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第二章:プリンセス、岐路に立つ
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「ーー美味しい!」
キラリ姫の記憶の中にこれほどのものはない。人間っていいな。こんなにも美味しいケーキが食べられて……。
「えっと、少しくらい疑ったりしないのかしら?」
全く遠慮もなくケーキをいただく私に驚く聖女様。
「疑った方が良かったのですか?」
「そういう意味ではなくて、もっとこう色々な事に警戒をしているのではないかと……。それこそ私のお皿と取り替えたりといった駆け引きがあるのではと思っていたのですけれど……」
どこのサスペンスものよそれ……。
「ーー確かに、このような時間に教えてもいない宿泊先に訪ねてくる不審者を信頼するのはどうかと思いますが……。それでも癒しの聖女と呼ばれるような方が何かをするなどという事はありえないでしょう」
「ふ、不審者呼ばわり……」
あ、ショックを受けてるわね。自分の行動の不審さに全く思い至らなかったのかしらこの人?
「ーー聖女様?」
「え、ええ、そうだわ。もちろんよ! これでも癒しの聖女だなんて呼ばれているのよ? わ、悪いことなんて考えるわけないじゃないの!」
動揺する聖女様。その様子はかえって怪しいです。(苦笑)
本当はそこまで信頼している訳ではないのだけれど、それは言わない方がいいわね。
でもこのケーキ本当に美味しいわ。人気という話も頷けるわね。
もう一口分フォークで小さくカットして口に入れる。クリームの上品な甘さとバニラの風味。果物の甘酸っぱさが絶妙なバランスでとっても美味しい。
「ホント、美味しいです。聖女様もどうぞ。お話はそれからにしませんか?」
「そ、そうね。いただくわ……」
温かい紅茶を一口。気持ちを落ち着けようと必死ね。そもそもあまりそういったことは得意じゃなさそう。だからこそ癒しの聖女なのかしら。
フォークを使ってケーキを一口。小さな唇がとても可愛いらしい。
昼間会った時はサイドをくるんと巻いていたけれど今はストレートに降ろしている。少しだけ緩くウェーブがかってはいるけれど、ずっと大人びて見える。
歳は……そうね、二十代前半。聖女として各地を巡っているようだから恐らく結婚はまだね。もしかすると初体験すらまだかも。あの胸が手付かずだなんて世界的な損失だわ。誉ある最初の一揉みを私が……いけないいけない。またおかしな方向に思考が進んでいるわ。
それに予想通りならあまり触れない方がいい話題よねこれ。この世界では多くが十代で結婚する。二十歳過ぎたら……。うん、触らぬ神に祟りなし……ね。
それにしても聖女というのも大変なのね……目の前の可愛らしい女性を見ながらそんな事を考えてしまった。
「ふぅ~」
「落ち着きましたか?」
二人ともケーキを完食して、紅茶でホッと一息。聖女様も落ち着いた様子。
「ありがとう、もう大丈夫よ。私ね、こういう事にあまり慣れていないの。十三の時から教会で聖女見習いとして働き始めたから、同世代の友人とか居なくて、こんな風にお茶をしたことも数えるくらいしかないのよ……」
「大変ですね、聖女様というのも……」
教会か……聖女を有する魔物の討伐機関。いわゆる宗教的なものではなくて国の一機関だ。魔物ーー魔族とその眷属の討伐とそれによる被害の救済。その最前線に立って活躍するのが聖女だ。男性の場合は聖騎士と呼ばれる。
女性の討伐者、聖女の女の文字には姫の意味が込められているらしい。なんでも、聖男の音が悪かったから騎士にした。そうすると聖女の方はそのままでいいのかという話になり、 当初は姫の字を当てようとしたそうだが、聖姫の字面に違和感を感じて聖女に落ち着いたーーらしい。
すごくどうでもいい話だけれど。
彼女からはそのような凄惨な討伐者のイメージは湧かないけれど、聖女である以上それなりに戦いもこなせるはず。それこそ数少ない精鋭なのだから。
ちなみに魔王にとって宿敵とも言える聖女と教会の聖女は無関係だ。『聖女』スキルがあるかどうかが重要でそれは予言の勇者も同様。あくまで『勇者』スキルを持つ真の勇者のみが魔王を倒し得る存在である。そして聖女はその補佐を担う存在。
「そうなのよ、この前もね異常繁殖したゴブリンの討伐とかさせられて大変だったのよ!?」
「そういうのって騎士団の仕事じゃないんですか? それか冒険者とか?」
「いいえ、それこそ教会がメインですわね」
そうなる……のかしらね。
「騎士団は原則として治安維持といざという時の戦力ね。冒険者はその程度で強制クエストの発動はできないのよ。報酬とのバランスが取れないから。そうなるとランニングコスト的に優れるのが教会というわけ。魔物討伐が本業の上特別な手続きも不要なら国としては教会一択ね」
