誘惑系御曹司がかかった恋の病

伊東悠香

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2章

6話 いつわりがまことになるとき(8)

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<SIDE 陽毬>

帰り道、これまでの緊張感がどっと抜けた感じがして無意識に空を仰いだ。

「はぁ……」

(瑞稀さんに会いたいな)

雲のない真っ青な空を眺めたら、急にそんな感情が浮かび上がってきた。
瑞稀さんは私を求めないかもしれないけど、今は私が彼に会いたいと思ってる。

(格差ありすぎで真剣に考えてなかったけど)

瑞稀さんは、表に見せている俺様な顔を私にだけ見せる。
時々脆い雰囲気を醸し出して、心配な気持ちにさせる。

(でも……)

誰よりも大きく私を包んでくれて、言葉にならない安心をくれる人だ。

「今、ちょうど東京に戻ってるんだよね……会ってくれるかな」

スマホの中で共有しているスケジュール表を見てみる。

「ホテルチェックインは18時か……ロビーで待っていたら会えるかも」

メールすればいいのだけれど、仕事と関係ない内容を打つのは気が引けた。
忙しいからと、すぐに帰されてしまうかもしれないけれど、今日会いたいと強く思う。

「ダメもとで会いに行こう」

母に会ったことでいろんなものが吹っ切れた私は、瑞稀さんが宿泊する予定のホテルに向かった。



<SIDE 瑞稀>

成田から東京駅に到着し、すぐにスマホの着信をチェックする。
たくさんの仕事関係者のメールを指で流しながら、そこに“Himari”の文字がないかを探す。

(きてない……か)

それはそうだ。
俺が自ら彼女を遠ざけた。
まるでもう用がないとでもいうように、彼女を日本に置き去りにした。

(自業自得。それはわかってる)

イタリアに行って、痛感したのは、俺はどうしようもなく陽毬を愛してるということだった。
彼女を連れてこなかったことを後悔して、眠れない夜を過ごした。

『俺以上に拗らせてるな。瑞稀、そろそろ本当に失うぞ』

兄の春馬からはどうしようもない真実を告げられ、呆れられた。
拗らせ具合で言えば、兄の方が深刻だったはずなのに……いつの間にか追い越されていた。

「拗らせは兄弟の性でしょう。どうしたらいいか知ってるなら教えてくださいよ」

死んでもこんなこと言いたくないと思っていたけれど。
今は、陽毬を失う方が深刻だ。
藁にもすがる思いで、俺は兄にアドバイスを求めた。

『安定して同じ態度で愛情表現するんだな。お前の場合はそれ一択だろ』
「安定して……か」

一番難しいやつだ。
相手が心開いて懐いてくると、逃げたくなる。
自分が女性を一生幸せにするなんて、途方もなく無理な気がしてくる。

でも、そこを超えないと陽毬との幸せな未来は永遠にやってこない。

『今までの態度を謝って、デートでもしたらいいんじゃないか?』
「俺が謝る?」
『ああ。謝った日は絶対的に紳士に振る舞え。信頼を取り戻すのが先だ』

(断言するってことは、春馬もそれを実行したことがあるってことか)

自慢じゃないが、自分が女性に謝らなきゃいけない事態ってのはそうなかった。
仕事以外のシチュエーションではほぼゼロだ。
それくらい希薄な付き合いしかしてないってことだろうけど。

(でも、それが陽毬の信頼を取り戻す方法だというなら)
「わかった。やってみる」

こんな会話があった後だ。
俺はホテルに戻るタクシーの中で考えていた。

(今日は休日だったな。急にディナーを誘ったら驚かれるだろうか)

時間はもう17時だ。
こんなタイミングで呼びつけるなんて、どういうつもりなのかと思われるだろうか。

「はあ。今日は無理か」

諦めの気分でタクシーを降り、宿泊予定のホテルに入った。
その時、信じられない光景に足を止める。

「瑞稀さん!」

ロビーに座っていた女性た立ち上がって、俺の方に駆け寄ってくる。

「陽毬?」

名前を呼ばれた彼女は走る足を緩め、照れたように微笑んだ。

「急にすみません。瑞稀さんにどうしても会いたくて」
「俺に?」
(あんな態度をとった俺に……会いたいと思ってくれたって?)

信じられない思いで立ち尽くしていると、陽毬は心配そうに首を傾げた。

「あの……お忙しかったですよね」
「いや」

慌てて首を振ると、俺は陽毬の手を取ってチェックインのために受付カウンターに向かった。

「とりあえず部屋に来て。そこでゆっくり話そう」
「いいんですか?」
「もちろん。俺からも話したいことがある」
「……はい」

まさか俺も会いたがっていたとは思いもしなかったのか、彼女は表情をこわばらせた。
すぐに違うと言ってやりたかったが、ここでは難しい。

(まずは誤解を解かないと)

焦る気持ちを抑えつつ、俺は予約していた部屋のチェックインを済ませた。
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