魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第一章:プリンセス、冒険者になる

(14)☆

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 黒い巨大な狼ーー魔狼王ガルム。
 それはこの世界に存在する十人の王たちの一人。この世界の行く末を見守っていると言われている。
 故にこの森の奥は特別な場所であり、本来人間が立ち入るようなことはない。
 それなのに盗賊たちは踏み込んでしまった。しかも子供の狼を攫うという暴挙まで……。
 正直どうなるのか全くわからない。
 少なくとも魔狼たちは仲間を取り戻しにきたのだろうとは思う。
 でもその為にしては数が多すぎる。マップに表示された赤い光点は数え切れないほどだった。そして在ろう事か魔狼王まで出てきてしまった。
 ボスならボスらしくダンジョンの奥で待っていてほしい。こんな序盤の森の中に出現するなんてありえないでしょ!?

 一体どうすればいいのよ!?

「ひ……姫様……」

 耳元の震える声でハッと我に返った。
 目の前にそびえ立つ黒い山は依然として私を見下ろしている。その赤い双眸はじっと私を見つめている?

「わう?」

 あ……私じゃない!? この子を見つめているの?

 ぺろん♪

「ひやぁっ!? ちょっと、驚かせないでマロちゃん! 今大事なところだから!」

 モゾモゾと私の腕の中で動きながらぺろぺろと毛繕い? そして何故か時々私まで舐められるという……ああっ! これが日常ならどれだけ癒されることか!! それなのに、それなのに……今は巨大な狼に睨まれて身動き一つできない!

 どうにかしないといけないけどどうすればいいの? 話せばわかってくれるかしら?
 私はマロちゃんを盗賊から助け出したのだけれど、誤解されないわよね? 私はいい人で、悪いのはあっちの小屋にいる人たちだからね!? ね、マロちゃん! あなただけが頼りよ、ちゃんと伝えてよ! お願いよ!?

 クリッとした愛らしい丸い瞳をじっと見つめてそう願う。お父さん(?)の目と違ってこの子のはビー玉みたいで可愛いのに……。

 それにしても今更ながら浮いていてよかった。多分腰が抜けて立っていられなかったと思う。何もかも見透すような真紅の双眸。
 うしろめたい事はないのに怖い。
 だからそっと、ゆっくりと、自然に……浮遊をコントロールして木々の間へと、地上へと降りていく。

「ね、ねぇアン? 私悪いことしてないわよね?」
「キ、キ、キラリ様落ち着いて、落ち着いて逃げましょう!?」

 ああダメだ。アンも十分混乱中だわ。だからたった今その逃げ出すのに失敗したじゃない。浮遊の速度じゃあのおっきな黒いのに猫パンチされて叩き落される未来が眼に浮かぶわ。

「プッ! クスクス……」

 猫パンチって猫じゃなかったわね。狼パンチ?

「姫様、お気を確かに!?」
「ふふふ。大丈夫よまだ正気よ!」
「まだ!?」

 そうまだ。もしかしたら今からおかしくなっちゃうかもしれないけれど。

「ねマロちゃん、ちゃんと……お父さん(?)に説明してよ、このお姉ちゃんにご飯もらいましたって言ってね」
「姫様……やはりお気が振れて……」
「ちょっとアン、失礼なこと言わないでくれる? もうこちらのマロちゃん様にすがるくらいしか作戦がないのよ!?」
「姫様……それは作戦なのですか……?」
「いいわ、そうまで言うのなら代替案を出してちょうだい」

 姿は見えないけれど肩のあたりにアンの感触がある。これはあれだな。何かアイディアを出せと言われて固まっているな……。

「さぁアン様の作戦をお話しくださるかしら?」

 たまには私だって反撃くらいするのよアン? ほらなんとかいいなさいよ。

「姫様ごめんなさい。私妖精界に避難しまーー」
「ズルーーーーい!! ちょっとアン、そんなのなしよ。私一人になっちゃうじゃないの!! ダメダメ却下。今の作戦案は却下します!!」

 なんでよ!? 結局私がやり込められてるじゃないの!!

