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6、「命を奪うことへの罪悪感」(ホラー……嘘。)
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(※ちょびっとグロ注意)
子どもの頃、飼っていたザリガニを死なせてしまったことがある。臭いがするので外に水槽を置いて飼っていて、冬の夜、氷が張りそうだったので蓋にラップをしてやったら、空気穴が足りなかったらしく、翌朝腹を見せて死んでいた。亀を冬眠の失敗で死なせてしまったこともある。
生き物を自分の過失で死なせてしまうというのはひどく罪悪感を感じるものだ。
しかしよくよく考えてみれば、人間は毎日の生活の中で殺した動物や魚の肉を食べている。そのことに一々罪悪感を持っていたらノイローゼになってしまって生きていけないし、実際食肉に関して罪悪感を感じることはない。
命を無駄にしてしまうことで罪悪感は生じるのだ。
そこで、些細なことから殺してしまった彼女を見下ろしながらわたしは考えた。
食べてしまえば罪悪感を感じなくて済むだろう。
ではさっそく血抜きをして精肉しなくては。
どんな料理にして食べるか、まずは新鮮な内に刺身にして味見をしてみよう。
どこの肉がいいかな?
君はとても美味しそうだよ?
いただきます。
※ ※ ※ ※ ※
味を占めた男は次なる犠牲者を求めて裏通りにあるその筋の専門店を訪れた。
「へい、おまち」
男の前に湯気の立つ丼が置かれた。いただきます。
「うーん、この甘みのあるジューシーさがたまらーん!」
あの痛ましい事件以来、男はすっかり豚肉料理にはまっていた。中でもお手軽なカツ丼は大のお気に入りで、昼食は週に三回は食べている。
(いやあ、あの時はまいった、まいった)
彼女を刺身で食べた十五分後、男はトイレに駆け込み、三時間、便座から立ち上がることができなかった。
うう、く、苦しい…、すまん、許してくれ、ピーちゃん!…………
これも彼女の呪いかと思ったが……
(いやあ、やっぱり豚肉はちゃんと火を通さないと駄目なんだなあ、いくら新鮮な内でも、生は駄目なんだなあ、生は)
現在、「日本あぐりかるちゃあ」で事務仕事に従事する男だったが、農業大学出身で、畜産の勉強もして、牛の解体の実習も受けていた。
それにしても自宅の風呂場で解体というのは(するな!)けっこうグロテスクなもので、普通はすっかり食欲も失せるところだろうが、鉄の胃袋を誇る彼は解体直後の肉をスライスして、美味い美味い、とソイソースで味わったのだった。で、トイレに直行。
(いやあ、ごめんね、ピーちゃん。まさかあんなことになるとは思わなかったよ)
ピーちゃんはペット用の小型ブタで、男は室内で飼っていた。
男は基本農業人のくせに(←偏見)ハードロック、ヘビーメタルなんぞという西洋音楽にかぶれていた。
その日も大型のヘッドフォンを装着して、大ボリュームでヘビーでグルービーなドラムスとギターとシャウトにノリノリになっていたのだが、激しくヘッドバンギングし、興奮のあまり勢いよく椅子から立ち上がり、あああ~~ああっ!、と、頭を振り上げた拍子にコードがピーンと張ってプラグがズボッと抜けてしまった。
スピーカーから爆裂する大音響。
「ブギッ!?」
ブタは繊細な生き物である。驚いたピーちゃんはパニックになって走り出し、金網に激突、ひっくり返り、まさかの即死。
ああ、ごめんよ、ピーちゃん! まさか、まさか、こんなことで死んじゃうなんて…………
愛する彼女を死なせてしまい悲しみにうち沈んだ男は、
(そうだ、食べちゃお。命を粗末にしちゃあいけないよね?)
