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34、その後の姫
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陰陽師が人形を投げようとすると、
ふい、と、
雷神はきびすを返して島の上に帰っていきました。
陰陽師は、
さて、田舎の雷風情が何を企んでいることか、
と、しばし出方を見ることにしました。
雷神は姫たちのところにやって来て、姫と向かい合って聞きました。
「本当に、やってかまわんのだな?」
姫は、自分一人で、しっかりうなずきました。
「お願いしもうす。やってくだされ」
雷神はニタリと笑い、飛び上がると、狸たち、人間たちに言いました。
「最後の総仕上げじゃ。力の限り、やってくれえ!」
おおー!、と、
再び、ドオオン、ドオオン、ギュルルン、ギュルルン、激しい音が鳴らされ、今度は丘と港ばかりでなく、島のあちこちから太鼓が打ち鳴らされ、そいやさ、そいやさ、とかけ声上げて村人たちが黒雲向かって手を上げ、踊りました。
なんだか分かりませんが、皆、雷神が島の為に闘ってくれていると感じましたし、何より、心が沸き立って、体を動かずにはいられないのです。
そいやさ、そいやさ、楽しくて仕方ありません。
大音響と熱気が、天に昇っていきます。
黒雲が分厚くなって、グルグルグルグル、渦を巻いて、バリバリ雷を飛ばして、
ニタリと恐ろしく笑った雷神が渦巻く黒雲と雷山の間に立つと、
ドカンッ、、、、、バリバリバリバリ
島中の人々がドンッと押し寄せた突風にひっくり返り、真っ白な光に目をチカチカさせました。
ドカドカドカドカドカ、、、、、ドッガアアーーーーン!!!!!!!
雷山が、バッカリ、まっ二つに割れ、
ザアアアアアアアアア、
と、黄金の滝が、天に昇っていきます。
黄金の滝は黒雲の中で広がり、黒雲を黄金の雲に変えていきます。
黄金の雲が大きなサドの島をすっぽり覆う広さになって、山の割れ目から立ち上る黄金の滝は止まりました。
「それでは、さらばじゃ!」
雲の上に立った雷神が、黄金の雲を引き連れて、西の彼方へ飛んでいきました。
青空が広がり、海は穏やかになり、風もやみ、人間たちの立てる音もなくなり、
皆、しばし、何も考えることが出来ず、ぽかんとしていました。
陰陽師は、はっと我に返ると、急ぎ別の白い人形を取り出し、空に放ると、どっかとあぐらをかいて、目を閉じました。
陰陽師の心は人形に乗って、黄金の雲を追いかけて空を飛んでいきます。
黄金の雲の群れは、中でゴロゴロ音を立てながら、海岸に沿ってひたすら西へ西へ飛んでいき、ようやく陸の上に入ると、山を越え、都へとやってきました。
都の人たちは、山の向こうから絵のような黄金の雲が飛んで来て、
さては弥勒菩薩さまがこの世に下りてきなされたか、あれありがたや、
と、庭に出て、往来に出て、拝みました。
そんな人間たちを見下ろした雷神は、
「そうれ、おまえたちの大好きな金だ。ありがたく頂戴しろ」
と、雲からすくい上げた金で大きなお椀のふたみたいな物を二つ作ると、二つを打ち合わせて、
ガッシャアアアン、ガッシャアアアン、
とやかましい音を立てました。
すると、黄金の雲が震えて、サアー……ッ、と、細かな黄金の雨を降らせました。
黄金の雨は四角い都をすっかり覆って降り注ぎ、
建物を、往来を、表に出ている人々を、金色に染め上げていきました。
人々は、この世に天国が降ってきた、と喜び踊りました。
黄金の雨がやみ、黄金の雲がすっかり消えてしまうと、代わりに、都の全てが金ぴかになっていました。
その様子を空から確かめて、
ううむ・・
とうめくと、陰陽師の心は自分の体に帰っていきました。
