85 / 278
第三章:プリンセス、迷宮に囚わる
(7)
しおりを挟む
先手必勝!!
スライムだけど、この世界では油断しちゃいけない魔物ランキングのトップスリーに入る。
「『氷結の矢』!」
スライム退治の定番、凍らせて砕く。
未だVの字隊形を崩していないスライムに氷の矢が殺到する。遠慮は必要ないのでそれぞれに二十本ずつが殺到する。
スライムの動きじゃ避けられないだろうし、これで決まりねーー!?
そう思いかけた瞬間、先頭の赤のスライムーースライムレッドが大きく膜のように広がり全ての矢を受け止めた。
まさか仲間を庇うなんて思わなかったけれど、まずは一体ね。
「もう一度フリーズ……!?」
嘘でしょ? 凍結した赤い膜状のスライムがあっという間に元どおり、ジュウジュウと湯気をあげて氷の矢を全て飲み込み、元の雫型に戻った。
「熱で溶かしたの!?」
え!? スライムレッドってそういうスライムだっったの!? まさか他のスライムも一体ずつ異なる属性を持っている??
「これは少し……苦戦しそうね……『炎の障壁』! 『氷結の矢』!」
炎の壁でグルリと囲み、開けておいた上部から氷結の矢を射る。
やはり周囲の炎には青色、スライムブルーが対応した。上からの矢はレッドが先ほどと同様に全てを受け止め融かしてしまう。
そして周りの炎はブルーが包み込むように覆い被さり消火してしまう。
厄介ね……。
赤が炎。
青が水。
緑は……なんだろう、風? ゲームだとそういうイメージだけれど、そもそも風に色なんてないし……木とかかしら?
他にも黄色はなんだろう、消去法的に土かしら?
桃は……あまり考えたくないわね。ピンク……だものね……。あいつが一番注意ね。
「『刺シ貫ク光』」
光……属性? というかレーザーなんだけど、これならどう!?
ふーん……そこは黄色が対応するのね。黄色が光担当ね。それなら、これはどう?
「『侵食スル黒』!」
名前はアレだけどただの闇属性の穴……というか地面に広がる環状のダメージフィールド。光すら逃さない宇宙のそれとは違う。それに近いのは究極魔法虚空の方だ。最悪そのレベルを使うけれど、ダンジョンにも影響が出そうなので思い留まっている。他の魔法でなんとかなればいいけれど……どうかしらね。
ちなみにまたもや黄色が対処した。どうやら光というよりはその他全般担当なのかもしれない。
同時に放っていた『風の刃』は想定通り緑に吸収された。
残るは桃色。確かめるまでもなくアレよね……。
というわけで、確認作業はここまで。
ちょっと本気出しますよ~!
「『束縛の蔦』!」
スライムの周囲から伸びる蔦。
五体を包み込み逃さないようにする。
まぁ、スライムの素早さで逃げるとかないけれど……。
「『凍結地獄』!」
蔦ごと地獄の氷で包み込む。
仕上げはーー。
「『太陽の祭典』!」
出現座標は氷の中心。
あらゆるものを凍らせる地獄の氷と全てを焼き尽くす太陽の焔。その二つが一点で融合する。それぞれ単体でも究極魔法クラスなのだけれど、それらを合わせた合体魔法というまさにチート級。
ゲームと違って色々できるって素晴らしい!!
……しかし、その発想の元は圧力鍋……。いや、そこは触れずにいこう。せっかくだし……。
「ーー合体魔法、凍てつく太陽!!」
ノリで名付けたけどいいじゃない!!
いくら裏ボスチートキャラのスライムでもこれならひとたまりもないでしょう。だってゲームでは出来ない合わせ技なんだしね。とは言ってもこの世界でも出来る人は少ないでしょうけれど。
「……やったかしら?」
ギラギラと眩い輝きを放つ氷のドーム。まるでダイヤモンドのような輝きだけど中心には膨大な熱エネルギーが閉じ込められている。
これほど近くにいながらその熱を感じないのはさすが地獄の氷ね。
これで仕留められなかったらどうする……? ゲームならパーティーで対応できるけれど……今の私はソロだから……取れる手段も限られている。
斬鉄剣と高レベル剣士がいれば、武器特性でなんでもぶった斬れるのに……。
輝く氷のドームからゆっくりとその輝きが失われていく。内部の全てを焼き尽くし消失させたエネルギーが地獄の氷に凍てついて消える。
終いにはその氷も何事もなかったかのように消えていく。
なんだか夕陽に通じる切なさを感じる。
少しずつ露わになるドームの中には……五人の、五匹のスライムの姿はない。
「よかった……」
上手くいったみたい。逃げ場のないように氷結させたのが良かったのか、問答無用の高火力が幸いしたのか……。
前方に掲げていた手を降ろす。
あれだけ連続して魔法を放っても私に殆ど疲労はない。こうしている今この瞬間も消費した魔力が回復していっている。
我ながら凄い力だと感心する。それこそ条件さえ整えば世界を滅ぼせる程の力。
「怖いわね……」
無意識に握り締めていた手からゆっくりと力を抜いていく。
「アンーー」
振り返りアンに呼びかけーー!?
