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16、指切りおじさん(都市伝説)

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 C区で小学生の間に出回っている噂。

 子供たちの下校時を狙って現れる「指切りおじさん」。

 何をするかというと、

「おじさんは魔法使いなんだよ。不思議なことをしてあげるよ」

 と、「親指を切り離す」マジックを披露する。

 左手の親指を右手の人差し指で握って、横へスッと引くと、握っていた右手の親指がそのまま離れる、

 という手品だ。



 まあ、単純な仕掛けの、見た目のトリックだ。

「どうだ? すごいだろう?」

 と、おじさんは得意になって子供たちに問いかける。

 ここで素直にびっくりすれば良し。「すごいすごい」と拍手をしてやれば尚良し。おじさんは満足して次の子供グループに向かっていく。

 注意しなくてはならない。

「どうだ? すごいだろう?」

 と訊かれたら、決して、

「そんな子供騙しに引っかかるわけねーじゃん。バッカじゃねーの?」

 などと言ってはならない。

 おじさんは真顔になってこう訊いてくる。

「そうか。じゃあ、君もやってご覧?」

 そう言われたら馬鹿にした手前やらないわけにはいかない。

 両手を合わせて、ああしてこうして、と考えながら、「よし」と、その子はマジックを披露する。

 横に指を揃えた左手の親指を右手の人差し指で握って、そのまま右にスッと……

「ほーら、簡単じゃん!」

 得意になって左手の先が半分欠けた親指と、右手に持っていかれた左手の先半分の親指を見せつけてやる。

 おじさんはニッコリ笑って言う。

「ああすごいなあ。まいったまいった、おじさんの負けだ」

 そうしておじさんが行ってしまってから、気づくのだ、左手の中にドクドク流れ出す血と、右手の中からポロリとこぼれ落ちた、先っぽ半分だけの左手の親指に。
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