29 / 29
2章
6話 いつわりがまことになるとき(8)
しおりを挟む
<SIDE 陽毬>
帰り道、これまでの緊張感がどっと抜けた感じがして無意識に空を仰いだ。
「はぁ……」
(瑞稀さんに会いたいな)
雲のない真っ青な空を眺めたら、急にそんな感情が浮かび上がってきた。
瑞稀さんは私を求めないかもしれないけど、今は私が彼に会いたいと思ってる。
(格差ありすぎで真剣に考えてなかったけど)
瑞稀さんは、表に見せている俺様な顔を私にだけ見せる。
時々脆い雰囲気を醸し出して、心配な気持ちにさせる。
(でも……)
誰よりも大きく私を包んでくれて、言葉にならない安心をくれる人だ。
「今、ちょうど東京に戻ってるんだよね……会ってくれるかな」
スマホの中で共有しているスケジュール表を見てみる。
「ホテルチェックインは18時か……ロビーで待っていたら会えるかも」
メールすればいいのだけれど、仕事と関係ない内容を打つのは気が引けた。
忙しいからと、すぐに帰されてしまうかもしれないけれど、今日会いたいと強く思う。
「ダメもとで会いに行こう」
母に会ったことでいろんなものが吹っ切れた私は、瑞稀さんが宿泊する予定のホテルに向かった。
*
<SIDE 瑞稀>
成田から東京駅に到着し、すぐにスマホの着信をチェックする。
たくさんの仕事関係者のメールを指で流しながら、そこに“Himari”の文字がないかを探す。
(きてない……か)
それはそうだ。
俺が自ら彼女を遠ざけた。
まるでもう用がないとでもいうように、彼女を日本に置き去りにした。
(自業自得。それはわかってる)
イタリアに行って、痛感したのは、俺はどうしようもなく陽毬を愛してるということだった。
彼女を連れてこなかったことを後悔して、眠れない夜を過ごした。
『俺以上に拗らせてるな。瑞稀、そろそろ本当に失うぞ』
兄の春馬からはどうしようもない真実を告げられ、呆れられた。
拗らせ具合で言えば、兄の方が深刻だったはずなのに……いつの間にか追い越されていた。
「拗らせは兄弟の性でしょう。どうしたらいいか知ってるなら教えてくださいよ」
死んでもこんなこと言いたくないと思っていたけれど。
今は、陽毬を失う方が深刻だ。
藁にもすがる思いで、俺は兄にアドバイスを求めた。
『安定して同じ態度で愛情表現するんだな。お前の場合はそれ一択だろ』
「安定して……か」
一番難しいやつだ。
相手が心開いて懐いてくると、逃げたくなる。
自分が女性を一生幸せにするなんて、途方もなく無理な気がしてくる。
でも、そこを超えないと陽毬との幸せな未来は永遠にやってこない。
『今までの態度を謝って、デートでもしたらいいんじゃないか?』
「俺が謝る?」
『ああ。謝った日は絶対的に紳士に振る舞え。信頼を取り戻すのが先だ』
(断言するってことは、春馬もそれを実行したことがあるってことか)
自慢じゃないが、自分が女性に謝らなきゃいけない事態ってのはそうなかった。
仕事以外のシチュエーションではほぼゼロだ。
それくらい希薄な付き合いしかしてないってことだろうけど。
(でも、それが陽毬の信頼を取り戻す方法だというなら)
「わかった。やってみる」
こんな会話があった後だ。
俺はホテルに戻るタクシーの中で考えていた。
(今日は休日だったな。急にディナーを誘ったら驚かれるだろうか)
時間はもう17時だ。
こんなタイミングで呼びつけるなんて、どういうつもりなのかと思われるだろうか。
「はあ。今日は無理か」
諦めの気分でタクシーを降り、宿泊予定のホテルに入った。
その時、信じられない光景に足を止める。
「瑞稀さん!」
ロビーに座っていた女性た立ち上がって、俺の方に駆け寄ってくる。
「陽毬?」
名前を呼ばれた彼女は走る足を緩め、照れたように微笑んだ。
「急にすみません。瑞稀さんにどうしても会いたくて」
「俺に?」
(あんな態度をとった俺に……会いたいと思ってくれたって?)
