魔法の国のプリンセス

中山さつき

文字の大きさ
254 / 278
第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(9)地下王国の攻防(笑)

しおりを挟む
「どうやら犬っころを従えて勘違いしたらしいな。お前らこの女を捕らえろ。後ろのガルムは俺がやる」
「「はっ!!」」

 ハデス様の命令が飛んだ瞬間同行していた四人の騎士が私に殺到して来た。無論剣を抜き放ち、殺気すら剥き出しにして。この様な場に帯同してくるのだから相応の実力の持ち主なのだろうが、あまりにも遅く、稚拙に映るのはやはり真の一流どころをたくさん見て来たためだろうか。それこそこうして対応を考える余裕すらあるほどに……。

「ーー!?」

 振り下ろした剣が、横薙ぎに払った切っ先がまるで何かに受け止められるかのように阻まれる。どれほど力を込めようとも容易く切り裂けぬ何かに驚愕の表情を浮かべる騎士たちに私が贈るのは冷笑とーー。

「『突風ウインドブラスト』」

 抗う事を許さぬ一陣の風。
 いやその表現は生ぬるいかもしれない。まるでダンプカーにでもはねられたかの様に鈍くドンッ!! という音がして騎士たちは城壁へと弾き飛ばされていく。超高圧縮空気による見えない物理攻撃。(笑)
 ちなみに彼らの攻撃を受け止めたのは透過率百パーセントのアクアキューブ・インビジブルフィルター。その名も『視えざるt……障壁』。
 だいたい魔法使いの私が何の準備もせずにこんな最前線に立つわけがない事くらいは察してほしいものだと思うのだけれど、どうかしら? 卑怯なのかしら?

「ねぇガルム? 話も聞かずに剣を抜いたという事は私は怒ってもいいのかしら? 『刺シ貫ク光レイスティンガー』」

 既にやり返しておいて何だけれど、みんな無事そうだしいいわよね。可愛らしく指先を魔法の杖のようにくるりんパ。光がパッと弾けてビュンと走る。

「「くっ!?」」

 閃光は騎士たちの剣に吸い込まれて消える。後には無様な剣を持つ騎士の姿が残る。中程から先が消えた剣を見た彼らに恐れの表情が灯る。

「ガルム貴様……」
「ふむ。昔のよしみで忠告をしよう。我女王は実力で我の上に立っている。その事を正しく理解するといい。誤った選択は多くのものを犠牲にしかねない……とな」
「レイチェル! 皆を下がらせろ。それからラグジュとエンカを呼べ」
「畏まりました」

 ラグジュお姉様とエンカお姉様。防御特化と治癒特化の魔法使い。城の奥へと駆け出した美人秘書と合わせて冥王国の誇る美人すぎる魔法使いたちである。
 因みにラグジュ様は慈悲のかけらもないドSなお姉様。一見すると深窓のご令嬢なのだが、スイッチが入るとヤバイ。
 もう一人のエンカお姉様は小柄な不思議ちゃんタイプ。ただし極めてエ□い。ロリ巨乳なボディもさる事ながら無尽蔵な体力(?)精力(?)。本人曰く「男に生まれていたら大変だったかも~」なお方。
 過去の私は一度だけ彼女に手篭めにされた訳だが……危うく干からびて死ぬかと思った。(笑)
 そしてご存知美人秘書のレイチェルさん。彼女はああ見えて攻撃特化の魔法使いなのだが、しっかりしているようでチョロいところがある。なので何だかんだと冥王に抱かれてしまうというラッキースケベられ系の美人さんである。
 タイプの違う三人もの美女を侍らす冥王ハデス許すまじ!!
 誤解のないように補足しておくと冥王のハーレムには他にも美人四騎士がいる。いずれも劣らぬ美女揃い。ますます許せませんね!!

