竜神に転生失敗されて女体化して不死身にされた件

一 葵

文字の大きさ
91 / 129
濃霧の失踪事件

真実と終わり

しおりを挟む
 ドラグニールに出された条件は二つ。
 イシュワッドに人的被害を出さない。イシュワッドに物的被害を出さない。
 要はグリワモールの対処以外に余計なことは何もするな、ということだった。

「まあ当然と言えば当然というか、ある種普通の事ではあるんだけど……守れそうか?」
 ──貴様は我をなんだと思っている。
「ヤバい竜」
 ──……いや間違ってはおらんのだが。

 ギルドの屋上、というか屋根の上で星空を眺めながら寒い夜風に吹かれていた。

「んで、流石に俺には方法教えてくれよ。じゃないとどうしようも無いし」
 ──ふむ、どう言ったものかな。

 珍しく言い淀む様子に借り物のコートに顔を埋めて待っていると、ややあって続きが来た。

 ──まず奴の居場所に関してだが、転移魔法の目印を貴様に付けていたと言っていたろう。それを利用し逆探知を仕掛ける。先程奴に気づかれない無い程度に試してみたが問題なく出来そうだ。
「お前なんだかんだ俺の中で自由にしてるよな。じゃあ実際に対峙したときの対処は? あの反転のあれ」
 ──ああ、あれな。まあ貴様も察しておろうがアレが最も厄介だ。してその対処法だが……。

 また暫く沈黙。

 ──まず、我が肉体の主導権を握り戦闘する。
「おっともうちょっと不味い方法だな。少なくともユリーンに知られたら次こそ胃に穴が空くな。で、あの反転の対処は?」
 ──……まあ、アレだ。貴様には我の得ている魔法やスキルを一通り教えてはいるが、それでも全てでは無い。その中に使えるものが、ある。うむ。
「……なあ、ドラグちゃんよ」
 ──……なんだ。
「言わないと言えないは、別物だぞ」
 ──……貴様も言うようになったではないか。褒めてやろう。
「…………」
 ──いや、付け入る隙があるのは確かだ。見ていたところ奴のアレには穴があった。とは言っても事前に考えていけるほど情報もないからな。貴様の中から見ているだけでは分からないものもある。
「だから実際に表に出て、ねぇ」

 呟いて、小さく溜息を吐く。

 ──どうした。確かに言葉だけでは不安材料もあろうが、実のところそれほど問題はない方法だぞ。
「や、そうかも知れないけどさ。いつも肝心なところはお前任せだなって」
 ──何を言う。貴様は十分ようくやっていると思うぞ。
「珍しく普通に褒めるじゃん」
 ──だが今回やこれまでにも貴様では手が届かない事もあった。当然だ。貴様は事実として強大な力を有している。だがそれは一つずつ勝ち得たものでは無く一度に与えられたものだ。時間としても一年も経っていない。使いこなせぬのも当然の事実。であればそれを導くのは我の役目でもあろう。
「親か教師みたいなこと言うじゃん。ほんと珍しいな」
 ──……親、か。なに、少し懐かしい気分になっただけだ。ほれ、逆探知完了したぞ。恐らく気取られてはいないが……少し厄介ではないか?

 厄介? 何がと問おうとする前にドラグニールからある場所のイメージが送られる。

「ここって……偶然とか間違いってことは」
 ──期待するだけ無駄だろう。この距離なら貴様の翼の方が早い。急げ。
「了解!」

 装擬の焔フラム・アラベスクを発動し炎翼を作ると、夜空へ向かって飛翔した。



          ***



 暗い室内。男は古い木製の椅子に腰掛けるとぼうっと物思いに耽った。

 昔は、それこそ自分が子どもの時など、この国に将来なんてものがあると思っていなかった。腐敗した世界で暴力が支配した国に未来などあろう筈も無く、自分にもそんなものがあるとは思えなかった。
 変わったのはそれから暫く。戦争が始まったからだ。隣国の帝国が領地拡大を目的とした侵略活動が活発になり、それに対抗するためにこちらは周辺国と手を取り連合軍としてこれに対抗した。それによって他国と交流を持たなかったこの国の負の側面が露わになり、各国の援助もあり多少改善された。
 暴力と腐敗の国が戦争によって改善したのだから皮肉な話だ。
 戦争も一旦の落ち着きを見せ、現在は事実上の休戦状態となっている。しかしこの国は以前のように戻ることはなかった。各国で設立されたギルドという連合組織。雇用口や治安改善の一助も担っている事もあり、他国に比べればまだまだだが、それでも確実にこの国もかつてからは考えられないほどいい方向へと向かっている。