信じられない思いで立ち尽くしていると、陽毬は心配そうに首を傾げた。
「あの……お忙しかったですよね」
「いや」
慌てて首を振ると、俺は陽毬の手を取ってチェックインのために受付カウンターに向かった。
「とりあえず部屋に来て。そこでゆっくり話そう」
「いいんですか?」
「もちろん。俺からも話したいことがある」
「……はい」
まさか俺も会いたがっていたとは思いもしなかったのか、彼女は表情をこわばらせた。
すぐに違うと言ってやりたかったが、ここでは難しい。
(まずは誤解を解かないと)
焦る気持ちを抑えつつ、俺は予約していた部屋のチェックインを済ませた。
帰り道、これまでの緊張感がどっと抜けた感じがして無意識に空を仰いだ。
「はぁ……」
(瑞稀さんに会いたいな)
雲のない真っ青な空を眺めたら、急にそんな感情が浮かび上がってきた。
瑞稀さんは私を求めないかもしれないけど、今は私が彼に会いたいと思ってる。
(格差ありすぎで真剣に考えてなかったけど)
瑞稀さんは、表に見せている俺様な顔を私にだけ見せる。
時々脆い雰囲気を醸し出して、心配な気持ちにさせる。
(でも……)
誰よりも大きく私を包んでくれて、言葉にならない安心をくれる人だ。
「今、ちょうど東京に戻ってるんだよね……会ってくれるかな」
スマホの中で共有しているスケジュール表を見てみる。
「ホテルチェックインは18時か……ロビーで待っていたら会えるかも」
メールすればいいのだけれど、仕事と関係ない内容を打つのは気が引けた。
忙しいからと、すぐに帰されてしまうかもしれないけれど、今日会いたいと強く思う。
「ダメもとで会いに行こう」
母に会ったことでいろんなものが吹っ切れた私は、瑞稀さんが宿泊する予定のホテルに向かった。
*
<SIDE 瑞稀>
成田から東京駅に到着し、すぐにスマホの着信をチェックする。
たくさんの仕事関係者のメールを指で流しながら、そこに“Himari”の文字がないかを探す。
(きてない……か)
それはそうだ。
俺が自ら彼女を遠ざけた。
まるでもう用がないとでもいうように、彼女を日本に置き去りにした。
(自業自得。それはわかってる)
イタリアに行って、痛感したのは、俺はどうしようもなく陽毬を愛してるということだった。
彼女を連れてこなかったことを後悔して、眠れない夜を過ごした。
『俺以上に拗らせてるな。瑞稀、そろそろ本当に失うぞ』
兄の春馬からはどうしようもない真実を告げられ、呆れられた。
拗らせ具合で言えば、兄の方が深刻だったはずなのに……いつの間にか追い越されていた。
「拗らせは兄弟の性でしょう。どうしたらいいか知ってるなら教えてくださいよ」
死んでもこんなこと言いたくないと思っていたけれど。
今は、陽毬を失う方が深刻だ。
藁にもすがる思いで、俺は兄にアドバイスを求めた。
『安定して同じ態度で愛情表現するんだな。お前の場合はそれ一択だろ』
「安定して……か」
一番難しいやつだ。
相手が心開いて懐いてくると、逃げたくなる。
自分が女性を一生幸せにするなんて、途方もなく無理な気がしてくる。
でも、そこを超えないと陽毬との幸せな未来は永遠にやってこない。
『今までの態度を謝って、デートでもしたらいいんじゃないか?』
「俺が謝る?」
『ああ。謝った日は絶対的に紳士に振る舞え。信頼を取り戻すのが先だ』
(断言するってことは、春馬もそれを実行したことがあるってことか)
自慢じゃないが、自分が女性に謝らなきゃいけない事態ってのはそうなかった。
仕事以外のシチュエーションではほぼゼロだ。
それくらい希薄な付き合いしかしてないってことだろうけど。
(でも、それが陽毬の信頼を取り戻す方法だというなら)
「わかった。やってみる」
こんな会話があった後だ。
俺はホテルに戻るタクシーの中で考えていた。
(今日は休日だったな。急にディナーを誘ったら驚かれるだろうか)
時間はもう17時だ。
こんなタイミングで呼びつけるなんて、どういうつもりなのかと思われるだろうか。
「はあ。今日は無理か」
諦めの気分でタクシーを降り、宿泊予定のホテルに入った。
その時、信じられない光景に足を止める。
「瑞稀さん!」
ロビーに座っていた女性た立ち上がって、俺の方に駆け寄ってくる。
「陽毬?」
名前を呼ばれた彼女は走る足を緩め、照れたように微笑んだ。
「急にすみません。瑞稀さんにどうしても会いたくて」
「俺に?」
(あんな態度をとった俺に……会いたいと思ってくれたって?)
信じられない思いで立ち尽くしていると、陽毬は心配そうに首を傾げた。
「あの……お忙しかったですよね」
「いや」
慌てて首を振ると、俺は陽毬の手を取ってチェックインのために受付カウンターに向かった。
「とりあえず部屋に来て。そこでゆっくり話そう」
「いいんですか?」
「もちろん。俺からも話したいことがある」
「……はい」
まさか俺も会いたがっていたとは思いもしなかったのか、彼女は表情をこわばらせた。
すぐに違うと言ってやりたかったが、ここでは難しい。
(まずは誤解を解かないと)
焦る気持ちを抑えつつ、俺は予約していた部屋のチェックインを済ませた。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
俺の抱擁に溺れろ、お前の全てが欲しい、極道の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
花園かすみは昼間はOL、そして夜はキャバクラで働くキャバ嬢ユリエ。
二つの顔を持つ女性である。
キャバクラで新堂組若頭、新堂健斗に指名され、はじめてを経験する。
毎日指名してくれる健斗。
ある日、春日部コーポレーションで新社長就任の挨拶があり、かすみは秘書に抜擢される。
新社長は健斗だった。
キャバ嬢のユリエのバイトは会社に内緒なのに、がっくりするかすみ。
ところが健斗も表の顔は春日部拓真、春日部コーポレーション社長である。
かすみの運命はどうなっていくのか。
そしてかすみにはもう一つ秘密が……
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる