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3、村の子どもたち
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数日がたったある日のこと。
下働きの朱丸が庭の横手でたきぎ割りをしていると、
「朱丸どん、朱丸どん」
と呼ぶ声がしました。
朱丸が声のする方を見ると、囲いの柵に村の子どもたちが押し合いへし合いするように群がっていました。
「なんじゃい、おまえら」
と問うと、年長の者が館の方をうかがうようにして言いました。
「姫さまというのはどんなお人じゃ?」
子どもたちは遠く都からお姫さまがいらっしゃったというので、示し合わせて、皆でのぞきに来たのでした。
ふん、と面白くなさそうにして朱丸は教えました。
「わしは見ておらん。ちらっと衣のすそを見ただけじゃ。いいか、おまえら。わしらのような下々の者が身分の高いお方を見てしまうと、まぶしくて、目が見えなくなってしまうのじゃ」
そりゃ本当かい? と子どもたちは顔を見合わせて震え上がりました。
そんな様子に朱丸はちょっと得意な気分になりましたが、実を言えば、決して姫さまを直接見てはいけない、と、お付きのばあやさまに厳しく言いつけられているのでした。
「さあさあ、おまえら。家のお方に見つかると叱られるで、さっさと帰れ」
「そうじゃのう、姿が見られんじゃあつまらんなあ」
「そうじゃなあ、都のお姫さまなんて、さぞや綺麗なんじゃろうなあと思ったんじゃがのう」
子どもたちは残念がりましたが、目が見えなくなるのも怖いし、大人しく帰ることにしました。
朱丸はたきぎ割りに戻り、子どもたちは村に下りていく道に向かいましたが、
タララララララン、
と、なんとも雅な音色が館の中より聞こえてきました。
「これはなんじゃ?」
「琴と言う楽器ではないか?」
子どもたちは足を止め、頭がぽわーんとして心が遠く見た事もない雲の向こうの世界へ連れて行かれるような、美しい音色に聞き惚れていました。
朱丸もナタを取り落としてつっ立っていました。朱丸も初めてこの音を聞いたのでした。
しばらく続いた琴の音が、聞こえなくなると、子どもたちは口々に、おお、おお、と騒ぎ立てました。
「すごいのう! こんな美しい音、聞いたことないわ!」
「これはお姫様がお弾きになっとったんかのう?」
「さすがは都の姫様じゃ! すごいのお、嬉しいのお」
やんややんやと騒ぐ子どもらに、朱丸はハッとして、
「おい、おまえら! 静かにせんか!」
と慌てて注意しましたが、時すでに遅く、
ガラッと戸が開くと、ものすごく怖い顔をした女房が現れて、
「わっぱども! 下々の者が姫の館に近づいてよいと思うてか! この痴れ者どもが!」
と、竹を裂いたような声で叱りつけました。
子どもたちはたまらず、
「鬼じゃあ! 山姥が出たあ!」
と、声を上げながら逃げていきました。
それを聞いて、
「なっ、なんと無礼な。ええい、田舎のわっぱどもが」
と、ばあやは地団駄踏むと、ジロリと朱丸をにらみ、ピシャリと戸を閉めました。
朱丸はおっかなそうに首をすくめて、またたきぎ割りを始めました。
下働きの朱丸が庭の横手でたきぎ割りをしていると、
「朱丸どん、朱丸どん」
と呼ぶ声がしました。
朱丸が声のする方を見ると、囲いの柵に村の子どもたちが押し合いへし合いするように群がっていました。
「なんじゃい、おまえら」
と問うと、年長の者が館の方をうかがうようにして言いました。
「姫さまというのはどんなお人じゃ?」
子どもたちは遠く都からお姫さまがいらっしゃったというので、示し合わせて、皆でのぞきに来たのでした。
ふん、と面白くなさそうにして朱丸は教えました。
「わしは見ておらん。ちらっと衣のすそを見ただけじゃ。いいか、おまえら。わしらのような下々の者が身分の高いお方を見てしまうと、まぶしくて、目が見えなくなってしまうのじゃ」
そりゃ本当かい? と子どもたちは顔を見合わせて震え上がりました。
そんな様子に朱丸はちょっと得意な気分になりましたが、実を言えば、決して姫さまを直接見てはいけない、と、お付きのばあやさまに厳しく言いつけられているのでした。
「さあさあ、おまえら。家のお方に見つかると叱られるで、さっさと帰れ」
「そうじゃのう、姿が見られんじゃあつまらんなあ」
「そうじゃなあ、都のお姫さまなんて、さぞや綺麗なんじゃろうなあと思ったんじゃがのう」
子どもたちは残念がりましたが、目が見えなくなるのも怖いし、大人しく帰ることにしました。
朱丸はたきぎ割りに戻り、子どもたちは村に下りていく道に向かいましたが、
タララララララン、
と、なんとも雅な音色が館の中より聞こえてきました。
「これはなんじゃ?」
「琴と言う楽器ではないか?」
子どもたちは足を止め、頭がぽわーんとして心が遠く見た事もない雲の向こうの世界へ連れて行かれるような、美しい音色に聞き惚れていました。
朱丸もナタを取り落としてつっ立っていました。朱丸も初めてこの音を聞いたのでした。
しばらく続いた琴の音が、聞こえなくなると、子どもたちは口々に、おお、おお、と騒ぎ立てました。
「すごいのう! こんな美しい音、聞いたことないわ!」
「これはお姫様がお弾きになっとったんかのう?」
「さすがは都の姫様じゃ! すごいのお、嬉しいのお」
やんややんやと騒ぐ子どもらに、朱丸はハッとして、
「おい、おまえら! 静かにせんか!」
と慌てて注意しましたが、時すでに遅く、
ガラッと戸が開くと、ものすごく怖い顔をした女房が現れて、
「わっぱども! 下々の者が姫の館に近づいてよいと思うてか! この痴れ者どもが!」
と、竹を裂いたような声で叱りつけました。
子どもたちはたまらず、
「鬼じゃあ! 山姥が出たあ!」
と、声を上げながら逃げていきました。
それを聞いて、
「なっ、なんと無礼な。ええい、田舎のわっぱどもが」
と、ばあやは地団駄踏むと、ジロリと朱丸をにらみ、ピシャリと戸を閉めました。
朱丸はおっかなそうに首をすくめて、またたきぎ割りを始めました。
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