「さて、それでは参りましょうか冥王様? 覚悟はよろしくて?」
「はっ、大した自信じゃねーか。やれるものならやってみな。俺様が誰だか教えてやる」
「……一つご忠告を致しましょう。もしその傲慢な自信の根拠が絶対領域に依るものでしたら……力不足ですわよ?」
「抜かせ!」
「では死なないでくださいね、冥王さま?」

 正直今の私からすればあれは欠点だらけもいいところ。以前と同じ手法というのも芸がないのですけれど、対応策という点ではあれ以上はありませんから仕方がありません。せめて別の魔法でやっちゃいましょう。

「『束縛の荊ソーンバインド』」

 大好評『束縛の蔦』の上位互換(?)いや若干役割が違うかしら? ただ絡め取るのではなく文字通り荊の棘による継続ダメージを与える魔法。

「無駄だ!」
「それはご自身でお確かめくださいませ」

 あっという間に冥王に絡みつく強靭な荊の蔦。それがまるで生きているかの様に蠢き冥王の誇る鉄壁の防御スキル絶対領域を削る。
 ごりごりいきますよ!!
 絶対領域は魔力を代償にあらゆる攻撃を無効化する障壁を展開するハイスペックなスキルだ。通常は勇者パーティーの様な強力なスキルを持つ集団で対峙する必要があるのだが、私にそれは当てはまらない。過去に容易く攻略した実績もあるがあの時は諸所諸々の事情により冥王に軍配が上がった。
 だがしかしッッ!! 今回はその様な敗北はない。何故ならその時とは状況が違うからだ。今回あの時と同じ事をすれば私の命はここで潰えてしまう。故に私は手を抜かない。確実に冥王を降す。

「無駄無駄無駄ァッ!!」
「何を仰っているのですか、本番はこれからですよ?」

 魔法で生み出したとはいえ荊は立派な植物である。ならば私の自由に操れぬ道理はない。
 さぁさぁたーんとお食べなさい。追加で魔力を供給しもはやトゲ♪ などと可愛らしくよべる次元を超えた荊の棘が冥王の誇る絶対領域を一瞬で打ち砕く。パリーンってね。

「ナニッッ!? ぅぐぁっっ!?」

 障壁なければただの人ーーは言い過ぎですかね。
 哀れな冥王は荊によりその身を絡め取られてあられもない姿を晒す事になるのでした。
 んーちょっと縛り癖ついたのかしら私?

「馬鹿なっっ!? 一瞬だとっ!?」

 鋭利な荊に切り裂かれシャツやパンツに鮮血が滲む。美形と引き裂かれた衣服と鮮血。何という背徳感、そして何というBL感!?
 長い手足に絡みつく荊が何とも官能的で。苦しむ姿がまたそそられる。ちょっといけない道に入り込んでしまいそうだわ。

「それでは降伏勧告といきましょうか、冥王さま?」
「くっ、この程度で勝った気か!? そりゃちょっとばかり気がはえぇなっっ!!」

 力を込めて荊の拘束を振り払おうとされていますが、それは上策ではありません。白いシャツに赤い血の花が咲き乱れていますよ?

「くっっ!?」

 おおっ!? 女騎士ではありませんがアレですか!? 「くっころ」ですか冥王さま!? なかなか魅せてくれますねぇっっ!!(じゅるり)

「………………ゴホン。えー諦めた方がよろしいかと思います。せめて剣でもあればどうにかなったかもしれませんが無手では少々部が悪いかと。私を侮ってしまったばかりに何とも残念な結果になってしまいましたね」

 さてさて、ここまでは大筋予定通りです。でも問題はここから。どうやって冥王さまに降参してもらうか。そこが最大の難関なのですが……。

「「「陛下!!??」」」

 どうするかと思案すると間もなく三人の美女の声が静まり返った場に響き渡った。あら意外に早いお帰りですこと。

「おっと?」

 それと同時に飛来する炎と氷と雷の矢。か弱い美少女一人を相手に何と大人気ない……。
 次から次へと雨の様に降り注ぐそれをーー。

「あら? あら? まぁ! まぁ!!」

 ヒラリヒラリとドレスの裾を翻しながら回避する私キラリお嬢様。それはもう華麗にワルツを踊るかの様でございました。(笑)
 などと遊んでいる間にお姉様方はハデス様へと支援の手を差し伸べていました。

「『癒しの光ヒーリング』!」
「『装備強化プロテクション』『魔法耐性マナレジスト』!!」
「『確約された致命の一撃ゲイ・ボルグ』!!」

 さて駆けつけたお姉様方は即座に状況を把握し各々が得意とする魔法を発動させていく。

「あら大変!?」

 上級魔法の一つ必中の槍事ゲイボルグが発動された。名は体を表す典型的な魔法なのだけれど、たった一つフェイクが含まれている。原典を元に考案されたのだろうけれど、水属性のこの魔法はーー。

「きゃぁぁっっっ!?」

 一撃どころか三十連撃にも及ぶ多段ヒット技なのである。しかも足元の地面(水面)から発動する必中多段ヒット魔法。ショットガンもビックリである。
 その激しさに思わず可愛らしい悲鳴なんかをあげてしまったではないか。

「「やったか!?」」

 フラグ頂きました。(笑)

「油断しないで!」

 激しい水飛沫が陽の光を浴びてーー地下なのにーーキラキラと舞う様はとても美しい。
 私もステキな殿方と波打際をきゃっきゃうふふしたいものである。当分無理そうですけれどね!