「なるほど……」
「それにしても数百匹のゴブリン討伐を聖女五人でやってこいって言われたのはさすがに……ちょっと大変だったわ」
冒険者の討伐クエストでゴブリンはFランクなのだけれど、それはあくまで数匹程度から多くても十数匹の話。ゴブリンは確かに弱い魔物なのだけれど繁殖力がとても高くてすぐに数が増える。そして数が増えるとその厄介さも跳ね上がる。百匹クラスでCランクに。数百匹とかならならBどころかAランクになってしまう。それでも個々は弱いので数を集めれば討伐自体はそれほど困難ではない。それを五人で討伐した上で「ちょっと大変」とは……やはり聖女とはかなりの戦力よね。
「そんなにたくさんなのに全員無事に討伐を完了してしまうなんて凄いです。聖女様ってとってもお強いんですね」
「当然よ。その為に日々鍛えているのですから。でもね、同じ年頃の娘たちが結婚して子供を産んでって聞くとなんだかなーってなっちゃうのよ……」
うわーすごい哀愁が漂ってるわ……。
「でも、後悔はされてないんですよね?」
「……そうね。もしもあの日に戻れるとしても……私はきっとまた聖女になる事を選ぶと思うわ」
「強いんですね……ソフィス様は……」
「そんな事は……ないわ……」
私だったら、もしも選べるのなら……桃色は選びません。絶対に。
……聖女と比べるのが間違ってるような気がしなくもないけれど。
それっきり聖女様は黙ってしまった。まるであの日に置き忘れてきた何かを思い出しているようでほんの少し話しかけ辛かった。
静かな部屋に時折カップを置く小さな音と食器が触れ合う音だけがまるで時を刻むかのように響く。
なんだか私までこの雰囲気に飲まれて少しセンチメンタルな気持ちになっている気がする。
「ぅん……お姉ちゃん……」
シーラくんの小さな寝言で止まった時間がゆっくりと動き始めた。
「ーーそろそろ時間も時間ですし、今日はこの辺でお開きにしませんかソフィス様。次は私が何か美味しいものを用意しますね」
「そうね、すっかり遅くなってしまったわね。また今度ゆっくりお茶をしましょうね」
「はい」
「それじゃまたねーー」
ニコニコ。
ニコニコ。
「ーーって違うでしょ!? 危うく流されるところでしたわ。全く油断も隙もありませんわね……」
「チッ……」
立ち上がりかけていたのに……バレたか……。
「でも時間が時間なのは事実ですわね、だから単刀直入に言います。あなた何者?」
「えっと……どこにでもいる普通の女の子?」
「そんなわけないでしょ? 私が鑑定の魔法をかけたのに読めた情報がごく僅かだったのよ?」
なるほど、鑑定魔法は魔法スキルのレベルに依存して情報を読み取る。同時に相手の魔法スキルによってその効果が阻まれる。
つまり、私から情報を読み取れる者は存在しない事になる。おそらく、名前すら読み取れなかったのではないだろうか。確かに、異常だわ。もしも聖女様が10レベルの魔法使いなら、そんな事はありえない。
つまり私の魔法スキルのレベルが高すぎてかえって疑わしい結果となってしまったわけだ。
正直これは対処のしようがない。鑑定されるような状況を作らないようにするしかない。
「それにしても無断で鑑定するなんて酷いですね……」
「うっ……それは……」
ふむ。やっぱり常識とかそういう事を重んじるのね。
「聖女様ともあろうお方が何というモラルのない行動を取られた事でしょうか」
「うぅ……」
「広く民を救う聖女様としてあるまじき行為ではありませんか?」
「それは……」
「それは?」
「そ、それはあなたの報告に気になる事があるからよ! そうよ、どうして痴漢程度の対応がままならない娘が白帝を退けられるの? 不思議に思っても仕方がないでしょう?」
なるほど、どこかで見たことがあると思っていたけど、あの時の女の人が聖女様だったのね。
「ルクスさんのお仲間さん?」
「ええ、そうよ。白帝を退けた冒険者の宣告を解除してほしい。そう頼まれて貴女と会った。あなたは私に気がつかなかったようだけれど、私は一目であの時の娘だと気づいたわ。そしてあの程度の男の対応が出来ないのにどうやって白帝を退けられたのか? 何か報告していない事があるのではないか? 待っている間に疑問が膨らんで大変だったわ」
「うーん……」
「どうしたのかしら? 何か後ろめたいことでもあるの?」
「ルクスさんには内緒にしてもらえますか?」
「内容によるわね」
「ハァ……。まぁ別にいいんですけどね彼に伝わっても」
「何の事?」
「いえ、まず痴漢の対応がままならなかったのではなく、もう一人の存在に気がついていましたので様子を見ていました」
「……ルクスの事?」
「はい。二重尾行状態でしたから痴漢の仲間ではないとは思っていましたが、どういうつもりかは測りかねていました」
一度セリフを切って、もったいぶるように溜めてから続きを話す。あらやっぱり私女優に向いているのではないかしら?
