15 / 16
小さな、小さな、命の声。
小さな、小さな、命の声。#02
しおりを挟む
「覚悟の上です」
「雨月と一緒だから、大丈夫です」
「…………」
二人の決意を確かめるように、弥彦は二人を交互に見つめる。そして――。
「はあ~……。東雲家には日頃から世話になってるしなあ。……よしっ、ここは京家が責任をもってお前ら二人を匿う。それでどうだ?」
「……い、いいんですか!?」
いくら京家とはいえ、弥彦本人が釘を刺したように、今後世間から厳しい目を向けられることになるであろう自分たちを〝匿う〟など……。
「お前さんたちは何も心配しなくていいさ。お兄さんは、腐れ縁の雨月とその家族を路頭に迷わせたくはないんだよ」
「……っ、ろ……路頭に迷うと決めつけないでいただけませんか!? ですが……その……ありがとうございます、京さん」
目頭に熱いものが込み上げてくる。蛍と二人で暮らすには、どこか遠くへ行かなければならないと思っていた。
蛍を守るため、東雲家を守るため――。
自分はどうなってもいいが、それによって誰かが傷付くのだけは嫌だった。自分のせいで、店が潰れてしまっては長年の兄の夢を壊してしまうことになる。それに、『自分がいなければ、雨月は幸せだったのに』などと蛍に思って欲しくはない。蛍と兄にだけは負担をかけないように、と毎日必死に考えていたのだ。けれど、良案は何一つ浮かんでは来なかった。だから、今回の弥彦の申し出は非常にありがたかった。完全に不安が拭えたわけではないけれど、ひとまず路頭に迷う心配はなさそうだ、と胸を撫で下ろす。
隣に寄り添う蛍の肩をそっと抱き寄せ、『蛍さん、愛していますよ』と、蛍にしか聞こえないような小さな声で愛を紡ぐ。
「……っ~~い、今言わなくたって…!」
「いいじゃないですか。…わ、私たちは〝家族〟になったんですから」
本当はもういっぱいいっぱいだったけれど、蛍にいい格好がしたくて、どうしても背伸びをしてしまう。
「蛍さんからは言っていただけないんですか。年下の私にだけ言わせて……」
「……っな!? お、オレだって……オレだって……」
「〝オレだって〟なんですか」
肩の荷が下りた際の、ほんの冗談のつもりだったのだ――。熟れた鬼灯のように顔を真っ赤にして、蛍は勢いよく立ち上がると叫ぶ。蛍をからかいすぎた、と雨月は一瞬にして後悔するが時既に遅し。
「…オレだって……オレだって……雨月の事、愛してるに決まってるだろ!?」
「お―い、そこのお二人さんさあ……そういうことは頼むから、余所でやってくれないかなあ」
「も、申し訳ございません、京さん……」
「や、弥彦さん…っ、ごめんなさい……!」
口々に謝罪を述べる二人に、弥彦は溜息を一つ吐いて笑って見せるのだった。その笑みは心から二人を祝福している半面、真っすぐな二人をどこか羨むようなそんな笑みにも見えた。
それから数か月――
二人で屋敷内の庭園をゆっくりと散歩しながら、空を見上げる。
やはり女性とは身体の造りが違うせいか、月日が経ってもお腹が目立ってくることは今のところなかった。そして、先日の定期健診の結果も良好だ。
「身体は辛くないですか?」
「うん、大丈夫! 少しくらい身体鍛えておかないと、あとで大変だって言ってたし、このくらい平気だよ」
「くれぐれも無理はしないでくださいね、もう蛍さんだけの身体じゃないんですから」
互いに繋いでいた手を解いて、蛍は雨月の前で大きく腕を広げて見せる。日の光に照らされながら、満面の笑みで自分を見つめる蛍。そのまま日の光に消えてしまうのではないか、そう錯覚させる程儚く、それでいて強く美しかった。
「雨月!」
「なんですか、蛍さん」
「あのね」
「……はい」
「大好き!」
「……私も、大好き……ですよ」
