島流しの姫と雷さま

絵馬堂双子

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8、姫のあつかい

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 姫がたびたび村を散歩に訪れるようになり、里長は何か間違いが起こってはと気が気でなく、自ら国司さまを訪れて報告しました。

「なるほどのう」

 話を聞いた国司はうなずき、言いました。

「好きにさせておけばよい。そなたらにとがの及ぶようなことはないから安心いたせ」

 そして、館にもう一人、女の手伝いを雇うことにして、姫が出かける時には小春がついていくようにしてくれました。


 今日もまた村に遊びに来ていた姫が、寺の縁側えんがわで柿と梅干し湯をご馳走になって休んでいると、子どもたちが聞きました。
「姫さまはなんでサドに来たんだ?」
「わらしのくせに、どんな悪いことをしたんだ?」

「さてなあ……」

 姫は首をかしげました。

「わらわも知らぬのじゃ。行けと言われたゆえ来たまでで。おそらくは父上が原因であろうが、わらわは何も聞かされんでなあ。おそらくは、命があっただけありがたく思わねばならんのじゃろう」

 姫は竹垣の向こうの空を見やり、なつかしむように言いました。

「ほんにわらわは何も知らんわらしじゃった」

 ふうん、と、子どもたちはよく分からないように姫を見て、聞きました。
「じゃあ姫さまは、都でどげに暮らしておられたんじゃ?」

「何をしておったかのう……。手習いをして、書を読んで、歌を詠んで、あとは、琴を弾くくらいかのう……」

「うわあ、忙しそうじゃなあ」
 と子どもたちは感心し、
「姫さまは琴が上手だもんなあ」
 と、おねだりするように言いました。
 姫は、ほほほ、と笑って、

「それでは今度、満十郎どのに運んでいただこうかのう。牛車の中では狭くて耳が痛とうなるゆえ」

 と約束しました。
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