「ーーでも、助けるならもう少し早く、かつ私と男を切り離すように動いてもらいたかったですね。様子を見るために余計なことはせずに待っていたのですけれど、さすがに「そこまでだ!」とか大声で叫びながら登場するだなんて思わないじゃないですか? 結局私は人質になってしまいました。あれ、普通の娘さんだったらアウトでしたよ? 私だったから無事に男を確保できたんですからね……。人助けはいいのですが、もう少しその辺りを何とかしてほしいですね。でないと今に犠牲者が出ますよ?」
「それは……ちょっと……あれね、あのバカに忠告しておくわ。でも彼がいなくてもどうにでもなったということね?」
「はい。これでも冒険者ですからね。自分の身ぐらい自分で守れますよ? それにあの時も結局自分で対応しましたしね」
「……そういえば隙をついて貴女が投げ飛ばしたのでしたわね……」
「はい。彼がいなければ最初から私が対処するつもりでしたから」
「ーーつまり、実力を隠そうとしていたということね。それこそ何か後ろめたい事があるからではないの?」
「冒険者が自分の手の内を隠すのは当たり前ですよ。それこそ若い女の一人旅なら当然の自衛かと思いますけど?」
「それは……」
当然聖女様にも心当たりがあるでしょうね。若い女の一人旅も経験があるでしょうし。
「それでも変よ、おかしいわ! 私の鑑定魔法で名前すら読み取れないだなんて!?」
さて、ここからが問題ね。上手く誤魔化せるかしら?
「……鑑定魔法は簡単に誤魔化す事ができます」
「嘘! そんなはずはないわ!?」
「試しにもう一度私を鑑定してみませんか?」
聖女様に向かって右手を差し出す。鑑定魔法は対象に直接触れている必要がある。
昼間は完全に私の注意不足だわ。今後は要注意ね。
躊躇いがちに聖女が触れた瞬間、彼女の魔力を感じた。
「『鑑定』」
私の中に忍び込んでくる彼女の魔力。そこにほんの少しちょっかいをかける。
いつのまにかーーまぁあの時だろうけれど、白帝から得た新たな力。『魔法改変』。魔法を構成する魔力に干渉してその結果を変化させる対抗スキル。
こんな凄いスキルなのに取得称号はしー……。うん、シーラくんて何者なの!?
そして覚えたての私でもこれくらいのことはできる。鑑定結果の改ざんくらいならね。
「なっ!? 何で貴女の名前がソフィス・ディケイドなの!? 年は二十七って、私はまだ二十三よ!! それにちょっとまって、何でスリーサイズとかが記載されてるの!? いやぁ!! 微妙に一致してて恥ずかしい!?」
聖女様が涙目になって睨んできた。
「あら、意外とお若かったのですね? サイズは目測ですがいい線いってましたか? 私の眼力も捨てたものではありませんね」
「どういうこと? こんな事あり得ないわ!?」
まるで恐ろしいものでも見るような目。自分自身の手を、体を隠すようにして体を強張らせている。
「何故ですか? 今実際に目の当たりにしたではありませんか。魔法はとても便利です。でも万能でも全能でもありません。ほぼ全ての魔法にそれに対抗する手段や魔法が存在します。今私が披露したのもそんな力の一つです。詳細は秘密ですけれど」
「そんな……そんなはずが……」
「あ、それからこの事はくれぐれも内密に……聖女様と私、二人だけの秘密ですよ?」
「そ、そういう訳にはいきません! この事は教会に報告して然るべき手段を講じなくてはーー」
そういうと思ってました。なのですでに予防線を張っています。
私は努めてにこやかに自分の胸、宣告の刻印のあるところをトントンと指で示しました。
「ーーまさか!?」
ハッとした聖女様が自身の衣服を引っ張ってーーワォ!? 生で見ると凄い迫力です! 巨乳万歳!!