「雨月と一緒だから、大丈夫です」
「…………」
二人の決意を確かめるように、弥彦は二人を交互に見つめる。そして――。
「はあ~……。東雲家には日頃から世話になってるしなあ。……よしっ、ここは京家が責任をもってお前ら二人を匿う。それでどうだ?」
「……い、いいんですか!?」
いくら京家とはいえ、弥彦本人が釘を刺したように、今後世間から厳しい目を向けられることになるであろう自分たちを〝匿う〟など……。
「お前さんたちは何も心配しなくていいさ。お兄さんは、腐れ縁の雨月とその家族を路頭に迷わせたくはないんだよ」
「……っ、ろ……路頭に迷うと決めつけないでいただけませんか!? ですが……その……ありがとうございます、京さん」
目頭に熱いものが込み上げてくる。蛍と二人で暮らすには、どこか遠くへ行かなければならないと思っていた。
蛍を守るため、東雲家を守るため――。
自分はどうなってもいいが、それによって誰かが傷付くのだけは嫌だった。自分のせいで、店が潰れてしまっては長年の兄の夢を壊してしまうことになる。それに、『自分がいなければ、雨月は幸せだったのに』などと蛍に思って欲しくはない。蛍と兄にだけは負担をかけないように、と毎日必死に考えていたのだ。けれど、良案は何一つ浮かんでは来なかった。だから、今回の弥彦の申し出は非常にありがたかった。完全に不安が拭えたわけではないけれど、ひとまず路頭に迷う心配はなさそうだ、と胸を撫で下ろす。
隣に寄り添う蛍の肩をそっと抱き寄せ、『蛍さん、愛していますよ』と、蛍にしか聞こえないような小さな声で愛を紡ぐ。
「……っ~~い、今言わなくたって…!」
「いいじゃないですか。…わ、私たちは〝家族〟になったんですから」
本当はもういっぱいいっぱいだったけれど、蛍にいい格好がしたくて、どうしても背伸びをしてしまう。
「蛍さんからは言っていただけないんですか。年下の私にだけ言わせて……」
「……っな!? お、オレだって……オレだって……」
「〝オレだって〟なんですか」
肩の荷が下りた際の、ほんの冗談のつもりだったのだ――。熟れた鬼灯のように顔を真っ赤にして、蛍は勢いよく立ち上がると叫ぶ。蛍をからかいすぎた、と雨月は一瞬にして後悔するが時既に遅し。
「…オレだって……オレだって……雨月の事、愛してるに決まってるだろ!?」
「お―い、そこのお二人さんさあ……そういうことは頼むから、余所でやってくれないかなあ」
「も、申し訳ございません、京さん……」
「や、弥彦さん…っ、ごめんなさい……!」
口々に謝罪を述べる二人に、弥彦は溜息を一つ吐いて笑って見せるのだった。その笑みは心から二人を祝福している半面、真っすぐな二人をどこか羨むようなそんな笑みにも見えた。
それから数か月――
二人で屋敷内の庭園をゆっくりと散歩しながら、空を見上げる。
やはり女性とは身体の造りが違うせいか、月日が経ってもお腹が目立ってくることは今のところなかった。そして、先日の定期健診の結果も良好だ。
「身体は辛くないですか?」
「うん、大丈夫! 少しくらい身体鍛えておかないと、あとで大変だって言ってたし、このくらい平気だよ」
「くれぐれも無理はしないでくださいね、もう蛍さんだけの身体じゃないんですから」
互いに繋いでいた手を解いて、蛍は雨月の前で大きく腕を広げて見せる。日の光に照らされながら、満面の笑みで自分を見つめる蛍。そのまま日の光に消えてしまうのではないか、そう錯覚させる程儚く、それでいて強く美しかった。
「雨月!」
「なんですか、蛍さん」
「あのね」
「……はい」
「大好き!」
「……私も、大好き……ですよ」
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる