【無刀の剣聖】禁忌の屍術使いは剣を抜かずに成り上がれるか!? 〜推し石と歩むバレたら追放の学園生活?〜

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第一章

002 それでも剣を抜く


 世界樹から、少女の剣士が落ちてきた。
 
 ピンク色の髪の、女剣士というとクウェアダでは剣聖レオナが有名だ。しかし今落ちてきた少女は、多分――いや、絶対別人だ。


 レオナは剣聖の中では最年少だが、それでもスティリアよりはやや歳上だったはず。


(それ以前に、剣聖っつたら、剣士の頂点だぞ……!? こんな)

 間抜けで、鈍臭いはずがない。
 なんて、言葉には出せないが、そう思わずにはいられない。


 見知らぬ人に対して、いきなりそんなことを思うなんて、ちょっと失礼な気もしないでもないが……。


「いっててて……また失敗しちゃったぁ」


 スティリアと少し離れているので、落ちてきた少女はまだこちらに気付いていない。

 失敗を誰かにられるのは嫌だろうと思い、スティリアは気配を消す。


「何よ、もう! モモだってやれば出来るんだから……お父さんもお母さんも」


 全然、モモのことを見てくれないんだから――ぶつくさ言いながら、少女の剣士は立ち上がって、服の汚れを払う。

 少女らしいふくよかさと、しなやかさは感じられるが、全体的に華奢……装備などに〝着られている〟感じがある。

 左腰にぶら下た剣が重いのか、重心もだいぶ左に寄った感じ。

(モモ……という名前なのか?)

 落ちてきたのは、登るのに失敗したのか? だったら一緒に連れて帰ろうか――ぼんやりそんなことを考えていたスティリアは唐突に、冷水を差されたように息を呑む。


 自らをモモと呼んだ少女が、あろうことか草原へ向かって進み始めたのだ。


(う、嘘だろ!? まさ、今、降りてきたのか!!?)


 〝下界へ降りるのは、世界樹を降りれるようになってから。世界樹を降りるのは、世界樹を降りれるようになってから〟


 ――そんな標語が、クウェアダにはある。


 これはつまり世界樹すらまともに降りれない者に、外の世界はまだ早いという戒め。


 更に後半は、実力が伴わなければ降りる最中に命を落とす可能性があるということの暗喩でもある。

 モモは、明らかに実力が伴っていない。

 そうしてスティリアは思い返す――モモが口走ったいくつかの言葉。

「私の剣術だって……いつか、お姉ちゃんに負けないくらいになるんだから」

 両親への反抗心や承認欲求がありありと滲んでいる。

「いつか、きっと……」

 それに加えて、思い詰めたような空気もある。
 詳しいことは分からないが、ちょっとマズイ気がする。


「どうする……止めるか」

 スティリアが目を伏せ頭を搔いた、その瞬間。

 ザッ――!!

「……え?」

 スティリアの、思案は刹那にも満たない僅かな時間だった。

 目を伏せたのも同じくらい。


 しかしその一瞬すら、長過ぎた。
 不用意だった。

 モモが居ない。
 
 気付いた時にはもう見失っていた。

 落ちてきた間抜けさや身体能力的な未熟さから高を括り、どうやら実力を見誤ったようだ。


「くっ……!」


 スティリアは奥歯を噛む。

 剣術の固有技能には〝速い〟類いだって多いのに、すっかり失念した。

 草原は、もうどっぷりと暗闇に落ちている。

 いつ夜行性のモンスターが動き出してもおかしくない。
 いや、もう既にその辺を彷徨いているかも知れない。


 他人だ、放っておいたって構わない。

 こんな時間だ、すれ違ったことに気付かなくても別段おかしくはない。

 自業自得だ、実力不足なのはあからさまだった。


 関われば、ろくなことにならない。
 あの少女が死ぬのは、俺のせいではない。
 


 左腰の剣――その鞘に巻き付いた鎖がガチャガチャとうるさい。

「くそッ!」

 スティリアは巾着袋を世界樹の根元へ置き、モモが見据えていた方角を目指して走った。


 幸いというかなんというか、やはりモモの発動した固有技能は荒く、彼女が走り抜けた時に作ったのであろう轍がハッキリと残されていた。


 もっと洗練されていて、移動した痕跡すら残さない次元のものだったらお手上げだったろう。


「とはいえ……」


 速いは速い。

 このままじゃ全然追い付ける気がしない。


 ただ、ここまでの軌跡なら行き先はなんとなく見当がつく。
 目指しているのはきっと鉱山。
 さっきスティリアが採掘をしていたのと同じ場所だろう。

 まさか彼女も石が好きなのか? まさかまさか石友になれちゃったりなんかしたりして?

 そんな浮ついた妄想も束の間……近付いてきた鉱山に人影を見付けた。

 小柄で夕闇にも映えるピンク色の髪。

 きっとモモだ。

 鉱山の入口で、ポツンと立っている。

(良かった、追い付い……)


「きゃ……きゃああああああ…………!」


 断末魔のような悲鳴が夕闇を劈いた。

 モモがよろめいて、尻もちをつく。


「……! アレは!!」

 モモが見詰める先には、巨大な黒いモンスター。

「ナイトゴーレム!」

 岩のような表皮で全身を覆ったポピュラーなモンスター、ゴーレム。

 それが暗闇に特化し生まれた厄介な亜種。


 通常版のゴーレムよりも姿を捉えるのが難しい上に、基本的に暗中での戦闘となるため、有する能力以上に対処が困難とされている。


 これはとてもじゃないが、モモには捌ききれない。


「あ……あ、あああ…………」


 へたりこみ、足をばたつかせるも踵が滑り、逃げることも適わない。

 剣を抜くのも忘れてしまっている。


『グゴオオオオ!!』


 ナイトゴーレムが吠える。


 それだけで空気が震え、大地が揺れる。


 スティリアはまだ遠い。

 今、ナイトゴーレムが腕をひと振りすれば、か細いモモの体は消えてなくなるだろう。

 鉱山の岩肌に赤黒く汚すだけして。

『グガァ!』

 巨体からは想像できないほどにコンパクトで鋭いテイクバックを取った右腕がモモへ向かって振り下ろされる。

 モモは、それを見上げているだけ――間に合わない。


 ガチャン。ジャラン。


「固有技能……屍体強化リゴル・フォルティカ

 錠が開き、鎖が解かれ、そして地面に落ちる。

 それよりも速く。

 ――スティリアは白と青の混ざり合った閃光になった――――。


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