「『水の方陣アクアキューブ』」

「ーー!?」
「来ます!!」
「キャァッ!?」

 お姉様の悲鳴ゲット!!

「レイチェル!?」

 未だ囚われの冥王様。

「あっ!?」
「エンカ!?」
「くっ……申し訳ありません陛下」
「ラグジュもか!? チッ!!」

 ヒロインたちが囚われてヒーローが怒りに燃えるシーンですね!! さぁここから逆転ですよ!!

「ーーってされたらダメじゃん!?」

 危ない危ない。ちょっと興奮しすぎたわ。ヒーローが活躍したら世界征服を企む悪の女王がやられてしまうじゃないの。

「………………」
「形勢逆転ならず。ヒロインは囚われ、ヒーローは立ち上がることも出来ずにこれから起こる事を指をくわえて見ているしかありません。どうしますか? 降伏するなら今ですよ」
「誰がするか!!」
「ま、そうですよね。大丈夫です。想定通りですから。ではまずは一人目のゲストをごしょーたーい♪」

 はい、やってきたのはアクアキューブで首までをすっぽりと覆われたレイチェルさんです。ちなみに本日のアクアキューブは中が見えないブラインド仕様です。何故ならナニが起きているのかわからない方が興奮すると思いませんか? 思いますよね!? ね!?

「レイチェル!!」
「陛下、私のことは構いません! こんな女に屈してはなりません!!」
「いいですね、いいですね。熱い展開です。因みに囚われている彼女らは現在魔法が使えません。便利な魔法ですいません。この拘束魔力を吸収しちゃうんです。どうですか凄くないですか?」
「馬鹿な!?」
「……いいえ陛下。無念ですが言う通りです」
「おい貴様! 俺たちをどうするつもりだ!!」
「どうするもこうするも最初に申し上げましたがもうお忘れですか?」
「最初に……まさか本気なのか!?」
「もちろん本気ですわ。そしてそれはもう叶いそうですけれどもね?」
「なりません陛下! 私のことなど見捨ててください!! 陛下の、我らが王国の為ならば私の命など!!」
「………………」
「「陛下!!」」

 おっとラグジュ様とエンカ様まで声を上げてしまいましたね。ならば集合しましょうか。

 囚われた冥王の前に体をすっぽりと不透明なアクアキューブに包まれた三人の美女。
 えーと……。ちょっと生首感が怖い。

「レイチェル、エンカ、ラグジュ……すまん。俺はーー」
「「「覚悟は出来ています。冥王国に、冥王ハデス様に栄光あれ!!!」」」

 アニメだと主題歌が流れてここから敵を打ち倒す熱い展開かな?
 でも現実はそう上手くはいきません。それはもう、私なんて一体何度苦渋を飲んだことか。
 それに比べれば彼女らの運命など何と幸せな事か。

 パチパチパチパチ……。

「大変素晴らしい主従の絆を見せていただきました。私、今猛烈に感動しています。もう涙が後から後から……溢れてませんけれども、本当にもう感動しています。ええ、ええ。良いものを見せていただきました。ですから私の方からも褒美というのは少し違いますが、彼女らを殺したりしないとお約束しましょう」
「何を企んでやがる! ふざけやがってっ!!」
「冥王様、その様に暴れられますと傷が広がってしまいますよ? あ、ほらこんなにも血が……」