 寒さに震える手に息を吐きこすり合わせる。しかし男の顔は穏やかだった。

 孤児の人数も年々減ってきている。巣立って行く子も順調に自分たちの人生を歩んでいる。ギルドや近所の人達の援助もあって、贅沢はさせてあげあられないが保護した子ども達には十分な暮らしを与えてあげられてる。
 これ以上を望むのは、それこそ贅沢だろう。
 とはいえ、日課となった見回りは辞めることはないだろう。
 まだ寒さに震える子どもがいるかも知れない。迷える人がいるかも知れない。彼らを救うのが、神父としての私の責務だ。

 見回りに行こうと立ち上がったとき、一人の男が教会に入ってきた。

「よお、おっさん。いまから見回りか?」

 入ってきたのはガラの悪い銀髪の男。しかし彼が見た目通りの人物ではない事を男はしっかりと分かっていた。

「やあガルシオ。こんな夜更けに珍しいね」

 ガルシオ。男の──キルトの運営する孤児院で最初に保護された少年。当時は手の付けられない悪ガキとして有名で、ごろつきや兵士に囲まれても物ともしない、悪ガキという名称は生やさしい少年だった。店の食べ物を盗み、喧嘩に明け暮れ、しかしその実、彼は優しい少年だった。
 盗んだ食べ物は同じ孤児の弱った子達に全て与え、彼らを守る為に戦っているだけだった。やっていることは褒められた事ではないが、やろうとしている事は、到底否定できなかった。

「ギルドの仕事が長引いたんだよ。つかもう見回りなんざ辞めとけって。いい加減歳考えろ、危ねぇだろうが」
「はは、こればっかりはもう癖みたいなものだからね。大丈夫、あまり危ないところには行かないさ」
「……テメェも知ってんだろうが、最近の失踪事件。ありゃあ思ったより厄介だ。人目につくところなら安全って訳でもねぇんだよ」
「うん。でも、君がその事件の解決しようと頑張っているんだろう? なら大丈夫さ」

 優しく微笑み肩を叩くキルト。ガルシオはやりづらそうに表情を曇らせる。

「だから、それが厄介だっつってんだよ。頼むから暫く大人しくしてくれ!」
「そう言われても……いや、君がそこまでいうのなら、今はその通りにしておこうかな」

 必死に頼み込むガルシオ。その表情に、かつて路地裏で出逢ったときの少年の姿が重なりキルトは静かに頷いた。

「そうか、じゃあ──」
「あー、それはちょっと、困りますネェ」

 安堵の表情を浮かべ、しかし直ぐにそれは硬直する。
 背後から聞こえたその声。聞き間違えるはずもないその声音。背後まで来て初めて気づいたその気配。
 ガルシオはキルトを庇うように振り返り、その人物を睨み付ける。

「テメェ……なんでここにいやがる……!」
「なんでって、説明する必要もなく分かっているのでしょう?」

 昼に戦った時とは姿は違う。黒のスーツに紫の蝶マスク。偽る気のない、本来のグリワモールがそこにいた。

「私は貴方達の追う犯人に興味があり、ここに辿り着いた。それだけが答えデスヨ」
「……黙れ」
「ガ、ガルシオ、これは、彼は一体……」
「黙れ!」

 そうしても最後まで拭えなかったその疑念。あるはずがない。そう考えてもあり得るはずのない可能性。だからこそ、最悪の可能性としてどうしても残り続けた。
 眼前に突きつけられたそのあり得ない可能性に、彼はただ声を荒げる。

「……フム、やはり自覚症状は無しですカ。では仕方ありませんね」

 溜息をついて、パンと手を叩く。何の変哲もない、何も起こらないその行動にガルシオは眉をひそめると、突然背後から苦しむうめき声が聞こえた。

「っ、おっさん!」

 頭を抑え苦しむキルト。ガルシオが何度呼びかけても答える余裕はないようだった。

「一度では足りませんでしたか。それではもう一度……おや?」

 再び叩こうとした両手の間を、炎弾が流れ落ちた。
 グリワモールが視線を着弾点から頭上に移したとき、白い光が自身に向けて落下してきた。

「流石にちょっと不味いデスね!」

 直ぐさま頭上にシールドを生成し、急降下してきたアリアと不知火の一撃を受け止めた。

「ガルシオさん、こいつはこっちで引き受けます! そっちは任せました!」

 翼に回していた炎の一部を尻尾のようにしシールドを回り込みグリワモールを巻き掴むと、再び空へと飛翔していった。

「今の、あのガキか……? いや、それよりもこっちだ。おいおっさん、しっかりしろ!」

 依然苦しそうにうめき声を上げるキルト。しかし不意にその声は止み、ゆっくりと立ち上がった。しかしその気配は明らかに先程までとは違っていた。

「被検体〇〇八。実験を開始します」

 機械的な低い声音が、暗い室内に木霊した。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

処理中です...