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強者の祭典
彼女の焔
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ドラグニールと別れて数分。
白ローブとの差は広がってはいないが縮まってもいなかった。あのまま屋根の上ならともかく、地面に降りて路地に逃げ込まれたせいでまともに速度が出せず、地の利も向こうにあるからか一向に追いつけない。
あいつに限定して魔力探知してるから見失う事は無いけど……つられて屋根降りるんじゃ無かったな。
あの吐き気を我慢して再度上に上がろうかと考えたとき、白ローブの動きが止まった事に気づく。角を曲がり止まった位置を正面にすると、そこにあったのは教会だった。
教会といっても人が立ち入らなくなって久しいのだろう。屋根は落ち、壁も殆どが崩れている。この国は城門周辺と中心は見た通りの賑やかな都市だが、そこから離れるにつれ活気は薄れ、城門と真反対に位置する地域はいわゆる貧民街らしい。気づけばその辺りまで来たのだろう。
ドアがあったであろう場所を跨ぎ中に入るが、どこにもそれらしき影は無い。この場所にいるのは確かだが瓦礫に隠れてる気配はないし、勿論上空にもいない。だったら──。
「せー……っの!」
上に跳躍し床に向かって小さく圧縮した火球を打ち出すと爆発音と共に床が崩れ、思った通り俺は地下に着地した。
「ゲホッ。しまった、ちょっとやり過ぎたか?」
「いいえ、ご安心ください。こちらに損害はございません」
相当老朽化していたのか思った以上に舞った砂埃を払っていると、その先から不意に声がかけられた。しかもその声はとても穏やかだ。突如天井が砕け追跡者に追いつかれたというのにだ。
「そりゃあ重畳。じゃあ手っ取り早く、ニーアを返して貰おうか」
如月を抜き、切っ先を声の方向へ向ける。その動作により砂埃は斬られ、徐々に晴れていく。
「ええ、勿論。彼女はお返ししましょう。まだ用は御座いませんので。ですがどうか、たった一時で良いのです」
砂埃が晴れた先にいたのは、白いローブに目のような紋様が描かれた黒仮面の男と、眠っているのか静かに抱きかかえられたニーア。そして赤い仮面の姿をした奴が、ぐるりと俺を囲っていた。
「な……っ、いつの間に!」
咄嗟に構えるが、明らかに分が悪い。一人ずつ相手にすれば他の奴にやられ、かといって範囲魔法を使えばニーアが危ない。考えあぐねていると、黒仮面の男が口を開いた。
「どうか剣をお収めください。我々はたった一時、貴女様と話せればそれで良いのです。今はそれ以上は望まず、叶えばこの場から去りましょう」
「……あまりに怪しすぎる。信用に足る証拠を見せてくれ」
「証拠……ですか?」
俺の言葉に黒仮面は考えるように俯く。一番都合が良いのはニーアをこっちに預けてくれることだ。もしそうなれば多少無理矢理にでも脱出出来るし、そうで無くとも交渉次第で……。
「では貴女様が納得してくださるまで、囲っている者達を供物にしましょう」
「──は?」
何でも無いように、ごく普通の提案をするような声音。その声音と内容の矛盾に意味を飲み込めないでいると、指鵜を鳴らした軽い音が響いた。
「グァッ、ガァァァアアアアアアア!」
黒仮面が指を鳴らすと、俺を囲っていた一人が突如炎に包まれた。その悲鳴は徐々に小さくなり、やがて消失し何か黒い塊だけがそこに残った。
「ふむ」
事態を飲み込めず呆然としていると黒仮面は再び指を鳴らす。すると次は隣の女が炎に包まれ、炭となった。
「お、おい……何してんだ」
「何、とは?」
「何で仲間を燃やしてんだって聞いてんだよ! なんでそんな平気な顔で……お前等もなんで黙って突っ立ってんだ! 自分が燃やされるかもしんねぇんだぞ!」
残りの赤仮面達に叫ぶが、彼らは変わらずただ立っているだけだった。震えるでも、ましてや逃げ出すでもなく、ただそうなるのが当然とでもいうように。
