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第3話 さよなら王子様
しおりを挟む「この豪華な部屋が、私の部屋?」
お母様に続いて、私も、王宮に移り住むことになりました。
「はい、第二王子様のご指示です」
これが、クロガネ君のセンスなのか。ちょっと……
「貴女が私の専属メイドですか?」
案内してくれた、年上っぽいメイドに訊きます。
「フラン様の専属メイドの手配が間に合わず、申し訳ありません」
「私は第二王子様の専属メイドですが、しばらくは、フラン様のお世話をさせていただきます」
そっか、私の専属メイドは、まだなのか。
こんなことなら、侯爵家の専属メイドを連れて来れば良かったです。
王宮で働くための身元引受人が決まらないため、一緒に来ることが出来ませんでした。
「王宮には、特級メイド様がいらっしゃると聞いています。ご存知でしょうか?」
なんとか、コネを付けたいので、尋ねます。
「特級メイドは私一人です」
「国王陛下と王妃様は、フラン様のお母様が担当して下さっております」
「第一王子様は、娼婦が良いと言っております」
この方でしたか、早速お会いすることが出来ました。
「そうでしたか、お会いできて光栄です」
「特級メイドが働いていることを、どなたから、お聞きになったのですか?」
「侯爵家の、私の専属メイドからです」
「なるほど、彼女ならば……側妃様の指導を受け継ぐことが出来ますね」
「分かりました。彼女の身元引受人として、私がサインします。」
特級メイドさんは、何かお考えがあるようです。
「フランお嬢様、湯浴みの準備が整いました」
メイドが来ました。
楽しみにしていた湯浴みの時間です。
◇
バスルームの広さは、馬車1台がウマごと入るくらいで、私の屋敷よりも一回り広いです。
私の屋敷のバスルームは、貴族の中では一番の大きさだと聞いていたのですが、さすが王宮です。
湯船で温まった後、用意された温かいマットに横になります。
マッサージが始まりました。香りが調合されたアロマオイルです。
筋肉が凝り固まった所は強く弱くもみほぐし、叩きによる心地よい振動、初めてのツボ押し、さらに敏感な所は優しく早く緩くさすってくれます。
「あぁ、気持ち良いです」
私が、気持ち良いと思う所を、気持ち良くさすってくれます。
「フラン様のお母様は、もっと上等なマッサージを施術なさるのですよ」
そんな話を聞きながら、私は気持ち良くて、つい、眠ってしまいました。
目を覚ますと、アロマオイルを拭き取っているところでした。
「ごめんなさい、眠ってしまったようで」
「大丈夫ですよ、第二王子様も、施術中に、よく眠られますから」
あ、そうか、クロガネ君の専属メイドだった。
「第二王子様は、男らしい、筋肉質なお体ですよ。妻になられるフラン様がうらやましいです」
「え、私たちはそんな関係じゃありませんよ」
あわてて、否定します。
私は、まだ第一王子の婚約者候補らしいのです。
「第二王子様は、施術中に『フラン』と、つぶやきますよ」
「フラン様も、『クロガネ君』と、つぶやいていらっしゃいましたし」
「若いって、いいですね」
特級メイドさんが、母親のように微笑みました。
◇
重厚な扉の向こうは、議場です。
貴族院の方々によって、第一王子の断罪が、議論されています。
あの伯爵令嬢の親たちの連名で、娘を第一王子がたぶらかしたと、訴状が出たからです。
扉に付いている小さな窓が特別に開けられたままで、中の声が漏れ聞こえます。
伯爵家は、家を守るのに必死です。
三大侯爵も賛成に回り、保守派、革新派とも断罪に賛成し、珍しく満場一致で、第一王子の断罪が決議されたようです。
国王陛下は、その場で第一王子の身分を剥奪することを宣言し、追放を決めました。
処刑との意見も出ましたが、平民に落ちて王都から追放となれば、命は無いと、貴族の皆様は分かっていたようです。
「王太子を、第二王子とする」
国王陛下が宣言し、貴族院側は満場一致で承認しました。
そして、私たち三大侯爵家の令嬢3名に、議場へ入るよう指示がありました。
「さて、次の王妃を決めなくてはならない」
国王陛下が私たちに視線を向けます。
ここで、婚約者の投票を行う意向のようです。
「国王陛下、私たちの心は既に決まっています」
「第二王子様の妻にふさわしいのは、ただ一人です。ここで公開投票することを、お許しください」
無記名でなく、公開するのですか。そんな話、私は聞いていませんよ。
「クロガネの妻にふさわしいのは、どの令嬢かな?」
国王陛下の言葉に、令嬢二人が、目で私を示します。
え? 聞いてませんが。
「「フラン嬢です」」
貴族院の方々がザワつき、三大侯爵がどう動くか様子を伺っています。
「婚約者同士の投票で決まる慣例であるが、侯爵家として異議はあるか?」
「「ありません」」
二人の侯爵も、私がクロガネ君と婚約することに、賛成しました。
議会室が歓喜に湧きます。
「やっと決まったか」
国王陛下が、安堵の顔を見せました。
「クロガネに学園生活の事を訊くと、いつも楽しそうにフラン嬢の話をしてくれる」
「そして、フラン嬢は、貴重な治癒魔法を使える聖女だと、神官長から報告があった」
「どうか、末永くクロガネを支えてくれ」
国王陛下が、私へ、言葉をかけて下さいました。
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