「そんな……」
真っ赤な刻印が私と同じ場所に刻まれている。
「お揃いですね。二人だけの秘密にしましょうね、聖女様」
「ーーくっ!! やはり解除出来ない!? どうして、私は10レベルまで魔法を極めたのよ! その私がどうして解けないの!?」
「いやだなぁ聖女さま。そんな事は決まってるじゃないですか? 私の方が更に魔法を極めているからですよ」
「そんな……」
怯えた表情が少々嗜虐心を唆る。真綿で締めるようにジワジワと甚振るときっと可愛い声で鳴いてくれそうだわ……。なんて事は考えてはいません。ホントだよ? 見えないけれどアンが引いているような気がして言い訳したくなったわ。
「これで納得していただけましたよね? 痴漢の件も白帝の件も……私に相応の力があるから対処できたのだという事が。少なくとも貴女と同等の事は成せるということ。もう少し言うと貴女に成せないことも成せるということ……」
「ひっ……」
すっと指先で聖女様の胸をーー刻印を撫でる。
滑らかな素肌が指先に吸い付くようで、ほんの少し気持ちが高揚してしまったわ。
「そんなに不安そうな顔をしないでくださいよ、聖女さま。別に大層な宣告じゃありませんから。二人の秘密、大切にしましょうね?」
「そんな事が出来るわけが……」
そう宣告はあくまで時限爆弾的な状態異常の付与に過ぎない。でもここに干渉の力が組合わさると、結構色々できてしまう。
今回は私に関して不用意な発言をするとあそこにエ○チな刺激が加わるという素敵な宣告を付与しました。いかにもエロゲーっぽいでしょ?
「先程鑑定で実演しましたよね? 大丈夫ですよ。命に関わるようなものではありませんから」
「そんな……」
理解が早くて助かるわ。
「二人だけの秘密ってちょっと憧れてたんですよ私。だから誰にも話しちゃダメですよ? でもどうしても話したいのであれば止めませんけれど、それでも男の人に話すのはやめた方がいいですね」
「………………ルクスに話すなという事?」
「いいえ。聖女様が気にしないのでしたらいいですよ。男性にお話ししても。でもああいう表情は好きな人にだけ見せるものだと思いますので、せめて他の女性のお仲間の方がいいとは思いますよ? もちろん一番は二人の秘密がいいのですけれどもね?」
「………………」
さて、そろそろお開きですね……。
「ケーキご馳走様でした。またいつか何処かでお話ししましょうね聖女さま」
「……は……い……」
こうして夜のお茶会は幕を閉じました。
こうするしかなかったのか、私自身後味の悪い結果になってしまいました。
======
名前:キラリ・フロース・ヒストリア
種族:桃色魔族
性別:女
年齢:16
レベル:202(+14)
生命力:100/100
魔力:9999/9999
体力:20
筋力:20
敏捷力:120(+100)
知力:70(+50)
器用さ:40(+20)
精神力:20
運:40
基本スキル/名称:レベル
・礼儀作法:4
・魔法:100
・受胎制御:10
・魔狼招来:2(UP)
・魔法改変:1(NEW)
パッシブスキル/名称:レベル
・耐性(快楽):-10
・誘惑:8
・依存(快楽):10
・属性(M):3
・百合の花園:3
・調教:1(NEW)
特殊スキル/名称:レベル
▲種族特性:桃色魔族
・依存(快楽)スキル取得
・耐性(快楽)スキル取得
・誘惑スキル取得
・受胎制御スキル取得
・特殊成長タイプ(愛)
・レベル限界突破
▲種族特性:スライム
・軟体
・吸収
・媚薬体液
▲魔狼王の加護
・敏捷力+100
・敏捷力限界突破
・魔狼招来スキル取得
▲百合の烙印
・器用さ+20
・百合の花園スキル取得
▲シーラのお姉ちゃん(NEW)
・知力+50
・魔法改変スキル取得
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キラリ姫の記憶の中にこれほどのものはない。人間っていいな。こんなにも美味しいケーキが食べられて……。
「えっと、少しくらい疑ったりしないのかしら?」
全く遠慮もなくケーキをいただく私に驚く聖女様。
「疑った方が良かったのですか?」
「そういう意味ではなくて、もっとこう色々な事に警戒をしているのではないかと……。それこそ私のお皿と取り替えたりといった駆け引きがあるのではと思っていたのですけれど……」
どこのサスペンスものよそれ……。
「ーー確かに、このような時間に教えてもいない宿泊先に訪ねてくる不審者を信頼するのはどうかと思いますが……。それでも癒しの聖女と呼ばれるような方が何かをするなどという事はありえないでしょう」
「ふ、不審者呼ばわり……」
あ、ショックを受けてるわね。自分の行動の不審さに全く思い至らなかったのかしらこの人?