 荊に切り裂かれて溢れ出した血を軽く拭き取る様に触れる。もちろん癒しの魔法を込めて。

「……何のつもりだ?」
「何がです?」
「何故敵に塩を贈る?」
「敵?」
「そうだ。俺たちは貴様には屈しない。そこの犬っころと同様に考えてるんなら甘いぜ?」

 別に傷を癒したくらいでコロリとなびくとは思っていませんから良いんですけどね。でもこの人今の状況を理解しているのでしょうか? 圧倒的に不利な状況でそれこそ敵に喧嘩を売ってどうするつもりなんでしょうか? 死にたいんですかね? 敵に尻尾を振るくらいなら死も厭わないみたいな? 騎士道精神? とでもいうのでしょうか……くだらない。
 ある種の潔さ、格好良さ。そして潔癖感? 何というかいい風に見えるのだけれど、私からすればただの逃げだと思う。だって何の為に剣を持ったのか。ここで潔く死ぬことでそれを果たすことが出来るのか? 出来るわけがない。死んでしまえばそこで終わりだ。生きているからこそできることがある。たとえ泥にまみれ様とも裏切り者だと罵られようとも。何の為に剣を持ったのか。そしてどうすればそれを叶えることが出来るのか。己の名誉など秤にかける必要すらない筈だ。
 だから私は何度でも立ち上がる。絶対に諦めたりなんてしない。死が終わりでない私は抗い続けるしかない……いいえ! 抗い続ける事が出来る!!

「何が甘いのか……あなたはご自分の矜持に酔っているのではありませんか? あなたが今選択したのは私に降らない事ではありません。この国に住まう者の命を勝手に賭けたのですよ? 囚われて何も出来ないあなたは私がこれから何をしようと止める事が出来ません。一体どうするつもりなのですか? 敵が攻めてきてそしてあなたを殺す事が出来る状況であなたのその選択は一体何を選んだのですか?」
「言ってくれるな……たとえ俺が殺されようがこの国の奴らは簡単には屈しない。いつかてめえを殺すだろう。さあ早くやってみろよ!」
「………………」
「どうした? 俺を殺すんじゃなかったのか? さっさとやれよ。俺様がいつまでも大人しくしてると思ったら大間違いだぜ?」
「………………」
「おい、やらねぇのか? だったらこっちから行くぜ?」
「その状態で一体何ができると言うのですか? 出来るものならやって見せてくださいな?」
「やれやれだぜ。俺様も甘く見られたもんだな。なぁガルム?」

 目の前の男がニヤリと笑みを浮かべた。そして次の瞬間忽然と姿を消した!?

「しまっーー!?」
「おせぇ!」

 振り返った瞬間私は斬りつけられていた。
 が、ボヨンボヨン。

「なんてね?」

 変わらず私の体は視えざる障壁に包まれていますよ。

「チッ! そう簡単じゃねぇな。なんだこれは?」

 切っ先でツンツン。ちょっとやめて、なんかその突かれ方ヤダ。

「転移は想定外でした。このような超短距離転移も可能なんですね。ガルムも出来るのかしら?」
「もちろんですキラリ様」
「まぁ今のところ必要はないけれど覚えておきましょう」
「余裕だな。それだけの実力を持ってる訳だが……」

 改めて上から下までじっくり観察される私。全てを射抜くような鋭い眼光はやっぱり惚れ惚れしてしまう。

「強くて美しいか。中々いいじゃねぇか。女。お前俺のモンになれ。それでこの騒動は許してやる」
「「「陛下!?」」」

 そして中身も相変わらずで嬉しい。思わず笑みがこぼれてしまった。

「何がおかしい?」
「いいえ陛下。あなた様がお変わりない事が嬉しいのです。ですが、先程のお誘いはお断り致します。本日はどちらかといえばハデス様に私のモノになって頂きたくやって参りました。如何ですか? 私の心を射止める事が出来ましたら私もろともハデス様のモノになりますよ?」
「生憎だが俺は世界なんて面倒なモンに興味はねぇ。そういうのは好きなやつに任せる主義だ。ただし。降りかかる火の粉は払いのけるぜ? 俺様は俺様のモノに手を出されるのが大嫌いなんでな」
「そうですか。では力づくでという事になりますね」
「諦めて帰ってもいいぜ?」
「いいえ。それは出来ません。あなたの力が必要なのです」
「じゃぁ仕方がねぇな……」
「そうですね。仕方がありませんね……」
「せっかくのいい女だってのによ……。残念だ」

 とても残念そうに。それはそれはとても残念そうに彼は剣を構えた。

「キラリ様いかが致しますか?」
「お茶の後片づけでもしておいて頂戴。もし私が負けたらあなたは好きにしていいわ」
「かしこまりました。執事が板についてきた所ですからもう少し活躍したいものです」
「あら? ありがとう。それじゃ負けないように頑張るわ」
「ご健闘をお祈りいたしております」

