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しおりを挟む魔素溜まりへ向かうのは、案内役の門兵と、門兵から馬を借り受けた自分と護衛隊長、ツバキ殿にディートリッヒ辺境伯。そして、辺境伯側の護衛が5人ほど付いてくることとなった。
宰相補佐も付いてきたがったが、何かあった場合の王城への伝令役は必要な訳で。居残りとなった。
案内役が駆る馬の後を追い。
林道を進み、森の中へと入っていく。
何体か出てきた兎や狼系の魔獣は、護衛騎士達が即座に倒した。
林道の途中、休憩スペースがあり、そこから伸びる獣道付近の木に、目印である印が彫られていた。
そこから馬は入れないため、護衛騎士2名を馬番に置き、獣道へ分け入っていく。
しばらく歩くと木々の間にぽかりと空間があった。
「有りましたね。」
ツバキ殿の声に顔を上げると、その空間にどんよりと黒い空間が溜まっていた。
黒の空間は、1立方メートル程度の大きさだろうか。
重苦しい気配が辺りに漂う。
魔素溜まりを間近で見るのは初めてだ。
こんなにも、不安定で、重い存在。
見ているだけで、不安な気持ちにさせられる、闇。
「カイル殿下、あの魔素溜まりを、囲えますか?あまりピッタリ過ぎない方が観測しやすいかと。」
「あ、うん。とりあえず、少し余裕を持たせた範疇を囲ってみるよ。強度は・・・赤熊を抑えた時がほぼ全力だったから、それよりも少し弱めて・・・かな。」
「えぇ。それで試して頂けますか?」
「分かった・・・【結界】!」
ツバキ殿と話し、10m程離れた位置から【結界】の魔術を放った。
いつもは、外部から来るものをはね返すイメージだけど、今回は抱え込むイメージ。
うわぁ・・・魔素溜まりって、こんなドロドロした、何だか、気持ちの悪い感触なのか。
閉じ込める、って、初めてだから。
漏れ出ないように、丸く固めるイメージを強くした。
そのまま、数分程観察する。
観察して思ったのは、【結界】の強度としては、これ程強くなくても良さそう?ということ。
「どんな感触でしょうか?魔力は大丈夫です?」
「とりあえず、魔力は全然大丈夫。範囲が限定されて大きくないし。あとは・・・まだ強度は落としても良さそうかな。」
「そうですか・・・では、殿下の感覚で、大丈夫、という所まで強度を下げていただいても?」
「了解。」
それから小一時間、自分はツバキ殿と、あーでもないこーでもない、と、検証を重ねた。
辺境伯殿の圧が厳しいけど、ツバキ殿があまり気にしていないようだったし、ホーツウェルでの研究が思い通りに進まなかった鬱憤もあって。
魔素溜まりを前に不謹慎だけど、話が通じる人と話す事が、こんなにも有意義で楽しいことだったのかと、喜びが湧き上がっていた。
検証結果として。
強度としては、中級程度の【結界】であれば安全に魔素溜まりを囲える事。
囲っている間、周囲の魔素を取り込めないからなのか、魔素溜まりが成長しない事が判明した。
「【結界】ですが、張り続ける条件ってあるんですか?」
「条件?・・・うーん。強いて言えば、認識できる場所に対象があって、範囲を指定して、魔力を流し続ける、って所かなぁ?」
ツバキ殿の質問に答えていく事で、頭がクリアになっていく感覚。
なんだろう。ごちゃごちゃしていた頭の中が、整理されていくような感じだ。
ーー 楽しい。
いつぶりだろう、こんなに楽しい会話ができたのは。
ふと脳裏に、ホーツウェルの一の姫、ホリックの妹のジャスミン姫の顔が浮かんだ。
今回の自分の留学中、彼女は地方への浄化の旅に出てしまっていたから、入れ違いになってしまっていて会えなかった。
ふんわりと儚げに笑う彼女のことを思い出す、、、
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