「嘘ですよ姫様。最後までご一緒しますから……」

 あ……。それはヤダ。

「……いいえアン。いざとなればあなたは妖精界に戻りなさい」

 そうよ。彼女一人なら確実に助かる術がある。だったら……。

「だから姫様先ほどのことは……」
「ええわかっているわ。でもアンお願い。駄目だと判断したら帰りなさい。私はあなたに死んでほしくないの」
「ですが……」

 多分彼女は最後まで一緒にいようとする。だからその時は私が判断しなくちゃ……。キラリの大切な人を死なせるわけにはいかない。

「ーーでもその前に出来ることはしなくちゃね」

 逃げられないのならいっそこちらから……。
 マロちゃんを人質に……いやいやそれこそ命がいくつあっても足りないわね。なんとかこの子を帰して見逃してもらわなきゃ。
 ヤダ。腰が抜けてるわ私。ふふふ。自分の体なのに気がつかなかった。足もガクガク震えててとても歩けないわね。

「ひゃぁ!?」

 また顔をぺろん♪ てされた。何? 喜んでいるの? うん。大丈夫よ。ちゃんとお父さん(?)のところに帰してあげるからね。
 もう一度浮遊の魔法で浮かび上がる。腰が抜けて歩けないので地面の少し上をふわふわと魔狼王のいる方向へ向かっていく。

 間近に見る魔狼王はとても大きかった。まっすぐ正面を見ればただの黒い壁。少しずつ視線を上げていくとそこに巨大な狼の顔がある。
 森の木々の数倍はありそうだけど、普段この巨体は一体森のどこに隠れているのだろうか。ゲーム時にはそのサイズ感は分からなかったけれど、ちょっと頭のおかしいサイズである。
 もう少し常識的なサイズでいいと思うのよ。どうせ製作サイドが大きい方が強そうとかそんな理由で設定したに違いないわね。大きすぎてどうやってこんなのと戦うのか理解不能だわ。
 さて、どうしようかな。何度この巨大な森の王、魔狼王を見つめて見上げてを繰り返したのかわからないのだけれど、現時点であちらからのコンタクトはなし。一応人質……もとい狼質……もとい要救助者一名、親元に返還……みたいなつもりでマロちゃんを抱っこしているのだけれど……。
 何故か私と一緒に見つめて見上げてを繰り返すマロちゃん。お願いお姉さんを助けてよマロちゃん様。
 ちょっと、本気で泣きそうです。足腰ガクブルなのに何で少しも話が進まない……どころか始まりもしないのでしょうか?
 これ私が何かしなくちゃいけない感じですか!?

「えっと、あのぉですね……。そのつい先ほどこの子を保護してですね……それであの、泉の方へお連れしようかと思っていたのでございますのですが……」

 自分でも何言ってるのかよくわからない。それでもちゃんと言葉になっただけ偉いと思うの褒めてくれていいと思うの。ねぇアン、肩で震えてないでちょっと助けてよ。

「それでその、あのこの子、お父さん(?)様にお返しします!」

 思い切ってマロちゃんを魔狼王に差し出してみた。

「………………」

 沈黙。

「………………」

 いくら軽いマロちゃんとはいえ腕がプルプルしてきたよ。

「………………」

 なんかマロちゃんが毛づくろい? みたいな事を始めてそこで私の腕力さんが限界に達してしまいました。
 危うく落っことしそうになって慌てて抱きしめて、そこで足腰さんも一緒に限界に達して……。
 つまりその場にぺたんと尻餅をつく格好になってしまいました。

「キャッ!」

 お尻にヒヤリとした地面の感触。そうだった、下着着けてなかったわ。思い出した途端すごい恥ずかしさがこみ上げてくる。
 なんで私森の王を前にしてこんな格好なんだろう。本当に情けないわ。

「コホン。落ち着け私」

 一度大きく深呼吸。これでも私は一国のお姫様よ。ちゃんと出来るはず!

