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第二章:プリンセス、岐路に立つ
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「ーーリュート!?」
朱雀の姫スウォンが緑の髪の少年ーーリュートくんと言うらしいに駆け寄ってきた。
少々精神的なダメージを与えすぎてしまったようで弱々しく体を震わせる彼の様子は戦い以前の自信に満ちた様子はかけらもなかった。
そんな彼をみて朱雀の姫が私を睨みつけてきた。
「酷い……ここまでする必要はーー」
「ないーーとどうしてあなたが言い切れるの?」
言いたい事は分からなくもない。でも互いに相手の想いを否定するような幻覚による攻撃をしあった結果がこれ。
「くっ……!?」
「そういえば彼はあなたがやれと言った……みたいな事を言っていたわね。そう言う事でいいのかしら? だとすれば……あなたにもお仕置きが必要かしらね……?」
「何の話よ!? 私は何も言っていないわ!?」
「そう? それでも彼の主人であるあなたにも責任の一端はあるわよね? あとで少しお話をしましょうね、スウォン様?」
「ひぃっ……な、何をするつもりよ!?」
「……お・は・な・し……と申し上げましたが? 何か他にもありますか?」
「な、何もないわよ! いいわ、話くらい聞いてあげるわ。リュートをこんな風にした事を後悔させてあげるわ!!」
「ええ、是非……。それではまた後程……うふふ」
……あら? なんだか私の方が悪者みたいなんですけど? おかしいわね……どうしてこうなったのかしら?
まだ呆然とした様子の緑の髪の少年に呼びかける赤い髪の少女。そんな二人の様子はなんだかとっても主人公ぽい感じに見えた。
なんだかなぁ~……。
「ーーそろそろ良いかスウォン。早く従者を連れて下がれ。それからキラリと言ったか、お前このまま二戦目を戦え」
スウォン姫と話し終え私も下がろうとしたその時、金髪美女ーーもとい、天空王が面倒な事を言い出した。
「何故だ! 王よ、連戦ではこちらが不利になる!」
シーラくんが抗議の声を上げる。しかし天空王はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら話を続けた。
「不利も何も全く消耗しておらんだろう? 精神攻撃だかなんだか知らんが、ものの数秒で決着がついたではないか。そいつの力を見定めるも何もない。それにな、このままそいつが連勝すれば最短三試合で決着がつくぞ?」
「なっ!?」
確かに消耗はしていないけれど、そんな適当でいいのかしら? だいたい他の候補者はそれで納得するの?
「勝った者がその場に残り全員に勝った時点で決着とする。面倒だ、これでいく」
「しかしーー」
「シーラ様、私なら大丈夫です」
天空王がこうまではっきり言い切ったのだ。どう抗っても変わりそうにない。それがわかっているからか他の候補者からも異論の声は上がらない。現時点で一番不利益を被るのは私たちだからそれはそうかもしれないけれど。
「よし、次はシュルト、お前がいけ」
「かしこまりました。ではアームズ、いきなさい」
「………………」
玄武の継承候補者。次の相手はあの禍々しい気配の鎧の人か……。
三倍のままで大丈夫かしらね……。
「それでは第二戦、始め!」
「フン!」
巨大な黒鎧に巨大な黒剣。
揃いの金の意匠が刻まれている。セット装備ね。どんな特殊なスキルが付与されているか……鑑定して見たいわね。
「……イクゾ!!」
「ーー速い!」
予想よりも速い振り下ろしを横に飛んで躱す。振り下ろした切っ先がフロアにぶつかった瞬間、爆発が起きた!!
「きゃっ!」
思わず可愛らしい悲鳴をあげてしまったけれど、全くの無傷である。
でもこれは少し厄介な剣ね。衝撃(?)に反応して爆発するのでは剣で受け止められないじゃない。もともと私の短剣であの大きな剣を受け止めたりするつもりはないけれど、受け流しも出来ないだなんて結構ずるい武器よね。
しかもあのサイズの剣をブンブンと豪快に振り回して斬りつけてくる。力勝負じゃ話にならない。普通の剣でも大変なのにこの剣だと五割増しくらい大変よね。
避けるのも一苦労よ。
「チョコマカトニゲオッテ……」
酷い言いがかりよね……。受けたら爆発する剣を振り回してる癖に避けるなって本気で言ってるのかしら?
「受けたら爆発するのに避ける以外にどうすればいいのよ?」
ちょっと文句を言ってみる。
一旦、剣戟がやむ。
「……タシカニ……」
あ、納得された。
「デハアタルマデヨケロ!」
避ける事には納得したみたい。なんか面白いやつね。言葉のイントネーションとかもロボットみたいにちょっと機械的な感じで……。
「はーい。避けまーす」
取り敢えず避けられるだけ避けてみよう。これくらいなら十分対応できるから。
「ハッ!」
「フン!!」
「トオ!!!」
「………………」
「イイカゲンアタレ!!!!」
無茶なことを言い始めた。当れと言われて当たるやつはいない。だいたい当たったら痛そうだし。爆発するし。
「うーん……」
物凄い風切り音が間近で発生しているけれど、これ当たる気がしないのよね……なんていうか、凄く単調なのよ。縦、横、縦、横……たまに斜めみたいな。それこそ機械的なのよね……この鎧、もしかしてゴーレム?
「ねぇ……いつまで続けるの?」
「アタルマデツヅケル。タイリョクムゲン」
「それは面倒ね……」
さて、どうしようかしら……。強力な魔法で吹き飛ばすのは簡単なのだけれど、それだとまた天空王が無茶な事を言い出しかねない。魔法禁止とか言われたらそれこそ死活問題だし……。仕方がない、どうにか剣で相手をしてみよう。
「………………」
まずは、受けてあげましょう!
「『魔法耐性』&『装備強化』!」
一度距離をあけてそれから迎え撃つ。
真っ直ぐに振り下ろされる巨大な剣。それを短剣で受け……流す!
いや流石に受け止めるのは無理でしょ?
切っ先が触れた瞬間、想定通り爆発が起こった。
「きゃぁぁ!!」
ーー悲鳴はサービスよ!
わかってるのに備えないなんてただの馬鹿。爆発の効果は全て『突風』の魔法で相殺した。
「ヤッタカ?」
フラグよそれは!(笑)
「ーー残念でした」
「ナニ!?」
爆発に紛れて接近、そして鎧のお腹あたりに手を触れて魔法を解き放つ。
「『凍結地獄』!」
触れたところから黒い鎧が白く凍りついていく。地獄の氷海で凍りつくがいい!!
あ、なんか魔王っぽいわね!
「ガ、ガ、ガ……」
「降参しなさい」
「マダダ」
黒剣を手放し私の両肩を掴んだ。一緒に氷漬けに成ろうってこと!? 自分の魔法で自分が氷漬けになるわけないでしょ……。
「悪足掻きはーー!?」
「『cruciare』」
謎の言葉を発した途端に鎧が突然光り始めた。まさか自爆!?
「冗談はやめてよね! ちょっと、離して!!」
自爆攻撃はダメージが大きい。物語のお約束。流石に怖いから逃げるわよ! なのに、うそ!? 物凄い力で掴まれてて動けない!!
「ククク……コレデオワリ……」
ガシャン! ガシャガシャ!! シャキーーン!!!
目の前で鎧が解体!? 違う、分解でもなくて……そう! 変形! まるで複雑な変形機構を可動させているような感じ。中心から左右に別れるように何か色々なところが開いて内側の空洞を覗かせた。
そして腕に込められた力が私をその空洞に押し込もうとしてくる。堪えようと力に対抗するけれど……ダメっ! 力じゃ敵わない!!
「いやっ!? こんなの絶対いやよ!」
だってこの後どうなるかなんて明らかじゃない!? このエ□ゲー準拠の世界で拘束してからすることなんて一つしかない!!
「やめてよね!! シーラくんの前でなんて絶対にいやよ!! ライトニンーー」
べちゃりとした何かが私に降りかかった。それが顔にくっついて声が!?