サドの島に上陸した陰陽師が調べに行くと、バッカリ、頂から裂けた雷山には、もうまるっきり、金は無くなっていました。
あの特大の雷が山の中の金をすっかり溶かして、空に吸い上げ、雲にして、全部、都に運んで、雨にして降らしてしまったのです。
「もはやこんな田舎の島、なんの価値もないわ」
陰陽師はプンプン怒って帰って行きました。
この一件は、寺泊から帰った姫が、雷山の岩穴の奥に入って、はね弓を弾いて雷神を呼び出し、こういうことは出来ないか?、と持ちかけたものでした。
雷神は、その気になれば出来るだろう、と答えましたが、
「そうすると、わしはこれまでのようにここで遊べなくなってしまうなあ」
と言いました。姫は申し訳なく思いましたが、
「いずれ都の方々によってこの山の金は掘り尽くされてしまうでしょう。雷神どのに降りて来られたら、ここで金を掘っている人夫たちが危のうございますしな」
と言い、雷神も、
「それもそうか」
と納得し、姫の計画に乗ることにしたのでした。
話を聞いた羽黒彦が団佐分郎たちを見つけ出してくれ、姫は彼らと再会し、計画を話すと、
「そいつは陰陽師に借りを返せるな」
と団佐分郎は大いにやる気を見せました。
姫は村の楽団仲間にも協力を頼み、彼らも、それならば、と港の大太鼓楽団にも話をしに走ってくれました。
姫は、もし都から咎めがあれば、自分が罪を一身に引き受けるつもりでいましたが、
都はそれどころではありませんでした。
金ぴかの都で、皆、浮かれまくって、
これも如来さま、菩薩さまが我らの日頃の信心に褒美を下さったのだ、
と、良いように考えて、
報告に帰って来た陰陽師も、その浮かれ騒ぎを見て、
ま、それでよいなら、かまわぬか、
と、神仏の仕業ということで、お仕舞にしてしまいました。
こうして、サドの島の金騒動は、山がバックリ割れて、あっさり終わり、
島ではいつも通りののんびりした暮らしが続きました。
その後。
新しい国司は都に帰ってしまい、前の国司が再び任命されて戻ってきましたが、今度は妻子を伴っていました。
姫もそのまま島に残り、生涯、島を出ることなく過ごしました。
その後もサドの島には都から、政がらみで高貴な方や、徳の高い僧侶などが流されてきましたが、姫の残した物語文化や、音曲、芸能に大いになぐさめられたということです。
雷山では今でも上の空でゴロゴロいうことが多いそうです。
おしまい
ふい、と、
雷神はきびすを返して島の上に帰っていきました。
陰陽師は、
さて、田舎の雷風情が何を企んでいることか、
と、しばし出方を見ることにしました。
雷神は姫たちのところにやって来て、姫と向かい合って聞きました。
「本当に、やってかまわんのだな?」
姫は、自分一人で、しっかりうなずきました。
「お願いしもうす。やってくだされ」
雷神はニタリと笑い、飛び上がると、狸たち、人間たちに言いました。
「最後の総仕上げじゃ。力の限り、やってくれえ!」
おおー!、と、
再び、ドオオン、ドオオン、ギュルルン、ギュルルン、激しい音が鳴らされ、今度は丘と港ばかりでなく、島のあちこちから太鼓が打ち鳴らされ、そいやさ、そいやさ、とかけ声上げて村人たちが黒雲向かって手を上げ、踊りました。
なんだか分かりませんが、皆、雷神が島の為に闘ってくれていると感じましたし、何より、心が沸き立って、体を動かずにはいられないのです。
そいやさ、そいやさ、楽しくて仕方ありません。
大音響と熱気が、天に昇っていきます。
黒雲が分厚くなって、グルグルグルグル、渦を巻いて、バリバリ雷を飛ばして、
ニタリと恐ろしく笑った雷神が渦巻く黒雲と雷山の間に立つと、
ドカンッ、、、、、バリバリバリバリ
島中の人々がドンッと押し寄せた突風にひっくり返り、真っ白な光に目をチカチカさせました。
ドカドカドカドカドカ、、、、、ドッガアアーーーーン!!!!!!!