「言ったでしょう、供物と。我々にとってそうなることは苦でも恐怖でもありません。とはいえ生理現象として声を上げてしまうのはご容赦願います。ご不満でしたら次は全員……足りないようでしたら我が身を差し出すことも致し方無いでしょう」
そんなことをすればそもそもの目的である”話をする”こともできないというのに、さも当然のように言い、指を鳴らそうとする黒仮面。その時俺を突き動かしたのは、得体も知れない……不可解から来る純粋な恐怖だった。
「もういい! これ以上はもういいから!」
「おや、たった二体で宜しいとは。その慈悲に感謝致します」
そう言って頭を下げる黒仮面と残りの赤仮面。さっきまでは有利とまではいかないが交渉次第ではこっちにも分があった。だがどうだ。言葉だけみればこちらが完全に優位だろう。だがその実、完全に相手に吞まれてしまっている。
「では改めまして。我々は竜の目。貴女の中に御座すドラグニール様に付き従う者です」
「前にアルガーンで襲ってきた奴ら……だよな?」
「ええ。あの時は手荒な手段をとってしまったようで、誠に申し訳御座いません。何分我等が主が数百年の封印から放たれ、少女を宿主にしていると情報があったため動揺もあったのでしょう。改めて謝罪致します」
深く頭を上げる黒仮面。しかし俺には全て演技のような気味の悪さすら感じてしまっていた。
「じゃあ、用があるのはドラグニールなんだろ? 生憎あいつは今はいないよ」
「ええ、あの頃でしたらそうだったのですが……言ったでしょう? 我々は貴女様と話したいと」
「俺と……? 一体何で……」
「我等はドラグニール様を主としていますが、それは個としてだけではなく、その存在、威光、力、そして焔。それらを含め、彼を信仰しているのです。そして貴女様はかの黒焔を纏うだけではなく、更にはそれを自身の焔……白焔に変えた。それはつまり、貴女様も我等の信仰する主ということなのです」
「……意味が、分からない。俺がお前等の主? 信仰? だったらどうだって言うんだ!」
「……申し訳ございません。その困惑もごもっともです。一度に全てをお伝えすべきではありませんね。では本日はこれまでといたしましょう。ニーア様もお返し致します。ですがその前に──我等を貴女様の焔で滅してくださいませ」
……ああ、もう駄目だ。ついて行けない。なんなんだこいつらは。いっそ笑えてしまいそうだ。
「……やはり焔を与えてはくださいませんか。貴女様はお優しい……では、ニーア様を殺しましょう。順番は前後しますが、調整は可能でしょう」
そう言ってニーアの胸を貫こうとした黒仮面の短刀を斬り飛ばす。
「……いっそ、その方が良いかもしれない。思えばお前達が初めてだったんだ。明確な敵と思えれば、同じ人間だって斬れるかも……殺せるかもしれない」
ああ、そうだ。こいつらはニーアを殺そうとした。
「なるほど、反撃という手であれば我々に慈悲をくださると。ではお前達、自らの手で慈悲を得なさい。勿論その為に相応のものを差し出すのですよ」
訳の分からない事を言って、仲間すら平然と殺す奴ら。こんな奴が野放しでいて筈が無い。
「ああっ、どうか! 我等にどうか慈悲を! 焔を!」
迫る火球を地を這うように躱し脚を斬る。続けざまに背後から迫る炎波を振り向き様に斬り伏せ、そのまま距離を詰め放った女の胴を斬り上げる。次。次。次次次次次──。
しかしいくら斬っても、赤仮面は倒れず向かってくる。
「どうか! 我等にどうか焔による慈悲を!」
「……ああそうかよ、くれてやるよクソどもが!」
如月を捨て、不知火を抜くことで体が黒焔に包まれる。……どうしてだろうか。熱く苦しさすら伴う状態の筈なのに、その感覚があまりない。
「我等に、我等にその焔を!」
うるさい。もう喋るな。これを振り下ろせば良いんだろう? それで終わるなら……。
「アリア、それだめ」
不意に聞こえたその声が俺の動きを止めた。
「その焔、白いのにしないと、アリア、吞まれちゃう」
そう言って近づくニーア。気づけばあの黒仮面は姿を消していた。
「……ッ、ニーア危ない!」
俺から発せられる熱にもかかわらず手を伸ばすニーアに、俺は咄嗟に開闢の焔を発動し、体の黒焔を白焔にし不知火に集める。それでもそれなりの熱は伝わる筈なのに、構わずニーアは近づく。