「ーー聖女様?」
「え、ええ、そうだわ。もちろんよ! これでも癒しの聖女だなんて呼ばれているのよ? わ、悪いことなんて考えるわけないじゃないの!」
動揺する聖女様。その様子はかえって怪しいです。(苦笑)
本当はそこまで信頼している訳ではないのだけれど、それは言わない方がいいわね。
でもこのケーキ本当に美味しいわ。人気という話も頷けるわね。
もう一口分フォークで小さくカットして口に入れる。クリームの上品な甘さとバニラの風味。果物の甘酸っぱさが絶妙なバランスでとっても美味しい。
「ホント、美味しいです。聖女様もどうぞ。お話はそれからにしませんか?」
「そ、そうね。いただくわ……」
温かい紅茶を一口。気持ちを落ち着けようと必死ね。そもそもあまりそういったことは得意じゃなさそう。だからこそ癒しの聖女なのかしら。
フォークを使ってケーキを一口。小さな唇がとても可愛いらしい。
昼間会った時はサイドをくるんと巻いていたけれど今はストレートに降ろしている。少しだけ緩くウェーブがかってはいるけれど、ずっと大人びて見える。
歳は……そうね、二十代前半。聖女として各地を巡っているようだから恐らく結婚はまだね。もしかすると初体験すらまだかも。あの胸が手付かずだなんて世界的な損失だわ。誉ある最初の一揉みを私が……いけないいけない。またおかしな方向に思考が進んでいるわ。
それに予想通りならあまり触れない方がいい話題よねこれ。この世界では多くが十代で結婚する。二十歳過ぎたら……。うん、触らぬ神に祟りなし……ね。
それにしても聖女というのも大変なのね……目の前の可愛らしい女性を見ながらそんな事を考えてしまった。
「ふぅ~」
「落ち着きましたか?」
二人ともケーキを完食して、紅茶でホッと一息。聖女様も落ち着いた様子。
「ありがとう、もう大丈夫よ。私ね、こういう事にあまり慣れていないの。十三の時から教会で聖女見習いとして働き始めたから、同世代の友人とか居なくて、こんな風にお茶をしたことも数えるくらいしかないのよ……」
「大変ですね、聖女様というのも……」
教会か……聖女を有する魔物の討伐機関。いわゆる宗教的なものではなくて国の一機関だ。魔物ーー魔族とその眷属の討伐とそれによる被害の救済。その最前線に立って活躍するのが聖女だ。男性の場合は聖騎士と呼ばれる。
女性の討伐者、聖女の女の文字には姫の意味が込められているらしい。なんでも、聖男の音が悪かったから騎士にした。そうすると聖女の方はそのままでいいのかという話になり、 当初は姫の字を当てようとしたそうだが、聖姫の字面に違和感を感じて聖女に落ち着いたーーらしい。
すごくどうでもいい話だけれど。
彼女からはそのような凄惨な討伐者のイメージは湧かないけれど、聖女である以上それなりに戦いもこなせるはず。それこそ数少ない精鋭なのだから。
ちなみに魔王にとって宿敵とも言える聖女と教会の聖女は無関係だ。『聖女』スキルがあるかどうかが重要でそれは予言の勇者も同様。あくまで『勇者』スキルを持つ真の勇者のみが魔王を倒し得る存在である。そして聖女はその補佐を担う存在。
「そうなのよ、この前もね異常繁殖したゴブリンの討伐とかさせられて大変だったのよ!?」
「そういうのって騎士団の仕事じゃないんですか? それか冒険者とか?」
「いいえ、それこそ教会がメインですわね」
そうなる……のかしらね。
「騎士団は原則として治安維持といざという時の戦力ね。冒険者はその程度で強制クエストの発動はできないのよ。報酬とのバランスが取れないから。そうなるとランニングコスト的に優れるのが教会というわけ。魔物討伐が本業の上特別な手続きも不要なら国としては教会一択ね」
「なるほど……」
「それにしても数百匹のゴブリン討伐を聖女五人でやってこいって言われたのはさすがに……ちょっと大変だったわ」
冒険者の討伐クエストでゴブリンはFランクなのだけれど、それはあくまで数匹程度から多くても十数匹の話。ゴブリンは確かに弱い魔物なのだけれど繁殖力がとても高くてすぐに数が増える。そして数が増えるとその厄介さも跳ね上がる。百匹クラスでCランクに。数百匹とかならならBどころかAランクになってしまう。それでも個々は弱いので数を集めれば討伐自体はそれほど困難ではない。それを五人で討伐した上で「ちょっと大変」とは……やはり聖女とはかなりの戦力よね。
