

 フラマがそっとエンシスの肩を叩く。
 もう頭を上げてくれとでも言うように。
 エンシスには見えていないだろうが、フラマの後ろにいる解体士たちも、戸惑いながらも、どこか安堵したような表情を浮かべていた。

「エンシス様、どうか顔をあげてください……私こそ、先程……じゃないんですかね? この前、は生意気な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「私たちも、もっともっと力をつけて、貴方たちとともに国を守っていきますから!」

 奥歯を噛み締めるエンシスの瞳から、涙が溢れる。

 そして、ブルーヌの空に美しく散っていく。

「エンシスは私のもとで、自分の無知さと、そして力の限界に打ちひしがれていたんだ。そして、その過去から逃げることなく、向き合った」

 スブリーデが虚空を歩みながら言う。


 そしてピタリと止まって、この空間に居る全ての人から見えるような位置に立って、金色の目を見開く。

「――よく見ろ、王国民よ! 彼は『六龍斬』の〝牙折〟だ! 数え切れないほどのドラゴンを討ち、村を救い、街を救い、国や人々を守り続けてきた『英雄』だ! そんな男が、避けられなかったかもしれない過ちに対して、こうも頭を下げている……! これでもまだ、プルヴィア=エンシスを非難できるのか!? もしそんな人の心がない者がこの国居るというのなら……私は、それを許さない!」


 それは、まるで天啓。



 ドラゴンの咆哮よりも、サイレン装置の警報よりも、圧倒的に轟いた。


 誰もが胸を打たれ、息を呑んだ。


「ここに居る誰もが、少なくとも1度はエンシスに命を救われているはずだ! その恩を――掛け替えのないはずのその恩を、帳消しにしてしまうくらいの出来事だったのか!? 確かに、壊れた街は完全に元通りにはならないかもしれない。失われた人は帰ってこないかもしれない……それでも! 自分の無知を認め、自身の限界と向き合い、償いの可能性を模索し続け、ここまで辿り着いた彼を……認めてほしい」


 強く、優しい、スブリーデの言葉は、黄金の輝きをまとって朝羽振る。

「な~るほど。それで僕を呼んだのか。僕が戦場に出れば、それを見に人が集まる。群衆は、敵が圧倒され駆逐されるのを見たいからね」

 ミカーレがスブリーデの横に並ぶと、大地が感嘆の息で揺れた。

「そんな群衆の目の前で、窮地に立たされたプルヴィアが、アンデッドドラゴンを解体し、死んだと思われていた解体士たちを救い出す。そしてこの胸を打つ謝罪……全部、キミの計画通りってわけかい?」


『剣聖』の行動は、『龍食』の意見に同調することを示していた。


 天啓よりももっと強い……さながらこれこそが〝理〟。


「さぁ~、どうでしょう?」
「食えないヤツだねぇ。ハイドラんは」

 ミカーレのその行動が切っ掛けとなり、アルバやオプト、ルレウム……それにフラマたちも動いた。


 しかし彼らはミカーレとスブリーデに正対するように並び立ち、恭しく頭を下げる。

 地上で、アイズや他の龍伐士たちもそれに倣う。

 その波は、ゆっくりと、しかし確実に広がっていき、王国民たちにも到達する――。


 頭を下げる者もあれば、手を合わせ涙を流す者もあった。

 神の思し召しを、人が受け入れる時のような、そんな瞬間。

「ス、スブリーデ……フラマ…………みんな」

 エンシスはようやく体を起こして、その光景を目の当たりにする。


 呼吸が浅くなり、体が震える。


 優しい感情や、暖かい魔力しかこの空間には存在していない。

 その全てが、自分の方を向いている。

 それは『英雄』エンシスが、これまで体験したことのないものだった。


 それは、彼がずっと心のどこかで求めていた、繋がりと理解の温もりだったのかもしれない。


「まるく収まったように見えなくもないけど、ちょっと強引じゃない? ……そんなにプルヴィアんを救いたかったのかい? 肩入れするねぇ、ハイドラん」

 高貴な立ち振る舞いを揺るがすことはなく、しかし、熱っぽく上擦った声でスブリーデは呟くように答える。

「だってエンシスは、私の銀色の王子様なんだもん」

 スブリーデの頬が紅潮したのは、逆光になっていて、きっと誰にも見えなかった。
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