「それがアリアの焔。その魔法は焔を剣にまとわせる魔法じゃ無い。アリアの焔にする魔法。だからその次を。それなら大丈夫」
「大丈夫って……」
そうしてニーアが俺の背に手を置いた瞬間、頭の中で何かが開いた感覚が起こる。そうしてニーアの伝えたかった事が理解できた……けど。
「ニーア、君は一体……」
「大丈夫。私はあつくないから」
「そういうことじゃ無いんだけど……まあいいや、ありがとう」
左腕でニーアを抱きしめると、白く燃える不知火を地面に突き立て目を閉じる。
邪竜黒獄炎はいわば、ドラグニールの焔を纏っている……いや覆われていると言う方が正しい。本来の使用者が俺に憑依している恩恵で俺も使うことができ、体も燃えることは無い。だがその焔はやはり俺のものじゃ無い。なにもすることは出来ず、だから覆われているだけ。
そして開闢の焔は不知火を媒介にドラグニールの黒焔を俺の白焔にしそのまま纏わせる魔法。しかし俺の焔になったと言うことは、ただ覆われる焔じゃなくなったって事だ。だから──。
「──装擬の焔」
不知火を覆っていた白焔は俺の意思に従い腕から背中に集まり、翼となって広がる。天井の穴から差し込んだ陽を受け、その焔は黄金に輝いていた。
「おお、なんと美しい! どうかその焔で我等を──」
「……悪いな。この焔はお前等の望む焔じゃない。俺自身もだ」
ただそれだけ告げると、翼をはためかせ俺達はその場を後にした。
***
「……あの様子じゃあ、真っ当な方に進んだかな」
飛び立つアリアの姿を瓦礫の影から黒仮面の男が眺めていた。
「まあその方が好都合か。時間は掛かるだろうが、あのまま墜ちればこれ以上は望めない。……興味が無いわけでは無かったけど」
男は可笑しそうに笑うと、地下にまだアリアを追いかけようとする信者達がいることを思い出した。
「別に放っておいても良いけど……うん、下手に接触されても面倒だ」
何でも無いように言うと、また当然の様に指を鳴らし、一瞬だけ地下へと続く穴から炎が噴き出した。
「さて。そろそろ戻らないと」
一仕事終えたように伸びをすると次の瞬間男の姿はその場から消え、ローブと仮面のみが残りそれも直ぐ炎に包まれた。
白ローブとの差は広がってはいないが縮まってもいなかった。あのまま屋根の上ならともかく、地面に降りて路地に逃げ込まれたせいでまともに速度が出せず、地の利も向こうにあるからか一向に追いつけない。
あいつに限定して魔力探知してるから見失う事は無いけど……つられて屋根降りるんじゃ無かったな。
あの吐き気を我慢して再度上に上がろうかと考えたとき、白ローブの動きが止まった事に気づく。角を曲がり止まった位置を正面にすると、そこにあったのは教会だった。
教会といっても人が立ち入らなくなって久しいのだろう。屋根は落ち、壁も殆どが崩れている。この国は城門周辺と中心は見た通りの賑やかな都市だが、そこから離れるにつれ活気は薄れ、城門と真反対に位置する地域はいわゆる貧民街らしい。気づけばその辺りまで来たのだろう。
ドアがあったであろう場所を跨ぎ中に入るが、どこにもそれらしき影は無い。この場所にいるのは確かだが瓦礫に隠れてる気配はないし、勿論上空にもいない。だったら──。
「せー……っの!」
上に跳躍し床に向かって小さく圧縮した火球を打ち出すと爆発音と共に床が崩れ、思った通り俺は地下に着地した。
「ゲホッ。しまった、ちょっとやり過ぎたか?」
「いいえ、ご安心ください。こちらに損害はございません」
相当老朽化していたのか思った以上に舞った砂埃を払っていると、その先から不意に声がかけられた。しかもその声はとても穏やかだ。突如天井が砕け追跡者に追いつかれたというのにだ。
「そりゃあ重畳。じゃあ手っ取り早く、ニーアを返して貰おうか」
如月を抜き、切っ先を声の方向へ向ける。その動作により砂埃は斬られ、徐々に晴れていく。
「ええ、勿論。彼女はお返ししましょう。まだ用は御座いませんので。ですがどうか、たった一時で良いのです」
