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一話完結 婚約破棄で幽霊になった令嬢

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『私は、幽霊になったの?』

 王立魔法学園の高等部3年、貴族クラス、窓際の最後部の席に、私は座っています。

 体は、半透明、、、私は誰なの?
 心にぽっかり空いた穴は、何なの?


 教室の中、誰も私が見えないようで、普通に歓談しています。

 けど、隣の席の男子が、チラチラと私を見ます。

 金髪碧眼、顔もまぁまぁイケメンです。
 名前は、ジョーというのですね。

「貴方は、私が見えるのですか?」
 試しに、話しかけてみました。


「幽霊は見えないが、なぜか、君は見える」

「その席は、幽霊が座る席ではない」

 彼は、少し怒ったように答えました。


「そこは、アップルの席だ」

 この席に座るべき令嬢の名前ですね。
 不思議と懐かしいような名前です。


「彼女は、1週間前から休んでいるが、必ず立ち直って、戻ってくる」

 彼の言葉には、会えない辛さがにじんでいます。

 彼女のことを、彼は好きなようですが、なぜか彼女は学園を休んでいます。


「婚約破棄が原因だと思う」

 休んだ理由は、解っているのですね。

 この席の令嬢は、幼い頃から、王子の婚約者として、教育されてきたそうで、婚約破棄は相当ショッキングな出来事だったようです。

 彼は、彼女の幸せを願い、身を引いていたが、奪い取るべきだったと、後悔していると、語ってくれました。

 隣に座る彼の想いを、この席の令嬢は、分かっていなかったのでしょうか。
 いや、分かっていたからこそ、彼に触れないようにしていたのかも。


「アイツが、彼女との婚約を破棄した王子だ」

 席の最前列に令嬢たちが集まっていて、その中心で、栗毛のイケメンが笑っています。

「アイツは、ああやって令嬢に囲まれるのが好きらしい」

 周りに男子がいません。
 普通なら、取り巻きの男子もいるのですが。

 アイツと彼は、従兄弟の関係ですが、爵位の上下差で、強く出れないようです。


 あらら、アイツの心から、裏側に潜むゲス野郎の声が、私に伝わってきました。

 げ、令嬢を物として考えています。


 幽霊って、相手の心が伝わってくるのですね。


 あ、授業が始まりました。

 これは、けっこう難しい内容ですね。
 生徒の半分は、理解できていないようです。


 授業が終わると、彼のところに男子が集まって来ました。

「ジョー、ちょっと教えてくれ」


 彼の教えかたは、分かり易いですね、参考になります。

 周りは、ちょっとした勉強会になっています。
 彼は人気者ですね。


 勉強会が終わり、クラスの皆さんは、帰っていきます。

 彼も、帰り支度を始めます。
 ふと手を止めました。

「幽霊、明日も来てほしい」

「そして、俺の心の穴を埋めてくれないか?」

 彼の心が、泣いているのが分かります。
 失恋とは違う、相手を想う涙です。


『明日、答えます』
 そう告げて、幽霊になった私は、消えました。


   ◇


「侯爵様! お嬢様が目覚めました」
 メイドさんが、喜んでいます。

 ここは、、、私の寝室です。

「アップル、つらかっただろう、アイツはキツク罰した」
「新しい婚約者も探すから、何も心配しなくていい」

 お父様も、喜んでいます。


「お父様、明日、私は学園に登校します」
「私の新しい婚約者を探す話は、待って下さい」

 私は、目が覚めました。


   ◇


 翌朝、一週間ぶりに教室へ入りました。

 友人たちが、私を心配して声をかけてくれます。

「貴女との婚約を破棄した王子は、昨夜、王族から追放されました」
「国王は、あんな王子よりも、貴女、アップルを選んだのよ」

 採れたての情報が、矢継ぎ早に入ってきます。


 自分の席に向かいます。
 隣には、ジョーが座っています。

 満面の笑みで迎えてくれました。


「昨日の答えを、持ってきました」
 彼に告げます。

 彼は、驚いています。
 昨日の幽霊が、私だったと気が付いたようです。


「私は、貴方の心を満たしたいと思います」
 ドキドキしながら、答えを告げました。

「それは、俺のプロポーズを受けてくれるということか」
 彼の顔は、真っ赤です。

「そうです」
 私の顔も、火照っています。


「二人とも、ここに集まったみんなが、証人だよ」
 周囲には、たくさんの友人が集まっていました。

「「おめでとう」」

 私たち二人の周りに、祝福の花が降りそそぎました。

 皆さんは、この結果を望んでいたようです。


   ◇


「ジョーは、王弟陛下の後を継がないで、騎士団に入るのでしょう?」

 彼には、家を継ぐ兄がいますので、婿に行くか、騎士団に入るか、政略結婚の道具になるかしか道がありません。

 私にも、家を継ぐ兄がいますので、お嫁に行くことになっています。

 将来は、騎士様の妻か、、、なかなか面白そうです。


「そ、それが、、、アイツが王族を追放されたので、国王が王太子を探しているのだが、、、」

「国王の血筋は既婚者が多くて、甥っ子である俺に話が来た、、、」

 彼にしては、少し歯切れが悪いです。


「国王は、侯爵家と繋がりを強くしたいと考えており、、、」

「さらに、貴女をとても気に入っていて、「アップル嬢が選んだ男性を王太子にする」と、宣言した」

 それって、私に丸投げってことでしょ!


「私の心を満たしてくれたのは、貴方です」
 恥ずかしいけど、ジョーを見つめます。

 私は、幽霊から、騎士様の妻へ、そして王太子の妻へと化けました。



━━ fin ━━


あとがき
 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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