「んーーー!!」
粘性の高い液体は頭を降ったくらいでは引き剥がせない。手で取ろうにも肩から二の腕にかけて掴まれていて届かない。結局そのまま踏み止まる事も出来ずにあれよあれよと鎧の中へ押し込まれてしまう。私を取り込むと鎧は元のように戻るために再びガシャンガシャンと音を立てて変形を始めた。
あんなに大きな鎧でも中は狭い。狭いなりに手は自由に動かせるけれど、脚は無理だ。左右逆だけど鎧の脚部に入っている。ちょうど股を開いて立っているような状態だから、アレをアレし易い体勢かもしれない……。
パンツスタイルでよかった。この状況なら脱がすのも困難だろうし。でもさっさと逃げ出しましょう。幸いスライムみたいな粘液は腕さえ自由になれば簡単に引き剥がせた。
「イーヒャヒャヒャ! ヨーコソオレサマノナカヘ! イマカラタノシイジカンガハジマルヨ!! イーヒャヒャヒャーー!」
外の鎧と人格が違いすぎる……。なるほど、あの禍々しい気配はこいつか……。
「ーーこんな所すぐに出させてもらうわ!」
「オット、ソウハイカナイ。ソレ!」
べチャ、ドロ、ベチャネチョ、ベチャベチャべチャ!
「な、ン、ちょっ、んんー!」
次々と上から降ってくる粘液が私に纏わりつく。ちょっと息が……。
振り払っても振り払っても次々溢れてくる粘液。
「んん……ぷハァ、ウィンぶ! ン、ハァハァーー」
ダメ! 邪魔されて魔法が使えない。それに鎧の中がこの粘液で満たされていく!? 既に腰のあたりまで溜まっているのにまだまだ降り注いでくる!
「ン、プハァ! うぃんどぅぷ、ぷは、ウィンぶー」
ダメ! 力ある言葉を発せられない!?
粘液は胸の辺りまで迫っている。
物凄い勢いで降り注ぐ粘液はあっという間に私の体の自由を奪い取る。体の自由を奪われ、抵抗も出来きなくなった私は粘液の海に沈んでしまったーー。
「……アレ? 息が……」
窒息するーー。そう思っていたのだけれど、ちょうど顎の下くらいまでで粘液の放出が止まっている。
「ジュンビハイイカ? イマカラジゴクガハジマルゼ!!」
「ーーン!?」
体がピリピリする……強い日差しに晒された時のようなジリジリと焼ける感覚。それが全身から……粘液に沈む全身から……。
「ナニ!? 何なの!?」
でも、声を出せるならチャンスだ! 魔法が使えればこれくらい!!
「『雷帝の剣』!!」
私の正面、鎧の背中へ向けてダメージ限界突破の強力な魔法を放つ。魔法陣が展開して収束した魔力が雷帝の剣ーー稲妻を生み出す!!
……はずなのに……魔法陣から放たれた稲妻が粘液に吸収された!? なんて事……これじゃどうにも出来ない!!
「ククク……ザンネンザンネン。ホラニゲナイトシラナイゼ?」
「クッ……」
逃げられないとわかってて言ってる。
「ソウソウ、イイワスレテイタヨ。コノエキタイハキケンダゼ」
「何を……今更……う……あ、あぁ……」
こ、これはもしかして……媚薬!?
「あ、あぁ……熱い、体が……うっ」
粘液に沈む体が疼く。いや……。
「な、何のつもりなの!?」
「オヤオヤ? ズイブントクルシソウジャネーカ? ドウシタ? タスケテヤロウカ? クッククク」
嫌らしい言い方を……。
「誰……が、助けなんて! ぅ……んん……あ、くぅ……ぁん……。ぁはぁ……」
「マァタスケルキモナイケドナァ! キーヒッヒッヒッーー」
あ、あぁ……ダメ。このままじゃ……。
「オイオイ? イイノカ、ヨウカイエキニツカッタママデ? トケチャウゼ! イロンナモノガトケチャウゼェェッ!! キーヒャヒャヒャヒャ!!」
どうせそんな、あう、そんな事だろうと……ぁん……思ってたわよ。
「ぅぅ……あ、『穿水』!」
超圧縮した水のビーム。魔法改変で圧縮率を下げて高圧洗浄機程度まで緩めた水流を自分に体に吹き付ける。
「ムダムダ!! ソンナコウゲキハツウジナイヨォー。イヒャヒャヒャ!」
「ホラホラモウスグスッパダカダゼ! イマカラオレサマノビッグナジュニアヲテメエノメスアナニブチコンデヤルゼ!! ヨロコビナァ!!」
「嫌よ! 『水の抱擁』」
先程生み出した水を全身に纏う。これで粘液を引き剥がして私だけ水中にいるような状態。洗い流した事で多少粘液の媚薬効果を和らげることが出来るかもしれない。あとは多少の時間があれば私の持つスライムの力で吸収分解できるだろう。
なので今はここから脱出する事を考える。当てはある。あるにはあるのだけれど……。
出来ればこの魔法は使いたくなかったのだけれど、着ていた服は殆ど溶かされてしまった今、躊躇う理由がなくなってしまった。
ヒロインが覚える魔法として使いどころが不明だったのだけれど、ようやく一つの使い道がわかったわ。この変態鎧ゴーレム! 覚えてなさいよ!!