「そんなにたくさんなのに全員無事に討伐を完了してしまうなんて凄いです。聖女様ってとってもお強いんですね」
「当然よ。その為に日々鍛えているのですから。でもね、同じ年頃の娘たちが結婚して子供を産んでって聞くとなんだかなーってなっちゃうのよ……」
うわーすごい哀愁が漂ってるわ……。
「でも、後悔はされてないんですよね?」
「……そうね。もしもあの日に戻れるとしても……私はきっとまた聖女になる事を選ぶと思うわ」
「強いんですね……ソフィス様は……」
「そんな事は……ないわ……」
私だったら、もしも選べるのなら……桃色は選びません。絶対に。
……聖女と比べるのが間違ってるような気がしなくもないけれど。
それっきり聖女様は黙ってしまった。まるであの日に置き忘れてきた何かを思い出しているようでほんの少し話しかけ辛かった。
静かな部屋に時折カップを置く小さな音と食器が触れ合う音だけがまるで時を刻むかのように響く。
なんだか私までこの雰囲気に飲まれて少しセンチメンタルな気持ちになっている気がする。
「ぅん……お姉ちゃん……」
シーラくんの小さな寝言で止まった時間がゆっくりと動き始めた。
「ーーそろそろ時間も時間ですし、今日はこの辺でお開きにしませんかソフィス様。次は私が何か美味しいものを用意しますね」
「そうね、すっかり遅くなってしまったわね。また今度ゆっくりお茶をしましょうね」
「はい」
「それじゃまたねーー」
ニコニコ。
ニコニコ。
「ーーって違うでしょ!? 危うく流されるところでしたわ。全く油断も隙もありませんわね……」
「チッ……」
立ち上がりかけていたのに……バレたか……。
「でも時間が時間なのは事実ですわね、だから単刀直入に言います。あなた何者?」
「えっと……どこにでもいる普通の女の子?」
「そんなわけないでしょ? 私が鑑定の魔法をかけたのに読めた情報がごく僅かだったのよ?」
なるほど、鑑定魔法は魔法スキルのレベルに依存して情報を読み取る。同時に相手の魔法スキルによってその効果が阻まれる。
つまり、私から情報を読み取れる者は存在しない事になる。おそらく、名前すら読み取れなかったのではないだろうか。確かに、異常だわ。もしも聖女様が10レベルの魔法使いなら、そんな事はありえない。
つまり私の魔法スキルのレベルが高すぎてかえって疑わしい結果となってしまったわけだ。
正直これは対処のしようがない。鑑定されるような状況を作らないようにするしかない。
「それにしても無断で鑑定するなんて酷いですね……」
「うっ……それは……」
ふむ。やっぱり常識とかそういう事を重んじるのね。
「聖女様ともあろうお方が何というモラルのない行動を取られた事でしょうか」
「うぅ……」
「広く民を救う聖女様としてあるまじき行為ではありませんか?」
「それは……」
「それは?」
「そ、それはあなたの報告に気になる事があるからよ! そうよ、どうして痴漢程度の対応がままならない娘が白帝を退けられるの? 不思議に思っても仕方がないでしょう?」
なるほど、どこかで見たことがあると思っていたけど、あの時の女の人が聖女様だったのね。
「ルクスさんのお仲間さん?」
「ええ、そうよ。白帝を退けた冒険者の宣告を解除してほしい。そう頼まれて貴女と会った。あなたは私に気がつかなかったようだけれど、私は一目であの時の娘だと気づいたわ。そしてあの程度の男の対応が出来ないのにどうやって白帝を退けられたのか? 何か報告していない事があるのではないか? 待っている間に疑問が膨らんで大変だったわ」
「うーん……」
「どうしたのかしら? 何か後ろめたいことでもあるの?」
「ルクスさんには内緒にしてもらえますか?」
「内容によるわね」
「ハァ……。まぁ別にいいんですけどね彼に伝わっても」
「何の事?」
「いえ、まず痴漢の対応がままならなかったのではなく、もう一人の存在に気がついていましたので様子を見ていました」
「……ルクスの事?」
「はい。二重尾行状態でしたから痴漢の仲間ではないとは思っていましたが、どういうつもりかは測りかねていました」
一度セリフを切って、もったいぶるように溜めてから続きを話す。あらやっぱり私女優に向いているのではないかしら?
