魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(27)激闘2 VS勇者パーティー

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 勇者パーティーの戦力構成は戦士3(剣士2、遊撃……というか何でも屋(?)1)と魔法使い1の四人。魔法使いはどちらかというと回復よりのヒーラータイプ。ただし、当人は戦士としても一流……あれ? これってある意味戦士4なんじゃ……。(笑)
 改めて見ると随分と偏った編成よね。ここに攻撃魔法が得意な私が入れば凄くいいチームになれそうなのに残念だわ。

 さて、そんな勇者様御一行をおもてなしするにあたって私は得意な魔法を制限した上でやらなくてはならない。ならないというか、魔法を使うとお話にならないので仕方がない。ここは私の凄さをはっきりさせておくためにあえて言わせてもらおう。私が魔法を使うと凄いのです。どうすごいかって、そんな事言わせないでよ、もうっ!!(笑)
 冗談はさておき、本当に魔法を使ってしまうと圧倒的すぎるので、ここは剣だけでやって見せようという作戦なのである。魔法使いに魔法を使わずにやられるというのは相当な事だと思うのです。つまり色々圧倒的なだってことでしょう?
 まぁ、どちらにしろ圧倒する事には違いはないのだけれど……理解できる範疇の圧倒なのかそうでないのかという差は大きいと思う。そういう事である。

「ーーいつまでも見つめあっていても仕方がありませんーーあら、メルさんじゃありませんか。ごきげんよう」

 対峙していた三人から目を離さずに背後からの刃を弾く。姿を見なくてもわかる。暗殺者メルが気配と姿を消して私に斬りかかってきたのだ。

「……後ろにも目がついてるのかねぇ?」
「あらやだ。私ってそんな化け物に見えます?」
「見えないから困ってるのさね。どう見てもただの令嬢にしか見えないのにこんなにも容易く対応するんだからねぇ」
「あなたの事を知っていればそうそう遅れは取りませんわ。王国諜報員のメルさん。それとも暗殺者ーー静寂(サイレント)ーーとお呼びした方がよろしいかしら?」
「ーーその名は過去のものよ。二度と呼ばないで」

 声と口調が変わった。やっぱり彼女はそう呼ばれたくないらしい。その筋では知らぬ者がいないほどのビッグネーム。
 しかし数年前からその仕事の痕跡が失われて死んだとされていたのだけれど、実は生きていて、しかも王国に飼われているだなんて思いもよらない事だろう。たぶん。

「失礼しました。誰にでも触れられたくないモノはあります。非礼をお許しください」

 こういう煽り方をする気はない。私は彼女らとの友好を望んでいるのだから。え!? とてもそうは見えない? あらやだ私ったら。(笑)

「……許す代わりに一撃受けてくれないかねぇ?」
「うふふ。ご冗談を。メルさんの武器には色々とあるじゃないですか。いくら私でもそれはちょっと……」
「やれやれさね。やりにくいったらないねぇ。ルクス、ノイン! 交代さね」
「任せておけ。ノイン! 同時に行くぞ!!」
「承知した。悪く思わないでもらおうか!!」
「是非是非。そして私の凄さを思い知ってくださいな」

 暗殺者の急襲から剣士のそれへと移り変わった。今度はどちらかといえば正攻法による正面からの突撃。二人とも優秀な剣士である事に疑念はない。本来なら私のような魔法使いが太刀打ち出来る相手ではないのだけれど、今だけは別。全てのステータスを引き上げて取得したスキルをフルに活用する。これはそう、絶対時ーーエン○ラータ○ムーーなのである。
 ちゃんと伏せ字にしたから大丈夫。つまりはそういう事なのです。

「ハッッ!!」
「うふふ」
「フッッ!!」
「あらあら」
「「ヤァッッ!!」」

 響く掛け声と金属音。惜しい、惜しい。でもダメ。これくらいでは当たってあげられません。

「これならどうですか!!」
「きゃぁコワイ」

 猛威を振るうトゲトゲメイスの連撃。重そうなメイスを軽々と振り回す癒しの鉄球聖女様。どこが癒しやねん!? と言いたくなるが、決まっている。あの弾むたわわな二つの膨らみ以外にありえないではないかっっ!!!
 凄い! 凄いぞ!! 鉄球の脅威にさらされていてもなお癒されるような気がするわ!!!

「はぁッッ!! 避けてばかりではありませんか!!」
「ええ、ええ! そんな凶悪な鉄球をいちいち受け止めていては手がバカになってしまいますからね。それにーーいつでもどうにでも出来ますよ?」
「ーーっっ!?」

 振り下ろされた鉄球を上から叩くように斬りつけると聖女様の体が前に傾ぐ。細腕からは想像しづらいけれどあの鉄球が軽いわけがない。つまりは高度にバランスをとりながら振り回している訳で、そのバランスに少し手を加えてやればほらこの通り。

「ぃやぁッッ!?」

 たわわな膨らみが私の掌に吸い込まれる訳です。

「ソフィス!!」
「おっと」
「はぁっっ!!!」
「いいですよ。その調子です」

 即座に二人の剣士がフォローに入ったためご褒美タイムはほんの一瞬で終わってしまいました。残念。

「どうしました? この程度ですか? っとまたメルさんですか」
「チッ。ホント厄介だねぇ」
「それはこちらのセリフですよ。油断も隙もありませんね。ちょっと正面に集中したらすぐ背後から斬り掛かってくるんですから……」

 背後からの一撃を軽く弾きながら正面の二人を煽る。まだこの程度なら勇者なんて脅威にならない。なりようがない。

「……確かに強敵だ。現状手も足も出ない。正直悔しい」
「ギブアップですか?」
「そうじゃない。今まで手加減ーーではないな。確かに全力だった。全力で剣を振るってはいた。が、それはあくまで試合としてだ。ここからは死合いのつもりでいかせてもらう。それくらいの気持ちがなくては君には届かないようだから……。みんな! そのつもりでやるぞ!!」
「……了解した。そうせざるを得ない私自身が情けない」
「それを言うなノイン。俺なんてもっと無力感を感じている。それでも俺たちは歩みを止める訳には行かない」
「わかっている。ここから先は手加減は出来ない。覚悟してくれ」

 勇者一同の表情が変わった。相手を屠るつもりでなくては届かない。そう思わせることができた。相手がただの魔法使いではないと思わせることができた。その上で、彼らに本気を出せた上で超えて見せよう。

「うふふ。見せてもらいましょうか。本気となった勇者の力とやらを……」

 そっくりそのまま言えないもどかしさ。それでも言ってみたい名セリフ。これでも十分満足よ!!
 さぁ、ここからが本番。今までのような余裕はないかもしれない。でも負ける訳にはいかない。私には成すべきことがある。是が非でも成さなくてはならないことがある。その為には目の前の大切な人たちの心を手折ることもまた必要な事。
 彼らはそれで終わらないことを信じてーーいいえ! 終わらない事を知っている。彼らは強い。だから大丈夫!!

「全力の勇者パーティーを退けてこそ私の力を示すことができるというものです。それくらい魅せなくては皆様も納得がいかないでしょう? 私が虎の威を借る狐でないことを証明しましょう。さぁいらっしゃい。全力で、殺す気で。その上で尚私はあなた方を五体満足で退けてみせましょう」

 まるで魔王の様なセリフにちょっとうっとりしてしまったり、しなかったり……。
 あぁっっ! 心の片隅に湧き起こるこの快感……。うふふ……。悪役ロールもいいかもしれないわね。
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