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第一章:プリンセス、冒険者になる
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あと少し、あとほんの少しだったのに……。
森の出口の少し先に魔物がーー盗賊がいる。それも複数。
「アン……」
「大丈夫ですまだ気づかれてはいません。念のため森を出る前に『探索』の魔法を使ってみてよかったですね」
「そうね……でもおかげで私の魔力は空っぽよ」
魔力は自然な状態であれば一時間に十パーセント回復する。眠っている時はその倍の二十パーセント。なので一晩、五時間程度睡眠を取れば全快することになる。理屈は不明。その辺はゲームならではだ。
その辺の確認をする意味も込めて消費魔力が十の探索の魔法を使ってもらった。いずれは私も使えるようになるだろうけれど今はまだ無理だ。だからアンに頼んでみた。回復魔法が使えるのならある程度の魔法が使えるのではないかという読みは的中した。
そして無事に探索の魔法が使えたことで予想通りの魔力回復量だったことが確認できた。それはそれでいいのだけど、森の外に盗賊がいることまでもが判明してしまった。
もちろんその事もありがたいし凄く助かったのだけど、現在残りの魔力はほぼゼロ。仮に残っているとしても一とか二。私のレベルは初期のまま。戦う術を何も持たないキラリ姫としては結構なピンチだということになる。
「どうしよう……」
呟いて可能性を模索する。何か出来ることはないか? ゲームでは敵アイコンに接触しない限り戦闘にはならなかったけれど、現実では目視で発見されたら間違いなく捕獲のための行動を起こされる。年若い小娘が一人とか鴨ネギもいいところだ。
だから相手に気づかれないことが大前提。その上で何ができるか……。
「キラリ様……少し戻ってどこかに隠れましょう」
「……そうね……」
それしかないか。戦えないのならどうにかやり過ごすしかない。
私もそれくらいしか思いつかない。ゲームシナリオでは盗賊に気づかずに森を出て捕まるのだろう。まぁ私ではない別人だけど。でもその流れを踏襲している可能性だってある。だって現に盗賊がいるわけだし。
念のために音を立てないように慎重に来た道……道無き道を戻ることにする。
確か途中に湧き水が湧いているところがあった。あそこまで戻ろう。さっきは森を出ることを優先して立ち寄らなかったけれど、今日はまだ一度も何も口にしていない。そう認識したら途端に喉の渇きが耐え難く感じて来た。
川の水は流石に飲んだらまずそうだけど、湧き水なら大丈夫だよね? ミネラルウォーターとかに天然の湧き水とか書いてあったし。
薄暗い森の中をゆっくりと戻って行く。あと少しで出られたのに……悔しい。でもまだチャンスはある。冷静に、冷静に……。
キラリ姫の足で10分くらい戻ると森の中に少し開けたところが見えてくる。大きな岩があってその裂け目から水が湧き出している。
さすがゲーム世界準拠。すごく不自然な光景だ。斜面の岩肌からとかならまだしも平地にポツンと置かれた岩から水が湧き出す不自然さ。絶対にないとは言い切れないけれど、まぁ普通はないと思う。
溢れ出した水で岩の周りはちょっとした水溜りのようになっている。丁度踏み石のように並んでいる石を伝って湧き出す水の側へ。そっと湧き水を手ですくい取る。
「ーーつめたい!」
凄く澄んだ綺麗なお水。
少しだけ口に含んでみる。変な味はしない。大丈夫……かな? 口にした水を吐き出してから改めて手を洗いうがいをして……それから一口飲んでみる。
冷たくて美味しい。何度か繰り返してようやく渇きを潤せた。
「ふ~~~……」
生き返るーーー。死んでたわけじゃないけど。
そんなつまらないことを考えられるくらいには気持ちに余裕が持てた。
ここで少し休憩しよう。水溜りにはまらないように近くの木の側へ……。
「あっ!?」
これはお約束だろうか、しっかりと足を滑らせて水溜りにはまってしまう。
グニョン。
踏み入れた水溜りは泥濘んでいてとても変な感触だった。
ズブズブズブ……。
「うわぁぁ……」
ゆっくりと踵が沈み込んで行く。慌てて足を抜こうとしてーー!?
抜けない!?
「え、やだ!?」
必死に足を抜こうとするけれど全然抜けない。それどころかどんどん沈み込んでいく!?
しかも、えっ!? 何!? どういう事!? なんか水が私の足をすり上がってきてる!?
「え、え、えっ!?」
「キラリ様!!」
アンの悲鳴。
水溜り全体がグニョグニョと動いている!!
「ーーあっ!!」
これって……もしかしてスライムじゃ……。
プレイヤーとしての知識が答えを見つけ出したかもしれない。でも今更手遅れじゃない?
水溜りだと思っていたモノがうにょうにょと蠢きながら起き上がってくる。罠にかかった獲物を捕食しようと動き始めた。
「っっ!!」
ダメだ! 足が抜けない!!
このままではスライムに飲み込まれてしまう!?
