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第一章:プリンセス、冒険者になる
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しおりを挟むタートスの街から一時間ほど北に行ったところに古い砦……跡がある。その名もワッテル砦跡。当時は堅牢な石の砦だったのだけど、今ではもう殆ど崩れてしまい、申し訳程度に壁があったり、崩れた石が積み重なったりしてその痕跡を見ることが出来る程度の場所。
しかし背の低い樹木や蔦が絡まり適度な遮蔽を作り出すことから低級の魔物が頻繁に住み着く場所でもある。
ゲーム的には初期のレベル上げ用ダンジョンの役割を担っている場所……だったわね。
そんな初心者用ダンジョンへと私たち即席パーティーはやってきた。
「よし、ここが目的地だ」
「「はい!」」
それくらいは言われなくても分かりますよ、筋肉さん。
レッド、ブルー、イエローの三人が元気よく返事を返すけれど……。私は一人それどころではなかったりする。出発前にあんな事を頼まれたから、どうしようかずっと考えている。
一先ず冒険者にならなくては話にならないので一旦保留にさせてもらいはしたのだけれど、帰還後には答えを出さなくてはならない。
詳しくは引き受けてからという事で情報が少ないのだけれど、魔物の討伐だという話は聞いている。正直魔法を使えば大抵の魔物は一撃必殺できてしまうので下手に謎解きなどよりはマシよね。
さて、一旦その件は置いておきましょう。今はこのヒヨッコ達を気にしておかなくては。
私も人のことが言えない初心者なんだけれどね。
その私と比べてもとにかく危なっかしい。この子達本気で素人なのよ。村で少しばかりならしたとかではなくて。
まるでゲームの主人公みたいな感じよね。あんな風に強くなれたらいいのだけれど……ちょっとダメな気がするわ。ずっと面倒は見れないけれど、このクエストの間くらいは面倒見てあげなきゃ……。三人とも同年代だし、まだ死ぬのは早すぎるわ。
「ここからはお前達で考えて行動してみろ。クエスト内容は砦跡の魔物の討伐。増えすぎないように間引く事だ。まず何から始めるか考えてみろ」
「「はい!」」
返事だけはいいのよねこの子達。リーダーぽいイエローことタイムくんが仕切っていて、レッドのカイルくんがその相棒みたいな感じ。ブルーのラヴェルくんが……無理矢理連れてこられた感じ? いじめられっ子ではないみたいだけど、よくわからない関係だわ。
「早速探索を始めますか?」
放っておいたら何を言いだすかわからないのでちょっと誘導を……。
「そうだな、そうしよう!」
当初から一歩引いて指示を仰ぐようにしてきたのが良かったのか、割とすんなりと採用してもらえたわね。
「よし、先頭は俺とカイルで行く。キラリは真ん中にいろ。ラヴェルは一番後ろからついてこい!」
「はい、タイムさん」
ついていきますわ。とにっこり笑っておく。
道中のコボルト相手に自信をつけたのか結構先頭に立ちたがるタイムくん。でも、ジェイクさんにお膳立てしてもらった上に実は私がこっそり補助魔法をかけていたとは気がつかなかったようで……。ステ2倍ってすごいわねやっぱり。ちなみにステ2倍魔法は持続時間を伸ばして夕方くらいまでは保つようにしてある。よくよく考えるととんでもないチートよねこれ。日常生活を二倍のステで過ごしていざという時にはさらに上の力を発揮する……あら? なんだかどこかで聞いたことがあるような設定よね……。まぁいいわ。よくあることよね。
そういうわけで、ジェイクさんの監督もあるので早々危険なこともなく、順調に数体の雑魚を討伐してまわることができた。ゴブリンとかコボルトとかそういう低級の魔物を。
そろそろかしらね。これっていわゆるチュートリアルクエストだからそろそろボスモンスターが登場する頃なのよね。ゲームでも同様の流れだったから、ボスは多分ビッグパイソン。
インチキステアップ中の三人なら難なく倒せるはず。
「む!? 止まれ!」
ほら来たわね。
「どうしましたジェイクさん?」
「あそこの壁の向うに蛇のモンスターがいるのが見えた。恐らくビッグパイソンだ。今までのコボルトなどと違って少し強いモンスターだ。時間的にも丁度いい。あいつを仕留めたら切り上げよう。いいか、最後まで気を抜かずに行けよ!」
「「わかりました!!」」
三人は頷きあうと武器を構えてそっと接近して行く。あ、いえ私も一応パーティーメンバーに含まれているのよ? でも何故か少し後ろに庇われているお姫様ポジなのよ。
これで私だけ活躍してないから資格をあげられませんとかないわよね……?
壁の向こうから尻尾だけを見せているパイソンくんなのだけど、ご飯中なのかしら、随分大人しいわね。
魔物って結構気配に敏感だからいくらそっと近づいていても早々先制攻撃のチャンスなんてないのだけれど……変ね……?
それっぽくハンドサインで指示を出すしながらタイムくんとカイルくんが頷いた。振り返り私たちに向かって頷くと壁の両側から蛇に向かって切り込んで行った。
「「はぁっ!!」」
二人の声が重なる。私とラヴェルくんも蛇が見える位置に向かって走った。
「ーー!?」
そして見たのはーー!!
二首二尾の蛇!! クロスパイソン!?
「ダメッッ! 二人とも下がって!!」
「どうした!!」
後ろからジェイクさんの声。
「まずいわ! クロスパイソンよ!!」
叫びかえしながら、私は二人の前に走り出した。
「『属性剣:雷』!」
まさにカイルに襲いかかろうとしていた蛇に一撃を叩き込んだ。
何してるのよ! 早く逃げて!!
すぐ後ろでオタオタするカイル。
「あ、あ、あ……」
ダメだわ。怯えて使い物にならない!
「タイム! ラヴェル! どっちでもいいわカイルを下がらせて!!」
もう、だらしないんだから!!
鎌首をもたげて獲物をーー私を見下ろす四つの赤い目。
モタモタしてるうちに相手はしっかり戦闘態勢に移行しているじゃないの!!
尻尾の薙ぎ払いを躱したところに噛みつきが来た!
「甘いわよ!」
スピードに慣れた私にその程度の攻撃は効かないわ!! 体を捻って躱してそのまま剣の腹で顎を叩き上げてやる。剣ではダメージが与えられなくても属性剣のダメージが入っているはず。
というか、実際私の武器戦闘ではこうした魔法による追加ダメージ頼りになる。その中でも属性剣は触れるだけでダメージを与えられるなんて、よくよく考えるとずるい魔法よねこれ。
しかも使用者が私だと追加の範疇を超えるダメージを与えている。なのに……マズイわね。クロスパイソンって中盤のザコキャラだったわよね……。HP5000くらいなかったかしら? 一体あと何回叩けばいいのよ……。
「キラリ! お前も下がれ!」
うちのボスの登場ね。でもまだダメよ、後ろでモタモタしてる子たちがいるのよ。もう!!
今度は私から攻撃する。あ……こら、ちょっと!! 逃げるな!!
「ハァハァ……」
なんなのよ、叩かれると痛いと学習したのかしら? 私の射程距離に入らないように逃げられてる。もう、教育的指導よこれ!?
だいたい、私の体力は有限なのよ! これでも可弱いお嬢様なんだからね! ちょっと一旦回復よ。
「ハァハァ……『癒しの光』……」
「ーー馬鹿野郎!?」
え!? ジェイクさんの叫び声、同時に私は横から薙ぎ倒された!?
「あふっ……」
苦しい……息が……。パイソンにのしかかられてる。
「馬鹿野郎が!! 敵の目の前で回復魔法を使うなんて何を考えてやがる!!」
何ってそんなの戦闘じゃ普通じゃないの!? だってゲームではビシバシ使ってるじゃない!?