「魔狼王ガルム様。初めまして、キラリ・フロース・ヒストリアと申します。至らない点はどうかお許しください。そしてあなた様のお子様をお返ししたく思っております……。さぁマロちゃんお父さんのところへ行ってください」

 地面に降ろしてお尻を押して子狼を促す。でもいくら押してもマロちゃんは私の前に座ったまま動こうとしなかった。

「……どうしようアン」

 小声でアンに問いかける。

「私はただのお人形ですキラリ様の肩にくっついたお人形ですだからわかりません魔狼王怖いです」

 駄目だ。すでに恐怖でおかしくなってる。通りで静かでおとなしいと思った。

「あの……魔狼王様……?」

 何度目かの呼びかけ、それに始めて答えが返ってきた!?

「えっ!?」
(娘よ……感謝する)
「えっ! えっ! えっ?」

 頭の中に直接声が響く。これって魔狼王様の声なの? 物凄いイケメンボイスなんですけど!? どっちかというとイメージはどこかの神聖な帝国の皇帝みたいな人の声だったのだけど、なんだろうこれじゃ乙女ゲーの王子様だわ……。いやまてよこれ女の子が主役のエロゲー……の世界に酷似した世界よね……なんだかとても嫌な予感がするわ。
 お礼に抱いてやろうとかそういう感じの奴よね!? 俺様な感じのキャラが美少女をねっとりじっとりイチャラブするやつ? いやぁん、想像しちゃったわ!

「ーーなるほど、そのような褒美が良いのだな」

 そう王子様ボイスが頭の中に響くと突然目の前に全身黒ずくめのイケメンが現れた。

「ほえ!?」
「娘よ望み通り褒美をやろう」

 片手で軽々と抱き上げられキスされた。ちょっとまって!? 待って!? マッテ!? え、あ、何!? 何これ!? えっ!? 気持ちいい??

「ぅん……」

 真っ赤な瞳に吸い込まれそう。とても綺麗……。柔らかな唇の感触が身体中を熱くする。
 ペロリと唇を撫でるように舐められると別の意味で私は腰砕けになる。
 あまりの気持ち良さに思考が麻痺したように何も考えられなくなる。もっともっと気持ちよくなりたい。そんな想いでいっぱいになる。

「はァ……」

 離れていく唇が恋しい。もっともっと口づけをしてほしいとおねだりしたくなる。
 スラリと細いくせに物凄く逞しい身体に縋りつき自分から口づけをしてしまう。

「んんっ」

 体を走り抜ける甘い疼き。全身が性感帯になったかのような気持ちの良さ。触れたところが全部気持ちいい。
 キスが気持ちいい。そっと舌を突き出してみればぬるりと絡め取られてクチュクチュとエッチな音を響かせる。
 彼の舌が私の口内を蹂躙する。
 ピチャピチャといやらしい音がする。
 甘い吐息が溢れ出す。

「あ、んふぅ、あむ、あぁぁん、あ、あ……」

 舌を絡ませて口の中を舐められるだけなのにどうしてこんなにも気持ちがいいの!?
 体の中から熱が、何かの高まりを感じる。アソコが、あ、いやっ、ダメ……ダメぇぇっっ!?

「あぁぁぁぁぁぁんーー!」

 暖かな何かが足を伝っていく。キスだけで快楽の頂に達してしまったみたい。
 離された唇から目が離せない。二人の唾液で艶めかしく輝く唇。もっとしてほしい。

「はふッ……!?」

 口付けられただけでまた私の体が喜びに震える。
 ああ……なんてことなの……こんなにもキスされることが愛おしく感じるだなんて……。抱きしめられることがこんなにも体を熱くするだなんて……。

「お願い……もっと……もっとしてください……」

 私の口からは無意識に望みが紡がれていた。



ーーーーー
2021.02.04改稿
頑張ってエロさを追加してみました。
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