もはやこれまでーー。
人を飲み込むくらいまで起き上がった透明な物体が私を包み込んだ。
「ーーーーーー!!」
私は声にならない悲鳴をあげていた。
ーーーーー
2021.02.03改稿
誤字脱字と文章表現を修正。
お話の流れに変更はありません。
森の出口の少し先に魔物がーー盗賊がいる。それも複数。
「アン……」
「大丈夫ですまだ気づかれてはいません。念のため森を出る前に『探索』の魔法を使ってみてよかったですね」
「そうね……でもおかげで私の魔力は空っぽよ」
魔力は自然な状態であれば一時間に十パーセント回復する。眠っている時はその倍の二十パーセント。なので一晩、五時間程度睡眠を取れば全快することになる。理屈は不明。その辺はゲームならではだ。
その辺の確認をする意味も込めて消費魔力が十の探索の魔法を使ってもらった。いずれは私も使えるようになるだろうけれど今はまだ無理だ。だからアンに頼んでみた。回復魔法が使えるのならある程度の魔法が使えるのではないかという読みは的中した。
そして無事に探索の魔法が使えたことで予想通りの魔力回復量だったことが確認できた。それはそれでいいのだけど、森の外に盗賊がいることまでもが判明してしまった。
もちろんその事もありがたいし凄く助かったのだけど、現在残りの魔力はほぼゼロ。仮に残っているとしても一とか二。私のレベルは初期のまま。戦う術を何も持たないキラリ姫としては結構なピンチだということになる。
「どうしよう……」
呟いて可能性を模索する。何か出来ることはないか? ゲームでは敵アイコンに接触しない限り戦闘にはならなかったけれど、現実では目視で発見されたら間違いなく捕獲のための行動を起こされる。年若い小娘が一人とか鴨ネギもいいところだ。
だから相手に気づかれないことが大前提。その上で何ができるか……。
「キラリ様……少し戻ってどこかに隠れましょう」
「……そうね……」
それしかないか。戦えないのならどうにかやり過ごすしかない。
私もそれくらいしか思いつかない。ゲームシナリオでは盗賊に気づかずに森を出て捕まるのだろう。まぁ私ではない別人だけど。でもその流れを踏襲している可能性だってある。だって現に盗賊がいるわけだし。
念のために音を立てないように慎重に来た道……道無き道を戻ることにする。
確か途中に湧き水が湧いているところがあった。あそこまで戻ろう。さっきは森を出ることを優先して立ち寄らなかったけれど、今日はまだ一度も何も口にしていない。そう認識したら途端に喉の渇きが耐え難く感じて来た。
川の水は流石に飲んだらまずそうだけど、湧き水なら大丈夫だよね? ミネラルウォーターとかに天然の湧き水とか書いてあったし。
薄暗い森の中をゆっくりと戻って行く。あと少しで出られたのに……悔しい。でもまだチャンスはある。冷静に、冷静に……。
キラリ姫の足で10分くらい戻ると森の中に少し開けたところが見えてくる。大きな岩があってその裂け目から水が湧き出している。
さすがゲーム世界準拠。すごく不自然な光景だ。斜面の岩肌からとかならまだしも平地にポツンと置かれた岩から水が湧き出す不自然さ。絶対にないとは言い切れないけれど、まぁ普通はないと思う。
溢れ出した水で岩の周りはちょっとした水溜りのようになっている。丁度踏み石のように並んでいる石を伝って湧き出す水の側へ。そっと湧き水を手ですくい取る。
「ーーつめたい!」
凄く澄んだ綺麗なお水。
少しだけ口に含んでみる。変な味はしない。大丈夫……かな? 口にした水を吐き出してから改めて手を洗いうがいをして……それから一口飲んでみる。
冷たくて美味しい。何度か繰り返してようやく渇きを潤せた。
「ふ~~~……」
生き返るーーー。死んでたわけじゃないけど。
そんなつまらないことを考えられるくらいには気持ちに余裕が持てた。
ここで少し休憩しよう。水溜りにはまらないように近くの木の側へ……。
「あっ!?」
これはお約束だろうか、しっかりと足を滑らせて水溜りにはまってしまう。
グニョン。
踏み入れた水溜りは泥濘んでいてとても変な感触だった。
ズブズブズブ……。
「うわぁぁ……」
ゆっくりと踵が沈み込んで行く。慌てて足を抜こうとしてーー!?
抜けない!?
「え、やだ!?」
必死に足を抜こうとするけれど全然抜けない。それどころかどんどん沈み込んでいく!?
しかも、えっ!? 何!? どういう事!? なんか水が私の足をすり上がってきてる!?
「え、え、えっ!?」
「キラリ様!!」
アンの悲鳴。
水溜り全体がグニョグニョと動いている!!
「ーーあっ!!」
これって……もしかしてスライムじゃ……。
プレイヤーとしての知識が答えを見つけ出したかもしれない。でも今更手遅れじゃない?
水溜りだと思っていたモノがうにょうにょと蠢きながら起き上がってくる。罠にかかった獲物を捕食しようと動き始めた。
「っっ!!」
ダメだ! 足が抜けない!!
このままではスライムに飲み込まれてしまう!?
もはやこれまでーー。
人を飲み込むくらいまで起き上がった透明な物体が私を包み込んだ。
「ーーーーーー!!」
私は声にならない悲鳴をあげていた。
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2021.02.03改稿
誤字脱字と文章表現を修正。
お話の流れに変更はありません。
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