「ーーでも、助けるならもう少し早く、かつ私と男を切り離すように動いてもらいたかったですね。様子を見るために余計なことはせずに待っていたのですけれど、さすがに「そこまでだ!」とか大声で叫びながら登場するだなんて思わないじゃないですか? 結局私は人質になってしまいました。あれ、普通の娘さんだったらアウトでしたよ? 私だったから無事に男を確保できたんですからね……。人助けはいいのですが、もう少しその辺りを何とかしてほしいですね。でないと今に犠牲者が出ますよ?」
「それは……ちょっと……あれね、あのバカに忠告しておくわ。でも彼がいなくてもどうにでもなったということね?」
「はい。これでも冒険者ですからね。自分の身ぐらい自分で守れますよ? それにあの時も結局自分で対応しましたしね」
「……そういえば隙をついて貴女が投げ飛ばしたのでしたわね……」
「はい。彼がいなければ最初から私が対処するつもりでしたから」
「ーーつまり、実力を隠そうとしていたということね。それこそ何か後ろめたい事があるからではないの?」
「冒険者が自分の手の内を隠すのは当たり前ですよ。それこそ若い女の一人旅なら当然の自衛かと思いますけど?」
「それは……」
当然聖女様にも心当たりがあるでしょうね。若い女の一人旅も経験があるでしょうし。
「それでも変よ、おかしいわ! 私の鑑定魔法で名前すら読み取れないだなんて!?」
さて、ここからが問題ね。上手く誤魔化せるかしら?
「……鑑定魔法は簡単に誤魔化す事ができます」
「嘘! そんなはずはないわ!?」
「試しにもう一度私を鑑定してみませんか?」
聖女様に向かって右手を差し出す。鑑定魔法は対象に直接触れている必要がある。
昼間は完全に私の注意不足だわ。今後は要注意ね。
躊躇いがちに聖女が触れた瞬間、彼女の魔力を感じた。
「『鑑定』」
私の中に忍び込んでくる彼女の魔力。そこにほんの少しちょっかいをかける。
いつのまにかーーまぁあの時だろうけれど、白帝から得た新たな力。『魔法改変』。魔法を構成する魔力に干渉してその結果を変化させる対抗スキル。
こんな凄いスキルなのに取得称号はしー……。うん、シーラくんて何者なの!?
そして覚えたての私でもこれくらいのことはできる。鑑定結果の改ざんくらいならね。
「なっ!? 何で貴女の名前がソフィス・ディケイドなの!? 年は二十七って、私はまだ二十三よ!! それにちょっとまって、何でスリーサイズとかが記載されてるの!? いやぁ!! 微妙に一致してて恥ずかしい!?」
聖女様が涙目になって睨んできた。
「あら、意外とお若かったのですね? サイズは目測ですがいい線いってましたか? 私の眼力も捨てたものではありませんね」
「どういうこと? こんな事あり得ないわ!?」
まるで恐ろしいものでも見るような目。自分自身の手を、体を隠すようにして体を強張らせている。
「何故ですか? 今実際に目の当たりにしたではありませんか。魔法はとても便利です。でも万能でも全能でもありません。ほぼ全ての魔法にそれに対抗する手段や魔法が存在します。今私が披露したのもそんな力の一つです。詳細は秘密ですけれど」
「そんな……そんなはずが……」
「あ、それからこの事はくれぐれも内密に……聖女様と私、二人だけの秘密ですよ?」
「そ、そういう訳にはいきません! この事は教会に報告して然るべき手段を講じなくてはーー」
そういうと思ってました。なのですでに予防線を張っています。
私は努めてにこやかに自分の胸、宣告の刻印のあるところをトントンと指で示しました。
「ーーまさか!?」
ハッとした聖女様が自身の衣服を引っ張ってーーワォ!? 生で見ると凄い迫力です! 巨乳万歳!!
