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閑話 (ホリックside)
しおりを挟む「あー、頭痛い・・・」
ホーツウェル王国王太子ホリック=ホーツウェルは、執務室で頭を抱えた。
頭痛の原因はもっぱら異世界より渡ってきた聖女。
なまじ浄化についての力があるが故、王国側でも無碍には出来ず。
傍若無人な振る舞いも諌めきれないまま、今日に至っている。
それに、同盟国であるスカルペル王国の第二王子、カイルに対するあの態度・・・
幼馴染として、友人として、到底許せるものではない。
しかも、ホーツウェル王国としては、悪手も悪手だ。
自国の守護女神の色を持つ聖女から、カイル自身に対する侮辱に加え、スカルペル王国を属国にする発言。
そして本来保護すべきもう一人の聖女を・・・彼の国の守護女神カミーリャの色を持つ女性を追い出したなんて。
結果として、我が国は、彼の国に対して、とんでもなく恩知らずな態度を取っていたことになる。
「はてさて、どうしたもんなかなぁ・・・」
ため息と共に、側近が入れてくれたコーヒーを啜る。
コンコンコン・・・
すると、控えめなノックの音が聞こえてきた。
聖女マリカであれば、この様な殊勝な態度ではない、返事もないのに勝手に執務室のドアを開けてしまう。
「はい。」
「・・・お兄様、入ってもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。」
恐る恐るドアをあけて顔を覗かせたのは、1つ年下の妹であるジャスミン。
ホリックの下には5人の弟妹がいる。
18歳のジャスミンに、14歳になる双子王子、10歳の末の姫。
兄弟仲は良いと思う。
守護女神の名をつけられたジャスミンは、可憐な容姿に似合わぬとても控えめな性格ではあるが、その名の由来である『愛の女神』の名を汚さぬ様、弟妹達の面倒もよく見る、慈愛に溢れた真面目な娘だ。
魔力量は多くはないが、水魔法の他聖魔法も扱える。浄化だけでなく治癒魔法も使える為、魔素溜まりの浄化の為の地方周りも積極的に行なっている。
聖女は王都近辺にしか浄化に出向かないが、彼女は聖女の向かわない地方を重点的にまわっている。
民からの信頼も厚く、はっきり言えば聖女よりも聖女らしい活動をしていると言えるだろう。
しかし、まぁ・・・それを、あの聖女は良くは思っていないようだ。
「失礼します・・・」
「ジャス、どうした?」
神妙な面持ちで現れたジャスミンは、おずおずとホリックの前に来ると、小さな包みを渡してきた。
中に入っていたのは、小瓶・・・中には小さな丸薬か?親指の爪ほどの大きさの焦茶色の小さな塊が入っている。
「これは・・・」
「お兄様がお疲れの様でしたので、少しでも癒せれば・・・と。今回遠征した先で、回復薬を固形化する術を持った薬師の方がいらっしゃって、ご教示いただいたのです。固形化すると保存が利くメリットはあるのですが、苦味やエグ味が出て効能は少し弱まってしまうデメリットがありました。それで、一緒に研究をさせていただいて・・・別な薬草を添加する事で、エグ味を抑えて食べやすくする事が出来たので。報告も兼ねて持って参りました。」
「そうか・・・じゃぁ、いただいてみよう。」
小瓶のコルクを抜くと、ふわりと清涼感のある香りが漂う。
その一粒口の中に入れる。
「ほう・・・これは・・・」
鼻に抜ける様なツンとする香りに驚く。
味は・・・苦い様な甘い様な不思議な味。
喉の辺りから鳩尾にかけてぽかぽかと暖まり、眠気が覚めるような感覚に陥る。
ふと気づくと、じわじわと目の周囲や首、肩の付近も暖まってくる。
確かに回復薬を飲んだ時に似た感覚だ。
ホリックはにこり、と笑みを浮かべ、ジャスミンを見た。
「不思議な味だが、回復薬の効能はそのままだな。凄いな。コレなら遠征先にも持って行きやすい。」
「はい。・・・それで、お兄様。」
「うん?何かな。」
ジャスミンは下を向き、もじもじとしながら言い淀んでいたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「私、これを持って、スカルペル王国への遠征に向かおうと思います。」
「なっ!?」
言われた言葉の意味が一瞬分からず、ホリックは慌てた。
・・・確かに父上・・・陛下は、我が国の神官や巫女の手が少し浮いたので、彼の国に人的援助を、という話はしていたが。
「何も、ジャスミンが行かずとも・・・」
「いいえ。ホーツウェル王国の第一王女として、私は彼の国で責務を果たしたいのです。それに・・・」
「それに?」
ぼ、っと、顔を赤くしたジャスミンが、忙しなく目を泳がせる。
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