と、彼女を食べちゃう決心を即決したのであった。
しかし、彼女の呪いはトイレのピーピーに留まらなかった。
最近男は笑うと、鼻が鳴って、「ブヒヒヒヒ」となってしまう。
鏡を見ると、なんと!ピーちゃんの面影が!……
うーむ、太りすぎだな。油物と豚肉はひかえなくては。
子どもの頃、飼っていたザリガニを死なせてしまったことがある。臭いがするので外に水槽を置いて飼っていて、冬の夜、氷が張りそうだったので蓋にラップをしてやったら、空気穴が足りなかったらしく、翌朝腹を見せて死んでいた。亀を冬眠の失敗で死なせてしまったこともある。
生き物を自分の過失で死なせてしまうというのはひどく罪悪感を感じるものだ。
しかしよくよく考えてみれば、人間は毎日の生活の中で殺した動物や魚の肉を食べている。そのことに一々罪悪感を持っていたらノイローゼになってしまって生きていけないし、実際食肉に関して罪悪感を感じることはない。
命を無駄にしてしまうことで罪悪感は生じるのだ。
そこで、些細なことから殺してしまった彼女を見下ろしながらわたしは考えた。
食べてしまえば罪悪感を感じなくて済むだろう。
ではさっそく血抜きをして精肉しなくては。
どんな料理にして食べるか、まずは新鮮な内に刺身にして味見をしてみよう。
どこの肉がいいかな?
君はとても美味しそうだよ?
いただきます。
※ ※ ※ ※ ※
味を占めた男は次なる犠牲者を求めて裏通りにあるその筋の専門店を訪れた。
「へい、おまち」
男の前に湯気の立つ丼が置かれた。いただきます。
「うーん、この甘みのあるジューシーさがたまらーん!」
あの痛ましい事件以来、男はすっかり豚肉料理にはまっていた。中でもお手軽なカツ丼は大のお気に入りで、昼食は週に三回は食べている。
(いやあ、あの時はまいった、まいった)
彼女を刺身で食べた十五分後、男はトイレに駆け込み、三時間、便座から立ち上がることができなかった。
うう、く、苦しい…、すまん、許してくれ、ピーちゃん!…………
これも彼女の呪いかと思ったが……
(いやあ、やっぱり豚肉はちゃんと火を通さないと駄目なんだなあ、いくら新鮮な内でも、生は駄目なんだなあ、生は)
現在、「日本あぐりかるちゃあ」で事務仕事に従事する男だったが、農業大学出身で、畜産の勉強もして、牛の解体の実習も受けていた。
それにしても自宅の風呂場で解体というのは(するな!)けっこうグロテスクなもので、普通はすっかり食欲も失せるところだろうが、鉄の胃袋を誇る彼は解体直後の肉をスライスして、美味い美味い、とソイソースで味わったのだった。で、トイレに直行。
(いやあ、ごめんね、ピーちゃん。まさかあんなことになるとは思わなかったよ)
ピーちゃんはペット用の小型ブタで、男は室内で飼っていた。
男は基本農業人のくせに(←偏見)ハードロック、ヘビーメタルなんぞという西洋音楽にかぶれていた。
その日も大型のヘッドフォンを装着して、大ボリュームでヘビーでグルービーなドラムスとギターとシャウトにノリノリになっていたのだが、激しくヘッドバンギングし、興奮のあまり勢いよく椅子から立ち上がり、あああ~~ああっ!、と、頭を振り上げた拍子にコードがピーンと張ってプラグがズボッと抜けてしまった。
スピーカーから爆裂する大音響。
「ブギッ!?」
ブタは繊細な生き物である。驚いたピーちゃんはパニックになって走り出し、金網に激突、ひっくり返り、まさかの即死。
ああ、ごめんよ、ピーちゃん! まさか、まさか、こんなことで死んじゃうなんて…………
愛する彼女を死なせてしまい悲しみにうち沈んだ男は、
(そうだ、食べちゃお。命を粗末にしちゃあいけないよね?)
と、彼女を食べちゃう決心を即決したのであった。
しかし、彼女の呪いはトイレのピーピーに留まらなかった。
最近男は笑うと、鼻が鳴って、「ブヒヒヒヒ」となってしまう。
鏡を見ると、なんと!ピーちゃんの面影が!……
うーむ、太りすぎだな。油物と豚肉はひかえなくては。
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