「ーー!?」
何!? 何なのこれは!?
「何よコレ!!」
私が見たのは透き通るように薄いピンクの水晶柱。そしてその中にある人影……。
背中から羽根の生えた金色の髪の可愛い女の子……。ガルム様に貰ったお揃いの洋服を着た少女……。
「ーーアン!!」
彼女は今意識を失っているのか生気のない表情で目を閉じている。
こんなものはなかった。
私がスライムと戦っているうちに……。
具現化していない彼女をどうやって……?
ーースライムの能力ーー
そうだった……。こいつらは姿を消して、この世界に具現化していないはずの妖精すら捕食する。正しく最悪の存在……。
どうする……。
どうすればいい……。
今私に何ができる……?
ーー考えて!
私のスキルで何ができる、魔法で、実力行使で?
捕食された状態からどうやって解放する?
何をすればいいの?
水晶を砕く? それで中身は無事なの?
魔法改変……?
いえ、捕食は魔法じゃない……。
捕食……?
スライムの捕食……本当に?
待って、私あんな結晶化見たことない……!?
「アンーー!!」
俺くんの記憶にすらない謎の結晶化。
でもこれは彼らの能力である捕食じゃない。何か別の能力。何が起こるかわからないけど……やるしかないーー!!
「ーー今助けるから!!」
駆け寄って水晶に触れる。
私だってあんた達の力の一端は扱えるのよ!! 私はどうなってもいい、アンは助けてみせる!!
ーー吸収!!
スライムだけど、この世界では油断しちゃいけない魔物ランキングのトップスリーに入る。
「『氷結の矢』!」
スライム退治の定番、凍らせて砕く。
未だVの字隊形を崩していないスライムに氷の矢が殺到する。遠慮は必要ないのでそれぞれに二十本ずつが殺到する。
スライムの動きじゃ避けられないだろうし、これで決まりねーー!?
そう思いかけた瞬間、先頭の赤のスライムーースライムレッドが大きく膜のように広がり全ての矢を受け止めた。
まさか仲間を庇うなんて思わなかったけれど、まずは一体ね。
「もう一度フリーズ……!?」
嘘でしょ? 凍結した赤い膜状のスライムがあっという間に元どおり、ジュウジュウと湯気をあげて氷の矢を全て飲み込み、元の雫型に戻った。
「熱で溶かしたの!?」
え!? スライムレッドってそういうスライムだっったの!? まさか他のスライムも一体ずつ異なる属性を持っている??
「これは少し……苦戦しそうね……『炎の障壁』! 『氷結の矢』!」
炎の壁でグルリと囲み、開けておいた上部から氷結の矢を射る。
やはり周囲の炎には青色、スライムブルーが対応した。上からの矢はレッドが先ほどと同様に全てを受け止め融かしてしまう。
そして周りの炎はブルーが包み込むように覆い被さり消火してしまう。
厄介ね……。
赤が炎。
青が水。
緑は……なんだろう、風? ゲームだとそういうイメージだけれど、そもそも風に色なんてないし……木とかかしら?
他にも黄色はなんだろう、消去法的に土かしら?
桃は……あまり考えたくないわね。ピンク……だものね……。あいつが一番注意ね。
「『刺シ貫ク光』」
光……属性? というかレーザーなんだけど、これならどう!?
ふーん……そこは黄色が対応するのね。黄色が光担当ね。それなら、これはどう?
