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ケース1 ムンハルク公爵家の御令嬢ソフィア様の場合
第1話
しおりを挟むここはアステラン王国の首都、王都カルデラン。
その一画に俺たちの事務所はある。
クライエントの立場が立場だけに余り貧相な建物ではいけないから表面上の体裁だけは整えてある。
そう表面上だけは。
「だぁぁぁぁぁ!!!なんっでこの国の馬鹿貴族どもはこんなに婚約破棄したがるんだっ!」
事務所の2階で書類に埋もれていた俺は、連日の多忙から思わず叫んでしまう。
「ダメですよカムイさん。そんな馬鹿貴族のお陰で私達はご飯を食べられるんですから、余り馬鹿貴族を悪く言ってはいけません」
優秀な助手のアンナ君が俺を嗜めてくるが、俺と同じく馬鹿貴族と言ってしまっている。
それどころか俺と違って2回も言っているからアンナの方が悪い気さえする。
だが勘違いしないでほしい。
俺たちが馬鹿貴族と言うのはあくまでお客様を悩ます側の貴族であって、同じく貴族であるクライエントを悪く言うつもりは一切無い。
・・・一切無いさ。
本当だよ。
でもどうしてここまで次から次へと騒動に巻き込まれるのかを調べてはみたいけど。
そんな事を失礼にもクライエント相手に考えてしまうほど、俺達は疲れていた。
なんでそんなに疲れてるかって?
それはーーー
「失礼します!ここは婚約破棄された貴族令嬢を助けてくださる場所で合っていますか!?」
ーーーこういう駆け込みクライエントが最近異常に多くなっているからだ。
▷
「では改めて自己紹介と参りましょう。私はこの婚約破棄令嬢救済所の所長を務めております、カムイと申します。そして、彼女は私の優秀な助手である副所長のアンナです」
「アンナと申します。どうぞよろしくお願いします」
俺達はこの事務所の中で最も綺麗に片付けられた応接室で、見るからにイイトコのお嬢様にそう挨拶する。
いくら2階が書類地獄になっていても、クライエントをお迎えする場所を綺麗にする事ぐらいはできるさ。
俺らの自己紹介を聞いたお嬢様は、その口をゆっくりと開く。
「私はムンハルク公爵家の次女、ソフィア・ムンハルクと申します」
「私はソフィアお嬢様の専属メイド、セリナーゼと申します。カムイ様!アンナ様!どうかお嬢様を救っていただけないでしょうか!?」
セリナーゼはソフィア嬢の座っているソファーの後ろから身を乗り出して、鬼気迫る表情で俺たちに訴えかける。
「せ、セリナーゼさん、まずは落ち着いてください。ここに来たからにはソフィア嬢を悲しませる様な事には絶対にさせません」
俺はセリナーゼさんを安心させる為にそう告げる。
もちろん嘘は言っていないさ。俺達の手にかかれば、どれだけ深い絶望の淵にいる貴族令嬢でも心から笑える結末を用意できる。
これは実績に裏付けられた自信さ。
でもまずはクライエントの状況を理解しないといけない。
セリナーゼさんはどうやら俺の言葉を聞いて多少落ち着いた様だ。
それを確認した俺は視線をソフィア嬢に戻す。
「それで・・・ソフィアお嬢様?この度はどういったご用件でしょうか?」
ソフィア嬢は決意した表情をしながら俺の質問に答える。
「私は・・・・・・・・・私は姉のセリスに婚約者を寝取られました!」
貴族令嬢の口から「寝取られた」なんて言葉を聞いた俺はあんぐりと口を開けるが、そんな俺に構わずソフィア嬢は続ける。
「そしたら婚約者は・・・いえ、元婚約者は私よりもセリスの方が気に入ったと言って、私との婚約を一方的に破棄致しましたの!カムイ殿!アンナ殿!どうか姉に報復を!どうか私の元婚約者に報復をしてくださいませ!!」
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