「ソレデドウスルツモリダヨ? ムダムダァ!!」
「こうするのよーー『強制脱衣』!!」
真っ暗な空間にあちこちから光が差し込んできた。ホント意味不明な呪文よね。対象が自分自身のみなのよ!? ヒロインが自分から裸になってたまるもんですか!!
「ナニィィィ!? ナンダ!? ドウイウコトダ!? ウヒャァァァ?? オレサマノタノシイジカンガァァァ!? ナゼダ!? ナゼダァァァァァッ!!??」
ボロボロになった私の服と纏っていた黒の鎧が脱げて私は正真正銘一糸纏わぬ姿になって鎧から放り出された。もうっ!! あとは仕上げよ!!!
「ーー『水の方陣』あーんど『氷結の吐息』!!」
鎧を包み込む水の立方体。そしてそれを凍結させて氷の牢獄に変化させる。私の魔法スキルで生み出したものはそう簡単には破れない。
「ーー私の勝ちでいいかしら?」
天空王に視線を向ける。
「勝負に勝ってーー女として負けた……かも知れんな……」
素っ裸でビシッと指を突きつける私ーー!!
「あっーーいやぁ!」
今更だけどアソコと胸を隠してその場に座り込む。
こんな大勢の前で裸を晒すはめになるだなんて……酷い……。
「うぅぅ……」
そんな私の姿を楽しそうに見つめる天空王。その美しい唇がニヤリと笑みを浮かべて……。
「ーーでは、三戦目を始めようか?」
次の戦いの始まりを告げた。
はぁ!? 嘘でしょーーーー!?
朱雀の姫スウォンが緑の髪の少年ーーリュートくんと言うらしいに駆け寄ってきた。
少々精神的なダメージを与えすぎてしまったようで弱々しく体を震わせる彼の様子は戦い以前の自信に満ちた様子はかけらもなかった。
そんな彼をみて朱雀の姫が私を睨みつけてきた。
「酷い……ここまでする必要はーー」
「ないーーとどうしてあなたが言い切れるの?」
言いたい事は分からなくもない。でも互いに相手の想いを否定するような幻覚による攻撃をしあった結果がこれ。
「くっ……!?」
「そういえば彼はあなたがやれと言った……みたいな事を言っていたわね。そう言う事でいいのかしら? だとすれば……あなたにもお仕置きが必要かしらね……?」
「何の話よ!? 私は何も言っていないわ!?」
「そう? それでも彼の主人であるあなたにも責任の一端はあるわよね? あとで少しお話をしましょうね、スウォン様?」
「ひぃっ……な、何をするつもりよ!?」
「……お・は・な・し……と申し上げましたが? 何か他にもありますか?」
「な、何もないわよ! いいわ、話くらい聞いてあげるわ。リュートをこんな風にした事を後悔させてあげるわ!!」
「ええ、是非……。それではまた後程……うふふ」
……あら? なんだか私の方が悪者みたいなんですけど? おかしいわね……どうしてこうなったのかしら?
まだ呆然とした様子の緑の髪の少年に呼びかける赤い髪の少女。そんな二人の様子はなんだかとっても主人公ぽい感じに見えた。
なんだかなぁ~……。
「ーーそろそろ良いかスウォン。早く従者を連れて下がれ。それからキラリと言ったか、お前このまま二戦目を戦え」
スウォン姫と話し終え私も下がろうとしたその時、金髪美女ーーもとい、天空王が面倒な事を言い出した。
「何故だ! 王よ、連戦ではこちらが不利になる!」
シーラくんが抗議の声を上げる。しかし天空王はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら話を続けた。
「不利も何も全く消耗しておらんだろう? 精神攻撃だかなんだか知らんが、ものの数秒で決着がついたではないか。そいつの力を見定めるも何もない。それにな、このままそいつが連勝すれば最短三試合で決着がつくぞ?」
「なっ!?」
確かに消耗はしていないけれど、そんな適当でいいのかしら? だいたい他の候補者はそれで納得するの?
