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白を染める赤
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僕は悪い魔術師だ。
人を誑かして地獄に叩き落すのが趣味で、賞金首なのがバレないように国々を渡り歩いていた。
ある日取り入る為に村を魔物から助けると、一人の青年が弟子入りを頼み込んできた。
「私は不死者なんです。でも皆さん良くしてくれて。役に立てる人間になりたいので、魔術を教えてくれませんか」
僕は面食らった。
何をしても死なない人間は稀に生まれる。彼等は大概、その異能を恐れられ迫害される。
しかし村は長閑で、彼も純粋無垢な彼等と何一つ変わらなかった。
「良いよ。でも実践が一番だ。しばらく一緒に魔物狩りの旅をしない?」
こいつらを騙すのは難しそうだと判断した僕は、この男に目を付けた。
上手くいけば大量殺人鬼が出来上がるだろう。
それを後悔することになるとは、僕は少しも思っていなかった。
「師匠! やりましたよ、ドラゴンを仕留めました!」
竜を仕留められるのは一握りだ。
彼は筋が良かった。多彩さは無いが威力がとんでもない。
しかし、目論見自体はどうにも上手くいかない。
彼方此方で迫害されても、彼の性根は変わらなかった。
それと同時に、問題があった。
飼い犬に情が湧いた。
ろくな味方が居なかったから知らなかった。懐かれると情に絆されるタイプらしい。
短剣を首に突きつけると、彼は不思議そうに僕を見下ろす。
「ここまでくれば王様にでもなれるよ。この世の中ってかなり実力主義だからさ」
「ではこれは何ですか?」
「そうなれば権力争いに巻き込まれて突然殺される。死ぬより酷い目に遭いまくる」
「あはは、命があれば掠り傷ですよ」
「お前ほんとぽやぽやしてるよな!? 平和ボケ通り越して恐怖だわ!」
世間知らずに段々僕は不安を感じてきていた。
まずい。これはとてもまずい。
「故郷にもう帰るかい。十分だろ」
「いえ。あそこは人助けを必要としていない。でも人がたくさんいる所は私の力が必要なはずです」
「……そう」
破滅の足音が聞こえている。
いつもは歓迎するそれが、妙に恐ろしかった。
道すがら倒した竜は、王都に向かっていて脅威だとみなされていたらしい。
僕等は英雄として歓待を受けた。
しかし僕の素性も噂されており、僕は好機とばかりに別れを告げることにした。
「よく聞いてくれ。僕は噂通りのとんでもなく悪い奴だ」
「ではなぜ私を指導して下さったのですか?」
「お前が悪意に揉まれて、惨劇を齎す存在になると見込んでいたからだ」
「私はそんなことはしません」
「だろうね。じゃあ、さようならだ」
子供のように無垢な瞳がじっと僕を見る。
「では、どうして何もしないのですか」
「もう手を下す必要は無い。お前はそのうち地獄に落ちる。ここはソドムの地へと堕ちるだろう」
「なぜそう思うのですか」
「王様がろくでなしだからだ。お前は王になるタイプではない。だが、周りはそう思わない。故に破滅が待っている」
僕を糾弾するでもなく、ただただ子犬のような真っ直ぐな目が僕を見る。
恐ろしい。
聖人程理解出来ない物は無いのだ。我が強く他人に奉仕することを押し通す恐ろしい人種。
「……それでも、助けを待っている人が居ます」
「だと思った。この国が滅びたら観光にまた来るよ、ついでにお前がまだ同じ事を言えるか聞きに来る」
「その時が来ないよう頑張ります!」
どうしてこいつは悪人にも同じ態度なのだろう?
気持ち悪さで親愛が無くなれば良いと思ったが、イカレ具合を気に入ってしまうばかりで上手くいかなかった。
暇なので彼の故郷を見に行くと、滅んでいた。
調べたが、恐らく魔物に襲われたのだろう。よくあることだ。
僕も毒気を抜かれる良い村だったのになぁ、と残念に思い、知らせたらどうなるだろうと楽しくなった。
ふらふら寄り道をしながら王都に戻ると、予想以上の地獄が広がっていた。
「うっそぉ……え、どれぐらい? 3、4ヶ月だろ……?」
王都はとにかく治安が悪くなっていた。
そこら中に死体が転がり、強盗も多発する。
中心に近付くと、死体の臭いが酷い。
真ん中にある処刑台には、何人かの人間が居て、楽しげに人らしき物へと武器を振りかざしていた。
いつもなら楽しい風景だが、吐いた。
吐いて逃げ出して、酒場の人間に金を掴ませ、事情を聞いた。
「あぁ、王様が英雄殿を恐れてね。反逆罪で処刑したのさ」
「どうしてここまで治安が悪化するんだ……」
「奴が死ななかったから、殺し切った奴には賞金を渡すと言ったのさ。それで倫理観が崩壊した」
殺す為の苛烈な暴力が許されたことから、どんどん暴力がいけないことだというモラルが崩壊していき、こうなったのだという。
快楽だ。強者を地に落とす、あるいは単なる加虐の快楽を味わい、慣れ、どんどんそれへの欲求が肥大化していったのだ。
そこまでは予想していなかった。
彼程の聖人ならば、ろくでもない国に対しての反乱の象徴にするには適任だ。
そうなる前に地位を英雄から奴隷以下のサンドバッグ、ストレス解消の道具にしてしまうとは。
意図的でないにしろ、人間とは恐ろしい。
「……有難う」
僕は言葉少なに立ち去り、夜、火をつけて回った。
いつもは好きな光景だが、全て燃やして見なかった事にしてしまいたい気分だった。
軍も王も全て燃やし、処刑台の上で日を越す。
朝日と共に、火傷以外に数多の傷がある死体だった物が目を覚ました。
「おはよう。まだ人助けしたい?」
僕の問いかけに、弟子は答えない。
どこも見ていない。
「……可哀想に、人に尽くしたのにね、お前」
朝日はいつも通り、僕には眩しかった。
人を誑かして地獄に叩き落すのが趣味で、賞金首なのがバレないように国々を渡り歩いていた。
ある日取り入る為に村を魔物から助けると、一人の青年が弟子入りを頼み込んできた。
「私は不死者なんです。でも皆さん良くしてくれて。役に立てる人間になりたいので、魔術を教えてくれませんか」
僕は面食らった。
何をしても死なない人間は稀に生まれる。彼等は大概、その異能を恐れられ迫害される。
しかし村は長閑で、彼も純粋無垢な彼等と何一つ変わらなかった。
「良いよ。でも実践が一番だ。しばらく一緒に魔物狩りの旅をしない?」
こいつらを騙すのは難しそうだと判断した僕は、この男に目を付けた。
上手くいけば大量殺人鬼が出来上がるだろう。
それを後悔することになるとは、僕は少しも思っていなかった。
「師匠! やりましたよ、ドラゴンを仕留めました!」
竜を仕留められるのは一握りだ。
彼は筋が良かった。多彩さは無いが威力がとんでもない。
しかし、目論見自体はどうにも上手くいかない。
彼方此方で迫害されても、彼の性根は変わらなかった。
それと同時に、問題があった。
飼い犬に情が湧いた。
ろくな味方が居なかったから知らなかった。懐かれると情に絆されるタイプらしい。
短剣を首に突きつけると、彼は不思議そうに僕を見下ろす。
「ここまでくれば王様にでもなれるよ。この世の中ってかなり実力主義だからさ」
「ではこれは何ですか?」
「そうなれば権力争いに巻き込まれて突然殺される。死ぬより酷い目に遭いまくる」
「あはは、命があれば掠り傷ですよ」
「お前ほんとぽやぽやしてるよな!? 平和ボケ通り越して恐怖だわ!」
世間知らずに段々僕は不安を感じてきていた。