 では私も剣を用意しましょうか。

「いいのかアイツ抜きで?」
「彼の助力で勝ったとしてあなた様は私に傅いてくれますか?」
「なるほど。そりゃねぇな」
「ですから私一人で。そしてこちらも剣でお相手をしようかと思います。どうぞお手柔らかに……」
「ほう? 俺様に剣で挑むのか。そりゃすごい自信だな。おもしれぇ。久し振りにおもしれぇじゃねぇか」
「ふふふ。ですがこちらはか弱い女の身。補助魔法くらいはご容赦くださいませ?」
「好きなだけ使えばいい。いつでもいいぜかかってきな!」

 相変わらずの自信家ぶりです。ま、そりゃそうですよ。ただでさえ強力なスキルを持っている彼に剣で挑もうだなんて。まぁ絶対領域は軽く粉砕しちゃいましたけど、それを抜きにしてもチートキャラの一人ですからね冥王様は。
 さて。改めてバフをかける必要はありませんので早速参りましょうか。まずは私自身がどれだけ成長したのか試させてもらいましょう!

「参ります!」

 私の剣はとても細くそして軽い。元々筋力のステータスが低いから増幅しても大したことはない。だからとにかく軽い剣でなければ満足に扱えない。
 ただし。イコール弱い剣ではない。軽くそして強い剣でなければ私の技量に見合わない。

 さぁ行くわよキラリ! 世界最高の剣士に剣で挑むなんて事はもう二度とない事。持てる力の全てを賭して挑むに値するわ!!

 正々堂々。

「ハァッッ!!」

 全力全速。真正面上段からの斬りおろし。

 甲高い音が響く。まるで時代劇の剣劇のようにキュイン! キィィン!! と金属音が鳴る。

 振り下ろしからの連撃は無論容易く受け止められた。繰り返し響く音を追うように私達の剣はまるで惹かれ合うよう打ち合う。
 中段左右からの挟撃。視線のフェイクには微塵も影響されていない。

「クゥゥゥッッ! もっと! もっとです!!」

 更に速度を上げて連続斬り。
 右、左、右逆袈裟、左袈裟。更に踏み込んで刺突! 刺突! 刺突!! 

「ハァァァァァァッッッッ!!!!」

 トドメの高速三段突き。

「………………」

 その全てをいとも容易く受け止められた。少なくとも私の目にはそう映る余裕がある。
 これ程のモノなのですね。

「……さすがですわ、冥王様!」
「おいおい、マジかよ。お前何者だ? 魔法だけじゃねぇのかよ。このレベルで剣を使うとはな……」
「お褒めに預かり光栄です冥王様。ですがまだまだこれからですよ?」

 速さと技術の剣。それが冥王の剣。私が使えるのはそれ一つだけ。あの日あなたが与えてくれた力が辿り着いた今をあなたへ。
 身体能力で劣る部分は魔法による増幅で補い、体力は継続回復により無尽蔵。精神的な疲労だけはどうすることもできないけれど、今の私は彼と相見えることが嬉しくて仕方がないらしい。いつまででも続けられそうだ。

「まだまだ! まだまだですわ!! 私の全てを見てください!!」

 もっと! もっと!! 私の力はこんなものではないはず。キラリ姫の力はもっと、もっとよ!!!

 右から左から。前後左右に上も下も。あらゆる方向から斬りつけ刺し貫き、冥王の振るう漆黒の剣を上回ろうと手を尽くす。

 ああッッ!!
 もっと!!
 まだまだ!!
 熱い!!
 熱いわ!!

 今なら出来る気がする。あの日圧倒された剣の頂に座する者の技。魔法使いながらに憧れた輝き。今なら手が……いいえ、指先くらいなら届くかもしれない!!
 愛する人たちから分け与えられた力だけれどそれら全てが私を形作る大切な想い。だから誇りに思う。愛しく思う。愛は私の力の源。

 渾身の力を込めて私は私を超える!! 今日今この時までの私を超えてみせる!!!

「ーー奥義! 無限刀乱!!!」

 限りの無い刃の乱舞。
 其は吹き荒ぶ風、何人たりともその自由を侵すこと叶わず。
 其は燃え盛る炎。その熱さにして魂を凍えさせる脈動。
 其は揺蕩う水。生命の源にして円環の終着たる存在。
 其は大いなる豊穣の地。永劫なる変化を誘いし全ての者を支え給え。

「生命は美しい。故に尊いもの。ああっ! 愛する者よ死にそーー」
「やっかましいわっ!!」

 ゴンッッ!!