「勝った者がその場に残り全員に勝った時点で決着とする。面倒だ、これでいく」
「しかしーー」
「シーラ様、私なら大丈夫です」
天空王がこうまではっきり言い切ったのだ。どう抗っても変わりそうにない。それがわかっているからか他の候補者からも異論の声は上がらない。現時点で一番不利益を被るのは私たちだからそれはそうかもしれないけれど。
「よし、次はシュルト、お前がいけ」
「かしこまりました。ではアームズ、いきなさい」
「………………」
玄武の継承候補者。次の相手はあの禍々しい気配の鎧の人か……。
三倍のままで大丈夫かしらね……。
「それでは第二戦、始め!」
「フン!」
巨大な黒鎧に巨大な黒剣。
揃いの金の意匠が刻まれている。セット装備ね。どんな特殊なスキルが付与されているか……鑑定して見たいわね。
「……イクゾ!!」
「ーー速い!」
予想よりも速い振り下ろしを横に飛んで躱す。振り下ろした切っ先がフロアにぶつかった瞬間、爆発が起きた!!
「きゃっ!」
思わず可愛らしい悲鳴をあげてしまったけれど、全くの無傷である。
でもこれは少し厄介な剣ね。衝撃(?)に反応して爆発するのでは剣で受け止められないじゃない。もともと私の短剣であの大きな剣を受け止めたりするつもりはないけれど、受け流しも出来ないだなんて結構ずるい武器よね。
しかもあのサイズの剣をブンブンと豪快に振り回して斬りつけてくる。力勝負じゃ話にならない。普通の剣でも大変なのにこの剣だと五割増しくらい大変よね。
避けるのも一苦労よ。
「チョコマカトニゲオッテ……」
酷い言いがかりよね……。受けたら爆発する剣を振り回してる癖に避けるなって本気で言ってるのかしら?
「受けたら爆発するのに避ける以外にどうすればいいのよ?」
ちょっと文句を言ってみる。
一旦、剣戟がやむ。
「……タシカニ……」
あ、納得された。
「デハアタルマデヨケロ!」
避ける事には納得したみたい。なんか面白いやつね。言葉のイントネーションとかもロボットみたいにちょっと機械的な感じで……。
「はーい。避けまーす」
取り敢えず避けられるだけ避けてみよう。これくらいなら十分対応できるから。
「ハッ!」
「フン!!」
「トオ!!!」
「………………」
「イイカゲンアタレ!!!!」
無茶なことを言い始めた。当れと言われて当たるやつはいない。だいたい当たったら痛そうだし。爆発するし。
「うーん……」
物凄い風切り音が間近で発生しているけれど、これ当たる気がしないのよね……なんていうか、凄く単調なのよ。縦、横、縦、横……たまに斜めみたいな。それこそ機械的なのよね……この鎧、もしかしてゴーレム?
「ねぇ……いつまで続けるの?」
「アタルマデツヅケル。タイリョクムゲン」
「それは面倒ね……」
さて、どうしようかしら……。強力な魔法で吹き飛ばすのは簡単なのだけれど、それだとまた天空王が無茶な事を言い出しかねない。魔法禁止とか言われたらそれこそ死活問題だし……。仕方がない、どうにか剣で相手をしてみよう。
「………………」
まずは、受けてあげましょう!
「『魔法耐性』&『装備強化』!」
一度距離をあけてそれから迎え撃つ。
真っ直ぐに振り下ろされる巨大な剣。それを短剣で受け……流す!
いや流石に受け止めるのは無理でしょ?
切っ先が触れた瞬間、想定通り爆発が起こった。
「きゃぁぁ!!」
ーー悲鳴はサービスよ!
わかってるのに備えないなんてただの馬鹿。爆発の効果は全て『突風』の魔法で相殺した。
「ヤッタカ?」
フラグよそれは!(笑)
「ーー残念でした」
「ナニ!?」
爆発に紛れて接近、そして鎧のお腹あたりに手を触れて魔法を解き放つ。
「『凍結地獄』!」
触れたところから黒い鎧が白く凍りついていく。地獄の氷海で凍りつくがいい!!