まずい。これはとてもまずい。
「故郷にもう帰るかい。十分だろ」
「いえ。あそこは人助けを必要としていない。でも人がたくさんいる所は私の力が必要なはずです」
「……そう」
破滅の足音が聞こえている。
いつもは歓迎するそれが、妙に恐ろしかった。
道すがら倒した竜は、王都に向かっていて脅威だとみなされていたらしい。
僕等は英雄として歓待を受けた。
しかし僕の素性も噂されており、僕は好機とばかりに別れを告げることにした。
「よく聞いてくれ。僕は噂通りのとんでもなく悪い奴だ」
「ではなぜ私を指導して下さったのですか?」
「お前が悪意に揉まれて、惨劇を齎す存在になると見込んでいたからだ」
「私はそんなことはしません」
「だろうね。じゃあ、さようならだ」
子供のように無垢な瞳がじっと僕を見る。
「では、どうして何もしないのですか」
「もう手を下す必要は無い。お前はそのうち地獄に落ちる。ここはソドムの地へと堕ちるだろう」
「なぜそう思うのですか」
「王様がろくでなしだからだ。お前は王になるタイプではない。だが、周りはそう思わない。故に破滅が待っている」
僕を糾弾するでもなく、ただただ子犬のような真っ直ぐな目が僕を見る。
恐ろしい。
聖人程理解出来ない物は無いのだ。我が強く他人に奉仕することを押し通す恐ろしい人種。
「……それでも、助けを待っている人が居ます」
「だと思った。この国が滅びたら観光にまた来るよ、ついでにお前がまだ同じ事を言えるか聞きに来る」
「その時が来ないよう頑張ります!」
どうしてこいつは悪人にも同じ態度なのだろう?
気持ち悪さで親愛が無くなれば良いと思ったが、イカレ具合を気に入ってしまうばかりで上手くいかなかった。
暇なので彼の故郷を見に行くと、滅んでいた。
調べたが、恐らく魔物に襲われたのだろう。よくあることだ。
僕も毒気を抜かれる良い村だったのになぁ、と残念に思い、知らせたらどうなるだろうと楽しくなった。
ふらふら寄り道をしながら王都に戻ると、予想以上の地獄が広がっていた。
「うっそぉ……え、どれぐらい? 3、4ヶ月だろ……?」
王都はとにかく治安が悪くなっていた。
そこら中に死体が転がり、強盗も多発する。
中心に近付くと、死体の臭いが酷い。
真ん中にある処刑台には、何人かの人間が居て、楽しげに人らしき物へと武器を振りかざしていた。
いつもなら楽しい風景だが、吐いた。
吐いて逃げ出して、酒場の人間に金を掴ませ、事情を聞いた。
「あぁ、王様が英雄殿を恐れてね。反逆罪で処刑したのさ」
「どうしてここまで治安が悪化するんだ……」
「奴が死ななかったから、殺し切った奴には賞金を渡すと言ったのさ。それで倫理観が崩壊した」
殺す為の苛烈な暴力が許されたことから、どんどん暴力がいけないことだというモラルが崩壊していき、こうなったのだという。
快楽だ。強者を地に落とす、あるいは単なる加虐の快楽を味わい、慣れ、どんどんそれへの欲求が肥大化していったのだ。
そこまでは予想していなかった。
彼程の聖人ならば、ろくでもない国に対しての反乱の象徴にするには適任だ。
そうなる前に地位を英雄から奴隷以下のサンドバッグ、ストレス解消の道具にしてしまうとは。
意図的でないにしろ、人間とは恐ろしい。
「……有難う」
僕は言葉少なに立ち去り、夜、火をつけて回った。
いつもは好きな光景だが、全て燃やして見なかった事にしてしまいたい気分だった。
軍も王も全て燃やし、処刑台の上で日を越す。
朝日と共に、火傷以外に数多の傷がある死体だった物が目を覚ました。
「おはよう。まだ人助けしたい?」
僕の問いかけに、弟子は答えない。
どこも見ていない。
「……可哀想に、人に尽くしたのにね、お前」
朝日はいつも通り、僕には眩しかった。
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