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しおりを挟む「くそっ!何なんだあの聖女は!」
「まぁ、そう怒りなさるな、カイル殿下。」
留学先であるホーツウェル王国のホーツ学園が夏の休業期間に入り、自国であるスカルペル王国へと向かう馬車の中で、第二王子であるカイル=スカルペルは、思わず声を荒げた。
迎えに来てくれたゴルドー宰相補佐が、胡散臭い笑顔を貼り付けどうどうとなだめるものの、そんな彼の眉毛がピクピクと痙攣しており、怒り浸透なのは見て取れる。
馬車に同乗した護衛隊長は、どんどんと澱む空気に居た堪れず、早く国に着くことを願っていた。
*
剣や魔法が当たり前のこの世界。
ここ近年、魔素溜まりが世界各所に出現し、普通の獣が魔獣化して、人に危害を及ぼすようになってきた。
それこそ魔獣は力ある冒険者が倒すことは可能であるが、魔素溜まりを消滅させるには、神官や巫女と呼ばれる、聖属性の魔法の使い手による『浄化』が必要になる。
そんな中、半年前、隣国ホーツウェル王国に巫女の上位互換とされる聖女が、異世界から降臨したと連絡があり。
当時18歳であった聖女は、その力の制御やこの世界の状況を学ぶため、かの国の研究機関でもある、ホーツ学園へと編入処置となった。
学園へ行きながら王国内も回っているらしく、ホーツウェル王国内では、順調に魔素溜まりが減っている。
それは良いのだが。
その成果に対し、ホーツウェル王国を取り巻く4カ国は、聖女の派遣を希望。
それに対して、ホーツウェル王国側は各国の王子やそれに準ずる者を、聖女が通う学園へと留学させるように言ってきた。
国の関係は良好ではあるが、言わば建前上の人質を寄越せということなのか?
各国はそう判断し、自国の年頃の王子を学園へと送り込んだ。
19歳であったカイルも、父親であるスカルペル国王から命を受け、留学する事となった。
その留学自体に不満もなく。
魔法研究が趣味であり生きがいであったカイルとしては、これを機に、神官や巫女の使う聖魔法と聖女の聖魔法の違いを調べ、聖女が居なくても魔素溜まりを楽に浄化できないか研究しようと、意気揚々ホーツウェルへと乗り込んだ。
国の礎である政治的な部分については、国1番の美丈夫である、兄のシャルル王太子に任せてしまって問題がない。
兄は天が二物も三物も与えた、王としての威厳を備えた素晴らしい男である。
そんな素晴らしい兄を補佐すべく、魔法で国を守り豊かにしていくことをカイルは選んでいたから。
しかし・・・
『えー!?スカルペル王国の王子って、超絶フツー!モブ顔じゃぁん!』
初対面であった、ホーツウェル王国の王城の謁見の間で、肩まである亜麻色のふわふわの髪に、そこそこ整った美人顔な容姿の聖女に言い放たれた言葉。
“モブ顔”の意味は分からないが、そのニュアンスから、決して良い言葉ではないのだろう。
その言葉に眉を潜め、辺りを見回して理解した。
聖女のそばに控えていたホーツウェル王国の王太子は勿論、他3国・・・コヘル王国騎士団長の息子である公爵家令息や、レーウィング魔導国の第三王子、フィノチェット連邦国の副首相の息子・・・それぞれ系統の違いはあれ、総じて見目の良い者達であった。
年齢が似通っており、幼なじみと言える顔見知りでもある我々。
見目のよい彼らは、性格もよく、自然と自分を仲間に入れてくれていたから、あまり考えた事も無かったが・・・誰からも『普通顔』と言われる自分は、この中に入ると浮いていたのだろうな、と、今更ながら人ごとのように思う。
そして、今回の各国への招集が、ホーツウェル王国の希望というより、聖女の我儘に付き合った結果であるようだ、という事を理解した。
『なんでカッコいいって評判の第一王子じゃないわけぇ?私の所にお願いにくるのに、イケメンじゃないなんて、ありえなーい!じゃあ、スカルペルに行くのは後回しねぇ~』
『なっ!?』
聖女が嫌みたらしく投げたその言葉に、周囲は騒然とし。
言われた意味が分からず、その場でカイルは愕然とする。
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