あ、なんか魔王っぽいわね!
「ガ、ガ、ガ……」
「降参しなさい」
「マダダ」
黒剣を手放し私の両肩を掴んだ。一緒に氷漬けに成ろうってこと!? 自分の魔法で自分が氷漬けになるわけないでしょ……。
「悪足掻きはーー!?」
「『cruciare』」
謎の言葉を発した途端に鎧が突然光り始めた。まさか自爆!?
「冗談はやめてよね! ちょっと、離して!!」
自爆攻撃はダメージが大きい。物語のお約束。流石に怖いから逃げるわよ! なのに、うそ!? 物凄い力で掴まれてて動けない!!
「ククク……コレデオワリ……」
ガシャン! ガシャガシャ!! シャキーーン!!!
目の前で鎧が解体!? 違う、分解でもなくて……そう! 変形! まるで複雑な変形機構を可動させているような感じ。中心から左右に別れるように何か色々なところが開いて内側の空洞を覗かせた。
そして腕に込められた力が私をその空洞に押し込もうとしてくる。堪えようと力に対抗するけれど……ダメっ! 力じゃ敵わない!!
「いやっ!? こんなの絶対いやよ!」
だってこの後どうなるかなんて明らかじゃない!? このエ□ゲー準拠の世界で拘束してからすることなんて一つしかない!!
「やめてよね!! シーラくんの前でなんて絶対にいやよ!! ライトニンーー」
べちゃりとした何かが私に降りかかった。それが顔にくっついて声が!?
「んーーー!!」
粘性の高い液体は頭を降ったくらいでは引き剥がせない。手で取ろうにも肩から二の腕にかけて掴まれていて届かない。結局そのまま踏み止まる事も出来ずにあれよあれよと鎧の中へ押し込まれてしまう。私を取り込むと鎧は元のように戻るために再びガシャンガシャンと音を立てて変形を始めた。
あんなに大きな鎧でも中は狭い。狭いなりに手は自由に動かせるけれど、脚は無理だ。左右逆だけど鎧の脚部に入っている。ちょうど股を開いて立っているような状態だから、アレをアレし易い体勢かもしれない……。
パンツスタイルでよかった。この状況なら脱がすのも困難だろうし。でもさっさと逃げ出しましょう。幸いスライムみたいな粘液は腕さえ自由になれば簡単に引き剥がせた。
「イーヒャヒャヒャ! ヨーコソオレサマノナカヘ! イマカラタノシイジカンガハジマルヨ!! イーヒャヒャヒャーー!」
外の鎧と人格が違いすぎる……。なるほど、あの禍々しい気配はこいつか……。
「ーーこんな所すぐに出させてもらうわ!」
「オット、ソウハイカナイ。ソレ!」
べチャ、ドロ、ベチャネチョ、ベチャベチャべチャ!
「な、ン、ちょっ、んんー!」
次々と上から降ってくる粘液が私に纏わりつく。ちょっと息が……。
振り払っても振り払っても次々溢れてくる粘液。
「んん……ぷハァ、ウィンぶ! ン、ハァハァーー」
ダメ! 邪魔されて魔法が使えない。それに鎧の中がこの粘液で満たされていく!? 既に腰のあたりまで溜まっているのにまだまだ降り注いでくる!
「ン、プハァ! うぃんどぅぷ、ぷは、ウィンぶー」
ダメ! 力ある言葉を発せられない!?
粘液は胸の辺りまで迫っている。
物凄い勢いで降り注ぐ粘液はあっという間に私の体の自由を奪い取る。体の自由を奪われ、抵抗も出来きなくなった私は粘液の海に沈んでしまったーー。
「……アレ? 息が……」
窒息するーー。そう思っていたのだけれど、ちょうど顎の下くらいまでで粘液の放出が止まっている。
「ジュンビハイイカ? イマカラジゴクガハジマルゼ!!」
「ーーン!?」
体がピリピリする……強い日差しに晒された時のようなジリジリと焼ける感覚。それが全身から……粘液に沈む全身から……。
「ナニ!? 何なの!?」
でも、声を出せるならチャンスだ! 魔法が使えればこれくらい!!