「くそ、近付けん!! キラリ、何とか自力で逃げろ! こいつの毒はヤバイ!!」
「ーー危ないっ!!」
「えっ!?」
叫び声と私の視界を横切る青い何か。
「「ラヴェルーーーーー!!」」
タイムとカイルの絶叫でそれが何かを悟る。嘘……。目の前で蛇の顎に咥えこまれるラヴェル!?
「いやぁぁぁぁぁっっ!!!」
なんてことなの! 何が私が守ってあげるよ!? 私のせいで彼が犠牲になってるじゃないの!! そんなのダメよ、嫌よ!!
ダメ! もう実力を隠してる場合じゃない!!
「……『死の抱擁』」
私にのしかかってた事を後悔しなさい!
触れた相手に即死効果を与える魔法。抵抗できるものならしてみなさい。抵抗目標値は私のスキルレベルよ!!
「何だ!? 急に動きが……」
よし……。やったわ!
「……ラヴェル!」
蛇の下から這い出して駆け寄る。タイムとカイルが救出していたけれど……。
「くそ……」
「何でだよ!」
「三人で英雄になるって誓っただろう!!」
まさか……!? 血だらけの彼の姿が視界に入った!! 一目でマズイとわかる様子。考えてる場合じゃない、やれるだけのことをしなくちゃ!
「どいて! ラヴェル死なないで!! 『完全回復』!!」
上級回復魔法を発動させる。この世界には蘇生魔法はない。死は絶対的な敗北なのよ。だからお願い、間に合って……。
トクン……トクン……。
抱きしめたラヴェルの胸から鼓動が聞こえる。
トクン……トクン……。
間に合ったの?
「う……うぅ……キラリ……さん?」
「ラヴェル!? だい……じょうぶ?」
顔を上げるとラヴェルの顔がすぐ目の前にあった。先ほどまでの青白い色ではなく、ちゃんと血の通った肌の色。
「よかったよぉ……」
頰を涙が伝った。
本当に良かった。私を庇って死ぬなんて無駄な事にならなくて、本当に良かった……。
「あ、あのキラリさん……怪我はない?」
「バカ! 私よりも自分の心配をしなさい!」
「そう、無事ならそれでいいよ」
そう言って微笑む。あら、ちょっと可愛いかも……。
「よくねーよこの馬鹿!」
「何カッコつけてんだよ」
友人二人が泣きながら怒っている。馬鹿だなんだとラヴェルを責める。
「あ、ごめんなさい。ずっと抱きついてしまっていたわ」
急に恥ずかしくなってきた。
同時に冷静になってくると色々やらかしてしまったことに気がつく。
まず咄嗟のことだったとはいえ『完全回復』の魔法を使ったこと。少なくともジェイクさんにはレベル8以上だと気付かれたとみていい。『死の抱擁』はこっそり使ったし多分大丈夫。あっちに気がつかれてたら私終了のお知らせが必要になるわね。だってレベル10魔法だもの。
それと場の雰囲気に呑まれてしまったけれど、よくよく考えるとラヴェルが瀕死のダメージを受けるなんて事はないはずなのよ……。だって私『装備強化』を四倍がけしたもの。例え彼らの安い革鎧でも50くらいの防御値にはなるはず。そうするとただの噛みつき攻撃くらいは擦り傷程度しかダメージ通らないと思うの……。
多分あの血も彼のものじゃないわね。
うわぁ~恥ずか死ぬわ……。
何ヒロインみたいなことしちゃってるのよ!? 何が「ラヴェル死なないで!」よ。こんなの完全に黒歴史じゃないのよ。
ーーーーー
2021.02.12改稿
誤字脱字の修正。
戦闘シーンはやっぱり苦手。一人称だと書き辛いのは確かだけれどそれでもねぇ……。
だからこの辺りは今チェックしてもあまり加筆できないのです。
10
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