砂埃が晴れた先にいたのは、白いローブに目のような紋様が描かれた黒仮面の男と、眠っているのか静かに抱きかかえられたニーア。そして赤い仮面の姿をした奴が、ぐるりと俺を囲っていた。
「な……っ、いつの間に!」
咄嗟に構えるが、明らかに分が悪い。一人ずつ相手にすれば他の奴にやられ、かといって範囲魔法を使えばニーアが危ない。考えあぐねていると、黒仮面の男が口を開いた。
「どうか剣をお収めください。我々はたった一時、貴女様と話せればそれで良いのです。今はそれ以上は望まず、叶えばこの場から去りましょう」
「……あまりに怪しすぎる。信用に足る証拠を見せてくれ」
「証拠……ですか?」
俺の言葉に黒仮面は考えるように俯く。一番都合が良いのはニーアをこっちに預けてくれることだ。もしそうなれば多少無理矢理にでも脱出出来るし、そうで無くとも交渉次第で……。
「では貴女様が納得してくださるまで、囲っている者達を供物にしましょう」
「──は?」
何でも無いように、ごく普通の提案をするような声音。その声音と内容の矛盾に意味を飲み込めないでいると、指鵜を鳴らした軽い音が響いた。
「グァッ、ガァァァアアアアアアア!」
黒仮面が指を鳴らすと、俺を囲っていた一人が突如炎に包まれた。その悲鳴は徐々に小さくなり、やがて消失し何か黒い塊だけがそこに残った。
「ふむ」
事態を飲み込めず呆然としていると黒仮面は再び指を鳴らす。すると次は隣の女が炎に包まれ、炭となった。
「お、おい……何してんだ」
「何、とは?」
「何で仲間を燃やしてんだって聞いてんだよ! なんでそんな平気な顔で……お前等もなんで黙って突っ立ってんだ! 自分が燃やされるかもしんねぇんだぞ!」
残りの赤仮面達に叫ぶが、彼らは変わらずただ立っているだけだった。震えるでも、ましてや逃げ出すでもなく、ただそうなるのが当然とでもいうように。
「言ったでしょう、供物と。我々にとってそうなることは苦でも恐怖でもありません。とはいえ生理現象として声を上げてしまうのはご容赦願います。ご不満でしたら次は全員……足りないようでしたら我が身を差し出すことも致し方無いでしょう」
そんなことをすればそもそもの目的である”話をする”こともできないというのに、さも当然のように言い、指を鳴らそうとする黒仮面。その時俺を突き動かしたのは、得体も知れない……不可解から来る純粋な恐怖だった。
「もういい! これ以上はもういいから!」
「おや、たった二体で宜しいとは。その慈悲に感謝致します」
そう言って頭を下げる黒仮面と残りの赤仮面。さっきまでは有利とまではいかないが交渉次第ではこっちにも分があった。だがどうだ。言葉だけみればこちらが完全に優位だろう。だがその実、完全に相手に吞まれてしまっている。
「では改めまして。我々は竜の目。貴女の中に御座すドラグニール様に付き従う者です」
「前にアルガーンで襲ってきた奴ら……だよな?」
「ええ。あの時は手荒な手段をとってしまったようで、誠に申し訳御座いません。何分我等が主が数百年の封印から放たれ、少女を宿主にしていると情報があったため動揺もあったのでしょう。改めて謝罪致します」
深く頭を上げる黒仮面。しかし俺には全て演技のような気味の悪さすら感じてしまっていた。
「じゃあ、用があるのはドラグニールなんだろ? 生憎あいつは今はいないよ」
「ええ、あの頃でしたらそうだったのですが……言ったでしょう? 我々は貴女様と話したいと」
「俺と……? 一体何で……」
「我等はドラグニール様を主としていますが、それは個としてだけではなく、その存在、威光、力、そして焔。それらを含め、彼を信仰しているのです。そして貴女様はかの黒焔を纏うだけではなく、更にはそれを自身の焔……白焔に変えた。それはつまり、貴女様も我等の信仰する主ということなのです」
「……意味が、分からない。俺がお前等の主? 信仰? だったらどうだって言うんだ!」
「……申し訳ございません。その困惑もごもっともです。一度に全てをお伝えすべきではありませんね。では本日はこれまでといたしましょう。ニーア様もお返し致します。ですがその前に──我等を貴女様の焔で滅してくださいませ」
……ああ、もう駄目だ。ついて行けない。なんなんだこいつらは。いっそ笑えてしまいそうだ。
「……やはり焔を与えてはくださいませんか。貴女様はお優しい……では、ニーア様を殺しましょう。順番は前後しますが、調整は可能でしょう」
そう言ってニーアの胸を貫こうとした黒仮面の短刀を斬り飛ばす。
「……いっそ、その方が良いかもしれない。思えばお前達が初めてだったんだ。明確な敵と思えれば、同じ人間だって斬れるかも……殺せるかもしれない」
ああ、そうだ。こいつらはニーアを殺そうとした。
「なるほど、反撃という手であれば我々に慈悲をくださると。ではお前達、自らの手で慈悲を得なさい。勿論その為に相応のものを差し出すのですよ」
訳の分からない事を言って、仲間すら平然と殺す奴ら。こんな奴が野放しでいて筈が無い。
「ああっ、どうか! 我等にどうか慈悲を! 焔を!」
迫る火球を地を這うように躱し脚を斬る。続けざまに背後から迫る炎波を振り向き様に斬り伏せ、そのまま距離を詰め放った女の胴を斬り上げる。次。次。次次次次次──。
しかしいくら斬っても、赤仮面は倒れず向かってくる。
「どうか! 我等にどうか焔による慈悲を!」
「……ああそうかよ、くれてやるよクソどもが!」
如月を捨て、不知火を抜くことで体が黒焔に包まれる。……どうしてだろうか。熱く苦しさすら伴う状態の筈なのに、その感覚があまりない。
「我等に、我等にその焔を!」
うるさい。もう喋るな。これを振り下ろせば良いんだろう? それで終わるなら……。
「アリア、それだめ」
不意に聞こえたその声が俺の動きを止めた。
「その焔、白いのにしないと、アリア、吞まれちゃう」
そう言って近づくニーア。気づけばあの黒仮面は姿を消していた。
「……ッ、ニーア危ない!」
俺から発せられる熱にもかかわらず手を伸ばすニーアに、俺は咄嗟に開闢の焔を発動し、体の黒焔を白焔にし不知火に集める。それでもそれなりの熱は伝わる筈なのに、構わずニーアは近づく。
「それがアリアの焔。その魔法は焔を剣にまとわせる魔法じゃ無い。アリアの焔にする魔法。だからその次を。それなら大丈夫」
「大丈夫って……」
そうしてニーアが俺の背に手を置いた瞬間、頭の中で何かが開いた感覚が起こる。そうしてニーアの伝えたかった事が理解できた……けど。
「ニーア、君は一体……」
「大丈夫。私はあつくないから」
「そういうことじゃ無いんだけど……まあいいや、ありがとう」
左腕でニーアを抱きしめると、白く燃える不知火を地面に突き立て目を閉じる。
邪竜黒獄炎はいわば、ドラグニールの焔を纏っている……いや覆われていると言う方が正しい。本来の使用者が俺に憑依している恩恵で俺も使うことができ、体も燃えることは無い。だがその焔はやはり俺のものじゃ無い。なにもすることは出来ず、だから覆われているだけ。
そして開闢の焔は不知火を媒介にドラグニールの黒焔を俺の白焔にしそのまま纏わせる魔法。しかし俺の焔になったと言うことは、ただ覆われる焔じゃなくなったって事だ。だから──。
「──装擬の焔」
不知火を覆っていた白焔は俺の意思に従い腕から背中に集まり、翼となって広がる。天井の穴から差し込んだ陽を受け、その焔は黄金に輝いていた。
「おお、なんと美しい! どうかその焔で我等を──」
「……悪いな。この焔はお前等の望む焔じゃない。俺自身もだ」
ただそれだけ告げると、翼をはためかせ俺達はその場を後にした。
***
「……あの様子じゃあ、真っ当な方に進んだかな」
飛び立つアリアの姿を瓦礫の影から黒仮面の男が眺めていた。
「まあその方が好都合か。時間は掛かるだろうが、あのまま墜ちればこれ以上は望めない。……興味が無いわけでは無かったけど」
男は可笑しそうに笑うと、地下にまだアリアを追いかけようとする信者達がいることを思い出した。
「別に放っておいても良いけど……うん、下手に接触されても面倒だ」
何でも無いように言うと、また当然の様に指を鳴らし、一瞬だけ地下へと続く穴から炎が噴き出した。
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