「あいたっ!?」

 えっ!? 叩かれた!?

「ふざけやがって!! なんだ今のは!? ただの魔法の乱れ打ちじゃねぇかっ!! 剣での勝負じゃなかったのかよっ!?」
「痛い……。何で!? どうして殴られた!? 私の絶対領域は!?」
「やかましい!!」
「あ、ちょっと!? 頭グリグリしないでぇぇっっ!?」
「ふむ。キラリ様どうやら殺気のない攻撃ーーとすら言えないレベルのものは弾かれないようですね」

 ちょっとガルム!? 何呑気に解説みたいな事してんのよ!?

「痛い痛い!? めっさ痛いんですけどっ!? こんなの普通の人なら死んじゃいますけど!?」

 この馬鹿力め! 人の頭をボールみたいに掴むんじゃないわよ!?

「死ぬかこの程度で! それからいいことを聞いた。つまりこの程度ならどんだけボコってもその妙な結界に弾かれねぇ訳か。クックック、覚悟しろよ?」
「何よ! か弱い女の子になんてことするのよ!? ちょっとは優しく扱えないの!?」
「俺様は女には優しいんだぜ? 特にベッドの上ではな?」
「いやぁぁッッ!? ケダモノっ!! 例えこの身が汚されようとも心までは許さないわ! この変態! ロリコン! 婦女暴行犯!!」
「ひでぇ言われようだな。こんな立派な身体しといて何がケダモノだ!? いい歳して恥ずかしくねぇのかよ?」

 ちょっと!! 勝手に揉まないでよ!!

「ぁん!? やめて! 初めては好きな人にくらい思ったっていいでしょっ! だいたい私はまだ十六よ! 魔族の十六なんてまだまだお子様なんだからッッ!!」
「何ッッ!? 貴様成人前なのか!?」
「……?」

 何動揺して……あ! そうか、あれか!! それなら!!

「ーー!?」
「ぃやぁぁっっっ!! この国王様が未成年の娘に淫らな事をしようとしてるわっっ!!!」

 ストレージから取り出したベッドの上で冥王にしがみつく私。もちろん叫び声は風にのってそこら中に響き渡る。そう、魔力の風にのって!!

「っざけんな!! おい放せ! この国じゃ洒落に何ねぇんだよっっ!! ってかどっから出したこのベッド!?」
「いやぁぁッッ!! そんな事しないで!! ああッッ!? あ、あ、あ、ぁぁああああああっっっっっ!!!」

 はだけたドレスから白く透き通るような素肌が露わに。冥王様の見事な体躯に抱かれる様はなんと淫らな事か……。

「「「陛下っっ!?」」」

 美女三人の声が重なる。

「ーー待て!? 違う!! 俺様は何もしていないっ!!」
「しくしくしくしく……ああっっ……もうお嫁にいけません……。このような穢れた体では……しくしくしくしく……」
「おい貴様!? いい加減にしろ!? マジで冗談では済まねぇんだよっっ!!!!」

「陛下……ギルティ……」
「待てラグジュ!? 誤解だっ!! そうだ! これもこいつの策略だ!? 落ち着け!!」

「……どう落ち着けと言うのですか陛下?」
「レイチェル!?」
「ベッドの上でニャンニャンしているのー。その子は敵じゃなかったのかなー? おかしいなー?」
「エンカ!?」
「陛下……言い逃れは見苦しい……スーパーギルティ」

 動揺するハデス様。その耳元でそっと囁いて差し上げました。

「うふふ。皆様の拘束はおときしておきましたわ♪」
「き、貴様っっっ!!!」
「いやぁぁッッ! ダメェェェッッ!! そんな大きなの入らないッッ!!!」
「「「陛下ッッ!!!」」」
「バカ! 騙されるなっ!! これはコイツのーー」

「「「『断罪の槌メガトンハンマー』!!!」」」

 えぇぇぇっっっっ!!!???
 嘘でしょぉぉ!?
 振り下ろされる巨大なハンマー!!(×3)
 ちょっとちょっと!? 私まで巻き添えになるじゃないのよぉぉっっっ!!??

「ひえぇぇっっっっ!!!」

 ズドォォォォンンンン!!!!

 しがみついてた冥王様から離れてベッドの外へ飛び出すと同時に巨大なハンマーが轟音を立ててベッドにめり込んだ。

「うわぁぁぁぁ……私のベッドが……」

 とても無残な事になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...