雷山が、バッカリ、まっ二つに割れ、
ザアアアアアアアアア、
と、黄金の滝が、天に昇っていきます。
黄金の滝は黒雲の中で広がり、黒雲を黄金の雲に変えていきます。
黄金の雲が大きなサドの島をすっぽり覆う広さになって、山の割れ目から立ち上る黄金の滝は止まりました。
「それでは、さらばじゃ!」
雲の上に立った雷神が、黄金の雲を引き連れて、西の彼方へ飛んでいきました。
青空が広がり、海は穏やかになり、風もやみ、人間たちの立てる音もなくなり、
皆、しばし、何も考えることが出来ず、ぽかんとしていました。
陰陽師は、はっと我に返ると、急ぎ別の白い人形を取り出し、空に放ると、どっかとあぐらをかいて、目を閉じました。
陰陽師の心は人形に乗って、黄金の雲を追いかけて空を飛んでいきます。
黄金の雲の群れは、中でゴロゴロ音を立てながら、海岸に沿ってひたすら西へ西へ飛んでいき、ようやく陸の上に入ると、山を越え、都へとやってきました。
都の人たちは、山の向こうから絵のような黄金の雲が飛んで来て、
さては弥勒菩薩さまがこの世に下りてきなされたか、あれありがたや、
と、庭に出て、往来に出て、拝みました。
そんな人間たちを見下ろした雷神は、
「そうれ、おまえたちの大好きな金だ。ありがたく頂戴しろ」
と、雲からすくい上げた金で大きなお椀のふたみたいな物を二つ作ると、二つを打ち合わせて、
ガッシャアアアン、ガッシャアアアン、
とやかましい音を立てました。
すると、黄金の雲が震えて、サアー……ッ、と、細かな黄金の雨を降らせました。
黄金の雨は四角い都をすっかり覆って降り注ぎ、
建物を、往来を、表に出ている人々を、金色に染め上げていきました。
人々は、この世に天国が降ってきた、と喜び踊りました。
黄金の雨がやみ、黄金の雲がすっかり消えてしまうと、代わりに、都の全てが金ぴかになっていました。
その様子を空から確かめて、
ううむ・・
とうめくと、陰陽師の心は自分の体に帰っていきました。
サドの島に上陸した陰陽師が調べに行くと、バッカリ、頂から裂けた雷山には、もうまるっきり、金は無くなっていました。
あの特大の雷が山の中の金をすっかり溶かして、空に吸い上げ、雲にして、全部、都に運んで、雨にして降らしてしまったのです。
「もはやこんな田舎の島、なんの価値もないわ」
陰陽師はプンプン怒って帰って行きました。
この一件は、寺泊から帰った姫が、雷山の岩穴の奥に入って、はね弓を弾いて雷神を呼び出し、こういうことは出来ないか?、と持ちかけたものでした。
雷神は、その気になれば出来るだろう、と答えましたが、
「そうすると、わしはこれまでのようにここで遊べなくなってしまうなあ」
と言いました。姫は申し訳なく思いましたが、
「いずれ都の方々によってこの山の金は掘り尽くされてしまうでしょう。雷神どのに降りて来られたら、ここで金を掘っている人夫たちが危のうございますしな」
と言い、雷神も、
「それもそうか」
と納得し、姫の計画に乗ることにしたのでした。
話を聞いた羽黒彦が団佐分郎たちを見つけ出してくれ、姫は彼らと再会し、計画を話すと、
「そいつは陰陽師に借りを返せるな」
と団佐分郎は大いにやる気を見せました。
姫は村の楽団仲間にも協力を頼み、彼らも、それならば、と港の大太鼓楽団にも話をしに走ってくれました。
姫は、もし都から咎めがあれば、自分が罪を一身に引き受けるつもりでいましたが、
都はそれどころではありませんでした。
金ぴかの都で、皆、浮かれまくって、
これも如来さま、菩薩さまが我らの日頃の信心に褒美を下さったのだ、
と、良いように考えて、
報告に帰って来た陰陽師も、その浮かれ騒ぎを見て、
ま、それでよいなら、かまわぬか、
と、神仏の仕業ということで、お仕舞にしてしまいました。
こうして、サドの島の金騒動は、山がバックリ割れて、あっさり終わり、
島ではいつも通りののんびりした暮らしが続きました。
その後。
新しい国司は都に帰ってしまい、前の国司が再び任命されて戻ってきましたが、今度は妻子を伴っていました。
姫もそのまま島に残り、生涯、島を出ることなく過ごしました。
その後もサドの島には都から、政がらみで高貴な方や、徳の高い僧侶などが流されてきましたが、姫の残した物語文化や、音曲、芸能に大いになぐさめられたということです。
雷山では今でも上の空でゴロゴロいうことが多いそうです。
おしまい
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