「そんな……」
真っ赤な刻印が私と同じ場所に刻まれている。
「お揃いですね。二人だけの秘密にしましょうね、聖女様」
「ーーくっ!! やはり解除出来ない!? どうして、私は10レベルまで魔法を極めたのよ! その私がどうして解けないの!?」
「いやだなぁ聖女さま。そんな事は決まってるじゃないですか? 私の方が更に魔法を極めているからですよ」
「そんな……」
怯えた表情が少々嗜虐心を唆る。真綿で締めるようにジワジワと甚振るときっと可愛い声で鳴いてくれそうだわ……。なんて事は考えてはいません。ホントだよ? 見えないけれどアンが引いているような気がして言い訳したくなったわ。
「これで納得していただけましたよね? 痴漢の件も白帝の件も……私に相応の力があるから対処できたのだという事が。少なくとも貴女と同等の事は成せるということ。もう少し言うと貴女に成せないことも成せるということ……」
「ひっ……」
すっと指先で聖女様の胸をーー刻印を撫でる。
滑らかな素肌が指先に吸い付くようで、ほんの少し気持ちが高揚してしまったわ。
「そんなに不安そうな顔をしないでくださいよ、聖女さま。別に大層な宣告じゃありませんから。二人の秘密、大切にしましょうね?」
「そんな事が出来るわけが……」
そう宣告はあくまで時限爆弾的な状態異常の付与に過ぎない。でもここに干渉の力が組合わさると、結構色々できてしまう。
今回は私に関して不用意な発言をするとあそこにエ○チな刺激が加わるという素敵な宣告を付与しました。いかにもエロゲーっぽいでしょ?
「先程鑑定で実演しましたよね? 大丈夫ですよ。命に関わるようなものではありませんから」
「そんな……」
理解が早くて助かるわ。
「二人だけの秘密ってちょっと憧れてたんですよ私。だから誰にも話しちゃダメですよ? でもどうしても話したいのであれば止めませんけれど、それでも男の人に話すのはやめた方がいいですね」
「………………ルクスに話すなという事?」
「いいえ。聖女様が気にしないのでしたらいいですよ。男性にお話ししても。でもああいう表情は好きな人にだけ見せるものだと思いますので、せめて他の女性のお仲間の方がいいとは思いますよ? もちろん一番は二人の秘密がいいのですけれどもね?」
「………………」
さて、そろそろお開きですね……。
「ケーキご馳走様でした。またいつか何処かでお話ししましょうね聖女さま」
「……は……い……」
こうして夜のお茶会は幕を閉じました。
こうするしかなかったのか、私自身後味の悪い結果になってしまいました。
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名前:キラリ・フロース・ヒストリア
種族:桃色魔族
性別:女
年齢:16
レベル:202(+14)
生命力:100/100
魔力:9999/9999
体力:20
筋力:20
敏捷力:120(+100)
知力:70(+50)
器用さ:40(+20)
精神力:20
運:40
基本スキル/名称:レベル
・礼儀作法:4
・魔法:100
・受胎制御:10
・魔狼招来:2(UP)
・魔法改変:1(NEW)
パッシブスキル/名称:レベル
・耐性(快楽):-10
・誘惑:8
・依存(快楽):10
・属性(M):3
・百合の花園:3
・調教:1(NEW)
特殊スキル/名称:レベル
▲種族特性:桃色魔族
・依存(快楽)スキル取得
・耐性(快楽)スキル取得
・誘惑スキル取得
・受胎制御スキル取得
・特殊成長タイプ(愛)
・レベル限界突破
▲種族特性:スライム
・軟体
・吸収
・媚薬体液
▲魔狼王の加護
・敏捷力+100
・敏捷力限界突破
・魔狼招来スキル取得
▲百合の烙印
・器用さ+20
・百合の花園スキル取得
▲シーラのお姉ちゃん(NEW)
・知力+50
・魔法改変スキル取得
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