「『雷帝の剣』!!」
私の正面、鎧の背中へ向けてダメージ限界突破の強力な魔法を放つ。魔法陣が展開して収束した魔力が雷帝の剣ーー稲妻を生み出す!!
……はずなのに……魔法陣から放たれた稲妻が粘液に吸収された!? なんて事……これじゃどうにも出来ない!!
「ククク……ザンネンザンネン。ホラニゲナイトシラナイゼ?」
「クッ……」
逃げられないとわかってて言ってる。
「ソウソウ、イイワスレテイタヨ。コノエキタイハキケンダゼ」
「何を……今更……う……あ、あぁ……」
こ、これはもしかして……媚薬!?
「あ、あぁ……熱い、体が……うっ」
粘液に沈む体が疼く。いや……。
「な、何のつもりなの!?」
「オヤオヤ? ズイブントクルシソウジャネーカ? ドウシタ? タスケテヤロウカ? クッククク」
嫌らしい言い方を……。
「誰……が、助けなんて! ぅ……んん……あ、くぅ……ぁん……。ぁはぁ……」
「マァタスケルキモナイケドナァ! キーヒッヒッヒッーー」
あ、あぁ……ダメ。このままじゃ……。
「オイオイ? イイノカ、ヨウカイエキニツカッタママデ? トケチャウゼ! イロンナモノガトケチャウゼェェッ!! キーヒャヒャヒャヒャ!!」
どうせそんな、あう、そんな事だろうと……ぁん……思ってたわよ。
「ぅぅ……あ、『穿水』!」
超圧縮した水のビーム。魔法改変で圧縮率を下げて高圧洗浄機程度まで緩めた水流を自分に体に吹き付ける。
「ムダムダ!! ソンナコウゲキハツウジナイヨォー。イヒャヒャヒャ!」
「ホラホラモウスグスッパダカダゼ! イマカラオレサマノビッグナジュニアヲテメエノメスアナニブチコンデヤルゼ!! ヨロコビナァ!!」
「嫌よ! 『水の抱擁』」
先程生み出した水を全身に纏う。これで粘液を引き剥がして私だけ水中にいるような状態。洗い流した事で多少粘液の媚薬効果を和らげることが出来るかもしれない。あとは多少の時間があれば私の持つスライムの力で吸収分解できるだろう。
なので今はここから脱出する事を考える。当てはある。あるにはあるのだけれど……。
出来ればこの魔法は使いたくなかったのだけれど、着ていた服は殆ど溶かされてしまった今、躊躇う理由がなくなってしまった。
ヒロインが覚える魔法として使いどころが不明だったのだけれど、ようやく一つの使い道がわかったわ。この変態鎧ゴーレム! 覚えてなさいよ!!
「ソレデドウスルツモリダヨ? ムダムダァ!!」
「こうするのよーー『強制脱衣』!!」
真っ暗な空間にあちこちから光が差し込んできた。ホント意味不明な呪文よね。対象が自分自身のみなのよ!? ヒロインが自分から裸になってたまるもんですか!!
「ナニィィィ!? ナンダ!? ドウイウコトダ!? ウヒャァァァ?? オレサマノタノシイジカンガァァァ!? ナゼダ!? ナゼダァァァァァッ!!??」
ボロボロになった私の服と纏っていた黒の鎧が脱げて私は正真正銘一糸纏わぬ姿になって鎧から放り出された。もうっ!! あとは仕上げよ!!!
「ーー『水の方陣』あーんど『氷結の吐息』!!」
鎧を包み込む水の立方体。そしてそれを凍結させて氷の牢獄に変化させる。私の魔法スキルで生み出したものはそう簡単には破れない。
「ーー私の勝ちでいいかしら?」
天空王に視線を向ける。
「勝負に勝ってーー女として負けた……かも知れんな……」
素っ裸でビシッと指を突きつける私ーー!!
「あっーーいやぁ!」
今更だけどアソコと胸を隠してその場に座り込む。
こんな大勢の前で裸を晒すはめになるだなんて……酷い……。
「うぅぅ……」
そんな私の姿を楽しそうに見つめる天空王。その美しい唇がニヤリと笑みを浮かべて……。
「ーーでは、三戦目を始めようか?」
次の戦いの始まりを告げた。
はぁ!? 嘘でしょーーーー!?
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そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
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前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
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「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
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