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ケース1 ムンハルク公爵家の御令嬢ソフィア様の場合

第4話

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「かっ!カイン第二王子殿下と!?」
「カムイ様!いくらお嬢様を元気付ける為とはいえ、その様な嘘は許せません!」

 ソフィア嬢は驚いて大きく目を見開いているのに対して、セリナーゼさんは再びソファーから身を乗り出してしまっている。
 
 いやはや随分と大袈裟な反応ではあるが、まぁ気持ちは理解はできる。

「どういう事ですっ!?」
 
 俺が説明するより先にソフィア嬢が詰め寄ってくる。
 まぁ無理だろうが、一応落ち着けようとしてみるか。

「まぁまぁ落ち着いてください」
「落ち着けませんわっ!?どうしてここでカイン第二王子殿下のお名前が出るんですっ!!」
「そうですよっ!カムイ様!」

 ・・・うーんやっぱ無理だった。

「眉目麗しいお二人にそう詰め寄られては、男としてはおちおち話も出来ません。どうか、落ち着いて頂けないでしょうか?」

 ソフィア嬢はかなりの美形である。貴族という者は何故かは知らないが美形揃いだ。
 ・・・もちろん例外はある。カスターム伯爵家の嫡男であるタロヤウブ殿なんかは、それはそれは醜悪な体付きをしている。

 おっと、貴族の外見についてはもう良いだろう。
 それよりも混乱しているクライエントに事情を説明しなければ・・・・・・・・・

 いや?
 俺から言うよりも殿下に直接言ってもらうべきでは?
 秘めていた想いを解放できるのだ。
 あの優柔不断な殿下ならそう他の女性に目が行くこともないだろうし、事実そんな話を聞いたことがない。

 え?お前が第二王子の恋愛事情を知るわけがないって?
 ちっちっち・・・

 俺を舐めてもらっちゃ困るね。
 こんな仕事をしている俺が普通の情報網しか持たないと思ったら大間違いさ。

 とにかくこの後の方針は決まった。
 俺はアンナに目をやる。

 アンナは俺の考えが分かっているのだろう。すぐにその場から退室した。

「あ、あのカムイ殿?アンナさんが部屋を出て行かれましたが・・・?」

 アンナが出たと言う事に気付いたのならもう十分に落ち着いているのだろう。

「えぇ、お気になさらず」
「は・・・はい・・・・・・?そっ、それよりも第二王子殿下と縁談とはどう言う事でございますのっ!?」

 おっといけない。
 クライエントがまたパニックになりそうだ。隣のセリナーゼさんの様子も怪しい。

 そう判断した俺はまた何か言われるより先に口を開く。

「それは殿下の口から直接聞いてください。それよりも、早く王城に向かいましょう」
「答えになっていませんっ!?」
「良いから良いから。ほらお立ちください。早く行かないと馬車だけが先に行ってしまって私達は歩きになってしまいますよ」

 俺はそう言いながら立ち上がる。
 だが当然、ソフィア嬢は訳がわからないと言った顔をしているが・・・まぁ俺が部屋から出れば追いかけてくるだろう。

 実際、呆気に取られているソフィア嬢を放っておいて扉を開けた所で・・・

「ちょっ!ちょっとお待ちください!カムイ殿!」

 ほら、やっぱり追いかけてきた。
 貴族の動きはわかりやすくて良いねぇ。

「ほらほら行きますよ」
「お、お待ちください!」

 待つわけがない。

「カムイ様!どういう事でございますか!?急に第二王子殿下との縁談を結ぶなど訳のわからぬ事を仰ったかと思ったら今度はいきなり王城に向かうだなんて!まるで意味が分かりません!」

 セリナーゼさんが駆け足で俺の側までやってきて、そう捲し立てる。

「それに王城に急に行った所で門の前で追い返されてしまいます!門前払いですよ!カムイ様はあくまで平民ではありませんか!第二王子殿下にどうやって会うというのですか!!」

 分かる分かる。

 怪しい商売をしていても所詮俺は平民だろう。
 だけどまぁ第二王子の秘めたる恋愛感情を知っている俺が、王城で門前払い?

 そんな訳があるもんか。
 俺を舐めてもらっちゃ困るのさ。

「安心してください、セリナーゼさん。これでも色々と伝手はありますんでね」

 そう言って俺は不敵に笑った。


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