「『侵食スル黒』!」
名前はアレだけどただの闇属性の穴……というか地面に広がる環状のダメージフィールド。光すら逃さない宇宙のそれとは違う。それに近いのは究極魔法虚空の方だ。最悪そのレベルを使うけれど、ダンジョンにも影響が出そうなので思い留まっている。他の魔法でなんとかなればいいけれど……どうかしらね。
ちなみにまたもや黄色が対処した。どうやら光というよりはその他全般担当なのかもしれない。
同時に放っていた『風の刃』は想定通り緑に吸収された。
残るは桃色。確かめるまでもなくアレよね……。
というわけで、確認作業はここまで。
ちょっと本気出しますよ~!
「『束縛の蔦』!」
スライムの周囲から伸びる蔦。
五体を包み込み逃さないようにする。
まぁ、スライムの素早さで逃げるとかないけれど……。
「『凍結地獄』!」
蔦ごと地獄の氷で包み込む。
仕上げはーー。
「『太陽の祭典』!」
出現座標は氷の中心。
あらゆるものを凍らせる地獄の氷と全てを焼き尽くす太陽の焔。その二つが一点で融合する。それぞれ単体でも究極魔法クラスなのだけれど、それらを合わせた合体魔法というまさにチート級。
ゲームと違って色々できるって素晴らしい!!
……しかし、その発想の元は圧力鍋……。いや、そこは触れずにいこう。せっかくだし……。
「ーー合体魔法、凍てつく太陽!!」
ノリで名付けたけどいいじゃない!!
いくら裏ボスチートキャラのスライムでもこれならひとたまりもないでしょう。だってゲームでは出来ない合わせ技なんだしね。とは言ってもこの世界でも出来る人は少ないでしょうけれど。
「……やったかしら?」
ギラギラと眩い輝きを放つ氷のドーム。まるでダイヤモンドのような輝きだけど中心には膨大な熱エネルギーが閉じ込められている。
これほど近くにいながらその熱を感じないのはさすが地獄の氷ね。
これで仕留められなかったらどうする……? ゲームならパーティーで対応できるけれど……今の私はソロだから……取れる手段も限られている。
斬鉄剣と高レベル剣士がいれば、武器特性でなんでもぶった斬れるのに……。
輝く氷のドームからゆっくりとその輝きが失われていく。内部の全てを焼き尽くし消失させたエネルギーが地獄の氷に凍てついて消える。
終いにはその氷も何事もなかったかのように消えていく。
なんだか夕陽に通じる切なさを感じる。
少しずつ露わになるドームの中には……五人の、五匹のスライムの姿はない。
「よかった……」
上手くいったみたい。逃げ場のないように氷結させたのが良かったのか、問答無用の高火力が幸いしたのか……。
前方に掲げていた手を降ろす。
あれだけ連続して魔法を放っても私に殆ど疲労はない。こうしている今この瞬間も消費した魔力が回復していっている。
我ながら凄い力だと感心する。それこそ条件さえ整えば世界を滅ぼせる程の力。
「怖いわね……」
無意識に握り締めていた手からゆっくりと力を抜いていく。
「アンーー」
振り返りアンに呼びかけーー!?
「ーー!?」
何!? 何なのこれは!?
「何よコレ!!」
私が見たのは透き通るように薄いピンクの水晶柱。そしてその中にある人影……。
背中から羽根の生えた金色の髪の可愛い女の子……。ガルム様に貰ったお揃いの洋服を着た少女……。
「ーーアン!!」
彼女は今意識を失っているのか生気のない表情で目を閉じている。
こんなものはなかった。
私がスライムと戦っているうちに……。
具現化していない彼女をどうやって……?
ーースライムの能力ーー
そうだった……。こいつらは姿を消して、この世界に具現化していないはずの妖精すら捕食する。正しく最悪の存在……。
どうする……。
どうすればいい……。
今私に何ができる……?
ーー考えて!
私のスキルで何ができる、魔法で、実力行使で?
捕食された状態からどうやって解放する?
何をすればいいの?
水晶を砕く? それで中身は無事なの?
魔法改変……?
いえ、捕食は魔法じゃない……。
捕食……?
スライムの捕食……本当に?
待って、私あんな結晶化見たことない……!?
「アンーー!!」
俺くんの記憶にすらない謎の結晶化。
でもこれは彼らの能力である捕食じゃない。何か別の能力。何が起こるかわからないけど……やるしかないーー!!
「ーー今助けるから!!」
駆け寄って水晶に触れる。
私だってあんた達の力の一端は扱えるのよ!! 私はどうなってもいい、アンは助けてみせる!!
ーー吸収!!
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる